EX91.「魚人島」
俺の思う釣りは、浮きがゆらゆら揺れている時間に楽しみを求め、誰かがヒットしたら皆で力を合わせて楽しみ合う行為。
だが——————
「ちょっと待って!!くそ······バンバンバン!!」
刺々しい波が俺たちに襲いかかり、俺は出鱈目にレインボーの力で撃ち続けていた。
「あっ、待て!待てって!!揺れる!落ちる!溺れる!!剣を振れよアキヒト!!」
「"キラメラ„!!······あっ!出していく度に消されるぅ!!」
「くそっ!物理攻撃が当たる波なんてムカつくんだが!!」
最初自体はマシだったのだ。そもそも最初は風も穏やかな海の機嫌だった。なのに——————
「なんでここが『棘波』の発生場所なんですかぁ〜〜!!」
ガンガンと船の壁に当たるモフがそう叫び転がっていく。
『棘波』——————それは、地球の環境災害の一つ。文字通り波が棘を纏い、無数に現れる災害。災害と呼ばれるのには、質の悪いように生体反応を感じ取っているのか、生きている者が通ると発生するという悪魔の様な環境。
まさに地雷。いや、地雷よりも厄介だろう。天然だからこそ計測にかかることはない。駆除も出来ないのだ。
だが、その環境も『範囲』があり、その範囲から出ていけば先程と変わらない穏やかな環境が待っているのだが——————ハルトがその海に潜って行ったのだ。
「なんでこう言う時の好奇心はピカイチなのかな!?」
「諦めろアキヒト。アイツは俺たちと違ってこう言う事を経験している身だ」
過酷な環境によく行く親父に付いて行く事が多いハルトはこの状況に慣れているらしい。慣れてほしくはないが。
「あっ魚群探知機が反応した」
「釣りなんて出来るか!!」
「うぐっ······まさかこんなにも荒れ狂う海に入るなんて······吐きそう」
「やめて!!せめて吐くんだったらバケツにして!!こっから顔出したら頭貫かれるぞ!!」
言ったのに一人だけ酔止め薬を飲まなかった吉田が顔真っ青でフラフラ揺れていた。言動からするに、今すぐでも吐きそうな風だ。
「ぷはっ!おおモフ大量だ!ちょっとこれみてくれないか?」
「あ〜はいはいちょっと待ってくださいね。おお〜身のぎっしりとしたウニに、これはアワビ!?よく取れましたね。······ふぅむ、乱獲していないならこの量は大丈夫ですかね」
「よっしゃ!!」
「さっさと上がれや!!もう死ぬ!吉田が特にリバース直前!!」
長々と話す二人を横目に棘波との交戦を続けていた四人のイライラが伝わったのか、ハルトは何一つ小言を言わずに船へと戻って行った。
「よし!!山本、出発してくれ!!」
俺はボー、と海を見つめている山本にそう言った。······なんでボーってしてるんだ?
「······お前たちに悪いニュースが一つ出来た」
「えっ?こう言う時って良いニュースと悪いニュースを同時に出すってのがテンプレじゃないの?ゆーちゃん」
「ええ、大抵そうだと思うし。あなたの持っている漫画ではそう言う場面が多いわね」
「コホン、······まあ聞け」
「?」
「海がへこんでいる」
「············うそ」
そう俺が言うのを待っていたのか、その途端に海がせり上がり8人全員が慌てて船にしがみつく状態となった。
そして、そのまま——————
「うっ······嘘だろ」
まるで蕾をかたどっていくように、波が俺たちを中心に閉じていく。
そう、これも『棘波』と同じ、環境災害の一つ——————。
「海······壷······」
俺は涙目にそう言って、後は——————天に身を任せた。
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荒れ狂う洗濯機の様な海流の中、様々な動きをしてすぐに気絶をしたのが幸いだったのだろう。
思ったよりも地点が最初の位置と変わっておらず、『海壷』の保有特性もあったようで皆バラバラにならずにすんだ。
そして、俺が目覚めた場所は——————
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『この子達ってニンゲン?』
『ああ、そうだな······』
『溺れちゃったのかな?』
『いや、海壷だろう。環境生物め、相変わらず雑種極まりないな』
『助ける?』
『死んでなかったらな』
『犯罪かな?』
『犯罪だろう。バレれば、だが——————』
『······うん、この子達があの子の言っていた救世主なのかもね』
『まあ、この先はニンゲンの通れる様な圧力じゃない。バルーンの準備は出来ているか?』
『もちろん、あの子が城に向かったあの日から外へ行くときは手放していなわ』
