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アキヒトバトルアドベンジャーズ  作者: モフきのこ
第1章 『出会いと別れの一年間』
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EX.57 「ミヤタアキヒト」

 鈴音は一人、部屋で蹲っていた。


 たった数分前、ハルトと共に母親である圭子に告げられた言葉は彼女の胸に深く突き刺さっていた。


 あたしは何も気づかずに、当たり前のように話していた······。


 お兄ちゃんのあの笑顔も無理やり出していたのかもしれない、あたしは······あたしは······


 最低だ······!


「うっ······ぐ···ひぐぅ······ひぐっ······」


 涙が溢れていた。


 あたしは何も知らなかった。


 知っていたのは『本当の兄妹ではない』と言うことだけ。


 お兄ちゃんはずっとあたしのお兄ちゃんだと思っていた。


 浅はかなんだ······何もかも。


 ずっといるって思っていたお兄ちゃんもお兄ちゃんの選択自体であたしの他人に変わる。


 それが怖いんだ、お兄ちゃんがいなくなってしまいそうで······


 お兄ちゃんはどう思っているのだろう、せいせいしたと思っているのだろうか······?


『おいスズ。どうしたんだよ、そんなに泣いて』


 そう言って、笑いながらあたしの涙を拭いでいたくせに自分はその何倍も泣いていたお兄ちゃん。


『さあ行こうぜスズ‼お前の好きそうな映画があるんだ』


 そう言って、『聖戦戦争』の間埋めきれずにいたあたし達の溝を埋めようとしてくれていたお兄ちゃん。


 不器用ながらもあたし達の為に精一杯頑張って、お兄ちゃんだからってずっと一人で泣いていて、あたしはそれに気付かずにのほほんと笑っていた。


 最低だ······。


 明日になったらもう······兄が兄でなくなってしまうかもしれない。


 やっと追いついたと思っていた背中があっという間に消えてしまうように感じた。


 もう······この涙を拭ってくれる兄はいない······と自分の喪失感に襲われた。


 あたしは部屋を出て、お兄ちゃんの部屋に行こうと思った——————でも、


「お父さん······」


「む······鈴音」


 そこにはお父さんがいた。


 いつもと変わらずサバサバとした雰囲気で、まるでお兄ちゃんに関して特に気にしていないように感じた。あたしもそれにいつかはならわないといけないような悲しさも感じた。


「どうした······?涙を流して」


「お父さん······ほんとうにお兄ちゃんいなくなっちゃうの······?」


 あたしの声は涙に濡れていた。


 赤ちゃんのように弱々しい声になっていた。


「さあな、アキヒトはアキヒトの人生がある。私達はアキヒトの人生を防ぐ理由も権利もない」


「おとうさんは‼」


 そんなサバサバしたお父さんの言葉にあたしは急激な怒りを感じた。


「おとうさんは‼お父さんはお兄ちゃんに何も感じていないからそんな言葉しか出ないんだよ‼お兄ちゃんは······お兄ちゃんはあたしのお兄ちゃんだから‼お父さんにはただの『赤の他人』なんでしょう‼」


「それは違うぞ鈴音」


「え······?」


 お父さんがまっすぐとあたしの目を見てこういった。


「確かに私と血が繋がっているのは鈴音、お前一人だ······でもな、アキヒトもハルトだって私と圭子の子供だ。血が繋がっていなくとも、周りから『赤の他人』と言われようと」


