EX.38 「ハッピーエンド」
『英雄⁉』
『お願い頑張って‼』
『勝ってくれ‼』
その他、様々な救済を求める声。
その全てが1人の英雄に向けられる。
2人対多数
圧倒的人数差の怒涛の最終決戦が今、幕が開ける。
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その時、本来ミサイルが爆発するであろう時間が表示された。
残り―――――10分
無情に映し出されたそのタイムリミットは本体が倒されない限り止まらない。
「アキヒト‼残り10分だ‼ケリをつけろ‼」
『······ああ』
その声は厳かに聞こえた。
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残り10分――――あまりにも短過ぎる。
今になってはとても数えられない程に増えている。
そこから本物を見つけ出すのは至難の技だ。
『だったら、フルスロットルで行きますよ‼』
······どうやら、うちの妖精は考える余裕をくれないらしい。
俺は剣を持っていない手を広げ、大群に向けた。
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これは数分前の出来事。
レインボーは両手を突っ込んだ。
「はあ⁉」
アスナは驚いた。
何故なら、先程の話ではバンバンと叩くだけで入れなかったようだし、今まで他にその行動に移していなかったからだ。
なのに何故今?
「先程までずっと『電脳』と能力を繋がらせていました。橙の特性は『模倣』こういうのは得意です」
つまり、『電脳』の力は主にインターネット情報に繋ぐ事と、全身を電子化させて電子機器に侵入する事が出来る能力。
ごく最近見つかったこの能力は『炎』や『水』と同じように検査をされている。
前者の2人の能力と違って不確定要素が多いからだ。
人間という『個体』から、電子にバラバラに変わっていく。
情報ショックが起きた事も能力者の時代で考えればまだ新しい方だ。
この能力は便利な分、能力の『コントロール』が難しい。
『透過』と同じように限度の調整が難しいのと、1歩間違えると自分の鼓動を止めるようになる。
心臓は鼓動を止め、肺は酸素を受け取らず、ただ自分は魂を包んだ袋だけになり、意識だけ残して無限の浮遊を受け入れなければいけないようになる。
しかし、レインボーはそんなリスキーな選択を選んだ。
元々、情報のプロフェッショナルな『電脳』が行く方がかなりの可能性があった。
だが、もしも『電脳』力じゃなんとも出来ないような事態に陥ったら真っ先にアキヒトが使うであろう能力は、『炎』『剣』、そして自分だ。
あの世界で物資を出す事が出来ない―――つまり、『剣』は選択肢から除去される。
『炎』じゃ、あの生物に押し負けてしまう事だってある。
ここで、自分が行かないと······‼、とレインボーは思った。
そして、何かを縋り求めようとしたアスナの耳元に言葉を残し、自分はあの世界に向かう。
「なんで······そこまで···?」
そんなの答えは簡単だ。
「ここで私が動かなくちゃ······私がここに······アキヒトの隣いる資格がない······‼」
そう言って、私はあの世界に――――アキヒトのいる世界に飛び立った。
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ここに······アキヒトの隣にいる資格····
アスナはレインボーのあの言葉を何度も反芻した。
たかが3週間ぽっちの関係―――――自分の方が長い、そう思うことで自分を保っていた節があった。
しかし、そんなのはただの怠慢で。烏滸がましい考えあった。
ただひたむきに目の前の勝利を求める姿······いつも彼の後ろ姿がそうだったじゃない······‼
だったら考えろ······‼
泥臭くても良い、意味のないとも言われても良い。
今は彼の後ろ姿を――――ちっぽけで頼りないように見えて、実はとても安心するような······そんな後ろ姿を私が守るために――――考えろ‼
考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼考えろ‼
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「智樹くん‼」
「えっ、あっはい⁉」
そこにはひと仕事を終え、モフが数十分前に用意していたお茶を煽っていた岡田がいた。
「あの生物のアドレスを探れる⁉5分以内に‼」
「とんでもないものが来た‼」
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「"ドロップ·ミサイル„‼」
不死鳥の翼の斑点から、7色のレーザーが放たれ無数の化物の体が蒸発していく。
見た感じこれ以上増えてないってことから、もう分裂してない·····って事だな···
俺は剣を化物の体を撫でる様に斬り倒す。
だけど······『本物』が分からない以上どれだけ倒しても意味がない
(レインボー、どれが本物か分かるか?)
『難しいですね。あの全ての生体反応が同じです······でも、大丈夫ですよ』
(何が?)
『アスナがやってくれます。そう出来る様に私が背中を叩きましたから······精神的に』
(はあ⁉アスナがいるのか⁉)
アキヒトは驚いた反応を見せた。
『知らなかったんですか?結構前からいましたよ』
(マジか······知らなかった···)
そんなアキヒトの状態に多少アスナに嫉妬しつつも、本来の目的に入る。
『気を付けてくださいよ、アキヒト。この状態、結構燃費が悪くて······』
(分かってるよ、だからこそ急がないとな)
『元々10分しかないんですけどね』
アキヒトは羽を羽ばたかせてこの世界を飛び回る。
化物が逃げた···という事はないだろう
この姿になってから、羽を散らせているがアイツが他の場所に移した······という感覚はない
だったら必ずここにいる······急がないと!
