EX.60 「魔王会議(後編)」
「ガオウ······?」
どうやら、興味を持ってくれたらしい、とソーラはニヤリと笑う。
「ええ、ガオウ様です。彼は私達『穏健組』のトップを担ってくれる方······彼なら我々常に緊張状態の私達に必ず糸口を見つけ出してくれるはずです」
すると、ミステイクは「ああ!?」と怒鳴りを上げて。
「日和ってんじゃねぇよ‼俺たちはなぁお前らみたいななよなよした奴らとは違ぇんだよ‼」
「しかし、実際にこの時代はまずいです」
「おやおや、君は何が言いたいのかな?」
アンドロイドは優しく、脅すように言った。だが、こんなものではソーラは折れない。
こんな脅し······ガオウ様の殺気と比べれば弱いものだ······!
「今は、恐ろしい人材、そして我々に脅威になりうる『最上級神器』の発見も多々されています。そして更に今の占いにはあと数年······たったその日数で、かの伝説『レオン·ハザァード』が再び地球に足を踏み入れるという事も言われている。我々にとってはこれ以上の避け合いはまずいのです‼」
「それでもさぁ〜僕達は僕達で実力でここまで登ってきたわけ。今更、こんな所で足踏みしてるわけないって分かる?」
「しかし······」
「『かぐや』が動き出しました」
そこには全身包帯巻きのガオウが現れていた。
「ここの警備はどうなっているのですかね?後で皆殺しにしないと······それと今、『かぐや』と言いませんでした?」
「言いました。『カグヤ·ハザァード』が動き出しました」
「しっしっし〜『月の都』も異端児を生み出したねぇ〜。あいつらは僕達に服従を誓っているのに、勝手な行動をするから『レオン·ハザァード』に邪魔されるんだよ」
「なるほど······『かぐやさん』が重い腰を上げたか······厄介だな、あの人の実力は目に見えて分からないものばかりだ」
すると、伝説は口を開いてまさかの感嘆の言葉を吐いた。
「それとお前が『ガオウ』でいいんだな?」
鋭い眼光を食らい、ソーラは慄くがガオウは何もビビるような様子を見せずに。
「はい、ソーラには少しばかりの仲介人になってもらってここまで話して貰いました」
「そうか······良いだろう。お前を『四の魔王の席』に座る権利をやる」
ガタッとアンドロイドは立ち上がり、吠える。
「貴様ッ‼自由にするのもいい加減にしろ‼こやつはこの実力主義の我々にとって異分子だ!必ず何か仕掛けるつもりだぞ‼」
「だったら、お前は何もしなかったと言えるのか?」
「······っ」
「俺がここに入ったときお前は何もしなかったと言えるのか?まあその度に俺はお前を打ちのめしたのだがな」
すると、チッと舌打ちをして黙る。その他三名もそれぞれの方法で拒否をしようとしたが、その全員を最強は黙らせたのだ。
これが『最強の魔王』、その名前が伊達じゃない姿を一瞬にして感じた。
ソーラは直後恐怖を感じた。彼の刹那に見せた殺意に——————。
すると、最強は少しため息をついて。
「『初代キング』レオン·ハザァード。『月の女神』カグヤ·ハザァード。『剣技の創設者』雨風新風郎。『神ヲ殺セシ者』ハートロード·ビスタ。『太陽の守護神』サン·グランダビスト。『英雄王』アーサー·ペンドラゴン。『獅子王』デトロイト·モータ。『初代魔女』アリア·メリア。この八人が筆頭の旧時代が再び集結しだし、新時代生まれ始めている。例えば、『歴戦の英雄』ミヤタナオキや——————」
「能力『パーフェクト』の持ち主。ミヤタアキヒトとかがな」
沈黙が訪れる。
やはり、沈黙を破るのは彼だった。
「俺はこいつを推薦するぜ······それに、一口に『穏健派』と言っても、その存在に違いがある。俺は」
「こいつらの何もかも否定的に考えて行動する姿が好きでな」
誰も何も言わなかった。
沈黙は金ではなく、肯定の沈黙。
沈黙の中でガオウに『魔王』の称号が与えられた。
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場所は変わり『天体図書館』屋上。
かぐやが空を見上げる中、ある一人の人物が現れていた。
「こんな遅くにどうしたのですか?」
