EX.82 「覚醒」
『覚醒』とは、天が人間に与えし力。
人間の身体に存在するリミッターと言う壁を容易く破壊する為の希望。
人は、息を1分程度しか止める事が出来ない。
人の全力は7〜8秒程度しか保たない。
その他様々な限界を軽く超える事が出来る道具。
それが覚醒だ。
その力に目覚めるには『長期間による訓練』、『環境による状況適応』、そして『過剰なストレス』だ。
第一の『長期間による訓練』は言って簡単なものではない。
何十年も修行をしている僧でも発動しない事が多く、一生を賭けても行われない。
第二の『環境による状況適応』が歴史の中で一番多い。
それは荒野を駆ける旧アメリカ大陸の大地。
それは砂漠巡るアフリカ大陸の大地。
それは広大広まるユーラシア大陸の大地。
その中の危険過ぎる土地。『塩酸の滝』や『地獄谷』や『流星丘』や『食林橋』。そのどれもがそのものを脅かす存在となりうる環境。そしてそこで過ごした彼らは皆とは言わないが、覚醒を発動をしたケースが多い。
——————そして、第三の『過剰なストレス』によって覚醒が発動したケースはたった一度しか存在しない。
たった一度であって、最も最近の発見。そしてそれは最強の魔王☓☓☓☓☓☓から発見されたと言われている。
覚醒は純度があり、その純度によってより強さが分けられる。
よりその色に近ければ、より強さが増していく。
そして、その姿は—————————
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純金のオーラが吹き出す様子を見て、ミラは行動を移さなかったわけではない。
手を鉤爪の様に変化させて、アキヒトの心臓を抉ろうとする為に、人の様に見えるその影に襲いかかる。
「!?」
その最中、ミラは聴いた。
ピチョン······と何か雫が溢れる音が。
ミラが突き刺したオーラの塊には既に人はなく、その手には肉の感触をしなかった。
もちろんオーラが晴れた時にはアキヒトの姿はなく、ミラはたった一つ思い浮かんだ所へ顔を向けた。
結論としてはその行動は当たっていた。
そこには先程まで地溜まりを作っていたカレンの倒れている所に、カレンをその両手で抱き寄せるアキヒトの姿があった。
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覚醒の根源はその人間の特性だ。
『破壊』に飢えているなら、そのオーラ自体が他の人間を破壊しに行くし。『慈悲』巡るなら、他の相手を癒やすだろう。
そして、アキヒトの特性は『癒やし』だった。
元々再生能力者である彼は、その癒やしの力を相手に分け与える事で本来成し得ない傷の治療も一瞬で終える事が出来る。
アキヒトは無意識に癒やす作業を行った。
ずっとミラの存在は全く気にしないまま。
アキヒトはカレンの痛々しい傷跡を見て、そこにオーラを送るイメージをとった。そうするとアキヒトの全身を揺蕩うオーラがまるで導かれる様にカレンの傷跡に入っていき、徐々にだが傷が塞がっていく。
アキヒトの心境はいかがだろう?
辛い、苦しい、そんなものよりも純粋な『怒り』それがアキヒトの脳内に巡りまくる。
だからこそ最優先に皆だ。
その中でも更に最優先にカレンだ。
どういうロジックかは分からないが、カレンがムーンフェアリーを持っていると言うことは、ずっとこの剣で戦い続けたのだろうか?
