EX.71 「空白の女性」
アスナが刺したレオナルドの中心辺りから氷が生まれていく。
「ヒッ······ヤメッヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロやめてくれぇぇぇぇぇええええ!!」
まず腕が、その次に足が、最後には顔以外を全て凍らせた。
顔を残したのは後ろの機械にいる女性を助ける為に——————
アスナは一人元に戻ったレイピアを突き刺す様に構えて。
「あの人を開放する方法を教えなさい」
そんなアスナの言葉にレオナルドはニヤリと嗤った。
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場所は変わって、何処かの屋敷。
「レオナルドの奴失敗したいだねぇ〜」
「元々あ奴は頭だけの男。いつかは殺されるとは思っていたが、こうも容易く殺されるとは思わなかったですね」
初老の男性がピンク髪のみつ編みをした女性にそう話す。
すると、チャイナ服に似た服を着た落ち着きのある女性が話す。
「これであの男に送る奴隷もなくなって、我々もかなりなくなりましたね」
「ミラ様」
彼女が向いたその先には豪華に彩られた椅子に座った男性がいた。
男性はフッと笑い。嘲笑した趣きで話す。
「確かにそうだな。あの人間はちょうど良い暇つぶしだったのだがな。そうだ、俺たちの情報を話す前に殺しておいてくれ」
「御意」
そう言うが早く、女性は音もなく翔んていった。
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氷に身動きがとれないまま、レオナルドは笑った。
「は、は、ははははははははははははははは!」
そんなレオナルドの姿にアスナは怪訝に思い。
「何が面白いのよ」
「あの人が······ミラ様がこの僕を見捨てる訳がないんだ!!」
「ミラ様······?うぅん、そんな事よりもさっさと解除する方法を教えなさいよ!」
「いいぜ、答えれるならな。それは昔この実験と同じ様にに頓挫した実験の名前だ。最もこれは一人実験体に壊されたんだっけ······」
「そんなクイズみたいのはいいから、とにかく教えなさい!!」
「聞いても仕方ないわよ」
「!?」
アスナが声をした方に振り向くとそこには奇妙な兎の仮面をした人間がいた。
アスナは音もなく現れた存在に冷や汗をかく。
あの人······どこから······?
少し後ろにいた氷の妖精も自分と同じく驚いていた。
「お前は春蘭か?助かった!早くあの女を殺して助けてくれ!!」
「そうだな······」
そう春蘭と言われた彼女はスタスタとレオナルドの方に歩く。
「お前!何をする気だ!?」
「無論あの女も殺すが、もう必要のなくなったお前も死んでもらう」
「何を言っているんだ!?僕は、あの人の······ミラ様のお気に入りだぞ!!」
「何を言っているんだ貴様は。お前は見限られたんだ」
「ヤメローーーー!!」
春蘭の手刀で氷ごとレオナルドの首を飛ばした。
「うそ·········私の氷すらも······」
ガシャンと音共にレオナルドの頭部が落ちていく。
氷の妖精から自分の目を疑うかのように、うそ、と呟く。
するとスタスタとアスナの方に歩いてくる。
「さて、仕事を終わらせるか」
「くっ」
そんな単調に話す春蘭にアスナは『サテライト·テンペスト』を手にして身構える。
「させるか!!」
ギュオン!!と音が鳴って刃が飛んできた。
春蘭は音の鳴った方に顔を向けて、彼女の得意手なのか手刀で弾いた。
「貴様は······」
「アキトくん!!」
そこには既に臨戦態勢をとっているアキヒトがいた。
「アキヒト!!」
そう言って氷の妖精がアキヒトに向かって飛んでいく。レインボーは少しムッとした顔をしたが、すぐに相手をアスナの方に向かっている春蘭に集中している。
「アキヒト······あれは厄介ですよ」
「でも、やるしかないよな」
「ええ」
一通りの会話は済んだのか、アキヒトは春蘭へ声を向ける。
「あんたが誰か知らないけど。アスナを殺すつもりなら、俺は容赦しないぜ」
「フフフ、まさか本物の『化物』が現れるとはね。いいわ、貴方が相手でも任務を遂行してみせる」
同じく臨戦態勢をとった春蘭にアキヒトは冷や汗をかいて。
「大した忠誠心······なのか?それでも勝たせてはいただく」
二人は飛び出し、剣と手刀が重なり合う——————その寸前に。
ズガン!!と音が鳴って銃弾が飛び出した。
「流石にそこでぶつかるのはまずいんじゃねえか?」
「誰だ!!」
「岡田······」
そこには皆が集まっていた。
それぞれが傷を負っていて、戦いの痕が伺える。
一番ましなのがユウスケと吉田で、一番酷いのが岡田だ。
すると春蘭の疑問に岡田が答えた。
「あなたが誰か知らないけれど。俺たちはそこのリーダーに連れられた『セブンウォーリアーズ』だ。覚えといた方がいいぜ」
すると、彼女はふん、と鼻で笑って。
「それがどうしたの?殆どが満身創痍じゃない」
「それでもあんたを捕まえる事が出来る」
そうユウスケが言った直後に岡田を除いた五人がバッと広がって春蘭を囲う。
春蘭は周りを見回して、少しばかり苦い顔をした。
「どうした?余裕がなくなったようだけど」
「フッ······まあ、そうかもしれないわね。でも、今回は逃げる事は出来るかしら」
「「!?」」
そう言い終わった後に春蘭は消えていった。
アキヒトが真っ先に飛び出して結果を確かめようとした。しかし、
「確かにあいつはここにいた。微量なエネルギーが浮遊してるから······だけど、ここに消える際のエネルギーが分からない」
「確かに······私も魔力で包囲網を張ってたのに······」
「つまりこれは消えたのか、それとも『空間転移』か?」
「違うと思います。これはどちらかと言うと、能力じゃないと言った方が良いかと」
「なるほど······厄介そうね」
「皆!!早く来て!!」
そう俺たちを呼んだのはアスナであって、俺たちはその言葉にすぐに集まった。
そこには謎の液体に入った女性がいた。
「これは······」
「皆!!昔頓挫した実験って知ってる?」
そんなアスナの質問に俺たちは頭を悩ませるばかりだった。いつも冷静な彼女がここまで焦っている様子を見ると、俺たちもなんとかしないと思うのだが、そのなんとかが出来ない。
「突然そんな事を言われてもな······なぁ智樹」
「確かにこの世界で失敗した、頓挫した実験なんて山のほどあるからな······アスナさん。他に何かありました?」
「えっと······確か、一人の実験体に壊されたって言ってたような······」
その言葉を聞いて、真っ先に動いたのはアキヒトであった。
「えっ······」
アキヒトはキーボードを滑らかに動かして、カタンとエンターキーを押した。
『Congratulation!!』と空中に描かれて、大量の液体と共に彼女が開放されていった。
アスナはおぼつかない動きで彼女を抱きしめて。
「良かった」
と呟いた。
あれから数日がたったが、あの時アキヒトが打った言葉は分かっていない。




