EX.42 「あの日の仲直り」
彼は自分を認めなかった。
世界は彼を認めなかった。
彼は自分を認めきれなかった。
世界は彼を認めきれなかった。
世界は彼を求めた。
彼の『生存』を求めた。
世界は彼を付け狙っている。
世界は彼の『死亡』を認めきれなかった。
彼の能力『パーフェクト』が、これからトップを走る軍事力になりうる力を『第四次英雄大戦』によって密かに息を引き取ったなど信じられなかった。
だからこそ、彼の『生存』に気づいた世界政府は彼に多額の懸賞金をつけた。
彼の能力のほんの一部を分析することさえ出来れば世界の中で最も有利に、最も安全に支配する事が出来るからだ。
しかし、実験は失敗した。
さらに、余計にも『ある力』を新たに彼に付け加え、逃してしまった。
死人に口なし。
当時、その実験に参加した全ての科学者は失敗時の爆発によって死亡。彼の存在も今現在も掴めずにいた。
ただ無限に懸賞金が跳ね上がり続け、その2年後彼が見つかった。
彼は逃げ続けた。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げ続けた。
そして、記憶を失った。
実際には記憶を『奪われた』。
彼の治癒能力は身体的傷だけでなく、彼の『記憶』にも作用していた。
本当に忘れたい事も忘れられず、捨てたいと思い続けた物も捨てられなかった。
記憶を奪われる場合や眼中になかった出来事以外は、彼の記憶に彼の脳に取り憑いていたままだった。
殺し、殺されかけ、傷つき、傷つかれ、戦い続けた彼は。
彼は人を愛することが出来ない。
人は彼を愛することが出来ない。
彼は人を愛してはいけない。
なぜなら彼は、彼が愛した者から何度も喪ってしまったから。
だから彼は強さを求めた。
だから彼は弱さを求めた。
だから彼は人に強さを求めた。
だから彼は自分に強さを求めた。
もう二度と失わないために。
もう二度と目の前で無力さに絶望しないように。
だから彼は戦い続けた。
強くなるために———
だが、彼の心は弱くなっていった。
人を信じられなくなった。
彼は心を閉した。
閉して、開いた。
そして彼は今の『アキヒト』になった。
強い自分も弱い自分も愛することを努力する事が出来る———そんな彼になった。
@@@@@
『タスケテクレテアリガトウゴザイマス』
『いやいやありがとうなんていいよ、それよりも君が『助けて』って叫んでくれたおかげで俺も気づけたんだからこっちもありがとう』
『アリガトウ?』
『まっ、まあ気にしないでいいよ、
褒められなれていないから
そうなっちゃっただけ』
@@@@@
時間にてほんの10分程の短い説明。
しかし私は思い出していた。
あの森の会話を。
彼の言葉を。
『褒められなれていないから』
もしかしたら彼は求めていたのかのしれない、助けて、と心の中で叫んでいたのかもしれない。
私があの時叫んだのように、彼も叫んでいたのかもしれない。
私はそんなことに気づかずに、ただ助けられただけだと思っていた。
傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて傷ついて。
その中で助けを求めていた。
求めていたのに気づいていなかった。
彼は私の叫びに気づいたのに、私は彼の叫びに気づかなかった。
気づけていなかった。
@@@@@
「ゆ〜ちゃん」
「ゆ〜ちゃん?」
自分の彼女の呼び方に疑問を持ったようだが気にしない様子で。
「宮田くんの···アキヒトくんがどこにいるか知ってる?」
彼女は私に微笑を見せて。
「屋上よ。言葉には気をつけてね」
「うん‼行ってくる!」
私はその後ろ姿を見る。
「なんか今の告白をどうするか悩んでいる娘の背中を押すお母さんみたいだな」
このロン毛さえいなければもっといい話になったのに。
@@@@@
屋上にて。
彼はレインボーとパンを食べていた。
「はぁ······言い過ぎた。吉田の言うとおりだな」
「仕方ないと思いますけどねぇ」
そんな会話をなされた時、後ろ側からガチャ、と音が聞こえた。
「アキヒトくん···」
「なんですか?余島さん」
ぐっ···と胸の奥が締め付けられた。
逃げようとしているのだ。
逃れようとしているのだ。
傷つかないように、私から避けようとしているのだ。
でも······そんなの駄目だよ、人は寄り添い合って強くなるものだから···
「アキヒトくん······あのね···あのとき、ごめんね」
彼は黙って聞いている。
「だからね······長くは言わない」
私は大きく息を吸って。
「ありがとう!!」
と言った。
「あなたがあのとき来てくれたから今の私あります‼」
言い切った、たった二言の言葉を。
彼は黙っていた。
少し俯いた。
そして、ポリポリと頭を掻いて。少し照れくさそうにはにかんで———
「どういたしまして」
と言った。




