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第十三章 決着

第一節


「待ちなさい!」

 

 錬金術師の制止を振り切り、アリスはロボットに追いすがった。

 先ほどの発破が堪えて、ロボットは足を引きずっている。

 アリスはそのまま突っ走り、ロボットの行く手を遮った。

 アリスを見止めたロボットは、動きを止めた。

 前脚を二本上げて、ロボットが臨戦態勢に入る。

 対するアリスもロボットに答え、シャベルを掲げて身構えた。


――一瞬の静寂が流れる。


「せいっ!」


 先に仕掛けたのはアリスであった。

 アリスのシャベルが、ロボットの頭部に迫る。

 ロボットは前脚でシャベルを受け、アリスを払い飛ばした。

 飛ばされたアリスも、空中で体勢を立て直した。

 見事なアクロバットを見せながら、アリスは地面へ着地する。

 アリスが顔を上げる。

 ロボットの前脚が、アリスの頭めがけて横殴りに迫った。


「おっと!」


 頭を低くして、アリスが一撃をかわす。

 ロボットの前脚は、アリスの後ろの木に直撃した。

 木が音を立てて倒れ、鳥が慌てて逃げ出した。

 と同時に、ロボットの真下を掻い潜り、アリスが背後に回った。

 脚が欠けているにも関わらず、ロボットは俊敏な動きでアリスの方を向いた。


「ふむ……」


 ロボットの様子を見て、アリスが分析する。


(やはり、あの頭部が弱点ですね)


 一貫して、ロボットは頭への攻撃を警戒を解かない。錬金術師の銃撃でも、唯一そこだけが完全な防御を見せていたことが、急所であることを裏付ける。

 さらに言えば、アリスはロボットの頭部に隙間を見つけていた。それはひとえに、錬金術師の発破によるものである。


(あれを引き剥がせば、勝機は見えますね)


 アリスがあたりをつけて、シャベルを強く握りこむ。


「ハアッハアッ!」 


 息を切らしながら、ステラは走っていた。山を抜ける途中で、飢えたヒヒの群れに遭遇するも、そんなものはお構いなしに走り抜けた。

 ヒヒの方もポカンと口を開けながら、ステラの背後を見送っていた。

 ステラは疑問に思っていた。

 他ならない、錬金術師の言い様である。自分の足が速い事は周知の事実としても、それが父親譲りだと誰から聞いたのかは甚だ疑問である。

 そもそもステラ自身、姉であるマチルダを始めとして町にいる誰からも、そんな話は聞いたことがなかった。

 そうして沸いてきた雑念を頭から振り払いながら、ステラは全力で突っ走った。

 ステラの知らないうちに、錬金術師たちは屋敷を去ってしまった。マチルダからは単なる彼らの都合だと聞いたものの、長年一緒にいるステラは、それが嘘であると看破した。姉と錬金術師たちとの間にあった衝突を見抜くなど、ステラには容易い。

 ただ、ステラにとって、そんなこと知った由ではない。

 ステラにとって錬金術師たちは、姉との仲を取り持ってくれたのみならず、自分の罪を帳消しにしたどころか手柄に換えてくれた大恩人である。その恩人が、実は町のためにとんでもない化物と戦っていて、窮地に立たされているのである。

 ステラが出来ることと言えば、錬金術師の使い走りである。凄まじい戦いを見たステラには、それに何の意味があるのかは分からない。

 しかし、それでも、ステラはそんなことに気を回さなかった。ひたすらに、錬金術師たちの恩に報いようと走り続けた。農地を突き抜け、町道を突っ走り、ようやくその視界に屋敷が入った。



「う~む……」

 

 屋敷の中では、マチルダが悩んでいた。昨日の例に漏れず、やはり仕事にならないマチルダである。今日もこうして、家で時間を潰す他はない。


「やっぱり、あれはなかったな……」


 手を組んで考え込むマチルダである。

 もちろん、錬金術師たちを追い出した件についてである。マチルダはそれを、今更ながら酷く後悔していた。

 それというのも、マチルダが思った以上に、墓荒らしの件は問題とならなかったからである。身分を憚ったことも勿論であるが、今まで散々大騒動を巻き起こしている錬金術師一行である。何を今更といった案配で、誰も気に留めることなく、事件の噂自体がまったく広まらなかった。少なくとも、ステラの耳には入っていない。