だからこそ致命傷を負い、こうなるまでなってしまった。
「ごめんな······無理······させちまったな······」
俺は必死に穏やかな声でそう言う。ここで耐えなければ、皆が頑張った意味が無い。
ここで暴れて皆に危害が及ぶ可能性だってある。
俺は叫び続ける暴虐さを必死に堪えて、ぎこちない笑顔を見せる。
「あとは俺が頑張るから、しっかり休んでくれ」
その応えは返って来なかったものの、カレンの青かった顔が再び赤めがかった事に安心した。
そして再び見えたのはミラの超高速の飛びにかかる突き。俺はそれを確認した上で右手を前に出し、脚に力を入れて翔んだ。
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「あ·········」
アキヒトから情けない声が聞こえた途端、ミラは再び気力を取り戻した。
たとえどんな変化が起ころうが所詮僕のステージに立ち入れる力など持っていない。
アキヒトの掌にミラの鉤爪がぷすっと刺さった瞬間、アキヒトの右腕が散り散りに散っていった。
ミラはもう片方の手で心臓を抉ろうと襲いかかろうとした時、その眼前で行われたのは。
まるで花吹雪が舞うように散り散りとなった腕から順次するように身体全体が散っていった。
「!!?」
その時、アキヒトとアキヒトが抱いていたカレンが消え去った。
ミラはキョロキョロと何度も見回した、だがしかしアキヒトの姿は一切見つからない。
アキヒトは意識を消していた。だからこそ見つからなかった。
アキヒト自身はミラの真正面の壁に存在していたが、ミラ自身はそれを見つける事が出来なかった。
否、見えなかった。
意識の範囲外——————それは、余裕があればあるほど広くなっていく物だ。
よほどの意識を捉える達人でなければ、存在自体を消したアキヒトの意識を掴む事は出来ない。
「·········!!」
ミラは目に強く力を加える。
『複眼』——————それは昆虫特有、いやその中でも更に希少な目。その六角形の視界には死角は存在せず。どんな獲物も見つける事が出来る。
本来複眼を使ってでも見つける事が出来ない『意識の範囲外』。しかし複眼を発動する際、鋭く神経を尖らす事で意識の範囲を恐ろしく広げる事に成功。
結果——————見つける事が出来た。
しかし、アキヒトもアキヒトでカレンが持っているムーンフェアリーを媒体にして小規模魔術を完成させていた。
六角形で建築されたドームがカレンを包んでいた。
アキヒトはそこからゆっくりと立ち上がり、前に進みドームから出る。
その頃にはアキヒトの全身を纏っていた金色の英気のオーラが晴れて、アキヒトの姿が見る事が出来ていた。
そこにはいつもの目立つ三色の髪も、通常の黒髪もなく全てが菌色。その上であの長い髪が短くなり少しばかり結ばれていて盛り上がっていた。
それよりもおかしな点を挙げるとするならば、それは瞳の色だろう。
楕円の形をしたいつもの大きめの瞳に二色の色が混ざる。
一色はいつもの赤みがかかった黒色。
もう一色は金色。更に言えばその中に黒色の玉の様な円が六つ均等に並べられ、細い線の様な何かが円の中心点を通っている。
一つ疑問点を通すならば、それは上半分と下半分に分けられていて、その上その瞳が左右両方に分けられていて、両方の瞳を合わせると黒色の瞳と金色の瞳が出来ると言う点だ。
そしてその金の瞳は『七つの大罪』『嫉妬』のエルマ·アイマスの瞳。
つまりアキヒトは一部をエルマ·アイマスに分け与えた事だ。
それが吉と出るか凶と出るかはアキヒト次第。
アキヒトはドームから一歩出た瞬間、ミラが飛び出した。
音速を超えた彼の動きはただの肉体では耐えられないステージにいた。
だが、アキヒトの目には止まって見えた。
もっと正確に言えば限りなくスローモーションに見えた。
アキヒトゆっくりと飛び込んだミラの鉤爪をさらりと避け、その顔面を殴った。
ミラが飛び込んだスピードよりも圧倒的に上回ッタスピードで飛んでいった。
アキヒトはミラがまだ生きている事を確信して、言う。
「まず仲間の方が先だ、お前は黙ってろ」
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「ぐぎゃ······!!」
「お姉様······!!」
