EX.39 「あれから7年後」
『『ヒーロー』アキヒトに二言はないからな‼』
―――それはある森の中、少年と約束をした日のこと。
あの時、少女は少年に命を救われ、燃え盛る森に雨を降らせる姿に『魔法みたい』と思った。
だから彼女は願った。
彼のような『魔法』を使いたいと―――
生まれつき能力の目視化が少なかった彼女は自分の本来の能力に気づいていなかった。
彼の隣で戦える―――そんな人間になりたいと。
将来、何世代に渡って名を轟かす、そんな人物だと知らず。
彼女は努力した。
そして、自分の能力に気づいたのはそこから1ヶ月も満たなかった。
父方は日本人、母方はアメリカ人のハーフ
余島 花恋 14歳 能力『魔女』
たった今、飛行機に降りて日本の地に足を踏み入れる。
「王子様······待ってるかな······?」
彼女の頭の中はあの時の少年の姿が映し出された。柔らかな笑顔と小さいながらもしっかりとしたその手を―――
そして今、彼女の手にはあの時渡された『ヒーローカード』があった。
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あれから一夜経ったが、世間は何も慌ただしい風景が彼の目には映し出されていなかった。
あの事件は大人の手によって―――いわゆる『大人の事情』でもみ消された。
例の生放送も今は何処をたぐっても存在しないらしい。
相変わらず面倒くさいな······とそう思いつつも彼の口にはある笑みが浮かんでいた。
あの事件によって、ある程度の楔が彼等の心に埋め込まれたからだ。
まず、1歩踏みとどまって考える――――そんな単純な事を。
単純だからこそ見つける事が出来なかった事を―――
俺は読んでいたニュースを閉じて先程から話したそうとしている岡田の方を向く。
「どうした?待てを強いられている犬みたいな顔をして」
「俺はそもそも犬飼った事ないからそんな顔分からないが――――まあ重要な事があったのは確かだな」
「?」
俺達は今電車の中で吊り輪に掴まりながら会話をしている。
俺は彼の低いトーンと真剣な顔つきから冗談じゃないと分かった。
「この前の事件で造った剣があったじゃないか」
「ああ、あの時一応お前のフォルダに入れたんだったよな」
「そうだ······実はな、アキヒト。あの時剣を分解してみたんだ――――すると、そこにあったのは」
「『粒子的天才児大量生産』についてだったんだ」
「はっ⁉」
「一応これはコピーだし、もしかしたらもう失敗してもう捨てられたデータだったかもしれない······でも、心配はしなくていいかもよ?」
「どういう事だ?」
「人間自体がゼロから造り出すのはほぼ不可能なんだ······臓器の一部を細胞分裂の応用によって造り出せるけど1つだけ、造れない物があるんだ」
「『脳』だな」
俺は間髪入れず答えを言った。
「ご名答―――まあ脳自体······つまり器を造る事は出来るんだけどね······。でも、その中身である『記憶』を入れ込む為の『記憶野』が無い」
それを言うと、他にも無いと言えるだろう。
『口唇感覚野』も『運動性言語野』も『前運動野』も『前頭葉極』も『前頭眼野』も『運動野』も『体性感覚野』も『体性感覚連合野』も『頭頂連合野』も『視覚連合野』も『視覚前野』も『視覚野』も『小脳』も『聴覚·感覚性言語野』も―――
全てが無い、脳として機能全てが――――
「そうなんだ······だからこそ『人間』を―――ましては天才なんか造れる訳が無いんだ······まあ、現段階の話だけどね」
「怖いこと言うなよ······」
岡田は「ハハッ」と笑い。
「まあ、もしもそんな事が起きてしまった場合、俺達はその機械をその装置を壊さないといけないな」
「英雄として」
すると、岡田はニマニマと口を歪めるアキヒトを発見する。
「······なんだよ」
「いやいやぁ〜あの岡田くんが『英雄として』なんて、言ってくれるなぁ〜」
「うっざ」
「ちなみに言っておきますね。あの後ユウスケに電話したんだけど『あっごめん、何すればいいか分からんかったから家族でウノやトランプとかやってたわ』だってさ」
「嘘だろ⁉」
「本当です」
すごいもん、あの時絶句した俺の顔を見せたかったもん。
「まあ、お前も色々あったんだな······」
「ああ······」
そうこうしている内に目的駅のアナウンスが鳴る。
@@@@@
今日学校に着くと、クラス内がざわざわとしている。
俺は同じくそわそわしているトランプさんにその訳を聞こうとするために近づく。すると―――
「知らないのか⁉今日、転校生が来るんだぞ‼」
「さあな、親友の危機にトランプやってる奴の事情は知らねぇよ」
「それに関してはすまん······まあ俺の事情じゃないんだけど······ほら、来たぞ」
「ん」
俺はユウスケが指差した方向を向く。
そこには、腰まで伸びたポニーテールをぶら下げながら歩く女の子がいた。
俺にしては不覚にも可愛い、と思っていた。
すると彼女は深くお辞儀をして。
「今日から皆さんのクラスの一員となりました余島 花恋です。私には"目的„があります。今日からよろしくお願いします」
そうして、彼女はニコッと笑った。




