EX.90 「海のばか騒ぎ」
これは俺がかぐやさんの所へ訪れ、カレンに海に誘われた日。
あの後、二人で帰ろうとしていた頃。俺たちはある女性に声をかけられた。
カール·エルナ。最上の料理人。彼女はたった一人の王宮料理人である。
彼女は虚ろな目で俺たちを見て。
「実は依頼したい事がありまして」
「「依頼?」」
俺たち二人は似たように言い返す。
「ええ、依頼です。実は、最近腕が鈍ってきている様な気がしまして。そこで頼みたい事がありまして」
「はい。なんですか?」
「ええ、やっぱりこういう時は未知の領域とも言われる海の素材が良いと思いましてね」
俺はむしろこういう時とはどういう時なのかが知りたい。
「じゃあ魚?」
「イエスです。カレン様。皆様方に頼みたいのはシーフィシュです」
「海の······魚?そのまんまの意味かな?」
「さあ?わからん」
「実はこの魚は過去、魚の定義として指定されていた魚なのですが、ほぼほぼ絶滅したと言われまして······」
「いや流石に絶滅種は無理ですよ」
無いものはない。当たり前の道理だから。
「大丈夫ですよ。実はもしもの為にレオン様が勝手に絶滅種として認定されただけですから。あの方この魚お気に入りですし」
初代キング何やってんだ、とツッコみたい。
「あの魚は深海生物なものでそう簡単には仕留められないもので頼みます」
「············はい」
実力的には彼女はこの生物を仕留めることは楽勝だろうが、料理人である以上調理台からは出られないだろう。
俺は彼女の依頼に覚悟を決めた。
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『うみだぁ〜〜〜〜〜〜!!』
みんながはしゃいで海に飛び込んでいく中、俺は優雅にお茶を啜っていた。
ここはトロピカルジュースだろ、とツッコまれそうな中、俺はペットボトルのキャップを閉める。
「アキヒトくぅ〜〜〜ん!一緒におよごうよ〜〜〜」
「無理に誘いなさんなカレン。あの男は泳げないのよ」
「泳げるわ!!見てろよ俺の完璧な泳ぎを!!」
「もふもふスーパーストライク!!夏のクリスマスバージョン!!」
「ふべっ!?」
吉田に煽られて勢いよく、あの大海原に旅立とうとしていた所。隣ではしゃいでいた筋肉系男軍のなかから、小柄の人形のスマッシュに顔面ストライクを食らった。夏のクリスマスバージョンを。
「つっ······」
「ふははははは!!軟弱だなアキヒトよ!!今さっきの一撃ならば軽々しく跳ね返すものだろう!!」
キャラがおかしくなった山本はまあ······夏にやられたとして、流石に自分を保護しようと言い返す。
「今の俺のヘイトはあっちに向いていたんだよ!!気づくわけねぇじゃねぇか!!」
「ふっ······どんな状況でも一瞬にして戦況に気づく者こそが本物の策士だろう」
「俺は策士じゃねぇし。お前もじゃねぇか」
そんなことよりも周りのガヤが凄いんだよ。さっきから「あんな小さい子がどうやってあの球撃ってるの!?」とか「凄い······あのメンバーの筋肉かっこいい」とか「ボクのマグナムが凄いことになったよ」などというキチガイコメントまであったのだが、白熱するビーチバレーと言うのはこんなにも人を呼ぶものなのか?
