EX.51 「覚悟の必策」
「お前らに頼みたい事があるんだ」
俺は次の日、覚醒した皆に向かってある作戦を伝えるために一時的な会議を開いた。
一度転けたのなら立ち上がるだけだ。
転けても這いつくばってでも動く、諦めるのは論外だ。
どれだけ間違っても、どれだけ躓いても、どれだけ失敗しても、立ち上がるだけチャンスが生まれる。
諦めてたまるかよ······!絶対に取り戻してみせる······‼
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ユウスケは焦っていた。
突然現れた人間に負けたという敗北感もあるが、それよりもその作戦をアキヒトが話す度にアキヒトの光沢がかった目が黒く、深く、深淵になっていくのを自覚していたからだ。
しかし、だからといって何も出来ることがある訳でもないし、そもそも俺じゃ力量不足だ。
······あいつが、あんなに感情をさらけ出すのは久しぶりだな······
ユウスケはアキヒトの昔からの友人である。
『昔からの』———という言葉には、アキヒトの空白の『一年間』は入っていない。そもそも、その後に会ったのだから知る由もない。
だけど、その時には彼は英雄を目指していた。
つまり、その時には彼は何かきっかけがあったのだ。
どんな職業でも必ず目指すのにはきっかけがある。
医者に命を助けられたとか、恩師の背中を追おうと思ったとか。必ず何かが存在する。
俺はその内にあの『空白の一年間』が何か彼の存在を後押しするような出来事があったのだと確信している。
だけど、言えなかった。
だけど、聞けなかった。
もしも聞いてしまったら目の前にいる人物がアキヒトではなくなりそうな気がしたからだ。
もしかして、あの白髪の男はお前の知り合いなのか······?
その言葉を俺はぐっ、と飲み込んだ。
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ガン‼ドガァァアアン‼ドガァァアアン‼
彼女の蹴りは続く。今なら逃げ出せる。
前にいた門番は催眠魔法で眠らせている今ならどんな音を鳴らしても起きる心配はない。
「おおおおおおりゃああああ‼」
ドガァァアアン‼
既に何十発も撃って足はボロボロになっていた。
その場にへたり込みはぁはぁと息を漏らす。
彼女が目覚めたのはとある牢の中、そして牢としての役割は柵だけで、残りは全て岩石で出来ていた。
初めは魔法を使って壊そうかと考えたが、魔法を放った時にまるで吸い込まれるように消失したのを見てすぐに諦めた。
どうやら柵の方も同じような造りで、魔法を撃って体力を消費するならば物理攻撃を何度も繰り出している始末である。
どうやらまだ近くにアキヒトがいるらしく魔力の純度は100%であった。
その魔力を『運動能力』に変えて、何十発も撃っているが、折れるどころか凹む事もなかった。寧ろこちらの方が凹みそうになったほどだ。
「その鉄は『宇宙鉱石』製だから壊れる事はないと思うから止めておいた方が良い」
そこに立っていたのは白髪の男性であった。
「何ですか?こっちの勝手でしょう」
すると、まるで1本取られたかのように肩を引く彼がいた。そこにはまるでアキヒトのようだったのでさらに腹が立ってきた。
「君に逃げられてもこっちは困ることだからね······それはそうと······なあ、あいつは首飾りは何でしてるんだ?」
確かにそれは気になるが、今こういう雰囲気で言う事ではないだろう。
「知りませんよ。そんな事よりも何故そんな事を気にするんですか?」
「こんな状態でも敬語を使える君の肝の太さは感嘆の声をあげるよ」
そう言って、やれやれのポーズをするガオウ······なんかイライラしてきたんですケド。
「状態じゃなく言うよ······っと、その前に少し昔話をしたほうがいいな」
「さっさと言ってくださいよ」
「いやいや、これが一番重要だからな」
すると、ドスッと座り長期戦に持ち込むような体勢をとる。
「まあ、そんな長い話になる訳じゃない······昔、『第四次英雄戦争』ってものがあっただろ?」
「ええ、まあ」
確かあれは私のお父さんも参加していた戦争だった筈······
「昔な······昔と言っても13年くらい前か······かなり有名な両親にある3人の子供が生まれた」
そんな風に話す彼の目は懐かしいものと感じていたものだった。
「長男と双子の兄妹だったんだが、『第四次英雄戦争』の際に長男は魔王軍の中に入り裏から侵略しようと考えた。そして、二人は戦争中に······死んだらしい」
すると「まあ、長男は俺なんだが」と言葉を付け足した。
私はある仮説をたてていた。
だけど、そんなのある訳がないと思っていた。
でも······だったら何で······?