「私の子供だ」


 そう言った、そう言ってあたしに優しく。


「だからお前が気に病む必要は無い。ここから先は我々大人の仕事も混ざってくる。お前はハルトと一緒にあいつが気負いなく出ていけるようにしとけ」


「じゃあお兄ちゃんは······」


 するとお父さんは、ふ······、と笑って。


「いつかあいつも成人したらこの家を出ていくんだ。事前練習だと思っておけばいい」


 そう言ってあたしの不安を和ませた。


 @@@@@


 あたしはお父さんに言われた通り何かをしようかと思ったが、その何かがわからないまま取り敢えず下へ降りた。


 キッチンにはハルトがいた。


「ん······鈴音······?」


「何を······してるの······?」


 そこには小さく作られている玉子焼きがあった。


「取り敢えず弁当作ってんだよ。絶対に俺の味に恋しくなるからな······それに父さんにもそう言われたからな」


 するとあたしは笑っていた。ハルトが「なんだよ!?」と叫ぶが、あたしは何故かスッキリしていた。


 ハルトも同じような考えをしてお父さんに話したのか······


 まるで、我が身のように嬉しかったのだ。


 そしてあたしはパジャマの裾を捲くって。


「よぉ〜し!じゃあ、あたしも作ろっかな」


「2人前を作るのか······辛そうな顔をするあいつが目に浮かんだぜ······」


 そう言いつつももう一つの弁当の箱を出すハルトを見て、あたしは一つやる気が出てきた。


 @@@@@


「親父······」


 部屋のドアを開けた人物は俺の父親であった。


「どうしたんだよ。こんな時間に······」


「こんな時間にとは私の言葉だ。明日は平日だが······まあ、学校に行くこともないだろうが早く寝ておけ」


「···············」


 俺はじっ、と親父を見つめる。


 そこにはいつもと変わらない親父の表情があった。


「親父はさ······なんで俺を家族に迎え入れたんだ?」


 すると親父は少しほくそ笑んで。


「昔な······小さい頃のお前に出会った事があってな······」


「··················」


「その時はちょうど鈴音が生まれる数日前であってな、そりゃあ私も困ったものだ。なんせ、自分が名付けると息巻いていたからね」


 確かスズは出産予定日のちょうどその日に生まれたんだっけ。


「その頃の私は大変困っていたらしくね、藁にも縋る思いでちょうど目の前にいたお前に頼んでみたんだ······するとな、しきりに、すずねすずねと言うもんでな。それを気に入った私もそうなんだが、今になっては呆れるよ」


「ちょうど、その名前に合いそうな言葉と漢字を探し出して、名付けた名前が『鈴音』——————お前が鈴音の名付け親なんだよ······」


「まあそんな事を言っても今は関係ないし、意味もない。私はね『第四次英雄大戦』が終わって二年も経った頃、あの竹藪でお前を見つけた」


「それは私も驚いた出来事だったよ。実際お前は『第四次英雄大戦』の最中に死亡通達が来たからな。生きてるとは思っていなかったし、あの両親の落ち込みようを見て嘘だとは思わなかった。途中ぶらぶらと立ち寄った里でお前を見つけるなんて奇跡中の奇跡だった——————もっとも、普通あんな里は見つからないと言われたがね」


「迷わずお前をここに寄越したよ。なんせお前の生存が明るみになればお前の命が危なかったからな。そして、違和感なく過ごして貰うように圭子のパックンに頼んで記憶の消去と改ざんを行わせて貰った······だが、お前はたった数年で嘘を見破ったわけだが······」


「今のうちに言っておくが、正直お前の記憶を返そうとしたのは今日なんだ······圭子と話してその日がいいだろうと思ってね」


「一応お前の味方を作っておくべきだと思って、津川侑介の父親の津川壮亮をここに連れていき、そのタイミングでお前と同じ学校に入学させた」


 なんと、そんな所に真実があったとは······。


「『コック長』セネル·ディファインス、『メイド長』愛風舞香、『執事』サン·グランダビスト、『49代目キング』ソウマ·レオン·ハザァード、そしてかぐやさんの······つまりヒメ·レオン·ハザァード以外の面々には伝えていた。全員が私の考えに賛成はしていたのだがな······」


 恐らくそれは俺にとっての本当の父親、ソウマ·レオン·ハザァードの事を言っているのだろう。


「まあ、そうしてお前は多数の方向から見守られる事になったのだが、お前は知ってしまった。自分がこの家の家族ではない事に——————確か、かなり心の中では荒れていたのではないか?電話口ではそう聞こえたのだが」


