EX.92 「魚人島の闇」
俺はお姉さんから伝えられた情報を持って、家の外へ飛び出した。
「うわぁ······!!」
その声には驚愕と言うよりも歓喜などの声の方が多く込められていた。
最近の都会では見られない星星を見るように、まさに深海の夜空、景色が広がっていた。
見える平行線では朝焼けの様な光が広がっていた。
本当に魚人島に来たのか······。
むしろここが魚人島ではないと言われた方がその人物の目を疑う程に地上では見られない光景。それが眼前に広がると文字通り言葉を失ってしまう。
「もぎゅぅ······きれいですね······」
「ああ、そうだな······」
お姉さんが気を利かせたのか、皆ずぶ濡れの服は着替えさせられていて、ここでの服になっていた。
布や絹や綿の様な代物ではなく、何というか······軽いレースの様な、空気を纏っているような動きやすい服装。それでいてちゃんとしたズボンやシャツなどの形をとっている。
すると——————
「なんだか騒がしいな······?」
「ちょっと言ってみませんか?」
モフは知っているらしく、俺はおとなしくモフに従うように前に進む、そこには——————
「実はですね、僕たちを救ってくれたあの魚人の方々は"人魚„らしくて、とある店を開いているらしいのですよ。夫婦で」
「おお······ん?」
「『マーメイド喫茶』——————地上のメイドとマーメイドを混ぜたらしいですね。そこには大小様々な人魚がおりたって作られて、あのお姉さん——————リアさんが女将となっているらしいです。あれは準備中ですかね」
「キャー!!ハルくんこっち止まってぇ〜〜!!」
「はぁ〜い!!」
「キャ〜〜!飛び込んで来たぁ〜」
「おいハルト何やってんだ!?」
そう、俺は途中からモフの説明が耳に入っていない。兄である俺の目の前で、弟であるハルトが多数の人魚達と戯れている光景を見せられていたから。その上いつもは出さないような声や笑顔を魅せていた。
「······アキヒト、俺、分かったよ」
「聞きたくないが······何が?」
キラリと見せてくる、頭にくる表情に目を背けながらもいやいやしく聞く。
「ここが······天国なんだって」
「知るか!!あ〜もう!だったら今度本当の天国へ行かせてやるよ!!」
「えっ俺死ぬの?」
「死にたかったら殺してやるよ?」
「真顔怖えよ!!分かった······分かったから!······ごめんね、女と見間違われる兄貴が来ちゃったからこっち対処するわ」
「は〜〜い!!」
「さて、そろそろ話をしようか」
「この話の入の前に、何だ今の会話!?」
プイ、とあさっての方向を見出すハルトに俺とモフを汚物を見るような目で見る。
じぃ〜〜〜〜〜〜〜。
「ちっ、違うんだ!師匠も吉田さんもユウスケさんもどっか行っちゃったから、だからってあの部屋にずっといるのもちょっと無理だったから、ここに来たんだよ!······最初は物見遊山的な感じで来たんだけど、少し楽しくって······」
「悪意しかねぇじゃねえか!!······あっちょっと待って、俺が寝てる間、何されてたんだ?」
「えっ、そりゃあ人工呼吸と言う名のでぃー——————」
「すこし!!黙りましょうか!!!!」
「ん!?······人工呼吸のあとに何を言おうとしたんだ?」
「気にしないで!気にしないでください!!」
「あ〜、分かった言わないでおくよモフ」
「理解が早くて助かります」
ほう、と息を吐いて安心したモフに俺はずっと疑問符をたてながら、これ以上聞いても仕方がないと諦めた。
「そうだ。その三人は何処へ行ったんだよ?」
「ん〜、行き先自体は分からないけど。師匠は地上へ戻る為の乗り物確保、吉田さんは何か古文書探しに、ユウスケさんが不明かな」
「ん?なんでユウスケは不明なんだ?」
「いや、「どっか行ってくる」っていって行ったから······」
「へ······へぇ〜············」
珍しく自由行動をしているんだな······。
俺はユウスケのその行動に少々呆れながらも、天を······いや地上の方を見上げる。
