序章 後悔
某新人賞で二次落ちになった作品です。
このままお蔵入りにするのは忍びないので、順次改稿した上で公開していきます。
「ちくしょう!」
血だまりの中で、若者が毒づいていた。
若者の眼前に広がるのは、友人だった者たちの躯である。
無残に撒き散らされた肉塊は、もはや誰が誰だか分からない。
「こんなはずじゃなかった!」
後悔に浸る若者は、所謂冒険者であった。
冒険者――それは大昔の遺跡に、あるいは冒険そのものにロマンを求める者である。
だがしかし、実際のところ名乗るだけなら誰でも出来る上、一獲千金を狙う根なし草である。ごく一部の一流どころは例外として、多くは傭兵や盗賊紛いばかりで、世間からの評判は芳しくなかった。
それでも、古今を問わず、冒険者は英雄譚の主役であった。影響を受けて、憧れる者は後を絶たない。この若者も、そんな中の一人であった。
それにしてもこの若者、冒険者を名乗ったのは先日のことである。
悪友たちと五人組のパーティーを結成して、近所の山へ繰り出したこの行為は、大人がやる探検ごっこである。
事実、全員が童心に帰って楽しんでいたに過ぎない。
だがしかし、運命の女神の悪戯か、そんな彼らが目的を達成することになった。
連日降り続いた雨で地滑りが起き、山肌から人工の壁が覗いていたのである。
こういった昔の遺跡の所有権を、法外な金額で買い取る連中が巷にはいた。
「おいおい、マジかよ……」
「これで俺らも億万長者だな!」
その場に居た全員が沸き立った。正にビギナーズラックである。ごっこ遊びの延長で降って湧いた幸運に、彼らは皆酔いしれていた。
「よっしゃ! 早速掘り出すぞ!」
若者が言って、皆が意気揚々と発掘に勤しんだ。
「おい、ここ開きそうだぜ」
作業の途中で、仲間の一人が言った。
金属製のそれには、確かに扉らしい物があった。
とは言っても、肝心の開け方が分からず、皆が頭を捻って、皆で悪戦苦闘していたその時である。
「ちょっと、俺クソ垂れてくるわ」
若者が断って、仲間から離れた時に事件が起こる。
「開いたぞ!」
仲間の一人が、解錠に成功した。
声から察した若者が、逸る気持ちを抑えた瞬間である。
「な、何だこいつは!」
「ギャーッ!」
歓喜が悲鳴に変わった。
「な、何が起こっている……?」
茂からそっと様子を見た若者に、凄惨な現実が突き付けられる。
仲間が肉片へと変わっていったのである。
遺跡から出てきたそれは、耳を劈く咆哮を上げると、あっという間に仲間を殺戮せしめてしまった。
ひとしきり大暴れした化物は、次の獲物を探すかのように何処かに消えて行った。
若者が化物に見つからなかったのは、単なる偶然に過ぎない。
「だ、誰か生きて……?」
全てを見届けると、若者は仲間の遺体に恐々と歩みを寄せた。。
血と汚物の混じった、何とも形容しがたい臭気が若者を襲う。
「オエッ! ゴホッゴホッ」
胃の中にあった物を吐きながら、若者は咽た。
「ぜぇぜぇ……」
喘鳴を出しながら、ようやく落ち着いた若者である。
幸いにも、辺りはシンと静まり返っていて、化物が戻って来る様子はない。
安堵する若者であったが、すぐに大事なことを思い出す。
化物の向かった先には、若者の街があった。
だがしかし、そんなことを理解しても、若者は一般人に過ぎなかった。
化物に立ち向かう事はおろか、先回りして危険を知らせる勇気すら、若者は持ち合わせていない。
自分が決して、物語の英雄には成れない現実を思い知らされた若者である。
「俺の……俺のせいだ!」
自責の念に苛まれ、若者はその場に蹲った。