 そして何より、追い討ちをかけるかのようなステラの言葉であった。


「おっちゃんたちと、何があったか知らないけどさ……。それって、受けた恩が帳消しになるくらいの物なの?」


 そう聞いたかと思うと、ステラは「探しに行く」と言って出て行った。

 マチルダは、その真っ直ぐな意思に答えることが出来なかった。錬金術師には否定したものの、感情が先走ったことは事実である。


「全く、我ながら情けない……」


 マチルダが独りごちて、立ちあがった。ステラに続いて、錬金術師たちを探しに出かける心算である。


「彼らには、謝らねばならんな」


 呟いたマチルダが、玄関に向かおうとした時である。

 突然勢いよく扉が開いて、ステラが屋敷に飛びこんできた。


「ど、どうした?」


 マチルダが聞く。

「ちょっと待って」

 

 ステラが呼吸を整える。


「姉ちゃん、大変だ! おっちゃんたちが!」

「何っ!」


 ステラの訴えを聞くか聞かないかで、マチルダは剣を片手に飛び出した。



第二節


 一方、山中ではアリスとロボットとの激闘が続いていた。

 ロボットは純粋な戦闘用である。

 本来ならば、汎用のアリスでは役者不足であった。経年劣化と地雷原での一撃が、アリスにとって、想像以上の追い風となっている。

 それでも依然、アリスの不利に変わりはない。

 だがしかし、アリスは戦いを止めない。

 ロボットとは対照的に、アリスは自分が作られた目的を覚えていた。他ならぬ、主人――錬金術師に尽くすためである。

 アリスには分かっていた。それが所詮、作られた感情に過ぎないことを。それが所詮、人の模倣に過ぎないことを。

 そんな折、アリスは錬金術師を傷つけてしまう。

 そうなっては最後、触れることすら叶わない。

 職務を満足に果たせず、忸怩たる思いに苛まれて来たアリスである。

 そもそもアリスには、錬金術師を始めとして、人間の持つ恐怖が理解出来なかった。知識としては持っていても、それを実感することとは話が別である。

 幸いにも、アリスは物事を探究する程度には頭が良かった。関係無い人間にとっては迷惑千万甚だしいが、時には自ら人を殺しつつ、客観的に倫理を学んでいった。

 結局のところ、錬金術師以外の命に価値を見出せなかったアリスであった。それでも、良識的な言動をするまでには成長することができた。

 そこまでしても、錬金術師はアリスに振り向かない。

 今のアリスは、忠誠で以って尽くそうと精一杯であった。いつ返ってくるかも知れぬ、主人からの厚意を信じて……。

 

 アリスとロボットは、高木がひしめく森のへと突っ込んでいった。

 幹に指と靴跡を食いこませて、アリスがネコのように素早く木に登った。

 ロボットの視界から、アリスが消える。

 一瞬驚いたロボットだが、すぐに状況を理解した。

 ロボットがアリスの集っている木に縋り付く。

 ロボットが前脚で幹を抱き締めると、木は容易くへし折れた。

 アリスが別の木へと飛び移る。

 ロボットが、その木へと縋り付く。

 何度か追いかけっこを繰り返していた時、ようやくアリスにチャンスが巡って来た。自分が倒した木に、ロボットが足を取られたのである。


(今です!)


 アリスが決断し、ロボットの背中に降り立った。

 シャベルの先端が、装甲にねじ込まれる。

 梃子の要領で隙間が広がった。


――シャベルの柄がボキッと折れる。


 それでも、アリスが指をかけるには十分であった。おもむろに両手の指を突っ込んで、アリスは装甲を力ずくで持ち上げる。

 人工筋肉が膨張し、アリスの皮膚があちこち裂けた。

 ロボットの頭部装甲板はメキメキと音を立て、遂にアリスに剥ぎ取られた。


――剥き出しになる電子頭脳。

 

「死ねーっ!」

 

