EX.46 「女の戦い(中編)」
彼女は思い出していた。
全盛期の記憶を。
『神速』と二つ名を付けられ、尊敬と畏怖を同時に感じさせていた時代。
数多にも渡る戦闘と、フロアボスとの長期間に渡る激闘の中、彼女の頭の中は全員が生き残る事を考えていた。
だから強くなったこと。
しかし、彼女は現実に絶望していたのは事実であり、突破に必要なアイテムをレイピア5、6本手に持って戦い続けた日々。
死に場所を探していた。
彼女は努力家であり。自分が努力をして、地頭を良くし、親の笑顔が見たかったから———
見たかったから努力しただけのこと。
彼女は彼女の"核„が無かったのだ。
親の精神的依存———それが彼女の原点であり、偽物の答えでもある。
『英雄』の資格があればかなり有利になると知った彼女がヒーロー試験に参加し、合格したのは11歳の頃。12歳の時『聖戦戦争』の、たった1万人限定の少ない参加者の中から選ばれたその瞬間彼女はフラッとしてしまった。
当時、彼女はまだ小学生。生き急ぐにはまだまだ早すぎる時期であった。
彼女の両親はもちろん泣き、この結末に絶望した。
しかし、そこに彼女の『道具』としての利用価値が1%も無かったと言えることは出来ないだろう。
彼女は世界から見捨てられた。
その中で『生存』を求めた事はなかった。
ただ心を殺し、ゴブリンやスライム、イノシシを殺して、ただ生きてしまったと絶望してしまった日々。
すでに100層———『アルビナ星』では、永劫腐朽の壁が連なっていたもの、に絶望してこの『聖戦戦争』を諦めた人々も大勢いた。
その中に彼女は加わりたくなかった。
彼女は最初の1週間は宿で毛布にくるまり、ただこれが悪夢だと信じて寝ていただけだった。
だが、一向に地球からの連絡も救いの手も来ない中で彼女は『戦って死ぬ』事を選択した。
そこからは単純だった。
死ぬまで戦い、ただ眠るように死ねばきっとモンスターが自分の存在を記憶とともに消えていく事を望んだ。
彼女についに疲れが生まれ、ようやく気絶仕掛ける中で安堵をしていた。
これで······ようやく、解放される······
しかし、彼は彼女を見捨てなかった。
「勝手に死ぬのは良いんだけど、俺の目の前で死なないでくれる?」
勝手な物言いだった。
勝手過ぎる物言いだった。
アスナは気絶して、泥のように眠り、死んだように動かなくなった身体を少年は持ち上げ、安全なセーフティーゾーンである森の端っこまで、連れて行ったのだ。
「別に······死ぬのは私の勝手でしょ?」
私は言い返した。
たった12歳の少女が言うセリフではなかった。
それは今も覚えている。
「確かに······死ぬのは勝手だな······でも、『勝利の道筋』があるのに命を手放すのはかなり惜しい事じゃないか?」
彼女は半覚醒の脳で、少年の言葉を反芻した。
しょうり···勝利······?
「何を言っているの?」
「『生きる』って事だよ」
そして、彼は一つ間を挟み。
「生きて、この世界の『終わり』を見届ける。お前が死ぬのはどうでもいいが、終わりを見れずに途中退場なんてつまんない最後だけは迎えんなよ」
そうして少年は———彼は後ろを向いて。
「明日、『コルビナの大闘場』で第一回の『アルビナ星』の攻略会議が行われるらしい。お前も参加したらどうだ?」
そして、私は生かされた。
この世界の『終わり』まで———
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彼女の脳は澄んでいた。
全盛期の記憶を呼び起こし、その記憶と身体を繋ぎ留める為に。
「キラメラ‼」
目の前の魔女は聞いたことがある。アキトくんからだ。
どうやら見た感じ、先程と同じ技だろう。魔力で作られたボールではなく、炎の球体だ。
轟轟と慄いた炎が一つ私の方に向けられる。
「死ね」
彼女は言った。
その瞬間襲い掛かる炎の球体を私はレイピアの切っ先に乗せ、弾き飛ばした。
「‼」
目の前の彼女は驚いた様子を見せた。
私はヒュンヒュンとレイピアを振って、切っ先を彼女に向けて言う。
「別に命を狙うのは良いけど。狙う相手を間違えないようにね」
「忘れたれた人間」
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5分にも渡る激闘の中、常に有利だったのはアスナだった。
魔女の少女が放つ、炎の球体を全て弾き飛ばし、王手をついていた。
「くっ······」
今はレイピアが彼女の首を触れている状態。
彼女は歯軋りをしている。
私は冷酷な目で彼女を見下ろす。
「なんで······なんでなの······」
「なんではこっちのセリフよ。勝手に殺しにかかって来たのに」
すると、彼女の目には涙が溢れていた。
私の目からは驚愕が生まれていた。
「忘れたれたから······思い出していたから、もっと思い出して欲しかったのに。別に殺すつもりもなかったし、ただ、強いって思ってほしかった」
「傲慢ね———でも、私は貴方の事は好きよ」
私は剣の腹で彼女の顎を叩き上げ、全力の横ぶりをかました。
ズババババァァァ‼と音と共に崩れ落ちたのは彼女の首ではなく、その後ろの壁であった。
『ソード·オブ·イリュージョン』
アキヒトの少ない固定の技の一つ。アスナはその昔、たった一度だけ教えてもらいマスターした。
この技は『ある一定の存在物のみを斬る』力を持っている。
原理こそは未だに分からないが、その技は『斬りたくない物は斬らずに斬るべき物だけを斬る技』として、認識した。
アキヒトのたった7つの剣技の中でもっとも『安全』な技。
彼女が選択した理由はもちろん『無害』でただ相手の心を『斬る』技だったから。
「アスナぁ‼」
アスナが剣を鞘にしまった時———声が聞こえた。
「アキト······くん······?」
「あきひと······くん?」
そこには怒りの形相のアキヒトがいた。
「その技は‼人を殺す為に教えた訳じゃないんだぞ‼」
「えっ······」
私は彼女の方も見る。
彼女は私と同じように「どういう事だ?」と言わんばかりの顔をしていた。
「もしかして······幻覚······?」
「あ〜〜たり〜〜〜だぁ〜よ‼」
その間延びした声は頭上から聞こえた。
そこにはだぼだぼとした服に包まれた女性が空を飛んでいた。
「うふふふふふ。幻覚を彼に見せて、『彼女の首が斬り落とされた』ものを見せたの」
「どういうこと?」
アスナが頭上の彼女に質問をぶつける。すると、彼女は口を抑えて。
「うぷぷぷぷふ······うっヒヒヒ、アッヒャッヒャハハハハハハハハハハハハハハ‼ザマァ‼ザマァハハハハハハ‼天才の魔女もこの世界じゃ雑魚中の雑魚‼ゴミ同然‼ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャァァァァァアアア!」
そう言う彼女は大きく口を開けて笑う。
ねっとりとした悪意を込めた口調で。
「アキヒトくんを罠にかけたの?」
「違うよ?違うと思う?······違うに決まってんじゃああああん‼こいつに想いを載せてたのは分かってたから『幻覚』かけてみたけど。一瞬で嵌っちゃうからさぁ〜ざっこすぎいぃ〜って思っちゃったぁ〜」
「いいよ、許してあげる」
彼女はニコッと笑った。
「私の悪口だけは」
彼女は怒った。今まで見たことのないような怒気で。
「イキリたつのもいい加減にしろ」
彼女は言った。
彼女はそう言った。
彼女は殺意を湧かせながら言った。
「殺してやる」




