EX.40 「魔女の起源」
魔女―――それはかの伝説の能力『パーフェクト』と同様に万能の能力と言われる。
しかし、初代の魔女は望んでこの能力を手にした訳ではない。
初代の魔女は聖職者、神に仕えるシスター――――『魔女』とは真逆の関係とも言われている存在。
当時、能力自体があまり確認されていない世界。
今では『能力者』として言われている彼等も、当時は『異能者』と蔑まれていた。
そんな彼女も自らの身体にそんな能力が―――そんな忌々しい能力が存在するとは知らずに、ただ平々凡々と過ごしていた。
ある日まで。
彼女の転機はまるで一瞬の時だった。
「てめぇも神だ神だと言っておいて、俺達になんの希望もねぇじゃねぇか‼」
その時は『異能者』の蔑みによって心が本当に蔑まれた人々によって大量の人間が殺戮―――『復讐』されてしまった。
ここはかなりの遠い秘境と言われる程の遠い村―――十字軍が来るのも圧倒的に遅かった。
しかし、たとえ間に合ったとしても恐らく全滅されてしまうだろう、そう初代魔女は――――アリア·メリアはそう思った。
まるでこの世の地獄、生き地獄の様な光景だった。
この場で生き残ったのは村の数名の子供、そしてアリアであった。
そして、ゆたゆたと歩いて来るスキンヘッドの男性。彼自身が事件の真相の犯人。現在曰く『血』の能力者。
彼はまず自警団の男性を殺し、その時流れた血を使って刃に、鈍器に変えていき、次々に人間を殺していった。
「残念だったなシスターさん、この死は神に怨みな」
「ひぃ!」
村まるまるの人間の血を全て集められ、その全ての球体が自らに襲いかかってくる光景にアリアは慄いた。
このまま逃げる術はない、ましては傍らには子供達がいる······どうすれば······。
「くっ······」
アリアは2人の子供を抱き抱え男性を背に逃げる。
「逃がすかよぉ‼」
血の球体の一部が小さな水球に変わり、その雨粒の様な大きさの物がアリア貫く。
「くぅあああ‼」
アリアは思わず男性の方を向き睨みつける······するとボン‼と音を立てて彼の上半身が弾け飛んだ。
まるで風船が内部の空気に耐えられなくなったかのように。
「えっ······?」
それが彼女のアリア·メリアの能力の『覚醒』であった。
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「何読んでんだ?」
ふいに後頭部から聞き慣れた声が聞こえたかと思い、彼女は―――吉田 優希は後ろを向く。
そこには恐らく自分と同様にそこまで転校生に興味がなさげなアキヒトがいた。
「『かぐや物語』の第2章『魔女の初誕』よ」
「『かぐや物語』?」
「ええ、第18章もある超長編大作よ。実際に起きた物らしいわよ」
「へぇ〜······で、その第2章『魔女の初誕』の内容は?」
「そうね······初代『キング』の仲間である『魔女』アリア·メリアの能力開花の物語と初代『キング』レオン·ハザードとの出会いの時までの物語ね」
「結構進みそうだな······第2章で何ページなんだ?」
俺は吉田が持っている辞書みたいな大きさの本を見ながら言う。
「ざっと259ページね」
「多いな⁉」
「作者は無理と言っているわ」
「でしょうね‼······って言うか、これ何ページあるんだ⁉」
「ざっと4690ページね」
「多いって‼絶対途中で飽きるよね‼」
「何言ってるのよバ宮田、こういうのは読む度に続きが気になるものよ。例えば煽りで『激闘必死、その時彼が思うものとは······?』とか書かれたら気になるわよね?」
「いやまあ気になるけど、あれは男心がくすぐられるというか······単に戦いの際に絶対に過去編来るだろこれ、このキャラの過去が気になるな······ってなると言うか」
ここで昔の恋人との約束を出されたらちょっと読む気はなくなるというか······共感しにくいというか······
「ほらね、気になるわよね。この作品かぐやさんご本人が、話を提供するが他に有名文豪が書いていて、さらに興味が湧くのよ」
「へ〜、まあそれは確かに説得力があるな。ちなみにオススメは?どうせもう読んでいるんだろ?」
ちなみに吉田は一度家で全てを読み切って家ではないどこかで2度見をするタイプの人だ。彼女曰く、別の所で読めば新しい角度や慣性で読めるらしい、読書家である彼女の読書に関しての台詞は重みがある。
「そうね······第16章の『7人の豪傑』かしら、ついに全員が揃うところなのよ」
「豪傑?」
「『初代キング』『太陽の守護神』『剣技の創設者』『死神ヲ殺セシ者』『初代魔女』『英雄王』『獅子王』の7人ね」
「かっこいいな、その響き」
「貴方にもつけてあげようかしら『二つ名』を」
俺は彼女の提案に目を輝かせて。
「マジか⁉なになに⁉」
吉田は顎を親指と人差し指で挟み。
「『4色髪』とかどうかしら?」
「見た目そのままを言っただろ‼」
流石にそれは止めて‼と叫んでいる内に下校のチャイムが鳴っていた。
ふと周りを見てみると転校生をたむろう連中がいつの間にか消え去って、俺達の目の前にはニコニコと笑顔を向けた転校生がいた。
転校生がいた。
············は?
恐らくこの場で2人は同時に感じたのだろう。
2人自身はそれでも実力がある。こんなにも長時間、人が目の前にいるのに気づかないなんて、こんな経験などほとんどなかった。
「あっすみませんすみません‼2人が仲良く話しているから声かけづらかったんですよ」
「ん······?関西弁?」
「今学びました‼結構質問が多かったんで」
本当にアメリカ出身なの?とか言われました‼と喋っている彼女に俺達は卑怯にもこう考えていた。
どうやって帰ろう。
別に俺達はボッチじゃないしカップルでもない、お門違いにも程がある。たとえ彼女が恋愛脳とでも限度があってほしいものだ。
「あっ······実は私にはとある目的があって······失礼ながらも貴方がたは名のある英雄と聞きましたんで是非お願いしたい事があるんです」
どこで学んだのだろう日本語の敬語を使って話しかける転校生。
分かってる······分かってるよ······分かってるんだよ。
これが後々面倒くさい事になることぐらい。
「ある人を探して欲しいんですが······」
俺達は互いを指さして。
「こいつに頼め」




