EX.10 「不可思議の根」
万年樹―――――――それはその名の通り一万年以上生きた木。
五千年程ならば、現代の機器で切り取る事が出来るだが。更に五千年積み重ねると次元が変わる。
たかが一万年、されど一万年。我々人では絶対に辿り着くことが出来ない世界。万年樹ならまだしも『億年樹』も存在するらしい。
億年樹はマグマを飲み込み、紫外線をも吸い込み様々な星星を繋ぐ。葉一枚が一トンを超え、その姿はまるで『魔王』―――――しかし人はそれを切ろうとしない。
切れない訳ではない、切ろうとしないのだ。
『神器』を使用すれば万年樹は切れるし、億年樹でさえも『最上級神器』を使うことさえすれば切ることが出来ると推測されている。
なのに何故、人はそれを切ろうとしないのか、そこには樹、自体の『恩寵』が存在する。
葉は光合成をする、万年樹は一分程で100㎡億年樹は更に200倍以上酸素を放出することが出来る。更に、呼吸による二酸化炭素の放出は周りの木と同程度しか排出しない。
だからこそ、樹自体が存在することによって、今の環境問題のほとんどが解決するのだ。
だから、人は樹の存続を願い、それに呼応するかのように、樹は成長を続けた。
今になって、彼ら彼女ら四人の敵になるまで――――
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アキヒトは衝撃を受けた場所に目を向けてギョッとする。
切れているのだ、つる―――――いや、『根』だろう。そのうねりをもった一撃だ、恐ろしい衝撃が来た。アキヒトは軽く肋骨が折れるか、凹むのかの二択を想像していたのだが、結果は想像を軽く超えた。
服を越え、肌の薄皮を切り裂き今に至る。
怪我がほとんど無いのが救いのだが、切れた皮膚から血が吹き出すのを見ると、見た目よりも深い傷を受けたのだと理解した。
いま、根はくねくねと動いている。それはまるで侵入者を特定しているような、はたまたただ呼吸をしたくなったのか分からないが、今はチャンスだ隙が大きい。
俺は、剣を引き抜き特攻をかます。
「アキヒトだめだ‼」
すると、根は俺に向いて襲いかかってくる。なるほど、みんなが動けなかったのはそういう理由か。だが、そんなこと今は関係ない、攻撃するために準備をしていた俺と違って奴は今臨戦態勢をとっている。場は俺の方が有利だ。俺は片手剣刺突系攻撃技『リヴァイント·ストライク』を放った。
確実に決まる、そう思った矢先。根に亀裂がはいり、四つに分離される。恐らくは全員に襲いかかろうとしているのだろう。
俺は、周りを見る。
皆、驚きによる硬直から解け、山本はファイティングポーズをユウスケは右手を刀の鞘に置き、迎え撃つ気だ、アスナだけ『二次元』の能力で収納している『サテライト·テンペスト』取り出そうとしているがおそらくは間に合わない。
全員を救う方法、そんなの分かりきっている。
『焼き尽くすのだ』
「ファイヤ‼」
「うん!」
ファイヤは俺の叫びに、呼応し姿を変える。
それは『技魂』だ。
その力は、アキヒト自身の特殊能力の一つだ。妖精は個人で行動する『自立型』が存在する。しかし、アキヒトの妖精は他にも『技魂型』に変化することが出来る。
アキヒトはその状態になったファイヤを掬い取り胸の中心部に押し付ける。その瞬間、多大のオーラを放っていた『技魂』は全て納まりきり、今度はアキヒトの姿が変わる。
これは、先程『音』を使用した時と同じ現象。アキヒトの髪と体は炎を纏う。
これが『パーフェクト』の能力
全てを司り、全てを操る事が出来る力
アキヒトは炎を『ムーンフェアリー』に包ませる。最初の頃は拒否反応にも似た現象が起き、包むことが出来なかったのだが、今は短時間なら包むことが出来る。
『リヴァイント·ストライク』から『バーニング·ストライク』に変化したこの技。刺突の力は減ったがその代わりに『炎化』の力を持ったこの技は、四つに分かれ始めた根の中心部を撃ち抜き燃やし始める。
「うぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁああああ‼」
あと少し、もう少し――――いける‼と思った矢先根は俺に襲いかかってくる。
だが、無情にも俺の技は根によって貫ききる前に弾かれる。
よし、と思った俺は叫ぶ
「山本は筒状の圧を作ってくれ!アスナは耐火の服を着といてくれ‼」
山本とアスナは、俺の声を無言で頷き、行動に移す。
すると、俺の目の前には根、以外に大気のズレが見えた。単純な力ならそんなズレなど見えないのだが、山本も本気らしく特上の力を使っている、それと俺の意図が通じているのならば、その大気は『二酸化炭素』だろう。
撃ち漏らしはしない――――――今だ‼
「火拳‼」
俺の腕から吹き出た炎は拳の形をして、根に襲いかかる。その温度1500度以上――――コレで燃えない、木は億年樹以外無いだろう。
俺の希望に応じてくれたのか、『火拳』は根を燃やし尽くす。
山本が二酸化炭素の筒を用意してくれたおかげで被害は他に無い。
しかし、安堵している場合では無い。『本体』が存在するのだ急がなければ
「行くぞ‼」
その声に真っ先に反応したユウスケが自慢の足で道を走り抜ける。
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そこにあったのは、軽く傾き根が大量に剥き出しになっている万年樹がいた。
「な·········何だよこれ···?」
ユウスケが絶句するのは仕方ない、万年樹を見る機会なんて殆どないからだ。
木々がざわめき木の葉が舞う
軋む音と共に樹が動く
それはまるでこちらに目を向けたようだった
そして、絶句する四人を『万年樹』が襲いかかる根が無数に襲いかかる中、この面子の中で唯一、
笑った者がいた