 なんでもお見通しなのではないかと俺は思ったのだが、俺はその言葉を口には出さない。


「それでだ······お前はどうだったんだ?この10年は······?」


 俺は、俺はカサカサに乾いた唇をようやく開いて言った。


「そこそこ楽しかったよ。痛かったことも、辛かった事もたくさんあったけどな······」


 すると、親父は「そうか······」と呟いた。満足そうだ。


「昔、お前に聞かれた事があったな······『最高の英雄とはどんなものか』と」


 そう言えば言ったような気がする······確かあれは『聖戦戦争』に行く前に最期に聞きたかったからだった気がする。俺も今だってそうだが、最高の英雄を目指していたからだ。


「今、答えよう。まずは、私欲の為に何かをするのは三流以下だ」


 親父はそう言った。


「そして、その地域の為に戦う者は二流だ」


 親父はこう言った。


「そして、国や世界の為に戦う者は一流だ。まあほとんどいないがな」


 そして——————


「そして、自分と自分の周りの人の為に戦う者が超一流だ」


「え······?」


 でも、なんでそれが一流の更に上を通るんだ?


「確かにお前の疑問は分かるがこれが真実だ——————俺の中でのな······言っておくが、『国も世界も全部守る』なんてのはただの美学だ。そんなものはほとんどありやしない。でもな自分を助けるのは簡単で、それでいて一番難しい——————そんなものだ。たった一度の人生で、たった一人しかいない自分を助けられるのは周りにいる人ではない。確かにそれを手助ける存在ではあるのだが、それで実際に立ち上がるのは自分自身だ」


「『その他多数』は沢山いるが、『自分』は一人しかいない」



「自分で選んで、それでいて自分が後悔しない選択をしろ······それだけだ」


 そう言って部屋を出ようとする親父の背中を見て、俺は——————


「なあ親父······俺が息子で良かった······?」


 すると、普段は見せない笑みを見せて。


「もちろんだ」


 と言った。俺は、俺の選択は決まっていた。


 @@@@@


 当日、俺は二人から分厚い弁当二つを貰ってこの家を出ていった。


 今回は特別に市役所などに行くのではなく、直接王の台地に向かう。


 親父と母さんとスズとハルト、全員がそれなりの服装をしている。


「やあ」


 そこには本当に忙しいのかよく分からないが、ニコニコ顔を見せる現在のキングがいた。


「こんにちは、王さん」


 俺もそう挨拶する。


「それにしても、王さん。俺決めましたよ。もうちょっと泥臭くてもいいかなって」


 すると——————


「ふっはははははははは‼そうか、そうか······まあ、きみの選択が間違いではなかったと、きみが証明してくれ」


「言われなくともですよ」


 ここは、二人だけの会話。他の皆は知る由もない。そんな、他愛もなくなんでもない会話を。


 @@@@@


 私は久し振りに煙草を吸った。


 鈴音が産まれてから一度も吸ってこなかった物を。


 すると、私の隣に現在のキングが現れた。


「いやぁ、振られちゃいましたよ」


「そうか······お前の目論見どうりだったのだろう?むしろ、胸を張るがいいぞ」


「フフ······バレてましたか、僕も自分の子供にはあんまり継がしたくはないんですよね。辛いですから」


「そうか」


「なので直樹さん、頼みます。アキヒトを······あの子をしっかりと育ててください」


「無論、乗りかかった船だ。最後まで世話してやるよ」


 私が煙草をふかしながら吐いたその言葉を聞いて、ソウマは嬉しい様子で。


「きっとあの子は強くなる。いつか、僕なんか鼻であしらうように軽く······ね。僕は昨日『釈迦の掌』を使った際気づいたのですよ」


「そうか······」


 私はふぅと息を吐いて空を見上げる。


 いつか、俺も追い抜かされるのだろうか······。


 出会った頃はあれ程弱々しく感じたあの子に、負ける頃が来るのだろうか······。


 @@@@@


 俺は書類に名前を書いていた。


『アキヒト·レオン·ハザァード』ではなく——————『ミヤタアキヒト』と。


 書き終わった後、後ろからドスンと強い衝撃を感じた。


 そっと後ろを見ると、そこには泣いている鈴音がいた。


 ここから俺はしばらくこの子の涙を拭わないといけないと思った。


 これが俺のミヤタアキヒトの兄としての最も大事な仕事だ。


 こうして俺は本当に『宮田家』の一員となった。






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