EX.36 「もしも彼等が願うならば」
バン‼
モフとアスナは大きな音にビクッとして、音の鳴る方向を向いた。
するとそこには2人と同じようにかなり驚いたように見せているレインボーと、この音の元凶である岡田の姿があった。
表情こそは見えないものの体が震えている辺り、怒りと驚きが混ざっているのだろう。
ぎりぎりと歯軋りの音がした後、彼は口を動かした。
「クソ······しくった···。関係のないだろうと踏んでいたが、アイツ···こんな事をやりやがるとは···」
「アイツは何をアキヒトにしでかしたんですか⁉」
「『処理情報』の限界量を軽く超える量をアキヒトのアドレスに送り込んだんだ‼」
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「ゲ「ゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!!」
電脳世界の中で生物は高らかに笑う。
恐怖というたった1つの雫が20万を超え50万を達する、電脳世界の悪意。
チャット画面に映し出されてた生放送の映像を見た人々に対する、電脳世界の敵意。
そして、今1人の英雄が処刑される。
身動きも瞬き1つも出来ずに―――――
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「20万人のメッセージがあれば事足りたんだ―――――容量を一時的にショートするのには」
岡田は前髪をくしゃりと握り締め語った。
「恐らくアイツがアキヒトに度重なって攻撃をしていたのは、アキヒトのアカウントやメールアドレスを知るためだったのだろう」
「最初の攻撃、アキヒトのアカウントを弄って強制的にフリーズにしたのと同様にアキヒトのメールアドレスに大量の―――――20万人のメッセージ···もといなぞなぞの答えを送り出したんだ」
「もちろんそれにはかなりの確率計算が必要なんだ」
「でも、アイツはそれを100%に舌――――ロケット打ち上げの映像を見せる、という方法でな」
「あの映像自体は本物だ『電脳』にこの情報世界は欺けないからな」
「だが、これならどうだ?『もしも、このロケットに入っているのは地球を破壊するほどの威力を本当に持つのか?』とかな」
「確かに本当にあるのなら話は別だが、そんな物を作って本当にメリットがあるのか?俺は無いと思う。何故ならば造ったとしてもその国はどうするんだ?『地球が破壊されなければ流通をもっと良くしろ』とかか?」
「確かにより有利になる可能性が1%程ある。だがな、そんな1%で動かないのが世界だ」
「結局は信じないか、『なら、やってみろ』と言うだけだ
「恐らくそんな爆弾を持っている国はそれを使用する事は出来ないと確信しているからだ。何故ならばその国に地球を破壊する爆弾の使用はデメリットしか、存在しないからな」
「プライドとほんの一瞬の面子の為にそんな事はどこの国も出来ない」
「言うならばそんな爆弾も『最上位神器』や『暴走能力者』にかかれば一瞬で消失や破壊、穏やかに言えば解体する事が出来る」
「もっと、他の国々を脅すんだったら、魔王軍と繋がりを持つことだな。···まあ、正直言うとそれも正しい判断とは言えないけどな」
「結論を言うとあの生物が言ったのはその場しのぎのブラフだ――――ロケット発射の映像を見せるという、最も現実味を込めてな」
「最低でも50万人は騙されたんだよ」
「その中でも『勇者』気取りの『愚者』が行動に移行してしまった」
「20万人でアキヒトのアカウントが止まる―――情報処理の限界に達するのは五分五分だったのだろう···だが、50万人の解答がきた瞬間アイツは喜んだだろう――――だって、最初予定していた20万人の2.5倍何だからな」
「アキヒトを止める可能性が本来つり合っていた可能性を明らかに覆した――――ようは賭けに勝ったんだよ」
「だが、皆は思うだろう?『いつからそんな事を考えついたのか?』と」
「答えは恐らく『最初から』だ――――詳しく言えばアキヒトがあの世界に入ってからな」
「その瞬間、アイツはアキヒトを害虫―――ウイルスと認識したのだろう。この世界で自分に脅威を与える生物とな」
「そこでアイツはアキヒトに攻撃を与え、時間を稼いだ」
「小さな頭で―――どれだけ悩んでもうんともすんとも言えなかったのだろう脳をフル稼働させてな」
「そこで、あの凶悪的な作戦を思いついたんだ」
「そこからは簡単だ。アキヒトがアイツを追いつくまでに幾度と囓り跡があっただろう。そこから、自分が一番利用できるデータベースを探した」
「そこでラシアを見つけた」
「ラシアのデータベースを見つけてしまった」
「あの異様に広かったデータの空間は恐らくこのパソコンに繋がっている特殊な―――自営のインターネットだろう」
「恐らくラシアも化物並のブロックを用意したんだろう」
「だが、どんなに強固にしてもアイツにとってはただの『食事』だ。アイツにとってはブロックもご馳走にありつける前段階みたいなものだろう」
「そこに入って自分を可視化させて俺に気づかせ、アキヒトに追わせる。自分の罠を張り巡らせた空間にな」
「そこで、アキヒトの姿を見つけたアイツはチャット画面にメッセージを送った――――そこで、全ての計画が済んだんだ」
「そして、賭けに勝ち。準備も万端――――アイツにとっては俺たちがピエロだったんだ」
「そして、アイツは止まった」
そして、俺たちが願いを込めるならば――――
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岡田が3人に長々と話している間、3人はただ黙っていて聞く事しか出来なかった。
反論も出来なかった。
もう······終わってしまったから。
その中で、レインボーがただ願い続けた。
今、私たちが願いを込めるならば。
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「ゲ「ゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ·········ギャッギャッギャアイアアアアアアアア‼」
生物は嗤った。
目の前にいる少年をあざけ笑った。
そして、画面の前の皆が固唾を飲む中処刑が開始した。
生物の6本の手が全て槍の先端のように変わり、アキヒトに全て向けられる。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼
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「ああ······」
レインボーの声が漏れていた。
彼女の目には涙が溜まっていた。
彼女にとっては彼は絶対最強の存在なのだから。
あの生物にとって有利としか言えない状況、ゲームならば「せこい‼」と強く言えたが、これは命を賭けた闘い。
1つの有利が生存に――――勝利に導く世界。
彼女は絶望しか感じられなかった。
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音と裏腹に彼には傷1つもついていなかった。
そして、6本中1本が元々の姿に変わり。指を高らかに鳴らす。
すると、少年の体が次々に凹みだし。
「···············!!?」
吹き飛ばした。
「ゲ「ゲゲ「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲッヒャア〜‼」
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もしも、願いを込めるならば――――――
彼が最も強く進化してくれる事を―――――
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そして、それに応えたのは神ではなく。
アキヒトであった。
「······っつ‼がぁぁぁいああ‼」
アキヒトは生物の剥き出しの腕に剣を振り下ろした。
バキッ···と剣は折れた。
ズバッ‼と腕が斬れた。
生物は理解できないという顔で――――
「ギギャ?」
アキヒトは血塗れの姿で、決意を込めた顔で―――
「これで終わらせる···‼」