 アリスが拳で止めを刺そうとした時である。

 ロボットが身を捩って、アリスをふるい落とした。


「くっ!」


 転がりつつ、アリスが呻いた。

 ここまでが限界であった。

 体勢を立て直そうと、アリスが顔を上げた時である。

 ロボットの一撃が、左半身を襲った。限界まで酷使したアリスの身体は、咄嗟の判断について来ない。

 攻撃をまともに受けて、アリスは宙に舞う羽目となった。そのまま近くの木に叩きつけられる。


「がはっ!」


 強烈な衝撃に、アリスが苦悶する。最早機能が一部フリーズして、視界までもがはっきりとしない。幸いにも、完全に壊れたわけではなく、自己修復の範囲内ではあった。しかし、ロボットはそんな猶予を与えない。


(あと、もう少しでしたのに……)


 迫りつつあるロボットを前に、アリスは大いに悔しがる。


「旦那様、どうかご無事で」

 振り上げられた前脚を見て、アリスは覚悟を決めた。


――轟音が鳴った。


 音に驚いた鳥たちが、またぞろ声を上げて、一斉に飛び立った。



第三節

 

 いつまで経っても、アリスは衝撃を感じなかった。


(はて?)


 不思議に思って、アリスが目を開ける。

 果たして、ロボットは前脚を上げたまま止まっていた。

 ぎこちない動作で、ロボットは別の方向へ向き直ろうとする。。

 轟音が立て続けに響いた。

 剥き出しの電子頭脳が、みるみる破壊されていく。


(ああ、そういうことですか……)


 ようやく、アリスは轟音の正体に気が付いた。

 アリスは音のした方向に顔を向ける。

 錬金術師が小銃を構えていた。その傍らには、マチルダとステラが控えている。

 ロボットが力を失って、地面に足を着いた。

 ちょうどそのタイミングで、小銃の残弾が尽き果てた。


「何の!」

 

 錬金術師が小銃を捨てて、素手で挑まんと歩みを進める。


「うわっ! またか」


 しかし、錬金術師は再びよろめいてしまう。

 回復したはずのスーツは、今度こそ完全に停止した。


「くそっ!」


 悪態をつきながら、錬金術師は甲冑を外していく。


「くそったれ、この! この!」


 甲冑を脱ぎ終わった錬金術師が、今度は拳銃を抜いてロボットを撃つ。

 弾が尽きると同時に、ロボットも完全に停止した。

 拳銃を投げ捨てて、錬金術師はアリスの下へ駆け寄った。


「大丈夫かアリス? ああ、こんなに傷だらけになって……」


 言いながら、錬金術師は素手でアリスの身体を点検し始めた。


「……あ」


 アリスが思わず声に出す。アリスにとって、数年ぶりに感じる主人の温もりであった。


「お?」


 錬金術師も、アリスを見て驚いた。アリスの表情には、喜びがヒシヒシと溢れている。


「大丈夫です。ほとんどが自己修復の範疇ですよ」


 アリスが答えた。


「何にせよ、無事でよかった」


 錬金術師はそう言って、アリスを抱きしめた。

 アリスの方も、それに答えながら錬金術師の背中に手を回した。決して強すぎるわけでもなく、だからと言って、ただ触るだけのものでもない絶妙な力加減であった。


「あ~、そろそろいいかな?」


 タイミングを見計らって、マチルダが切り出した。


「貴殿ら、こんな物と戦っていたのか」


 マチルダは言いながら、ロボットに近付いてまじまじと観察する。


「この目で見るのは初めてだが……なるほど、聞いていた通りの特徴だ。父が倒したと思っていたが……。そうか、蘇っていたのか」


 言いながら、マチルダがロボットに触れる。


「あ、危ねーぞ」


 錬金術師が注意する。


「うん? もう死んでるだろう?」

「死んでも毒が出ることがある」

「おおうっ!」


 物騒な忠告を受けて、マチルダが勢いよく後ずさった。


「えー、ゴホン! それにしても――」


 居住まいを正して、マチルダが続けた。

「こんな化け物、よく二人だけで倒せたものだ。少しだけ見たが、あんな戦い、巻き込まれると思うとぞっとする。……ああ、それであの時、碌に言い訳をせず屋敷を出ていったのか。やはり、墓荒らしには何か理由があるのだな。ここまで来たからには、ちゃんと教えてくれるだろうな?」


 頭の回転が速いマチルダである。


「は、墓荒らしだって?」


 二人の確執を知って、ステラが驚く。


「いいよ」


 錬金術師がマチルダの方を向く。


「話せば長くなるな」


 アリスに肩を貸しながら、錬金術師が言った。


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