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アキヒトが2度目の気合入れをした時、現実世界では化物を倒すきっかけを見つけ出していた。
「見つけた······」
そこには、ただ単調な英語の羅列があった。
Artificial-Intelligence
「人口知能······でいいんだよな·····?」
「そうだよ、この人工知能······恐らくあの生物自体がデータに作られた生物だと思う」
岡田が自身なさげに呟いた言葉にアスナははっきりと反応した。
「ところで何をすればいいんですか?ミサイルを止めるのは多分無理ですけど······」
「そんなものはいいよ。ただ······ある言葉を送って欲しいの」
「何ですか?」
「なぞなぞ」
「はあ?」
アスナの回答に岡田は素っ頓狂な声を漏らした。
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「クソ······」
既にもう1000体は倒しているが一向に本物に当たらない事に焦りを感じていた。
いつになったら本物に当たるんだ···⁉
「ゲ「ゲゲ「ゲゲゲ「ゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲ‼」
「くっ······そ‼」
全身が槍の様になった化物が自分に向かって襲いかかる中、自分の目にあるものが映った。
これは必然的でも偶然的でもない。
今、2人が送ったメッセージ。
化物の動きが1体だけが1コンマずれていたのだ。
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「本当にずれた···」
岡田はアスナが言った事が本当に起きた事に驚いていた。
アスナが使った方法は単純な『なぞなぞ』だった。
人工知能が答えを必ず導き出そうとした事から思いついたらしい。
アキヒトとの戦闘中も、アキヒトの目の目に現れた時も、3人から事情を説明している時も多少の違和感があったのだ。
ほんの少しの、瞬きの、たった0.1秒の隙があったのだ。
力を溜めている訳でもなく、スピードを上げるためでもない。
その次に行われたのは必ず携帯等の電子機器、インターネットなどにメッセージが入ってきたのだ。
そしてその、0.1秒の隙に気づいたのは、アスナ自身が«神速»との異名を持った人物であったからこそ。
そして、そのアスナの剣技を見ていたアキヒトも気づいたのだ。
岡田があの時送ったのは、最初と同じように『パンはパンでも食べられないパンはな〜んだ』をそのまま返したのだ。
するとすぐ様答えが返ってきて、その瞬間本物はあちらの世界で動かなかった。
もしかしたら、いける······‼
流石に自分はあの化物が止まるような質問は用意出来ない。
「アスナ先輩‼何かありませんか⁉」
すると、可愛らしく顎に人差し指を置いて「ん〜と」と呟きながら悩む。
そんなことしてる場合じゃないッスよ⁉
本来なんか惚れそうな仕草だったか状況が状況だったので、一切そういう要素に反応しなかった。
そんな事もしている間にもう1分も残っていない。
「早く‼」
流石にテンパり始めた自分に対し、何故かほんわかしているアスナは「よし‼」と手のひらをパン‼と叩いて。
「『甘くて、苦くて、酸っぱいのってなぁ〜んだ』って書いておいて」
「はい‼」
俺は今までにないスピードでタイピングを始める、すると――――――
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「動かない······?」
すると、化物のほんの1体だけが動いていなかった。
時間的にもうラストチャンス!行くぞ‼と内心で叫び大きく羽ばたいた。
剣を突き出し『リヴァイント·ストライク』の体勢をとる。
その剣を残り滑空だけを残した翼が全てオーラとなり包み込む。
剣が巨大な槍となりオーラが刃を持ったトルネードとなって、他の化物を切り裂いていく。
「ギ······ギギャァァアア‼」
やっと悲鳴らしい声が聞こえたな······
やっと人間らしい声が聞こえたよ······
「うおおおおぇぇえあああああ‼」
ドスッ······と鈍い音が鳴って化物の体が刺される。
そして、数字の分裂と共に化物の姿が消えていく。
そしてそこに残っていたのは、懐中時計だった。
残り0.1秒
そのような僅差で秒針が止まっていた。
俺はバッ···と上を向いた。
「そういえば······アスナ達は···?」
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「もぎゅうううううう‼」
モフは逃げていなかった。
モフは探していたのだ。
この状況を一転してくれる、そんな生物を―――――
モフはその人物を連れ出して屋根上に登った。
「パックンさん‼食べてください‼」
「ぱくぅ?」
パックン――――その真名はディオーネ·アバリウナ·ディセンシア·ドリウズ。
地球が1度半壊する程の『食事』をした地球上最凶の暴走生物。
たとえ、宮田圭子によって力のほとんどを奪われた今でも、たかが山1つを奪う威力のミサイルなど、開けてかなりたった炭酸飲料。
パックンは大きく口を開けた。
ズォォォォォォォォォォオオオオ!!!とミサイルがパックンの口の中に入りまるでドリンクを飲むように吸っていった。
「ゲフッ···」
「お疲れ様ですパックンさん······僕、もう腰が抜けました······」
ミサイルを吸いきったパックンは少し物足りなさそうな顔をしていた。
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「嘘だろ······?」
死を覚悟した2人にはとある結末が信じられなかった。
「と······と······取り敢えずたすかったぁ〜〜」
岡田は力が抜けだらんと床に倒れ込む。
「そういえばアスナ先輩?あのなぞなぞの答えって何ですか?」
「ああ〜それね!答えは『恋』だよ‼」
無邪気に言うアスナの顔は子供のようだった。
岡田は、はあ〜とため息をついて。
「それ絶対にレインボーに言わないでくださいね」
「え?何で、むしろ言うところじゃん‼」
「本当に‼本当に止めてください‼」
そう言い終わるがいなやパソコンから1人の人物が現れた。
「うわあああああああああ‼」
「フベッ‼」
その落下地点が寝転んだ岡田であった。
ちなみにアキヒトの胸元にレインボーが目を回して寝転がっている。
「アスナ······」
すると、アキヒトの声が自分の名前を呼んだ。
「アキト······くん······」
自分の口からも彼の名前を呼んでいた。
彼は少し照れくさそうに。
「この前······遅れてごめん」
そんな言葉を言ってきた。
私は······私なりの言葉で――――
「いいよ、もう怒っていないから」
すると、切り詰めていた何かが解けたような感じがした。
そんなハッピーエンドでも良いのかな?




