EX.19 「傀儡の王」
『傀儡の王』―――それはかつて、一つの銀河を操り、その銀河自体を侵略した事のある伝説の存在。
その存在は、ある程度ある。何故ならその『一つの銀河』は俺達の住んでいる地球も入っているからだ。
その後、『銀河の王』と呼ばれる黒鬼に殺された―――と聞いていたはずなのだが。
「『傀儡の王』ってどういう事だ?死んだんじゃなかったのか?」
「ええ、死んだはずです。実際は『傀儡の王』の腕を持つある人物に僕たちの星――『トリア星』が襲われてしまったのです‼」
その表情を見るに、本当に起きてしまったことであり、嘘を言っている表情では無かった。平気で嘘を付く人間は多々いるが、今、俺は『真実の目』を使っている。この目を相手に嘘はつけない筈だ。
「分かった···そういえばお前の名前を聞いていなかったな···教えてくれない?」
「僕の名前はポックル·アレクシスです」
俺は手のひらに強く拳を突き付け
「よし、分かった。その依頼承ったぜ」
「本当ですか‼」
「ちょっ···ちょっと待て!お前今の時間解ってんのか⁉」
この場で水を差したのはユウスケだった。
「分かってるよ、でも俺の場合は連絡と理由があればある程度大丈夫だから」
「はぁ···まぁいいか···ムーンフェアリーは持ってきたのか?」
「おう!もちろん‼」
「じゃあ、行くか!その何とか星に‼」
「トリア星ですよ‼」
「えっ···お前も行くのか?」
「俺はお前がもし、暴走したら止めなきゃいけないからな」
「ははっ、まぁよろしくな相棒‼」
俺は「ということで」という言葉と共にポックルの方に振り向き。
「とりあえず、お前の星に連れてってくれよ。まぁ俺たちが何を出来るのか分からないけどな」
すると、ポックルは目に涙を浮かべて。
「ありがとうございます!ありがとうございます‼本当にありがとうございます‼これで···これでやっと···助けてくれる人が現れたよミシェーラ······」
「ミシェーラ?」
「僕の婚約者の事ですよ。かなり可愛いんですよ」
「なぁ···アキヒト、俺やっぱ参加しなくてもいい?」
「駄目に決まってるだろ、何言ってんだお前」
「ええっ!」
軽蔑する俺の目線と涙の粒がポロポロと流れ落ちるポックルの姿を見て、流石に不味いと思ったのか。
「冗談、冗談!場を和ませようとな!」
「場が完全に凍ったぞお前」
「ぐすっ···酷いですユウスケさん」
「いや···マジですいません···」
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その後色々とあり、今俺たちは宇宙にいる。
俺は別に将来の夢に『宇宙飛行士』と書いたわけでは無いのだが、やっぱりまだ見た事のない景色を山の様に映るこの宇宙は本当に綺麗だと、感嘆の声を漏らす。
「やっぱ···すげぇなこの景色···ほんとにこれが塵とかごみとか言われてるのか···」
「天然のプラネタリウムだな······ちょっと狭いけど···」
「すみません、これは一人用でして」
「でも、とりあえずは酸素に関しては大丈夫なんだな」
「少なくとも、酸素が無い星や長期間飛んでも大丈夫な様に最低でも二年分は詰め込んでいます」
「へえ、そんなにあるのか···でもこの大きさならこんなに入らないと思うんだけど」
「それはですね――――――」
彼の言うには酸素を吸収する宇宙金属『アルメタ』というのが存在し、この宇宙船にはそれを材料として造っているらしい。天然とは言い難いがかなり便利らしい、でも二年分というのは一人用としての単位であり、今は三人乗っているためその三倍は酸素が減る計算になる。
不安になった俺は、ちょっとポックルに尋ねることにした。
「なぁ、ポックルってここに来るためにどの位かかったんだ?」
「ざっと半年ですね」
「はっ···!」
驚いたのはユウスケだ。
それはそうだ、流石に半年もかかるというのは往復するのに一年かかる。それは流石に不味いだろう。
すると、二人の衝撃を見たのかポックルは慌てて弁解する。
「あっ···大丈夫ですよ!行きは強い人を探したりしてたので時間が掛かって······それに生命が見つかった星がそもそも少なくて、見つかったとしても僕よりも弱かったって事もあったり、たとえ強くても助けてくれなかったりだったのでこんなにも時間が掛かったのです。この船のフルスピードだったら2時間程のですよ···」
何か、ポックルの苦労が垣間見えてしまった。
大丈夫かな、と思い一行は暗闇の宇宙を進む。
@@@@@
確かに、2時間ちょっとで星に着いた。
少しの間寝ていたのだが『時計』が日本時間を教えてくれたので、時間自体はかなり正確だ。
それにしても2時間って、近かったのかそれともこの船がものすごく速いのかが分からないが、かなり早いなと思う。
トリア星は地球の一回り小さく水や植物も沢山あり、一際目立つポイントはかなり星自体がカラフルなのだ、赤や青、肌色だってある。まぁ俺の頭には万年虹色のレインボーさんがいるのでさほど驚く所では無い。
「僕たちが今から降りるのは『白の王国』です。トリア星の土地の色で王国を分けているのですよ」
「へぇ〜、要は今見えるだけでも20は王国はあるのか」
「実際には100も王国があるんですよ。ちなみにトリア星の別名は『百色の星』です」
「むぅ······私、今あの星にライバル心を燃やしています!」
そう言いながら、俺の髪をギュッと掴むレインボー、痛い痛い!引っ張るな⁉
「そんなスケールのでかいライバル心燃やしても意味ないと思うぞレインボーちゃん」
「フン!流石人間、低級な考えをお持ちですね。私ほどになれば星相手にも喧嘩ができるのですよ」
「はいはい、そうでございますか」
「む〜〜〜〜〜〜〜」
頬をふくらませるレインボーの頭を撫で落ち着かせる。
「ねぇアキヒト、あの男に私を纏った状態で全力のジャブしてくれません?」
「それはジャブじゃねぇ」
そんな、応酬をしていると――――
「ポックル‼」
金髪の女性がポックルの名を呼んで駆け出してきた。
「ミシェーラ‼」
おっとどうやら感動の再会だったらしい、少しの間どこうかと思った矢先ある言葉が耳に飛んできた。
「ポックル、もういいのよキメラ様に従えば一生の幸せが訪れるねぇいいでしょうポックル?」
どういう事だ、侵略を行ったのだから、少しばかりの悪意がある筈なのに···。
「何言ってんだミシェーラ‼僕はやっと見つけ出したんだ‼彼らならこの星を救けてくれる‼」
「·········なぁ、聞いてた話と違うような」
耳打ちしてきたのはもちろんユウスケだ。
「確かにこれは一体······なっ⁉」
俺は、飛び出した―――何故ならミシェーラと言う女の子の懐に一瞬ナイフが見えたからだ。
「分かってないのよポックルは···彼の素晴らしいお考えに」
「何を言ってるんだミシェ‼」
俺は、ポックルの襟を引っ張った。
ポックルは俺のその行動に驚いた様子を見せたが、ミシェーラのナイフを持った手元を見て更にぎょっとした。
「何で······何でだよミシェーラ‼」
その絶叫に答えたのは俺だった。
「もしかしたらなポックル、もうこの星の住民はお前以外」
「全員傀儡化されているされてるかもしれない」




