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アキヒトバトルアドベンジャーズ  作者: モフきのこ
第1章 『出会いと別れの一年間』
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EX.56 「アキヒト·レオン·ハザァード」

 あの後、結局俺は部屋に戻れず緊迫な面々の中、俺は椅子に座った。


 そして、そんな面々はそれぞれ全員が名を連ねる人物。たかが今日15歳になる俺が並んではいけないような気がしてきた。


 一人は伝説の英雄、一人は現役のキング、一人はキングの相棒、一人は初代キングの奥さん、そして二人は48代目の娘。


 言うならばVIPである大統領や著名人などなんかは鼻であしらえるような面々なのである。


 恐ろしいよ。恐ろし過ぎるよ······‼


 わあ、今からでも泣きそう······


 俺はそんな感じにガタガタと震えている間、先程までこの家をキョロキョロしていたかぐやさんが、すまんな、と言わんばかりに両手を合わせている。


 途中目配せしてくるのが多少イラッとくるが、彼女なりに緊張を解かそうとしているのだろう。


 まあそんな彼女に俺は少し安心しているが、親父の一言で再び緊張に移る。


「ソウマ——————お前はなんの為にここに来たんだ」


「簡単な話ですよ。不慮な事故でヒメにアキヒトの生存がばれてしまってね、即日即座の行動を出されたら僕だって止められませんよ」


 するとうちの母親は簀巻きで芋虫のようにうねうねと動こうとしてひつ爺に食い止められているヒメさんを見下ろしてため息をつく。


「この子、ここぞの行動力だけは恐ろしい程だからね。お姉ちゃんも毎回毎回困っていたほどだから」


 うちの母親である宮田圭子は三姉妹であり、その次女である。上の二人が元々王位に興味が無く、長女は自ら男を見つけ、次女はとある場所で親父と出会って結婚している。その末っ子である三女は同じく自分で男性——————つまり相馬(レオン·ハザァード家に婿に入ると半強制的に片仮名に変わる)を見つけたのだが、流石に全員いなくなるのは立場的にまずいと思った真面目が根本である(笑)彼女は結局的に相馬を49代目に用意したのだ。実際合切、彼も実力者であるためそこまで否定される事もなかった。


 だからこそのわがままなのか、タガが外れたのか、子供が出来た際——————特にある一人をメロメロにデレデレに愛でた。


 だが、かの『第四次英雄戦争』で愛でたその子も、もちろん。長男であるガオウももう片方の双子もいなくなった。


 その時の状態は表現し難い程の絶望だったのは、また未来に聞いた話。


 何故、俺がこんな説明口調で話しているのは、その他全員が険悪な雰囲気になっている為である。


「それで······止めなかった理由は他にあるのだろう」


「流石、直樹さんですね。全てお見通しですか······そうですね。そろそろアキヒトを返してもらおうかと」


「はぁ!?何言ってんだよ‼俺はここの人間なんだよ!」


 そう言い切った最中、俺は首に違和感を感じた。


 身体が強張って動かない、目だけ動かしてその違和感の根源を見ようとした俺に映ったのは——————巨大な手であった。  


 柔らかく、優しく、まるで人間を愛でるかのような仏の手。


 死を感じたその瞬間、動きは速かった。 


 ガタッ‼と音を鳴らして親父が『最上位神器』モデル·刀である『ブラック·アウト』を引き抜いてソウマの眼前まで最大の殺意を持って突き刺す。


 隣の母さんが能力『妖精使い』で槍の先を持った妖精達が当たる直前まで引き込み。


 後ろのかぐやさんが持っていた万年筆にエネルギーを込めて首筋に当てる。


「何ですか?怖いですね」


「人の息子に手を出そうとするからだ」


 怒ってる······親父が感情をむき出しにして。


 すると、ソウマは重ねていた両の手を話す。すると、手刀の形になっていた手が消え去って、何もなかったかのようになる。


「だってそうでしょう?貴方がたは自分達の子供にキングの地位を受け継いで欲しくないでしょう?傲慢じゃないですか。ヒメも同じような環境に育ったんですよ」


 すると、母さんが苦い顔をする。


「だったら、キングなんて血で繋がなくとも良いんじゃないか。元々もう初代の血なんて薄くなりすぎているだろう」


「だが、それを認めない人達がいるのも事実です」


 ソウマは真面目な顔で言う。


「僕がこのキングの地位に立ったとき少なからず苦い顔をした人もいます。なぜなら、僕はキングの血筋から本来出会う事のない存在なのですから。直樹さん······貴方と同じように」