後方に吹き飛んだリーゼリッタの身を案じたハルナルの声が掠れる。
ハルナルは目の前の存在——————レインボーの余りにも強力なエネルギーと力に押し負けていた。
「翔けろ虹の龍"エクスプレス·ルーラー„!!」
一歩引いたハルナルに追い打ちをかける様にレインボーは一瞬にして凝縮したエネルギー弾から虹の龍を召喚し、襲いかからせる。
「くっ······"不確定な基本的条例„岩を雪崩れさせろ!!」
ハルナルは手持ちの少ないルービックキューブを瞬間的に廻し、天井を破壊させた。
しかし、その真後ろに用意していたレインボーの突撃には対処しきれなかった。
「ハルナル!!ルービックキューブを捨てて!!」
ハルナルは自分の姉にから話たれた言葉に順次して手に持っていたルービックキューブから手を離す。
その行動を見たリーゼリッタは腕を銃身に変えて、ルービックキューブを撃つ。
たった一発放たれた銃弾がルービックキューブに当たり、ひび割れ、破壊させる。その時——————
「!!」
内部に貯蔵されていたエネルギーが暴動し、爆発した。
「やった!!」
「レインボー殿!!」
喜びの声を挙げるハルナルと驚愕の叫びを挙げるリュウギョウ、そしてその爆発地の中心にいたレインボーは、
「······そんな簡単に喜びの声は挙げないでくださいな。やっぱり人間は下級種族ですね。アキヒト以外はゴミです」
まるで何事も無かったかのように煙の中から髪を払って現れた。
「妖精舐めないでください」
そう言ってハルナルの目の前に跳んで、
「肉弾戦はそこまで好きじゃないんですけど——————ね!!」
「ガハッ······!」
「お前!!よくもハルナルを!!」
腹部を殴り、ハルナルを気絶させた後。既に動けないようになっているリーゼリッタが両腕で機関銃を放つ。
だが、そこに放たれた銃弾は全てレインボーの虹のオーラによって防がれる。
「······くそっ!!······くそっ!···くそっ!」
「幾らやっても無駄です。······虹の根源は太陽エネルギー濃度。要は圧倒的熱量と発火量が混ざってるんですよ。そんなチャチな銃弾で濃度たっぷりの虹を貫通できる訳無いじゃないですか。その上私はアキヒトの様に多数の能力を扱っていなく、たった一つの能力を操る『妖精』ですよ。下級種族の知恵などに屈する訳ないでしょう。······今度立ち向かう時は剣で闘った方がまだ1%程ありますかね」
そのままレインボーはオーラを少し操って、リーゼリッタの首筋辺りに強い衝撃を加え気絶させる。
「さて······」
レインボーはリュウギョウと睨み合いを続けている仮面の女——————春蘭の方を向いた。
「そこの女······誰だか知りませんが、今一瞬起こった嫌な感覚はなんですか?」
すると、春蘭はふ······と笑い仮面を取る。
そこには犬歯が異様に出っ張った女性の顔があった。
その上その犬歯は黒く艶っていて、まるでクワガタの様な物だった。
「昆虫······?」
「む······昆虫とは一体······?」
「······昆虫か······それは外れでもあり、当たりでもあるわね······」
「どういう事ですか······?」
すると春蘭は際立った犬歯を撫でる様に触り、こう言う。
「『純度が違う』······とでも言った方が良いかしらね······私はただ能力の隔世遺伝によってこんな顔になっただけ、だけど『ミラ様』は違う!『ミラ様』は特別なのだ!!」
「······どう言う事ですか······?」
レインボーが目を丸く、リュウギョウはある程度予想して、それでも尚聞く。唯一の希望を見つける為に。
でないと、限りなく敗北に近しくなるからだ。
「それはな————————————」
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『『ミラ様』は片方を人間、片方を昆虫を媒体として産まれ落ちた混合種なのだからな······』
ドガン!!と埋め込まれた壁からミラが出てきたのはアキヒトが皆をドームの中に入れた直後であった。
「!?」
アキヒトが目を見張り、ミラの姿を見ていた。
何故なら、既にミラの姿は先程までの清々しい青年風だった彼の容風から赤色の眼が六つ、三対に腕脚合わせて三対に気持ちが悪くなるほどの形相をしていた。
その眼全てが飛び出しており、その全てがアキヒトを凝視していた。
