EX.84 「幸あれ」
あの日から目覚めたのは8月1日。
あれだけの事があって、まだ8月の前半も超えていなくて、更にまだ残暑見舞いも出せない時期とは流石驚くべきなのか、犯罪係数の高いこの国に呆れるべきなのかは言葉に言い表す事は難しいだろう。
実の所親父は盆よりも前に帰ってくる予定はしていたそうで、今日本行きの飛行機に乗って先程降りたらしい。
なんかもうスピードがおかしいなと自分自身に呆れる他無いが、3日間情報の無い暗闇にずっといたのだから仕方の無い話と信じてもらいたい。
そして俺はあの日からハルトを除く『セブンウォーリアーズ』のメンバーと会えていない。
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「やあ、お久しぶりだね。レインボーくん。2日前来てたよ」
「ああ、はい先日はありがとうございます」
俺の態度がどうもかぐやさんには気に食わなかったようで、かぐやさんはちょうどテラスの反対に座っていた俺の脛に蹴りを喰らわせた。
「!!」
「なんでそんなに畏まっているのかなぁ〜。ボクは君のおばあちゃんで、君はボクの孫なんだ。敬語とか使われたら近所の奥さんに『あら〜あそこの方。自分の孫に敬語使わせているなんて酷すぎじゃ無い?』と言う内容を井戸端会議に提出されるんだよ!」
「敷地内だけで国創れそうな人には絶対に言われたくないわ!!」
あっ、しまった。無意識で敬語がなくなった。
「そうさ!その位がちょうど良い!!だが、ボクは『かぐやさん』と言われるよりも『かぐやおばあちゃん』と愛愛しく言われたいもんだ」
「1000年以上生きてる人に『おばあちゃん』は難しいでしょう」
「ガーン!!」
「なんでセリフでオノマトペを言う!?」
「キラリラリーン!!」
「もうヤダこの人······」
俺が敬語を使うか使わないかで喜哀が極端すぎる。その上オノマトペと言うか効果音と言うか、その辺りを口で言ってくる辺り若々しいと言うか。
「君の敬語一つで世界が一つ変わるだろう」
「だったら住みたくないよこの世界」
なんだその世界。地獄じゃないか。
「まあ、最もボクがそうするんだけどね」
「笑えないないからヤメて!!」
一回本気で戦う事で、国を一つ破壊した人が言っていいセリフじゃない!!
「ははは、するわけ無いだろ。······多分」
「多分!?」
身を乗り出して突っ込む俺に対して、「冗談······冗談だよ!」と慌てて手を振る。
「まあ、だけど······いつかはボクも本腰を入れて頑張らないといけないときはあると思うけどね」
「かぐやさん······」
俺は彼女の名前を呟くと、かぐやさんはパンと持っていた本を閉じて言った。
「さて、ここから少し真剣な話だ」
「はい······」
キラリと光った彼女の目を見て俺は少したじろぐ。
「まずは君に怒ろう。ボクは怒っている。君の行動にね」
「はい······」
「何故したのか、なんて聞いてもあの状況下なら仕方がないとボクだって思う。でもね、君がそう動いたその後に悲しむ人間だっているんだよ?」
「はい······」
「だからこそだ。君自身がどう言う事で戦っているかを自覚してほしい。君は世界一の英雄になるんだろ?」
「ここにレインボーくんが来たとき帰るまで延々と愚痴を言われたよ。相当ストレスが溜まってたんだろうね。君にも何かあったんじゃない?」
「まあ、筋肉痛で動けなかったときに、これみよがしに色々されましたね······」
俺は目覚めてからの数日間を思い出しながら言う。
目覚めて最初に見たのは彼女の涙だった。取り返しのつかないことをしたのだとその時気づいた。
もしレインボーを連れていたら何か変わっていたのかもしれないと考えた事だってあった。
俺の勝手な行動に皆が巻き込まれたんだ。
「だけどね。ボクはそれに責任は問わない」
「え······?」
かぐやさんは席を立ち。俺をギュッと抱きしめた。
「ボクは君の味方だ。たとえ君が世界的大犯罪を犯してもボクは笑って見逃すだろう。ボクは全肯定も全否定もしない質なんだ。だってそうだろ?この世で『人』の心を持って生きてきた限りは必ず葛藤があるからだ。無責任な行動はしない。君は必ず返してくれるんだろう?この世界を平和に戻すって方法で」
そう言いながら背中を擦るかぐやさん。心がグッと締め付けられ。目尻が熱くなってきた。
「泣いていいんだよ。ボクは君のおばあちゃんなのだから」
「理由に······なってないじゃんか······」
俺は鼻声ですすり泣きながらそう応えた。
かぐやさんは俺が泣き止むまで、ずっと俺の背中を擦ってくれた。
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『君の夢を教えて欲しい』
あの日、病院の中で再会した時に問われた言葉。
俺は間違いなくこう答えた。
『世界一の英雄になる』と。
