EX.14 「あなたに会えて本当に良かった」
これは半年前の話―――――聖戦戦争第99層『妖精の町』の出来事。
当時最前線組は困っていた。
何故なら、本来ボスが発生するための神殿が無かったからだ。
層ずつに発生するボスを倒せば永劫不朽の壁が崩れ落ちるというアルビナ星の道筋がこの層によって否定されてしまったのだ。
その時は、実際は100層なんて存在しなかったという説が濃厚だったのだが、探索組がこの星に到着直後に奪われたロケットが見つからなかった事からある説が生まれてしまった。
『妖精をある一定数殺せば現れる』という事だ。
実際は正しかった、妖精たちが死んで消失する瞬間の金切り声の様な効果音がボスを発生させるキーポイントだったのだ。
だが、妖精を扱う能力者であった俺はそれを許したくなかった。必死に今残っている妖精たちを助けようとしたのだが、数分後には大量の死体があった。
俺が殺したのではない、ボスがあらかた片付けたのだ。
「ぐぅ、……あっ!!」
俺は強い衝撃を受けて吹き飛ばされる。恐ろしい一撃を放たれたのだ。
ボスの姿は『火熊』しかし、身に纏っているのは火ではなくマグマだったのだ。先程までの綺麗な風景が嘘の様に地獄絵図になっていた。
俺を右横にある体力カーソルを見た。およそ半分削られていた。ウソだろ⁉、と俺は思いそれでも立ち上がる。
このアルビナ星の元凶である者によって能力を奪われた。更には体力のカーソルを付けられこれが俺達の命になっている。半分削られたことは半分死に近づいた事だ。
だけど逃げる訳にはいけない、俺の後ろには二人の存在がいたのだ、一人はアスナもう一人は『トール』という(もちろん偽名だが)男がいた。この場で俺が死ねば連携が崩れ皆共々になってしまう。これだけは防がなければ。
「うぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁああああ‼」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお‼」
俺の叫びに呼応するように熊も叫ぶ。
負けて………たまるかよ‼
そう思う俺、しかし走り出す前に
「アキヒト‼」
「⁉ セピア‼」
そこには、セピアたち妖精たちがいた。
馬鹿な、逃したはずなのに。
「うおお!!」「うわぁあ!」
やめろ……やめてくれ‼
「お前たちじゃ敵わないだから止めて逃げてくれ‼」
すると、セピアは哀しく笑う。
「もう……駄目ですよ、アキヒト。私達の意思はもう決まった、アキヒトが私達を助けようとしたんだから私達は私達の命を賭けてアキヒトを助けるんですよ」
「バカなこと考えないで逃げてくれ‼皆…死ぬ‼」
「だからこそです、だからこそ私達の恩返しは一回限りです。『光の鏡』よ‼」
すると、今死んでいったものだけでなく、そこで散らばっている人達、更にはこの土地の光が凝縮されていった。
もう、そこにはセピアと俺、アスナとトールの四人しか残っていなかった。
「貴方には恨みはありませんが放たててもらいますよ‼『光鏡』‼」
「やめろ……」
その技は知っていた。禁忌の技だからだ。大量のエネルギーを凝縮して放つ技、その際のエネルギー量は太陽のエネルギーのおよそ三倍以上だ。恐ろしく強い技なのだが、強大な欠点がある。
その発動者の命が無くなるのだ。
だからこそ、人間はこの技を『欠点技』と言い、決して使おうとしない。
だからだ、俺はこの技を使おうとする彼女に強い絶望を覚えた。たった二時間程の仲、なのにこんなにも感じるのは何故だろう?この子なら俺の気持ちが分ってくれたのか?だったらなぜ止められない?答えなんて解ってる俺が弱いからだ。弱いせいで守れなかった。あの時もこの時だって。
「サヨナラです……『ファイルフラッシュ』‼」
恐ろしい衝撃がきた。
その光は大気圏を飛び越え今見えない宇宙をも貫いた。
その場にいた熊はもちろん消失した、だが、その代償は一人の妖精の命だった。
光の粒になりつつある少女を俺は両手で抱え。
「何で……何でこんなことを……?」
すると彼女は優しく笑い。
「たくさんの妖精のバカな考えです。それに―――」
「私はあなたを止めたかった」
「あなたは恐らく共倒れになってでもあの熊を倒そうとしたでしょう?だから、そんな事を代わりに私達がやっただけです」
「それに、私達はこの星が無くなると死んでしまいますから」
「え……?」
「妖精というのは、運命共同体みたいなものです、この星が無くなるということは私達もなくなってしまうのです。だから、ここで死ぬかもうすぐ死ぬかそれだけだったのですよ」
「そんな……」
そんな俺の顔を見てセピアは、名残惜しいですね、とつぶやき。
「もしも…あなたがまた私に会いたいと思うのなら――――――」
「地球の―――――『虹の丘』で待っています」
そう言い彼女は光の粒となって消えていった。
死んでしまったのだ――――――――そこから更に半年が経ち、今、俺の目の前には虹色の髪をした少女は肉体が無くなり死んでしまったことをもう一度告げられた。
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「『君に会えて本当に良かった』って」
俺はそう言う。
心からの本心だ本当にあの時は楽しかったし、色々な景色が見れた。だからこそ、彼女に対しては感謝しか残っていなかった。
すると――――――
「――――私も‼」
彼女は俺に抱きついた。
「え……え?」
「私は『肉体』は死んだと言ったけど『魂』は死んだとは言っていないよ」
「えっ……じゃあお前はセピアなのか?」
「そうとも言えるし、そうじゃないと言える」
「どう言う事だ?」
「あの時、あの場でセピアという存在は死んだ。でも、その魂が巡ってこの身体に――――レインボーと言う、あなたに名付けられた身体に生まれ変わった」
つまり、彼女は『セピア』から、俺が名付けた『レインボー』と言う存在に変わったと言う事だろう。
彼女は先程まで隠していた顔を見せ、ニコリと笑う。
「私もあの時言えなかった言葉があるの‼」
「え…何だ?」
「私も……あなたに会えて本当に良かった。そして―――――」
「アキヒトのことがだいすきっ‼」
そう言い彼女は歯を剥き出しニヘッと笑った。