『······全く、頼りがいのある奥さんだよ』
『さあ、連れていきましょう』
『ああ······『魚人島』へ——————』
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『·········っくん······』
声が聞こえる。
『······くん·········』
終わりの······最後の、最期の泣きだしそうで、それでいて笑顔でいなきゃって思ってしまいそうな声。
「アキヒトくん!!」
はっ、と目覚め俺に最初に聞こえたのはカレンの声だった。
今のは幻聴か······?そう思い、ズキズキ痛む頭を抑えようとしたら。
体が動かない。
そもそも目が見えていない。
「?···??」
「疑問に思うのも仕方ない。つい2時間前に目覚めた俺もカレンもそうだったんだから」
「低酸素状態ですからね。僕が最初に目覚めてその他皆さまが同じ様な様子を見せていましたので、少々飽きてきました」
「その声は岡田に······モフか?」
徐々に感覚が戻っていき、神経が鋭敏になるに連れて重みを感じてくる。
「俺の上に乗っているのは······レインボーか?」
「正解です。今まだ目の見えていない状態で分かるなんてやっぱり愛ですよね」
「いや、推理。こんな事をするのはレインボーくらいだし」
「愛ですよね」
「······はい」
何か声に厚みも重みと圧力を感じた俺は応じるしかない。何されるか分からないから。
「まずは事後報告しますね。あの波に······いやあの環境に襲われた僕たちはここの家の夫婦に助けてもらい今に至ります。そしてマスターの今の状況はカレンさんに膝枕されています」
「えっ、そうなの?そう考えると何か声がいつもより近く感じる様な——————」
「アキヒトアキヒトアキヒトアキヒト」
「うおっ!どうしたレインボー!?」
突然大声を出し始めたレインボーにようやく微力ながら動き始めた体でちょっと後ろに動くとぷにょんと柔らかい感覚がする。もし、俺が膝枕されていてこれがお腹辺りになるので女のコの軟からかさってこんなものなんだ······と不意に思ってしまう。もしもこれがカレンだとしたらの話だけどな!!
「私の方が近くによれます」
「いや、俺はどちらかと言うと膝枕されて「おはよう」って言われるのが好き」
「ガーン!!」
「へっへぇ〜ん!!残念選択ミスでぇ〜す!!これがギャルゲーだったら振られてるよ君!!」
「なんでギャルゲーしってんだ」
世界一言ってはいけないタイミングとセリフで言ったのが悪かったのか、岡田に「それ、たとえ話だからツッコんじゃ駄目」と言われた。
「——————って言うかずっと見えないんだけど大丈夫かなコレ」
「大丈夫ですよ。今はまだ十二分に血液が体を巡っていなかっただけですから」
「こういう時はお姫様のキスだよね」
「えっ?」
キスされた。額に。
「なっ、なっ······なぁ〜〜〜!!」
顔が熱くなっていくと同時に目が視えてくる、いや今は視えて欲しくない!現実見たくない!!
「わっ、わぁ〜〜〜〜〜!!」
「ニャーー!!この泥棒ねこ!!何勝手にキスしてんのよ!!」
「へっへぇ〜ん!別にいいじゃないアキヒトくん見たいって言ってたし」
「······怖いな」
「怖いですね」
「さっきの······ギャルゲーの選択ミス。あれって膝枕か、ゴニョゴニョの事ですよね?」
「ああ」
「··················?どういうことだ」
「「知らなくていい」」
「はい······」
俺はしゅんとして小さくなり、起き上がろうとして——————
「あっ······」
「NICEキャッチ私。······ふふふ、お人形さんみたい」
ゾクッとしたのは俺だけだろうか。
すると、バン!!とドアが開けられて。
「やあ、ニンゲンの少年。やっと目覚めたのかい?······おや、熱々だったのね」
「いやっ!?違います!!······コラッ!レインボー、ズボン噛まない!!」
そんな事するから間違えられるのでしょう!
···························ん?
「あれ······それってエラですか?」
「ん?ああ、そうだよ」
そう言ってピラピラ、エラを動かすお姉さん。
「もしかして······ここは——————」
俺は周りを見渡す。
イソギンチャクのベッドにサンゴの机など、いつも住んでいる景色ではない環境。
そう——————
「ここは、『魚人島』だよ」
「えっ······ええええええええええええ!!」
お姉さんの怒涛のスピードについていけない!!