そこには見たことがないような種類の魚が存在し、自由に泳ぎ回っている。
深海は宇宙よりも神秘だ。とはよく言われるけど実際そうかもしれないなぁ······。
「ところで、なんで俺たちは助けられたんだ?魚人や人魚は人間嫌いだったはずだけど······」
「それはわたしが答えよう」
『!?』
「あっ女将ぃ〜」
突然現れた彼女に驚く俺たちと、慣れているのかそもそも見えていたのか、呑気に手を振る人魚達。
「答えるって······人間嫌いのことですか?」
「ああ、もちろんでさ······短くまとめるけどね」
「じゃあ······お願いします」
俺とモフ、そしてハルトに、リアさんと一緒に来たらしい三人合わせて貝で出来た椅子に座る。
「とても簡単な話よ······元々魚人島の皆は人間を嫌っていないもの」
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「嫌っていると言うか、恨んでいると言う方が正しいわね」
「あの日、いやそれから後の話かもしれないわね。ニンゲンとわたし達魚人が分け隔てたのは······」
「あの時わたし達を傷つけ、こんな暗い辺境に押しやったのは事実だしね」
「でも、わたし達は恨もうとしなかった······だけど立場上反逆をしたようなものよね」
「もっとも······わたしはあの時代産まれてなかったけどね······あの時代の人々は本当に怒ってたんじゃない?少なくとも親や家族を傷つけられた人達は······」
「確かにわたし達はそこにいる妖精ちゃん達のように強くはなかったし、そもそも水が環境としてなかったら生きられない弱かった生物だからね」
「だけど今の王妃は人と恨み合う関係は望まなかった。だからこそわたし達の頭の沸騰は消え去っていったのよ」
「そうしてわたし達は恨み合い、憎しみ合い、殺し合いの関係から脱しようと思ったわ。度々だけど地上の情報も入ってきていたしね」
「妖精ちゃん達とニンゲン達が協力関係をとっていた事も最近の情報だったけどね」
「こうして友国の道を進んだわたし達はこの国の中で実力があり、信頼があるリュウギョウ親方を数人の猛者を連れて地上へ送ったのよ······」
「そうして帰ってきた皆の顔は晴れやかだったわ。成功を意味した言葉も残して」
「だけど——————その結果に気に食わない人々もいた」
@@@@@
「気に食わない人······?」
誰もが沈黙を破らない中で、俺はようやく口に出来た言葉を辿る。
この話の中でおかしかったのは一つもない。ただ、隠された何かがあると言う事だけは分かった。
「そう······ニンゲンとの共合に気に食わない人々がいた。——————それは『魚人街』の人々。人売りやらなんやらを簡単に行ってしまう程、心が廃れた魚人達の集まり。元々彼らも家族をニンゲンに殺された者たち······いわば——————」
「いわば魚人街は魚人島の心の闇······みたいなものか······」
岡田が躊躇って言った言葉は凄く的をいていたらしい。リアさんは凄くニコッと笑った。
「上へ戻る為に時間が掛かるかもしれない。その間はここにいてくれても構わないけど、魚人街には気をつけなさいよ」
「ん〜〜はい、分かりました。······だけど、襲って来たならそれなりの代償は受けてもらうかもしれないけどな」
リアさんは絶句したが、他の皆は笑っていた。——————どうやら同じ考え方をしていたのだろう。
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『暗闇の船』の中——————
魚人達は集まって、会合を開いていた。
もちろんそれは友好的なものは一切なく、むしろ
「シャアッ!ハッハッハ!ァ!ニンゲン共がまた来やがった!!おいモゲル、捕まえろ!!」
「半殺しでいいっすかね?」
「もちろんだ!新しく来た不幸な者たちを受け入れてやろうじゃねぇか!!」
その周りには、極厚の鉄の首輪をつけられた人間。つまり奴隷にされていた。
「後悔させてやろう!ここに来てしまったことをな!!」




