EX.29 「6人目の仲間」
ここは図書室。
いつも通りにアスナと喋っている――――訳ではなく、普通に友達(と呼べるかどうか分からない)と小声で会話をしている。
「俺、何気に2日間程家に帰ってなかったからさ、無性になんか家が恋しくなった時があったんだよ。···なぁ吉田、こういう時ってなんていうんだっけ?」
「懐郷病と言うのよ」
「あ〜なるほど、なるほど〜。懐郷病って言うのか〜···って古いわ‼ホームシックでいいだろ‼」
「私は横文字が苦手なのよ」
もう一度言おう、ここは図書室である。
「じゃあさ、スマートフォンって言ってみて」
「すまあとほん」
「わざとだろ‼今のはわざとだろ⁉」
「わざとよ」
良かったのだろうか···、むしろ「ふざけんな‼」と叫んだ方が良かったのだろうか。
「巫山戯るの漢字はこう書くのよ、覚えときなさい」
「読心術を極めないでくれ···」
俺はガクッと机の上に伏せる。これ以上ツッコむとそろそろ本気で司書さんに怒られる。それだけは勘弁だ。
「安納芋 山芋先生の古文小説は本当に面白いわね、私既に5回位読んでいるのにまだわくわくが止まらないわ」
「安納芋なのか山芋なのかが1番はっきりとしたい所なんだけどな」
ちなみに俺も吉田に安納芋 山芋先生の本を借りた事がある。ドラマにもなった事がある作品なのだが、正直よく分からない―――ただ、古文の勉強の役にたった、それだけだ。
「そういえば、興味本位なんだけど。横文字で言えるのは何なの?」
「チョコレート位は言えるわよ」
お〜、と思った。こいつに関してはチョコレートすらも、小さい頃のじゃんけん勝負と同じ様に「ちよこれいと」と言ってるのかと思った。
―――っていうか、「チョコレート位は」って何?「チョコレート」レベル位しか喋られないの⁉
なんだろう···こいつの事だから、「チョコレートフォンデュ」を「チョコレートほんでゅ」とか、中途半端なエセ英語を言いそうな奴だからな。
よし、読者も置いてかれている様な気がするから、こいつを説明しよう。
彼女の名前は吉田 優希 年齢は俺達と同じ15歳、能力は『天衣』 特殊道具の杖を使って、オーラで作られた魔人が対象に向けて様々な技(大概がパンチ)を繰り出す。彼女は読書家である。読書家と言っても、大方古文など難しめの本を読む。人の心を読むよりも読んだ上で意地悪をするというサディスティックな面も持つ。
見た目は、耳元にだらんと垂れた髪の毛を本人曰く自作の布製の髪飾りをしている。
ちなみに国語の点数はいつも満点であり、小説文などもスラスラと書けている。
ちなみに俺とユウスケ、そして吉田は同じクラスであり、先日テスト中に吉田の後ろ姿を見たのだが開始20分程でピクリとも動かない様子を見て、あっ···寝てる、と思う時があった様に、古文が好きなだけで別に国語が好きな訳じゃないらしい。
補足すると、横文字などのエセ英語などはほぼ使えない。
英語ばっか使う奴よりもよっぽど厄介だよ···。
「説明ありがとう」
「別にお前の為に言ったんじゃない、貴重な読者の為に言ったんだ」
「そういうのは巷では天の邪鬼な子と言うのよ」
「巷ではそういうのはツンデレと言うんだ」
はっ!しまったこのままじゃ彼女のペースの通りだ。ただでさえこういうのは面倒くさいパターンなんだ。
そんな事が今回のメインじゃないんだ。
「なぁ、吉田俺達の仲間になってくれないか?」
「?」
「チームメイト―――要は仲間だよ。そういう集団みたいな物が作りたくて」
「変態ね」
「え⁉」
「変質者ね」
「ええ‼⁉」
「強姦者ね」
「俺をそこまで変態にしたいのか⁉」
「静かにしなさい‼」
「······すみません···」
しまった、声を出し過ぎた、司書さんからマジの説教を受けてしまった。
俺は小さくなりながら吉田の意見を聞く。
「別にいいわよ」
「え⁉さっきはあんだけ変態変態って言ってたのにか⁉」
「ただし、条件があるわ」
「お···おう、何だ?」
「まず一つ、用があるなら事前に連絡しておくこと。私は貴方と違って忙しいからね」
「分かった、約束する」
吉田は俺達と違ってバイトをしているから忙しいのは当たり前だろう。
「そして二つ、寝る道具を用意すること。貴方達と違って私は女なのだから必要よ」
「了解、用意するよ」
能力の中に入れておけば嵩張ることもないだろう。
「そして最後、星空先輩を貴方の言う仲間に入れないこと」
「え、なんで?」
むしろ、他に女性は必要だと思うのだが。
「あの人、たまに私のこと殺意に満ちた目で見てくるのよね。あの眼光が毎日くるのは勘弁なの」
「マジか···知らんかった」
嘘だろ、と思うのだが俺も昔はこういう目で見たことがあるので吉田の気持ちが分かる。
「りょ···了解したよ」
すると、吉田は普段途中読みはしない読書を途中で止めて。普段見せないような笑みを見せ―――
「この吉田優希、ふつつか者ですがどうかよろしくお願いします」
そう言った。




