EX.62 「嫉妬の神」
時は巻き戻り、王宮『天体図書館』屋上。
「これは······」
かぐやがソウマに手渡したのは一つの『腕』だった。
流石にここは驚くべきシチュエーションなのだが、何故か自分は驚かなかった。
「アキヒトくんの腕さ······ボクが取り除いたものだよ」
「どういう事ですか?」
その腕には本来接合するはずの傷跡も何もなく、ただの綺麗な『腕』だった。
まるで、一つの存在のように。
だが、そこには少しの疑問があった。
「何故······この腕は残っているのですか?」
宮田直樹の証言には、アキヒトが腕を千切られたり、切れたり、焼かれたり、溶けたり、消失した場合どれでも腕を治す。いわゆる『再生能力』を備えているが、それはトカゲのしっぽのように新しく生えるようになるらしい。
つまり、一度取れた腕は繋がることはしない。
新しく生えて、残りは溶けるように『消失』するのだ。
それは、痛々しく『何度も再生』されており、それを何度も別人にも他人にも確認されているものだ。
そんな自分の疑問をかぐやがいとも簡単に答えた。
「恐らくこれは新しく『生み出した』んだ。別の存在を器であるアキヒトくんの右腕にね」
「生み出した······?」
「ああ、アキヒトくんの中に眠っている化物に耐えられるようにね」
「化物······」
そんな呟きにかぐやさんは三本指を立てて答える。
「まず一人目は『黒鬼』だ。彼は『銀河の覇者』とも言われる人物でね、『蘇生神』レオン·ハザァードに負けるまでの3億年間の間無双とも言われた人物だ。彼は一切の武器を使わず、ただ1対の腕で殴り殺した化物。アキヒトくんの『真実の目』は彼の力だろう。彼はレオン·ハザァードという生涯無敵と言われた存在と出逢わなければ、彼はまだまだ現役だろうとボクは思うよ。君は覚えているかな?たった一月前に一瞬だけ、爆発めいたエネルギーを感じたこと」
確かに、あの一瞬とも言われるような感覚で『死』を感じたのは久し振りだった。
一度目は直樹さんだったことを思い出して苦笑した。
すると、かぐやさんは『黒鬼』を指していたのであろう一本を下げて二本となる。
「そして、二人目は『未来神』の『くろう』だ。彼は狐型の神で、その紅い瞳には未来を見ると言われるが、その正体は『道標の眼』だ。彼はその目で最も正しいルートを通って、見つけ出して、彼ら······いわゆる、『古代の住人』に色々な物を伝えた。生きる為の知恵をね。それで彼は『地球の三神』と呼ばれてしばらくした後、『ゼウス』の手によってその時代の人物の中に封印された。そして、その何代も先の未来にアキヒトくんの身体に入ったのだろう。アキヒトくん曰くの『レッドアイ』は彼の力だろう」
そう言ってかぐやはもう一度指を折り曲げる。
残った指は一本。まだ自分が知らない存在が残っている。
「これはね······この腕を解析することでようやく見つけ出す事が出来たんだ」
かぐやはその指で自分の持っているアキヒトの腕を指した。
「もっとも······遅かった······」
かぐやは苦虫を噛み砕く顔でそう言った。
「遅かった······?」
するともう一度かぐやは腕を指さして。
「その腕の細胞にね、ある特異人物とも言えるような存在が発見された」
すると「その前に教えるべき事があるわね」と言って、本を開いた。
そこからはオーロラのような光が発せられ、映像が映し出された。
そこには螺旋状の映像の中、ある人影が映し出されていた。
「まず、神のてっぺんである『神の円卓士』は知っていわよね?」
「ええ、確か。ゼウスを筆頭に、『蘇生神』『創造神』『時空神』『感情神』『遊戯神』『太陽神』『成型神』『海神』『闘神』『剣神』『霊神』の十二人が集まってそう呼ばれているのですね」
「そう······そして今は『蘇生神』と『創造神』が亡くなり、初代『太陽神』が引退した。そして、『蘇生神』の席に『豊穣神』、そして二代目『太陽神』が新たな席に座って、未だに『創造神』の席は空いたまま。結構今はそう言えないかもね」
「何故ですか······?」
「『神の円卓士』の最大戦力であった『蘇生神』レオン·アリアス、『創造神』ステイシア·ハザァードがいなくなって、更にはゼウスが年老いてきたのよ」
「つまり······もうすぐ終わりが来るのですか?」
そんな自分の疑問にかぐやさんは首を振って。
「ここ数千年の話ではないと思うけどね」と言った。
「まあ今はそこに問答をする所ではない。実はその下にはある組織が存在したんだ······知ってるかい?『七つの大罪』を」
「ええ、『憤怒』『怠惰』『傲慢』『強欲』『暴食』『色欲』······そして『嫉妬』ですよね」
「そう、そしてその組織はボク達で言う『江戸時代』の時期に無くなった······それはね、内輪もめとは言えないような残酷なものだった」
そして彼女は語る。
@@@@@
彼女は誰にも好かれなかった。
好きになっても好かれなかった。
恋をする度に失われていき、逃げ出していった。
彼女の顔を見た途端逃げ出していった。
彼女の顔は醜いとは呼べなく、むしろ美しいと呼べるものだった。
しかし、彼女の美貌によって逃げ出していったのだ。
だから、どんな方法をとったとしても愛してもらう——————その為に命を賭した。
結果は残酷。
美しくなればなれる程、人々は逃げ出していった。
だから彼女は動いてしまった。
だから彼女は憎んでしまった。
だから彼女は殺してしまった。
彼女から逃げ去った人間を一人残らず。
これが『嫉妬』の神。エルマ·アイマスの始まりの終わり。
その後、彼女は怨嗟の怒りと絶望を人間に与えるために、『暴食』『憤怒』『傲慢』『強欲』『色欲』『怠惰』の神を貪り食った。
彼女の『嫉妬』としての権能は『奪う』こと。
彼女は暴食の権能を奪う事によって、より簡単に他の五人の権能を奪い去った。
より無敵に、より最強に。
元々彼女は『七つの大罪』の中で最強を誇る人物。それに他の『七つの大罪』の権能を手に入れたらどうなるか?