 ソウマは軽く息を吸う。


「僕はね、アキヒトには幸せになって欲しい。それはヒメだってそうだ。家族6人全員が幸せになって欲しかった。でも『第四次英雄戦争』なんて馬鹿げた戦争のせいで子供が全員バラバラになった。ガオウ以外の生存を諦めていた時も少なからずあった程に絶望したよ。だけどアキヒトが——————君が生きていた事にどれだけ僕が喜んだと思う?『親の心子知らず』とは、こういう時に使うんじゃないかな?ねぇ直樹さん?子供がいなくなるという恐怖も絶望も喪失感も貴方は知らないでしょう。なのにまるで『こちらの都合』のように言うのは止めてくれませんか?」


 彼は冷静に沈着にそう言った。


 俺は彼の瞳から薄く涙が見えた気がした。


 先程まで暴れていたヒメさんも黙った。


「僕はね、この世界が憎い」


「子供達を奪ったこの世界が憎いんだ。でも、僕にはこの世界を変える力を持っていない」


「だから、お前はアキヒトを利用すると言うのか」


「それには少しばかりの語弊がありますね。僕達が『利用』するんじゃない。アキヒト達が『創造』して欲しいんですよ」


「そう············ぞう······?」


 俺からは掠れた声しか出なかった。


「ああ、創造だよ、アキヒト。君にはその力も技術も才能も持っている。ガオウがあちらの方でなんとかするようにアキヒトもこの世界をあちらの世界と繋げられるようにしてほしい」


 スケールがでかすぎる。圧倒的だ。この人は何を言っているんだ?力も技術も才能も持っている?だったら俺はこんな人間になってないよ······


 守りたいと思う側からその人が消えてゆく······


 だから強い人が欲しかった。もう二度と失いたくなかったから。パーティだってそんな俺のエゴによって作り出されているんだ。


 俺になんの力も残っていない。


 俺になんの技術も持っていない。


 俺に才能なんてありやしない。


 力があったら、技術があったら、才能があったら、俺は全てを守りきれていた筈だ。失わなかった筈なんだ。


「そんなの無理だ」と言えば良かったのに、俺はその言葉を口に出せなかった。


 あの人もあの人なりに本心を伝えたのだから、俺のそんな馬鹿げた物を出すわけにはいかない。


「少し待ってくれないか?」


 俺は目を見開いた。


 ガバッと俺は親父の方を見た。


「今日はアキヒトの誕生日なんだ。少なくとも今日までは俺達の子供なんでね、祝う為に準備が必要だ」


 ソウマはその言葉に少し驚いた素振りを見せたが、すぐに冷静さを見せ。


「そうですね。では、明日正午まではアキヒトに考える時間を作りましょう。僕だって暇な訳じゃありませんから。そのぐらいしか、時間を作れません」


「分かった。それでは、引き取り願おうか。そろそろハルトも料理を作る時間もなくなるだろう」


「分かりました。ひつ爺さん、ヒメをよろしくお願いします」


 そう言って、


「僕はきみの選択を尊重するよ」


 と言った。


 もう、よく分からない人だ。


 @@@@@


 そのまま、順当に時間が流れ誕生日会が終わり、俺はベッドに座っていた。


 考える為だ。


 考えなきゃ、今考えないと自分がおかしくなりそうな気がしたからだ。


 上手く笑えていたのだろうか。


 今となっては、自分の顔にまるでマーカーが塗られたように分からなくなっている。


 頭がもやもやしてかなり重い。辛い。どうしたらいいのだろう。


 もしも、俺があっちを選んだら皆はどうなるのだろう。カレン辺りは怒るだろう、黙って消える事なのだから。


 でも、だからってあっちを無碍にするわけにもいかない。あちらの世界でガオウが頑張っているのだから。


 でも······俺はどうしたら······


 コン、コン


 ノックが聞こえた。


 俺は「どうぞ」と応えて、来客者を部屋に受け入れる。


「親父······」


 そこには、親父がいた。


 お風呂上がりなのだろうと思うばかりに頭は湯気をたてている。


 親父は口を開いた。


 厳かにそれでいて優しく感じた声で。


「少し······話すべき事があってな」


 と言った。

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