アキバトEX 「トリック・オア・トリート」
ハッピーハロウィン!
年に一度のお化けの祭典にアキヒト達も楽しんでいるようですが。
どうやら、いつものアキヒト達ではないそうで······。
『トリック・オア・トリート!!』
皆がお化けや魔女などに扮して各家を周る行事——————ハロウィン。
本来ならば古代ケルト人が秋の収穫を祝い、悪霊などを追い払う宗教的な意味合いがあるのだが、現在ではアメリカ合衆国で民間行事として定着している。
そんな年1の行事を子供達が楽しみではないわけ無い。
区の特例としてハロウィンを開催し、イベントを起こす他、区から送られたパンプキンランタンを玄関近くに置いてある家は実際に『トリック・オア・トリート!』と言ってお菓子を貰って良いのだ。
される側ももちろん『No』と言って断ることも出来るのだが、その時はランタンにこれまた支給された水鉄砲によって火を消される。
これは『もうお菓子はありませんよ』と言う意味で受け取られ、その家は終了したとなる。
イベント会場に行けば、お菓子の詰め合わせやぼた餅を用意されて食べる事が出来るのだが、子供達は皆家に行くスリルを楽しむのだ。
もちろん子供達が夜に出歩く危険は伴うので腕利きの英雄などが呼ばれてあちこちと出回って安全を確かめる。
当番の一人である母さんに聞くと、「妖精ちゃん達を町中に巡らせれば良いのよ!」と言って、大人限定メニューらしい『パンプキンビール』を親父と一緒に呑みに行った。
そして俺たちといえば——————、
『ともきのお母さん!トリック・オア・トリート!!お菓子くれなきゃイタズラするぞ!』
「キャー!イタズラはやめてお菓子あげるから〜」
ヤッターと喜ぶ声が三人から発せられる。
当時7歳の俺と6歳のスズとハルト。
そう、これは小さい頃の話だ。
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三人はカボチャバケツの中の半分くらい埋もれているお菓子達を見て喜ぶ。
「ふっふっふぅ〜〜!大量大量!次どこにいく?」
するとオマセなスズがつい最近テレビで見たらしいドラマの女性がとっていたポーズで「チッチッチ」と口で言う。
「お兄ちゃああああん?こんなにもお菓子を貰えたのはあたしの服のおかげだからね」
そう言って俺、スズ、ハルトの順に身につけている衣装を指差す。
俺はヴァンパイアの服装。丁寧にも蝙蝠の翼付きの状態だ。最初はちょっとだけ手を引きかけたものの、始まってから30分も経った今では全く気にしていない。
スズは魔女の服装。しかし、この魔女は普通ではない。普通ではない点をあげるとするならば、通常魔女が身につけるようなあの帽子ではなく、ヘルメットに取り付けられたモフが「モキュッ!」と声を出している。
ハルトは典型的なお化けの幽霊の服装。この三人の中では一番の手抜きらしき姿である。しかしハルトは気に入っているらしく、時折うねうねと動いてはクオリティーを磨いている。
そう、俺が三人の服装を見回ると、当時は無かった胸を突き上げて、
「まあ、お兄ちゃんやハルトにはかんしゃしてほしいもんだねぇ〜」
「はっ!ほとんど母さんが作ってたじゃんか」
「作ってないですぅ〜〜!あたしが作りました〜〜!」
「うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
「うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
うぎいい!!と二人は飛びつきほっぺたの引っ張り合いなど、取っ組み合いが広げられる。
「モキュ!モキュ!モキュッ!!」
「ちょっ!?地味に痛い!殴るなぁぁぁ!」
「ちょっ!?お兄ちゃんしっぽ触らないで!ぴゃぅっ!」
しっぽに感覚あるのか!?とは思ったがよく見たら普通にお尻をわしづかみしていただけだった。
「と······とりっく・おあ・とりーと!!」
先程まで取っ組み合いの喧嘩を外側で見ていてオロオロしていたハルトがまさかの言葉を使って飛び込んできた。
まさかのダイレクトプレスだ。
思いっきり押し倒されてコンクリートの地面にコケたので反射的に「痛っ」とは言ったが、それよりも——————
「とりっく・おあ・とりーと!!とりっく・おあ・とりーと!!」
トリック・オア・トリートと叫びながら俺たちの上でジタバタ暴れているハルトを見ると。
「ぷっ······あははははは!!」
顔を向き合い同時に笑っていた。
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「——————って言うことがあったんだ!!」
あれから何度か家を巡り、自宅である宮田家に帰ってくると、何杯ビールを飲んだのか分からない酔いつぶれぎりぎりの状態の母さんを見つけだが、もう大人である俺は何も声をかけなかった。
「ふむ······そうか、怪我とかはしてないか?」
親父も何杯飲んだのか、そもそも飲んでいないのかは分からないが、平然とした状態で心配してくれた。
「うん!楽しかったよ!途中でさ、お兄ちゃんの妖精とか出会ってさ、いっぱいお話したんだ!」
「そうかそうか······なら良かった」
親父は俺たちをいつもどうりのぎこちない笑みで見下ろす。
「しかし、もう時間だ。お風呂も入ったところだし、もうそろそろ寝たほうがいいのではないかな?」
そう言って、俺たちを一つの部屋に誘導していく親父。たとえ7歳とはいえ、もうすでに部屋は貰っているのだが、何故か一つのベッドに三人もモフを寝かせて。
スズの為に絵本を読んで。
ハルトの為にもう一枚毛布を用意して。
俺の為に柔らかい温もりを用意してくれた。
その頃にはもう意識は消え去っていき——————。
「goodnight、かわいいお化け達」
と親父が洒落の効いた言葉を聞いた時にもう、睡魔の妖精が疲れを取るために俺たちの意識を遠ざけた。
(おやすみ············)
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後日談のことなのだが、俺たちが『トリック・オア・トリート』と何度言ってもお菓子をくれなかった親父は実はとっくに買っていたらしい。
照れ隠しのしかたが独特過ぎて、こちらのリアクションもテンパった位だ。
実は俺たちが眠りについたその瞬間から物語は巻き戻り。
——————
「··················寝たか」
何度か同じ言葉を発して確認をとった後、親父はハロウィン限定の『イタズラ飴』という物を取り出した。
一人10個セットのそれは、舐めると一瞬で溶けきったり、口に入れた瞬間に膨らんで言ったり、飴ではなくてチョコだったりとバライティーに富んだ中身がある。いわゆる『イタズラするための飴』と言うことだ。
親父はその飴の入った箱を三人の枕元にそれぞれ置き。
「今年一年、お化けに見舞われませんように」
「その行動はクリスマスや年末年始じゃない?」
親父は慌てて振り向くと、真っ青の顔をした母さんが手を付きながら立っていた。
「けいこか······驚かせるな、全く······」
「かぐやさんだったら致命傷だったけどね。まあ、あなたの運を信じたらいいじゃない?」
「ふっ······元占い師がよく言う」
「あなたこそ······」
そう言って母さんは『イタズラ飴』の箱の上に満開の花を置いていった。
「少なくとも今年は疫病神には憑かれないんじゃない?」
「そうか······そうかもしれないな」
親父は順に子供達の頭を撫でる。
そして、二人、口を合わせて。
「「ハッピーハロウィン」」
その後、目覚めた三人には、サンタさんが秋にも来た!、と喜んでいたそうな——————。




