EX.53 「いかれた殺意」
「ぬぐああああああああああ‼」
魔王コルキスが情けない声をあげて、吹き飛ばされる。
実際、怠けていた怠慢の魔王と怒りと希望を持っている英雄とでは結果は見るまでもない。
だが、少なくともコルキスは『魔王』だ。
腐っても『魔王』なのだ。
『魔王』はたった六人しか存在しない『王』を指す言葉、彼は彼で生物殲滅レベルの力を持っている。
たとえアキヒトでも、この戦いに苦戦する——————訳でもなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああ‼」
パンチの連続が全てクリーンヒットする。
鳩尾、肋、顔面、腹、胸、首、額全てを殴り続ける。
先程までギリギリの戦いをしていたのが嘘のように細胞が躍動している。
「ぬがががががががががが!」
コルキスの姿が変わる。先程まで無駄な贅肉でだぶだぶとなっている筈の身体が凹凸をなくし、あくまでも五感を残したような姿に変わる。色素も全て失ったように身体全体から色がなくなる。
『変形』、それが魔王コルキスの能力である。
全てをなくす事で、空気抵抗も摩擦も全てがなくなり、全ての攻撃を受け流す。
だが————————————
ドゴォォオオン‼と強く足を踏みしめ、グシャッとコルキスの顔面を殴る。
「なん······で······?」
「『矛盾』も『真実』の一部だろ······?」
気付いたら俺の右腕は異形の姿に変わっていた。
だけど、そんなのは関係ない。
殺せ······殺してやる······
グシャッ‼、ギリャ‼、ギシャ‼
殺せ!殺してやる‼
ドシャ‼ドゥリュ‼メキャ‼
「殺してやる······‼」
気付いたら俺は彼女の為にもガオウの為でもなんでもなく、自分の為になっていた。
殺さないと、自分が駄目になる。
周りから見ると、自分が最も駄目になっているなんて気付かずに——————
「ハァ······ハァ······ハァ······はあああああああああ‼」
俺の異形な腕にオーラが溜まる。
「ビック······バン······‼」
爆発し脈動するオーラが輝く光になって、その全てが拳に集まる。
今まで感じたことのない力を感じた。
「うわあああああああああああ‼」
俺は思いっ切り拳を振り下ろした。
——————だめだよ。アキヒトくん。
俺の拳は声が聴こえた途端、動かなくなった。
「自分の為に自分を殺しちゃだめだよ」
そこには、俺の腕をしっかりと掴んだカレンがいた。
いや、もうこれは俺の腕と言えるかどうか分からないのだが。
「あいつを殺さないと······また······大事な人がいなくなるから······殺さないと······」
彼女は頭を横に振って。
「それでもだめだよ······それにもう、その人は死んでると思うよ······ほら、涙を拭いて」
どうやら、俺は泣いていらしい。
俺はぐいっと涙を拭いて、彼女に向かって笑顔を向ける。
「ありがとう」
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
「やっと、落ち着けてきたような気がするよ」
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
·········あなたが殺さなきゃ、私が殺すわよ
「ぐあっ‼」
「アキヒトくん!?」
俺は急激に訪れた痛みに悶える。
「大丈夫!?大丈夫なの!?」
カレンは"テラヒール„で俺の痛みを癒やそうとするが、恐らくこれは違う。
「あハァ♡」
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「一体今のは······?」
アキヒトの攻撃による衝撃波だと気付かずにユウスケはそう呟いた。
その事実をある人物だけが気付いていた。
「どうやら君たちには少し眠って貰わないといけないね」
そこには——————————————————
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「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す······あっはぁ〜〜〜♡」
その後、彼は——————あの人間は死んでると思っている人間に更にトドメをさした。
グシャリと心臓を握りつぶす姿に思わず目をそらすが、彼は幸せそうな顔をしている。
「うふ♡うふふふふふふふふふふふふ♡最っっっこおおおう‼あっっはぁァァ〜♡」
彼は恐ろしい程の笑顔で恐らく幸せそうな顔をして、高笑いをする。それは、まるで——————
「まるで、異形のようだね······まあ精神的だけど」
彼女の目の前に音もなく着物姿の女性が現れた。
「まあ、眠ってもらうのが最もな策だね。君もすまないが眠ってもらうよ。病院のベッドで起きてね。"ルナティック·アーハード„」
何も言えずに、女性が人差し指から放つ閃光によって意識が失った。
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俺が目覚めたのは病院であった。
どうやら俺はあの痛みの後、気絶してしまったらしい。
「アキヒトくん······よかった······」
目覚めると頭に包帯を巻いた彼女が俺のベッドに抱きついていた。
その周りにはもちろん皆がいて。
「まあ、俺達がどうしてここにいるのかは分からないんだけどな」
「それはボクが説明しよう」
すると、ドアを開けて着物姿の女性が現れた。
俺は、この人を知っている。
「皆さん始めまして、私の名前はカグヤ·ハザァード。これからよろしくね」
と言った。




