手遅れ
「浮ついていないから浮気じゃないのよ」
その一言は、僕ら家族の未来を確定している言葉だった。
小学6年生。卒業を控え、よく晴れた日だったと思う。
いや、曇っていたかもしれない。
兄弟4人と両親、祖母が各々座り、立っている中、静かにそれは始まった。
ポツポツと母が喋りだす。
繰り返される謝罪の言葉。と同時に繰り出され、迫られる選択肢。
両親は涙すらしていなかったと思う。
淡々と。粛々と。
当時4年生の妹、2年生の弟、保育園児の弟は怒られているかのように、
棒立ちになっていた。呆然としていたのか、
もしくは何を言っているのか分からなかったのか。
その中僕は一人、激しくえづきながら泣いた。
その時に至るまでの予兆はあった。
認めたくなかったが、いずれこうなることも察知していた。
ならば、
長男である僕に出来ることは無かったのか。
アニメやドラマのように何とかこの危機を回避することが出来たのではないか。
妹や弟には何も言っていなかった。
言ってもわからないと見下していたのか、それとも裏切り者と思っていたのか。
「どうしたい?」
母の一言はただでさえ引っ掻き回されてグチャグチャになって、
もう元通りになんてならない僕の頭の中をさらに乱した。
「みんなで、一緒に暮らしていきたい」
未だ枯れない涙を流しながら懇願した。
その言葉でやっと理解したのか、つられたのか、妹も泣き出した。
弟2人は泣いている僕と妹を見ながらただただ立っていた。
どうしても元には戻らないのか、どうにもならないのか。
床に頭を下げた記憶もある。
それでも、何度聞いても、答えは同じだった。
途中から何で泣いてるのかわからなくなってきてしまった。
そのうち、ふと自分に原因があるんじゃないかと思い始めた。
僕が母に協力的じゃなかったからなのか。
父の怒らすようなことをしたからなのか。
この時、後の僕を構成する被害妄想と卑屈な精神が構築されてしまった。
自問自答が繰り返されもう涙も枯れそうだった。
そんな中、今後どちらと一緒に暮らしていくか。
若い順に訊かれていった。
弟2人は迷いなく母に、妹は一瞬迷いながらも母に。
僕は……。
仕事人間の父、4分の3で母側についた妹弟。
一択だった。
今後も妹弟達と父を会わせたい。
楔になろうと思った瞬間だった。