その言葉には何の根拠も無く。寧ろ曖昧さに長けていた。
人は夢を持つから『儚』と読む。そんな言葉はよく聞いたことがあるけれど。実際問題、人は夢を持たないと生きていけない。
ちっぽけな幸せと壮大なる夢の在り処。それが今の俺の原動力。
そんな夢見がちな俺の言葉にかぐやさんは——————
『そうだね。そんな風になったら英雄史に残る大偉業だ』
否定はしなかった。
かぐやさんは褒めて伸ばすタイプ。そんな人が簡単に『諦めろ』と断言するはずがない。
でも、そう肯定されたとき胸が弾むほど嬉しかったことを覚えている。
その夢を笑わなかったのはユウスケ、カレン、そして親父位だったからだ。
『君にはその力がある。『万能の天才』レオナルド・ダ・ヴィンチでも、『英雄王』ギルガメシュでも、『フランスの皇帝』ナポレオンだってなし得なかったことをしよう。君の夢には限度が無い。だったら中間地点を用意しようじゃないか』
『中間地点······?』
天高く広げるかぐやさんに俺は気になったワードを聞く。
『曖昧な物だったら途中で飽きるだろ?だったら目標を決めようじゃないか。『世界平和』。ボクが君に課す宿題はこれだ。君は君なりに返してくれ』
『君に星の祝福がありますように』
そう掌から出した小さな小さな小惑星を俺のネックレスに嵌め込んだ。
『君が死ぬまでに待っておくよ』
そう言って彼女は外にへばりついていたカレンを呼び出し、その他俺の個人情報を言い出したのはたった2か月前の話。
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「君の功績だってあるんだ」
「?」
彼女はこの『王の台地』で一番小さい所を指差す。
そこは確か会議室とかだったような気がする······。
「あそこの『対談室』には例の魚人君と第49代目キングがそこにいる。暫く経てばいい知らせと共に出てくるだろう」
「君は人の命を守ったんだ」
「でも······俺はあいつの命を奪って······」
そんなの褒められる権利がない。
「人の犠牲の中で人は生きている。当たり前の事さ。どれだけ努力しても人は一人では生きていけない。それに彼——————ミラ·ライズは力の使い方を間違えた結果君に殺されたんだ。文句は無いだろう」
「でも、俺には······」
俺のそんな態度に遂に煮えきったのか、かぐやさんはプンスカ頬を膨らませて怒った。
「なんでそんなに被虐的かなぁ〜。君はもっとふてぶてしかったはずだよ」
「ははは······」
「はぁ〜どうせ『聖戦戦争』だろう。全くあの子は逃れられるかもしれない戦争を判断ミスで更に犠牲者を増やした」
「逃れられた!?」
あの戦争が無かったことが出来たのか!?
「······ボク的には嫌いな方法だが、ボクの能力で急激に星の寿命を減らして星を殺す事が出来たんだ。でもね、あの子はその方法はとらずに1万人の英雄達を戦争に向かわしたのさ」
「俺は······その事自体が間違ったとは思いません」
「ほう、だったら君の意見を聞いてみようか。当事者のね」
かぐやさんは出来るだけ明るく話そうとしていた。『聖戦戦争』なんて言葉は大抵の場合、生存者からタブーとされていたからだ。
「確かに······あの戦争で大切な人が何人を死んでいった。でも俺は後悔はしていません。だってあの時あの戦争に向かわなかったらアスナにもレインボーにも出会わなかったから」
「なるほど、好意的な意見だ。それならミラ·ライズも報われるだろう」
「?」
「ボクの集めた情報だと、彼は昆虫と人間のミックスである事が何よりのコンプレックスだと言うことは明らかだ。そして彼が手を出したのは余りにも違法的な行為だったのさ。悪魔の降臨と言う禁じ手をね。しかし彼は当時はただの人間だ。願ったのは余りにも単純なありふれた願いだ」
「·····················」
「彼が願ったのは『ただ当たり前に人間として見られますように』だったらしい。後に捕まえた雪蘭がそう言っていたよ。だけど契約したのが悪魔だ。ただ単に願いを叶える訳がない。悪魔はに彼に『人間を殺す力を与えたのさ』。滑稽だろう?その力で実際ミラ·ライズは『生き埋め王』まで登りつめたんだから」
「だけど······!」
「ただ······行動が間違っていた。君のように守るための力ではなく、奪うために使ってしまったのだから」
そして、俺の胸を人差し指でトンと突いて、
「君が自分が行った行動を改める事はいいと思うよ。でもね、間違いとは思っちゃいけない。それは死者への冒涜だ。だって君はその手に、その剣に『安らぎ』の祈りを込めて振れる人間なのだから」
そして、そのままかぐやさんは火の玉(恐らく燃えている惑星だろう)を放り投げて破裂させた。
そこには昼にも関わらず流れる綺麗な星粒。
その幻想的な世界の中でかぐやさんは言った。
「君の人生に幸あれ」




