表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

序章 後悔

某新人賞で二次落ちになった作品です。

このままお蔵入りにするのは忍びないので、順次改稿した上で公開していきます。


「ちくしょう!」

 

 血だまりの中で、若者が毒づいていた。

 若者の眼前に広がるのは、友人だった者たちの躯である。

 無残に撒き散らされた肉塊は、もはや誰が誰だか分からない。


「こんなはずじゃなかった!」

 

 後悔に浸る若者は、所謂冒険者であった。

 冒険者――それは大昔の遺跡に、あるいは冒険そのものにロマンを求める者である。

 だがしかし、実際のところ名乗るだけなら誰でも出来る上、一獲千金を狙う根なし草である。ごく一部の一流どころは例外として、多くは傭兵や盗賊紛いばかりで、世間からの評判は芳しくなかった。

 それでも、古今を問わず、冒険者は英雄譚の主役であった。影響を受けて、憧れる者は後を絶たない。この若者も、そんな中の一人であった。

 

 それにしてもこの若者、冒険者を名乗ったのは先日のことである。

 悪友たちと五人組のパーティーを結成して、近所の山へ繰り出したこの行為は、大人がやる探検ごっこである。

 事実、全員が童心に帰って楽しんでいたに過ぎない。

 だがしかし、運命の女神の悪戯か、そんな彼らが目的を達成することになった。

 連日降り続いた雨で地滑りが起き、山肌から人工の壁が覗いていたのである。

 こういった昔の遺跡の所有権を、法外な金額で買い取る連中が巷にはいた。


「おいおい、マジかよ……」

「これで俺らも億万長者だな!」

 

 その場に居た全員が沸き立った。正にビギナーズラックである。ごっこ遊びの延長で降って湧いた幸運に、彼らは皆酔いしれていた。


「よっしゃ! 早速掘り出すぞ!」

 

 若者が言って、皆が意気揚々と発掘に勤しんだ。


「おい、ここ開きそうだぜ」

 

 作業の途中で、仲間の一人が言った。

 金属製のそれには、確かに扉らしい物があった。

 とは言っても、肝心の開け方が分からず、皆が頭を捻って、皆で悪戦苦闘していたその時である。


「ちょっと、俺クソ垂れてくるわ」

 

 若者が断って、仲間から離れた時に事件が起こる。


「開いたぞ!」

 

 仲間の一人が、解錠に成功した。

 声から察した若者が、はやる気持ちを抑えた瞬間である。


「な、何だこいつは!」

「ギャーッ!」

 

 歓喜が悲鳴に変わった。


「な、何が起こっている……?」

 

 茂からそっと様子を見た若者に、凄惨な現実が突き付けられる。

 仲間が肉片へと変わっていったのである。

 遺跡から出てきたそれは、耳を劈く咆哮を上げると、あっという間に仲間を殺戮せしめてしまった。

 ひとしきり大暴れした化物は、次の獲物を探すかのように何処かに消えて行った。

 若者が化物に見つからなかったのは、単なる偶然に過ぎない。

 

「だ、誰か生きて……?」


 全てを見届けると、若者は仲間の遺体に恐々と歩みを寄せた。。

 血と汚物の混じった、何とも形容しがたい臭気が若者を襲う。


「オエッ! ゴホッゴホッ」

 

 胃の中にあった物を吐きながら、若者は咽た。


「ぜぇぜぇ……」

 

 喘鳴を出しながら、ようやく落ち着いた若者である。

 幸いにも、辺りはシンと静まり返っていて、化物が戻って来る様子はない。

 安堵する若者であったが、すぐに大事なことを思い出す。

 化物の向かった先には、若者の街があった。

 だがしかし、そんなことを理解しても、若者は一般人に過ぎなかった。

 化物に立ち向かう事はおろか、先回りして危険を知らせる勇気すら、若者は持ち合わせていない。

 自分が決して、物語の英雄には成れない現実を思い知らされた若者である。


「俺の……俺のせいだ!」

 

 自責の念に苛まれ、若者はその場に蹲った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=202129330&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