「だが、実は双子の片方は生きていたらしい······そいつの名前は——————」
「あいつは俺の弟だ」
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コツ、コツ、コツ
俺は『麒麟首の大樹』の中にいる。
他の木も言える事だが、根と土を繋ぐその間は空洞である。
今回は『麒麟首の大樹』の特性の土ではない所に育つという所で、俺はコンクリートの道を進んでいる。
一人でだ。
そして、どうやらあいつは同じような登場をしたいらしい。
俺の目の前にはガオウがいる。
雄弁に大層に立っている。
「アキヒトよ······お前の仲間はどうした?」
「別にお前の気にすることじゃないだろう」
「そうか······」
「ちなみに、仲間を連れて来なかったらどうするつもりだったんだ?」
「そりゃあ、もちろん······」
そう言って飛び出したガオウ。
「失望するよ‼」
俺は受け答える体勢を取る。
そしてそのまま——————
首を右に傾けて言った。
「だったらあんたは失望しなくて良さそうだな」
ドンッ‼
俺の横から銃弾が飛び出した。
「くっ‼」
ガギィ‼と銃弾を口で受け止める。
ガオウは狂気らしく笑う。
「なるほど······俺を油断させる気だったのか······だがまあ、狙うんだったら心臓の方が良かったぜ」
知ってる。
こんな事に動揺しないのは。
だからこそだ······‼
俺は能力『煙』で『スモークボム』を使う。
ボフン!と音を出して世界は煙幕に覆われる。
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「ここからは、私が話しますね」
するとアキヒトの頭からぴょこんとレインボーが現れる。
「あら以外ね、普通あなただったら怒りにまかせて暴走しそうなのに」
「今回は別です。アキヒトに「黙って観察をしてくれないか?」と言われたからちゃんと我慢したんです。本来だったら殺してましたよ」
吉田は「あらそう」と言い、話の続きを求める。
「アキヒトは恐らくガオウという人物と邂逅します。そこでもう一度戦いに移るでしょう。そこでこの作戦を実行します」
すると、レインボーは人差し指を上に向けてあるモニターを映しだす。
レインボー『藍』の『創映化』だ。
そこには、人形の二人が戦っている様子だった。
するとアキヒトのように見える人形がある行動をとる。下に何かをぶつけた様子だ。
すると、モクモクと煙をあげた。
「もしかして、アキヒトが煙をあげている間にカレンを助けにいくのか?」
そう言ったユウスケの言葉をレインボーは即座に否定した。
「違います。あんな女は二の次で良いです。ただ必要なのは『ガオウという人間を倒す』事です——————皆さんには」
「アキヒトがガオウを倒すために、集中力を削ぐ為襲ってほしいのです」
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タタタタタタタタタタタタタタッ
タタタタタタタタタタタタタタッ
トッ······
どこだ······どこにいる······!?もしかして、逃げたのか!?······いや、落ち着け。あいつはこんな真似をする奴じゃない。一体何をする気何だ!?
ガオウは突然の環境変化によって集中力が格段に削いだ。
この場をどうするべきか、それともあいつらが何処に行ったのかを確かめるべきか······
モワッ······‼と二箇所から煙の山が生まれ、そこから人間が現れた。
彼らは壁を走っている。
『壁走り』だ。
元々、脚力に特化しているハルトとスピードに特化している時雨流を扱うユウスケが使う技。落下の慣性の重力がこの身に襲う前に次の一歩を出す事で一時的とはいえ、実際に走る事が出来るのだ。
だが、だからといって俺の居場所がわかるわけがないだろう。
言葉を出した訳じゃない、それに最初にいた位置からかなり移動している······
もしかして『視える』のか······!?
『この作戦には条件があります』
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「条件······?」
岡田がそうつぶやき、疑問を唱える。
「ええ、条件です。煙の中はたとえ化物でも見ることが出来ません。アキヒトの『真実の目』以外は——————なので、私は『橙』の『模倣』を使います」
「つまり、アキヒトが『真実の目』を使用している限り、俺達はたとえ煙の中でも鮮明に見えるのか······」
そんな疑問にはアキヒトが答えた。
「『鮮明に』には見えないとは思う。——————でも、サーモグラフィ程度なら見ることが出来ると思う。つまり——————」
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『壁や人間くらいなら普通に視えると思う』
たしかにな、普通に視える。
あいつの位置が——————‼
「"魔王の炎帝„‼"怒りの超激„‼」
「"時雨流„"竜巻く雨„‼」
そのまま加速した二人が攻撃を使い、ガオウを襲う。
ドガァァアアン‼と直撃する。二人はもちろん倒す気でいた——————が。
「攻撃モーションが大き過ぎないか······?」
そこには、ハルトの蹴りを素手で、ユウスケの刀を爪で受け止めた状態のガオウがいた。
「ぐっ······!」
「"龍爪拳„‼」
「ふんぬ‼」
そのままハルトを投げてそのままその手で攻撃した先には山本がその身で受け止めていた。
「師匠‼」
「かなり痛えが、受け止めてやったぜ······!」
そして、そのまま利き手で握り拳をつくって。
「"空圧拳„‼」
「がハッ‼」
そのまま彼はユウスケを離して吹き飛ばされる。
「"万国不動の防壁„‼"正義の鉄槌„‼」
「くっ······!」
吉田から造られたゴライアスの攻撃をガオウは受け止める。
「まだだよ」
「"火薬弾の小弾銃„‼」
ドドドドドドドドドドドドドドド‼
「ぬわっ‼」
ガオウは紙一重で避けきる。
「ガオウに向けて精度1ミリの間をあけて撃て‼」
「飛び道具は苦手なんだよ‼」
「道は作ってるからさっさと撃って‼」
5人の持つ短機関銃の弾をガオウは避けたつもりであったが、実際には1ミリの差で当たらないように岡田が用意した道を撃っていたので、当たらないようにした状態である。
『道標』
彼らはたった一つの道を作る為に撃ち続けた。
最初からずっと我慢していた彼を——————
「‼」
ガオウの目と鼻の先にいたのはアキヒトだった。
二本剣を持って飛び出した。
"二刀流„奥義——————
「"ジ·アース„‼」
俺は剣を振り上げた。
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カレンは動けなかった。
実際に牢屋はガオウによって開けられている。だが、出ることが出来なかった。
たった、数時間前の彼の言葉が未だに整理出来ていないからだ。
『······そいつの名前はアキヒト』
『あいつは俺の弟だ』
『そして、俺はあいつに殺されなければならねぇ』




