EX.83 「代償」
「やあ、レインボーくん。そんなに不機嫌な顔してどうしたんだい?」
ここは『王の台地』天体図書館屋上。ここではいつもかぐやが展望鏡などで星を観察していたりお酒を嗜む事を一人でしているが、今回はどうやら来客がいるらしい。
「私が何を言いたいかは分かるでしょう」
いつもの可愛い顔を余りにも不機嫌に歪めてかぐやに眼光を向ける。
「まあ······ね。今回は祝杯のつもりでワインを用意したのだが、これは残念なお知らせがやってきそうだね。まあ、座ってくれ」
「························」
そこで黙って座る辺り、まだ理性が残っているのと、ここで暴れても意味が無いと分かっているのだろう。
ボクはワイングラスに18世紀代のエメラルドワインを注いで、レインボーくんの前に送る。
「君はお酒を嗜めるかい?」
「もちろんですよ。妖精舐めないでください。あなた達人間と違って身体の構造が違うのです」
そう言って受け取るレインボーくんにボクは多少の毒舌を貰いながら同じくエメラルドワインを注いで一口煽る。こう言う独特な甘みが辛味の多い日本酒と違って好きな所だ。
「どうだい?レインボーくん」
「もっと鉛が欲しいですね。ナポレオンと言う人間が皇帝になっていた頃は味を濃くするためにたくさんの鉛が入っていたのでしょう」
「ははは、そんな時代はもう終わったさ。寧ろ今は品質の時代だ。そんな人体に悪影響の及ぼす酒は造れないさ」
「こうお酒を飲むと昔、星でアキヒトにお酒を振る舞った思い出が出てきますね」
真っ赤になってた思い出がありますよ。とレインボーは無表情に笑う。
コッとレインボーくんはワイングラスを置いてボクに更に真剣な顔で言った。
「単刀直入に言います。アキヒトのあの姿はなんですか?」
ボクは眉間を指で挟んで少し畝って、何て言うべきか少し悩んだ末に、単純に答えを言おうとした。
「あの姿の総称は——————」
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「『覚醒』だ」
「覚醒······?」
場所は変わり、ここはアキヒトとモフとレインボーの部屋。最も一応トップにいるのはアキヒトだが、ケイコがそう読んでいるので言い難いがそう言っている部屋だ。
そこはなんてことの無い部屋。
パソコンや本棚が目立ち、本棚の中にはバトルやSFや、料理漫画などが置かれてある。決して恋愛漫画が置かれていない所が、男の子って事だろう。
モフはその部屋の中でアキヒトの容態をずっと見ていた。
あの日謎の魚人さんとレインボーさん(妖精サイズでも子供サイズでもない。大人サイズと言うバリエーション付きで)が戻ってきたその時、マスターは傷だらけの状態で戻ってきた。
一人暮らしだと知っているカレンさんと共にマスターとハルトさんを家に連れてく最中(マスターはレインボーさんがずっと離さなかった)、とある疑問点が浮き出た。
マスター以外は傷を負っていないからだ。
言うならば、多少の埃などの汚れのみになっているのだ。
そして、未だ二日間目覚めない。
ハルトさんの場合次の日の夕方頃目覚め、今頃晩ごはんの片付けをしている。
カレンさんはついさっき目覚めて、そのまま再び寝に入った。
そしてマスターは二日間、全身筋肉痛、両腕両足骨折と言う重症だ。まるで、皆の傷を一身に受けたような。
そして、その全身筋肉痛による発熱も起こって、更に痛めつけている。
両腕両足はともかく、全身筋肉痛は表情を動かすことも、呼吸することも苦痛になる状態だ。
寝ている時は起きている時の何分の一位らしいが、それでも不快感はあるだろう。
そして今は『スライム』さんと『氷』さんの力でなんとかしていると言う様子だ。
その後、沸に切らしたレインボーさんが、
「あの女の所に行きます!!」
と言って飛び出した後。他の妖精さん達と共にマスターを見守っている中、最も知っている事が多そうな直樹さんに電話を掛けて今に至る。
「覚醒ってあれですか?眠りから目覚める覚醒と同じですか?」
『まあ、漢字で言えばそうなるな。だが、意味的には圧倒的に違う』
「意味的に······ってどう言う事ですか?」
「『眠る』と言う漢字が違うんだ。実際に言えば『睡る』だな、睡眠の睡だ」
「『睡る』······」
僕はマスターの机にある辞典から調べると。『活動を休んでいること』と出てきた。
活動を休んでいると言うのは一体どう言う事だろう。
『活動を休む。と言う事はとどのつまり『元々あったものを使っていない』と言う事だ。要は細胞約37兆全てを使っている訳では無いだろう?だが、覚醒の状態はその全てを一点方向に向ける事が出来るんだ』
「一点方向······?」
『超攻撃、超スピードをその自らの身体に与え、その代償も共に与える』
「そんなのあったらさっさと言えよ」
「んっ!?」
「コホン······すみません。こちらも不眠不休で対処しているのでキャラがおかしくなるんです」
「······そうか······すまんな」
「いえいえこちらこそ」
こういう場合は不毛な争いだと僕は理解しているが、たとえ人形である僕でも睡眠は必要なのだ。
「ところで······いつ辺り治りますかね」
「まあ、目覚めればすぐに治るだろう」
そのまま、いつもの別れの定型文を話して電話を終わらせる。
僕はマスターの眠るベットを見て、よし!と頬を叩いて気合いを入れる。
ここは······医者としての僕の現場だ······。
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「ほら、レインボーくん」
話を聞き終わり、踵を返していたレインボーにかぐやは声をかける。
「なんですか。さっさとアキヒトの所に戻って看病したいんですが」
「まぁまぁ······はい、手」
「?」
言われるままに手を出して、かぐやが手の中からとある何かをレインボーの手に置いた。
「目薬······?」
そこにあったのは、薬局であるような目薬だった。
「『月の雫』さ······名前は嫌いだが、効力は確かさ。君は言ったよね。アキヒトの瞳に金色が混ざっていることを」
「···············まるで最初から分かってた様な行動ですね」
「まあ、備えあれば憂い無しさ。用意出来る物は用意しとくべきさ。それはしばらく眼に垂らすと治ると思うよ」
「まあ、ありがたく受け取って起きますよ」
そう言って、飛び去っていくレインボー。
かぐやはその姿を見て、流星よりも綺麗だなと思った。
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アキヒトが目覚めたのはそれから半日も経たなかった。
ちょっとした呻きを残したまま、目覚めたアキヒトにレインボーは歓喜に泣きながら。跳び抱きつき。
「ああああああああああああああああああああああ!!」
全身筋肉痛と言う枷を持っていたアキヒトはただ痛みに叫ぶ事しか出来なかった。