「なんだ、ソウマか?別にどおってこそもないさ、ただ気になっただけだ」
「?」
かぐやの姿は就寝用の着物で、この状態でも寝れるようになってはいるが、まだ夜は肌寒い時期なので、ここで寝ることはないだろう。
「気になったこととは?」
「そんなことよりもソウマくん。君もこんな遅くまでどうしたんだい?」
ソウマはから笑いをして、それに答える。
「実は仕事を貯めてて、ようやくそれが終わったところなのです」
「そうか······アキヒトくんのことで、しばらく後回しにしていたからな。別に結果が決まっているのなら行かなくても良かっただろうに」
「別に結果を気にするために行ったわけじゃないですよ。ヒメの暴走も免罪符みたいなものですし······僕ね、ちょっと気になったんですよ。生きている彼を」
「?」
「雑誌や新聞ではなく、ちゃんと生きていて話して成長したあの子を見たかったんですよ」
するとかぐやはふっ、と笑って。
「そうだね。確かにボクもあの子の姿は見たかった。ほとんど良い意味でも悪い意味でも変わらなかったね」
「そうですね······ほんとうに変わらなかった」
ソウマとかぐやは思いにふける、たった三歳で消息を失った筈の少年の姿と今の彼の姿を。
「まあ、元気が一番ですね」
「生きてることが一番さ」
かぐやが用意してくれた椅子にソウマは座って、かぐやと共に夜空に目を向ける。
「何が見えるんですか?」
「少しばかり気になったことがあってね。天体がある場所のみ避けているんだ」
「避けている······?」
「ああ、ある一点だけ避けているんだ」
避けている······なにか昔聞いた事がある。確か、何かが起こる現象だったはず······
自分がハッと気づいたことに、かぐやさんはニヤリと笑って。
「そうだ······これは、『覚醒』が起こる現象なんだ」
そう言ったかぐやさんの顔を自分はぐっと唾を飲み込んで見つめる。
能力の『覚醒』と人体の『覚醒』とは難易度が明らかに違う。
能力の『覚醒』は、能力自体の経験と実力が積み重なって、能力自体の形を崩す事もなく、限界を超える力を持つ。例外は宮田直樹のように元からその力を手にしている者と覚醒形態が存在しないものである。覚醒の前には『進化』が存在するという事が能力限定の特性である。
それと違って人体の『覚醒』は才能と実力によって発生する力のことである。『覚醒』を行った場合人体の一部が変化し、その形態によって秀でる物が変わる。例外はたとえ才能がなくとも引き出すことが出来るという事。本来引き出すことが出来ないような爆発的な力を出すことが出来るのが、この力の特性である。
もちろん今回かぐやが示したのは後者の方。
人体の『覚醒』の方なのだ。
「人間は神に最も近くて最も遠い生物だ。だけどね、あの子は違う。あの子は神の翼を持っていながらもボク達人間のように過ごしているんだ」
そんな彼女の言葉に自分は反論しない、何かしら自分も思うことがあったからだ。
「ボクがあの子に戦慄を感じたのはあの子が生まれてすぐだ······代々ね、レオン·ハザァード家は子供が産まれる度にレオンの両親である、『蘇生神』レオン·アリアスと『創造神』ステイシア·ハザァードの二人が見てくれるけれど、どの子も二人の実力を肌に感じて泣いちゃうけどね······君も泣いてたよ。だけど、ある日レオン·ハザァードさんが亡くなったと聞いておかしいと思っていたが、実際現れなかったとき本当だったんだって思ったよ」
「あの時ね、あの子はどうしたと思う?」
「笑っていたんだよ。満面の笑みさ」
「あの時程、あの子が怖かった時もなかった。でもね、私は誇れるのさ」
「何をですか?」
「あの子のお婆ちゃんになれたことさ」
あの子が孫になったことじゃなくてね、と彼女は言った。
似てるだけで違う、全く違うもの。
他人ではなく、自分がなるという違い。
彼女はそこにこだわったのだろう。
「運命の日は8月1日。彼は今まで以上の力を手に入れるだろう」
「ボクはちょっと気になるのさ。その力であの子はどうなるのか」
「そうですね······」
二人の声は夜空に掠れ、呼応するように天井の北極星がきらびやかに輝いた。
今は、7月18日。
彼女の予言まで、残り14日。