答えは殺戮の一択。
彼女が腕を振るとその土地の原型が失い、彼女が話すと頭部が爆発し、彼女の心臓の鼓動だけで相手の命を奪う事が出来た。
そんな事を、まるで人間をゴミのように扱う態度に対し、ついには『神の円卓士』最強の『蘇生神』レオン·アリアスと『創造神』ステイシア·ハザァードが彼女の前に立ち塞がった。
『ついに、ゼウスも頭が可笑しくなったのかしら。こんな二人が来るなんて』
『あんたが知らないだけで、俺達は弱いもなんともないんだよ。ちなみに言っておくが今捕まるんだったら、俺の口伝てで刑を軽くしてやってやるんだけど』
『関係ないわ。私は『嫉妬』全てを憎んで、全てを殺して何が悪い!』
『そうね······だったら、私達が貴方を殺す‼』
まさに一瞬の出来事。
自らの意識を極限まで圧縮する事によって、三人の動きを残像程度で目視出来る程度。
決着も一瞬で決まった。
レオン·アリアスのムーンフェアリーがエルマの心臓を貫き、終末の刻を経た。
グプッと口元から赤い血が溢れ出す。
『死ぬ感想は······?』
『そうね······フッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ‼殺してやる‼』
グチャリと心臓辺りの所から一直線に縦に斬られ、倒れていった。
エルマ·アイマスの死亡——————誰もがそう思っていた。
だが、彼女は保険をかけていた。
『森羅転生』——————彼女は右腕を媒体にその腕から復活する『蘇生神』のみが許された禁忌の技を使った。
しかしそれでも時間はかなり掛かり、地球世界で言う西暦2003年ようやく復活する事が出来た。
降りた地は日本。
王宮にて、彼女は依り代を見つけた。
憎き『創造神』ステイシア·アリアスが抱いた赤子だ。
あの人間は神を目の当たりにしても涙を流す様子も無かった。
その夜、寝ていた赤子を奪おうとした時、バチバチッ‼と電撃が走った。
なるほど······あの女、この赤子を守るのか。
だが、こんなもの苦でもない······‼
電撃が走り、肌が切り裂かれるが彼女の手は止まらなかった。
そして、赤子に触れた瞬間。
(だいじょうぶ······?)
はっ······何を言っているんだお前は。
(泣かないで)
今度こそはっきりと鼻で笑いたかったが、自分の頬に涙が溢れたのは自覚してしまった。
「くっ······うっ······」
バキバキと赤子を包んだ電撃が割れた。
「うわああああああああ‼」
彼女は泣いて赤子を抱きしめた。声は誰にも届かずに響いていった。
彼女は彼を愛してしまった。
空虚に空いた心を彼は埋めた。
彼女は彼の精神の中に入り彼を助けることを誓った。
これが『嫉妬』とアキヒトの出会いの物語。
@@@@@
「なるほど······つまり僕達は何をすればいいのですかね?」
「殺すんだよ」
そんな彼女の言葉にピクッとソウマが反応した。
「どういう事ですか?」
「彼女はね······確かにアキヒトくんの助けになっているがつい最近ね、あの子の精神を完全にジャックした姿を見たんだ」
「············なるほど······」
ソウマは頭を捻った。
「まあ、それは今すぐという話ではないしね。じっくり考えたらいいよ」
「······そうですね」
深刻した空気を和ますかのように、かぐやはソウマが持っている腕を指さして。
「ちなみに渡したそれを君はどうするんだい?別にヒメちゃんにプレゼントしてもいいけど」
「流石にしませんよ!これは処分しますよ」
そう言ってソウマは腕を高く放り投げた。
そして、両手を重ねた。
ソウマ·レオン·ハザァード。
能力『千手観音』
ソウマは重ねた手を離し、縦に重ねる。
「"弐ノ掌„‼」
バチン‼と勢いよく叩かれた腕は一瞬にして潰れるが······。
「驚いたな······この腕自身が一つの個体として再生するのか」
ブルブルと細胞が復活していく様子を見て、ソウマは感嘆の声を漏らす。
「確かにね······でも、あまりにも遅すぎる」
「追撃の時間をくれる」
すると頭上から無数の隕石が襲いかかった。
カグヤ·ハザァード。
能力『天体』
「"星屑流星群„」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ‼と鈍い音がして、消失したのを認知する。
「さて、そろそろ緩急をつけようか」
そう言って、かぐやは本を閉じた。




