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‘元’第三王子の怪盗生活  作者: 九十九一
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ガーリング村にて



空は青く澄み渡っていた。雲ひとつないその青空は燦々と照りつける太陽が顔を出すのみであり、それを遮るものなど一つもない。木々に囲まれたその村には程よい日差しが差し込まれ、その中を人々が畑仕事などに精を出している。小さな子供までもが笑顔を浮かべ大人達の仕事を手伝っていた。


そんな、平和とも呼べる村の中を一人の少女が眉間に皺を寄せ、明らかに不機嫌な状態で歩いている。その少女は村で働く人々から少し、いや、かなり浮いていた。まず身に付けている服の作りがが明らかに違う。貴族が着ている服よりもかなり作りがいいことがわかる。さらに髪と瞳の色、村人達は色鮮やかな頭髪や瞳をしているが、その少女は違う。黒い。純粋な黒とでもいえばいいのか、陽の光を浴びて透き通ってすら見える。瞳の色も同じく黒い、見つめれば引き込まれてしまう…そんな錯覚すらしてしまう。肩くらいの長さで綺麗に切り揃えられた髪を揺らしながら少女は一つの家の扉を乱暴に開け放った。


「こんのボケ王子!!いつまで寝てるのよ!?」


家の中から響く怒声。畑仕事をしていた村人達は、あぁ、またか、と皆顔を見合わせて苦笑いを浮かべて各々の作業に戻る。この光景はここガーリング村では最近日常的になった光景であった。


「キサラギ様、騒々しいですね貴女も女性なのですからもう少し落ち着きを持って入ってきてはいかがですか?」


「ゔっ!?ミリアさん……」


怒り心頭の様子の少女……如月桜を出迎えたのは黒いワンピースにフリルのついたエプロン、更に白いフリルのついたカチューシャを身に付けた女性だった。その一軒家には似付かわしくない女性は乱暴に扉を開け放った侵入者に対して不満気な視線を向ける。


「そもそも、『ボケ王子』とはどういうことですか?彼の方は仮にも……」


「あ〜良く寝た、つか、なんかやけにシリアスな夢見た気がする……お、おはようミリア今日も綺麗だな……ついでにサクラも」


メイド姿の女性の言葉を遮って部屋の奥から一人の少年が現れた。その燃えるような赤い髪は見るものの視線を集め、異常なまでに整った顔つきは寝起きなのか若干の幼さを見せていた。


「私はついでか!!……おはようございますルーディス様」


「様はいらないってば、だって俺もう王子でもなんでもないし……てか国自体も妹様に乗っ取られたしな、あ、ミリア朝食頼むサクラの分もな」


「かしこまりました」


綺麗なお辞儀をしてミリアは朝食の準備へと取り掛かる。その後ろ姿を満足げに頷いて見送ったルーディスは桜の方に向き直った。


「で?なんでそんな怒ってんの?2日目か?」


「いきなりセクハラはやめて!……国王様とか貴方のお兄様とかに合流しなくていいわけ?もうこの村で何日過ごしてると思ってるのよ」


呆れた表情を隠す事なく桜は額に手を当てながらルーディスに問いかける。何が面白いのか彼はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら腕を組んで桜を眺めていた。彼等がこの村に来たのはとある理由があったからである。


「まぁ、親父も兄貴達も無事だとは思うぞ?殺しても死なないような人達だしな。親父には騎士団の連中がついてるだろうし、兄貴達にもお付きの使用人がついてる。さらに言えば親父はともかくとして兄貴達はサクラの世界で言う『ちーと』ってやつだから余程のことがない限りは大丈夫大丈夫」


「……自分たちの家族にクーデターを起こされて国を奪われる事は余程のことだと思うのは私だけかしら?」


不敵な笑みを浮かべる目の前の少年に呆れてものが言えなくなってしまう桜。何故こんな適当人間とともに来てしまったのだと過去の自分の行動を思い出してぶん殴りたくなってくるのを我慢しながら桜はこの世界に来た日のことを悔やむのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ルーディス・アタル・レティスは王城にある自室にて特に何をするでもなく時間を無為に過ごしていた。あと数週間もすれば中立国にあるオルディア魔法学園へと戻らなくてはならない。本来であれば、父である国王の手伝いなどをしなくてはならないのだが、彼には二人の優秀な兄がいる為特に出しゃばる必要もないな、と自室にて怠惰に過ごしていた。このだらけきった状態ではいけないと騎士達の演習に混ざろうとも考えたのだが、果たして自身にメリットはあるのか?そんな事を考えてはダラダラと過ごす。


実際、メリットならばある。戦闘経験が積める。さらにはいい運動にもなるだろう。交流を深めると言う点では更にいいメリットと考えられるかもしれない。王家のボンクラと思われているルーディスにとっては大きなプラスになるだろう。

だが

だがである。王家のボンクラと思われているルーディスが唐突に騎士達の演習に乱入したらどう言う印象を与えるだろうか?第一に邪魔しに来た。そう思われることはまず間違い無いだろう。それは自信を持って言える。さらにボンクラと言われているルーディスが騎士達を圧倒してしまったらどうなるだろうか?彼等は確実に自信喪失するであろう。貴族の出身である騎士団のかれらは高いプライドを持っている。ボンクラごときにと相手にもされない可能性は捨てきれない。正直に言えばルーディスの実力はかなりのものである為ボンボンが集まる騎士団ごとき圧倒する自信しかない。とすればだ、騎士団の演習に顔を出すと言うのはやめておいたほうがいい。


「暇だ……近衛に相手してもらうか?」


王直属の近衛騎士団。人数はそこまで多いわけではないがその個々の実力はかなりの物である。地位に関係なく実力の高い人物を選りすぐっている為、近衛騎士団のなかには平民の出の者も結構いる。また、彼等はルーディス自身の実力も高い事を把握している為それなりの対応をしてくれるであろうことが予想できる。


「でも近衛は確か遠征中か」


宰相とともに『龍口国』へと遠征に出かけるとの情報をミリアから聞いていたルーディスはがっくりと肩を落とす。王城に残っている暇人はルーディス位のものだろう、いや、もう一人彼と同じレベルで暇な人物がルーディスの脳裏に浮かんだ。その人物に関しては関わりを持たないのが吉である。


「にしても、暇だ」


一応が王族である為気軽に城下に遊びに行くと言うこともできない。現状の退屈をどうにかして消し去りたいものの、その手段が思いつかない。その日何度目になるかわからないため息を小さくこぼした。


(!?)


そんな事をしているとき、一瞬、空間にほんの僅かな‘ズレ’を感じた。特殊な才能とも言える魔術属性を持つルーディスだからこそ察知できたその僅かな瞬間。かれは一瞬で臨戦態勢になり、すぐさま執務を行なっている家族の元へと駆け出した。


「親父!ラー兄!リー兄!」


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