「お前は······ミラ······か······?」
アキヒトにとっても彼の変化は驚くべき事だった。
アキヒトもアキヒトで覚醒による変化自体は起こっていたが、それは原型まだ保っているので変化的には余り変わりない。
だが、異様にも変化したミラの姿は変化と言うには余りにもおかしい姿だった。
おかし過ぎる姿だった。
すると右側の腕の一つがポリポリと頭を掻いて言う。
「ああ、そうだよ僕だ。ミラ·ライズだ」
「··················」
「気持ち悪い······とでも思っているのだろう?君は自分の容姿に気を付けている様子だけど甘々ちゃんだね。僕の姿を見たらそう言うのは気になくなるだろう?」
「僕はね······僕の事を気持ち悪いと言った奴をあらかた殺す直前まで殺して、後は埋める作業さ。非常に心地良かったよ。気持ち悪いと思った奴を生かしたまま、ずっと僕のこの顔を息絶えるまで見せる事が出来るんだから······」
「······それが、『生き埋め王』の由来か······」
「ふふふ······そんな命名がついていたとわね······光栄だよ。······さて、君を殺してから君のお仲間さんと一緒に埋めようか······」
「殺すぞ」
「君がね」
互いの腕と腕が重なり合い、力勝ちして吹き飛ばす。
「お前は······負けるんだよ······ミラ!!」
凄く軽やかに体が動く。まるで細胞全体が踊っているようだ······。
俺は吹き飛んだ蹴りをかます。
様々な断末魔をあげながら、昆虫特有の外骨格と人間の内骨格を組み合わさった防御力でなんとか耐えている様に見える。
「お前は!!」
ミラはなす術無く俺にサンドバッグにされながら叫ぶ。
「お前は一体誰なんだ!!」
ミラから吹き出した棘に俺は少し後ろに避け、立ち止まって言う。
「俺は——————」
彼を指差しながら、
「お前を——————」
最上の敬意を持って、言う。
「倒す者だ」
あの時の怒りは何故か無くなっていった。怒ってない訳じゃない。ただ、すうっと殺意だけが抜かれた様な感じ。
「もう······諦めたらどうだ?」
「諦める!?あきらめる!?ふざけるな!!僕は······僕は!!僕の事を笑った奴を生涯後悔させるんだ!!邪魔をしているのはお前だ!お前が諦めたらどうなんだ!?」
そう言って俺と言うターゲットに飛び出すミラ。だけど俺からしたら今のミラはまるでいじめっ子の様な虚実な感じがする。
まるで——————強く見せないと自分がやっていけないような必死さ。
「お前の気持ちは······分かるよ······」
俺はミラの攻撃を避けながら言った。
「分かる訳が無いだろう!!僕の人生は僕しか分からないんだ!!」
知ってる。自分は自分しか救ってくれないと言う悲しい答えを。
知ってる。仲間と言うのはただ、足を引っ張り合うだけのと言う現実を。
だけど、好きにしたらいいじゃないかな。
勝手に競い合って、そうしたら強く繋がったって感じるんじゃ無いか?
楽しい時も、辛い時も支え合って繋がり合うのが仲間だ。友達だ。
「お前だって······そうだろ······?」
俺はミラの攻撃を腹で受け止めて言う。
その拳に力は込められていなかった。
ただ、『虚しさ』だけが残っていた。
彼は——————泣いていた。
「最初から人を憎んだ訳じゃない。俺もお前も······何か裏切られたから憎むようになったんだろ?」
「·····················」
「なぁ······どうなんだ?」
「ああ、そうさ。でもね、ここで君を殺す理由が無くなっちゃうじゃないか」
························。
「どんな酷たらしい殺し方でも良いよ。僕は負けた。君にどれだけ攻撃しても当りゃしない。最初から情けが入ってたんだろ?」
「『銀河の王』程の技術は無いけども、できる程の努力をするよ」
「ああ······」
俺は今もなお蠢く金色のオーラをただ一点——————右腕に集める。
これが俺の最上の技だ。
「"ビッグバン„!!」
その拳には大量の祈りを込められていた。
まるで無音になった空間に、ミラのレクイエムが壁の崩壊によって奏でられる。
元の髪色に戻った俺は荒い息を肩で呼吸しながら、そのまま——————
死んだ様に倒れ落ちた。




