EX.37 「スタイル」
「うおおおおぇぇえあああああ‼」
俺は折れた剣を投げ捨て、空いた拳で化物を殴りつけた。
メキャ···という音が化物の顔面から鳴り吹き飛ばされる。
「はぁ······はあああ‼」
俺は荒くなった呼吸で、
血塗れの眼光で、化物を見た。
「ゲ「ゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲ?」
化物は自分の身に何が起きたのか分からないらしい様子でおかしな声を出す。
そんな化物に俺は指を指し、声を出す。
「俺の拘束時間を解除したのが全ての間違いだったんだよ」
そんな彼の目は穏やかだった。
しかし、目の奥にはいかなる猛者でも立ち入られないような殺気があった。
そんな目で化物を見据える彼は言葉を繋げる。
「確かに情報処理の時間で俺を倒そうとしたのは凄いと思うよ···でもな」
「お前は調子にのって処理され始めているデータの証拠を行った」
「お前のおかげですぐに動けるようになったよ······まあ、痛かったのは確かだけどな···」
アキヒトは「でも、まあ···」と呟き。
「この世界は精神世界と違って俺の力が使えるらしい···ようは、俺の意識が、魂がそこに存在する限り俺という『器』は壊れないんだよ」
そう言うと、すうぅぅぅ、と傷口が塞がり、アキヒトの体が癒やされていく。
「ゲ「ゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ‼」
すると、化物は「ありえない」と言うかのように叫びだした。
「どうした······?言っておくがもう一度同じ手が通用するとは思うなよ。画面前の奴等だって2回も同じ間違いをする訳がない」
そう言い切る。
そう信じたんだ。
そんな画面外でアキヒトの言葉を聞いた岡田はそう思った。
「岡田······」
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すると、今度は自分の名前を彼は呼んだ。
俺はその声に言葉に声で応える代わりにキーボードのタッチ音で応えた。
ここの環境は、便利だ。
情報がたくさん漂っている。
俺はアキヒトの愛剣『ムーンフェアリー』を作り上げ始めた。
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羨ましい、と思った。
アキヒトの岡田をアイコンタクトとは言わずとも意思の通じようが――――――
確かにアキヒトはアスナがここに来ていることは知らない。
だけど···3年来の付き合いである自分とたった2週間の岡田との質量が同じように感じた。
抜かされそう、と思った。
ふいに不安に感じた。
ここで自分の声を出すとアキトくんは気づいてくれるのだろうか。
アキトくんの事を許さないふりをしたら彼はずっと私の事を気にかかってくれるのだろうか。
そんな、邪な考えが頭を過った時、アスナは頭をぶんぶんと振った。
今、自分が出来る事は願う事だけ、彼が無事にこの世界に帰って来ることを―――――
「そんなじゃ、甘いよ」
まるで、自分の思考を読み取ったかのように、レインボーは彼女の耳に呟き。
そして、画面に手を突っ込んだ。
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「"フレイム„···」
この世界では少数の能力は使える。
俺は2つの能力を混ぜ合わせて――――
「"ショット„‼」
人差し指と中指を合わせて手を銃の形にして、放つ技。
その2つの指からポッ、と球体が作られ、そこから噴射するように発射された。
「ゲ「ゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ‼」
だが、どれだけ凶悪的な技でも発射された瞬間データとなる。
データとなったものは食べられる。
そして、吐き出せる。
10倍で――――
「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ‼」
「くっ···」
化物の口から先程よりも圧倒的に膨れ上がった球体が産まれ、先程と同じように噴射される。
アキヒトよりも破壊力を持って。
その瞬間、アキヒトの全身が炎に包まれた。
しかし、アキヒトは『炎』の能力を身に纏っていて、炎の物理攻撃以外はほぼシャットアウトされる。
アキヒトはその瞬間、瞬きをした。
その火炎放射が終わった時彼の目の前にいたのは2人に分裂した化物の姿だった。
「ゲ「ゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ‼」
「ゲ「ゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ‼」
2匹の同じ様な化物は似た笑いを見せた。
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「分かりました‼」
『電脳』の口から出てきたのは最悪の言葉であった。
「兵庫県神戸市―――――あれ?」
「ここ?」
『電脳』も自分で何を言っているのか分からなかったようだ、ただ淡々と発せられた2文字はこの場にいる4人を凍らせるには充分であった。
「もっ······もぎゅうううううう‼」
真っ先に動いたのはモフであった。
人型に変形するのを忘れ、扉を頭突きで開けこの部屋を飛び出した。
まともな思考を持っていた者なら「裏切り者」と断罪しただろう。
しかし、この場にいるのは死を既に覚悟している岡田と既に何度も死の間際に訪れたことのあるアスナにとっては、仕方ない、と思ったであろう。
誰だって死は怖いものだ。
この場で逃げ出したモフの行動はむしろ当たり前だろう。
だが、岡田は呟いた。
「アイツはこんな事で逃げ出すタマじゃないだろ···」
モフはアキヒトと共に色々な所に行っている、もしかしたらこういう時の対処を思いついたのか?と岡田は思った。
どちらにせよアキヒトが勝つ必要がある。
岡田は完了のエンターキーを押した。
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今、彼の中では軽く焦っていた。
2、4、8、16、32と分裂していく化物の中で本物を見失ったからだ。
分裂した瞬間、斬り取った腕は既に修復され本物の区別が不可能だ。
どうする······どうする···⁉
そう考えている内に化物の個数は2000を超えた。
「ゲ「ゲゲ「ゲゲゲ「ゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
嗤った。
そして、ライオンが狙う獲物に本気を出すように――――分裂体全てが、標的である俺に向かって襲いかかった。
「アキヒトォ‼」
誰かが俺の名前を呼んだ。
いや、『誰か』じゃない、何度も話し合った妖精の中で際立つインパクトを持つような妖精。
その名前はレインボー、出会って初めての時に俺が名付けた名前。
忘れる訳がない。
でも、何故ここに?
そんな思考が俺の頭を過る前にレインボーは俺に抱きついた。
「いつでも······どこにいても、私とアキヒトは一緒ですよ―――――行きますよ‼」
すると、レインボーの全身が光だし、俺を包んだ。
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高らかな音と共にある1本の剣が作り出される。
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光が止んだ時、アキヒトの全身が今までとは違う姿を纏っていた。
不死鳥の鎧を身に纏っていた。
そして、将来その姿はこう呼ばれる。
『フェニックス·スタイル』と―――
アキヒトは我が身に襲いかかってくる山のような集団に対し悠然と左手を上げた。
そこに剣が現れた。
姿自体は違うものの、原型的な形としてはほぼ一致している剣が。
あとは···イメージするだけ···。
アキヒトはふっ、と剣を振り下げた。
すると、山程あった化物の大群が2分割された。
スバババァ‼と音はあとからやってきた。
「俺は······」
「俺は英雄アキヒト‼お前を倒すためにやってきた‼」
「覚悟しろ」