ちなみにアスリート熱にやられた岡田は海に逃げている。泳げないから浮き輪付きだ。
「はふぃ〜······しょっぱいし、汚いけど『カルデアの湖』を思い出します」
「いや、あの湖は淡水だし。クリアさで言えばグレートバリアリーフ程度の綺麗さが必要だけどな」
俺は大の字になってぼー、と浮かんでいるレインボーに対して話す。ちなみにカルデアの湖は『聖戦戦争』99層のレインボーと出会った所の一つだ。恐ろしくクリアで、底や中の木の根なども簡単に見える程。
「しかしまあ······もっさい男どもが人集めているからこっち側は楽ね」
「中には人じゃなく変態がいるけどな······」
変態は人を超えた別種の存在だ。
「ところで〜アキヒトくん?ちょっと日差し強いから日焼け止めクリーム塗ってくれないかなぁ〜?」
「いや流石の女顔に定評があるアキヒトでも女のコの身体にクリーム塗るイベントは——————」
「いいぞ」
「良いの!?」
途中でセリフを遮られ、そのまた衝撃的な事を俺が言ったかのように過剰反応する岡田。
「どうした?そんなに驚いて」
「いや······お前さんは······そう言う人種じゃねぇのか?」
「どういう人種だよ」
「だから······あの······」
突然口籠り、煮えきらなくなった岡田に俺は訝しめな目で見ていたが、
「そうと決まればさっさと塗って塗って!!私はボディサービスをしてあげるよ」
「はいはい······」
「あの子······どんな魔法を使ったのかしら······?」
「まあどっちにしろレインボーが沖に流されている時でよかったな。実際にいたら何があったか分からない」
二人は意気揚々とアキヒトを連れて陸に戻っていくカレンと、プカプカと流され続けているレインボーの両者を見て、少しばかり嘆息した。
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「あ······ん♡、そこっ······♡」
「変な声出すな!!」
「だってぇ〜楽しい思い出残したいんだもぉ〜ん」
「ぐっ······」
あの日以来、俺はどちらかと言うとカレンの召使いになっている気分が極たまにある。
でも、楽しそうなカレンを見て安心する俺はもう手遅れなのかもしれないな······。
あのあと大和さんに話を聞いた所。カレンはかなりヒーローとしての権限を使ってしまったので、お咎めとして母国であるアメリカに強制送還されるらしい。
もっとも強制送還と聞こえは悪いが、最終的に帰れば良いだけ。
俺たちと別れればいいだけなんだ。
カレンはそれを選択せずに俺たちのパーティであるセブン·ウォーリアーズに残る事にした。
だからこそ俺は彼女にこんなところに来たのが間違いだったなんて思って欲しくない。そして、彼女が楽しんでもらえるように彼女がしたいと言ったことは結構のろうとしたのだ。
流石にワンピースを着せられたのは意外だったが······。
カレンが帰国するのは来る3月17日。
中学校の卒業式が終わって一週間程度のこと。
もちろん卒業旅行に行く時間もなく。進学校でありながら岡田と吉田は高校は受験を受けるらしく、そんな時間がないらしい。
「みんなには······っ···いつ話すつもりなんだ?」
「ん〜〜、まずユ〜ちゃんからかなやっぱり。そこからじわじわと······」
「早く言えとは言わないが、遅すぎても駄目だからな」
「は〜い、わかってま〜す」
気づいたらそこにはもうクリームがなくなっていて塗り過ぎたとは思ったが、それよりも時間が過ぎるのが早いな······と、年でもないことを思ってしまっていた。
その後は、チョーシにのって俺を冷やかした岡田の持っていた浮き輪の空気を抜いて溺れさせようとしたり(もちろん助けたが)、白熱したビーチバレーに決着がついたり、後日談ならぬ後時談を聞いたレインボーに締め殺されかけたりして盛り上がった。
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そして、夜——————
俺は釣り竿を持って。
「さあ!親御さんの許可はとったか!!」
「もちろん!」「ああ!!」「親、同じだしな」「両親アメリカなので無断です!!」「親が抱きついて行かないでくれ、とは言われました······」「······両親亡くなって、一人暮らしです」
徐々に暗くなっていく面々、振った俺が悪かったけどさ······。
「まあ······取り敢えず、釣るのはシーフィシュ。船は借りたんだけど、誰か運転出来る?」
「ああ、俺運転出来るぞ。この夏に姉さんととったんだ」
そう言って手を挙げたのは、ビーチバレーでダラダラと汗をかきつづけていた山本。
「まあ、釣って環境に悪影響を及ぼすのと、毒があるのを除いてハルトに作ってもらおう」
「ん、大丈夫なのか?」
「大丈夫。フグの調理師免許とってあるから」
「ボクが合否とか色々決めますね。この日のために魚勉強しましたから」
「じゃあ残り俺合わせて5人は楽しく釣り上げましょうか!!」
「うん!!」
「「「「「おお!!」」」」」
「······築地に出したら売れる魚って何かしら?」
「············がめついですよ、ユウキさん······」
気の抜けた会話とともに、俺たちは船に乗って、山本の運転の下海を進み始めた。




