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メンバーズ!!!(仮)  作者: 破死竜
1/1

警察VSテロリスト。属性バトル!

 0


 ……始めに言っておこう。この話の舞台は、西暦2345年の大都市である。そして、主人公は、”メンバー”の一員である。そして、彼の名は、「三国武利父サングォ・ウーリィアンフー」、

通称を、”ブリフォ”といった。


 1


 「何々……、『常人と違う点を持つ者を、”メンバー”として求む。”県警特捜部特者2課”』。

  ふーん、変なの」

 ビラを読み終わると、女は後部座席にそれを放った。

 「変だろうが何だろうが、俺たちが稼ぐにはこれしかないだろう?」

 ハンドルをわずかに傾けながら、男が答える。

 「まあ、そうだけどね。で、ブリフォは、”あれ”を見せるの?」

 「全部ってわけじゃないけどな……」

 言ってブリフォと呼ばれた男は車のハンドルを切った。彼が操るこの青い車は水素エンジン搭載、2ドアのスポーツカーである。

 「さ、着いたぞ風綸フェン・ルン。ここだ」

 名を呼ばれた少女は、三つ編みにしている茶色がかった黒髪を揺らせ、車を降りた。紅いカンフースーツに身を包んだその姿にはピューマのような猫科肉食動物のしなやかさがあった。


 県警本部は、白と黒のツートンカラーの高層ビルだった。何の飾り気もない殺風景な外観は警察署というより刑務所にふさわしい、そうブリフォは思った。彼は、真っ黄色なシューズに真っ青な膝のぬけたジーンズ、真っ赤なGジャンという格好をしている。それらの原色に包まれた若さあふれる瑞々しい肉体はこのう場所とは対照的な雰囲気を放っていた。

 二人は自動ドアを通って受付へと向かう。この時代でも、はなはだ人間的な理由から女性の事務員が制服姿で配置されている。

 「県警本部へようこそ。どういった御用件でしょうか?」

 ショートカットに薄い化粧の受付嬢はそう言った。ブリフォは『佐賀』と書かれたネームプレートにちらりと目をやって口を開いた。

 「募集要項を見てやって来た者ですが」

 「それでしたら、あちらの方で受け付けております」

 彼女の指さした方向には自動扉があった。二人はそちらに向かう。プシュー……、と音を立て、扉が開いた。

 扉の先にあった部屋の中には机があり、その後ろに男が一人立っていた。

 「チラシを見てやってきました。俺達は……」

 ブリフォが喋ろうとしたその時、二人の後ろで扉が閉まった。ガチャリと嫌な音がして動かなくなる。そして、男が机に手を掛け、それを何と片手で彼らに向かって投げつけてきた!

 「何すんのよ!!」

 フェンの叫びとともに彼女の身体から炎が吹き出し、机は宙にある間に灰になる。不思議なことに、彼女の服や、周囲の物品には焦げ目一つ付いていない。これこそが彼女の”能力”、”(炎)ファイア”であった。

 男が炎を無視して突っ走って来る。体当りだ。

 二人は左右に別れて飛び、それをかわした。男は勢いのまま扉に突っ込むと、それをぶち破って玄関Hポールへと転がり出た。

 「おいおい、ケーサツショの扉ってのは対戦車砲でも壊れないのが売りのはずだぜ。

 こいつ、人間なのか?」

 仕方なくブリフォも”能力”を使うことにした。彼の”(雷)エレクトリシテイ”は、フェンのように何かを消滅させるのには使えないが、他の使い方がある。

 無傷で立ちあがった男が、振り返って再び突っ込んでくる。それを今度は宙に飛んでかわし、ブリフォはその後頭部に蹴りをくらわせる。インパクトの瞬間、男の体に3000ボルトの電流を流し込んだ!

 強烈な一撃に、男の身体がようやく床に沈んだのだった。

 「ふう……」

 「お見事、合格だ」

 何もかかかっていなかった部屋の壁がモニターへと切り変わり、制服警官の像が浮かび上がる。四角いフレームの眼鏡をかけた、老年にさしかかった厳しい目をした男だった。

 「なるほど、これが面接代わりってわけか」

 「その通りだ」

 ブリフォの問いにも、平然と答える制服の男。

 「ふざけないでよ! あんなロボット相手にして、怪我でもしたらどうすんのよ!」

 死んだりしたら、とは言わないフェンである。だが、制服男は冷やかに言った。

 「この程度で怪我をするようでは使いものにならん。それにその男はロボットではない、人間だ」

 「えっ?」

 二人には信じられなかった、例え”能力者”であろうとも、この世にそんな化物のような人間がいるなどということは。だから振り返った。その動きに合わせたかのように男がぬうっと立ち上がる。チリチリの髪の毛の下でにやっと笑った。


 頑強男の名は、「文丁マン・ティン」といい、役職は、巡査であった。そして、彼の”能力”は、”メタル”。その身を金剛と化し、いかなる攻撃をも受け付けなくする力であった。

 その性格は、

 「ワシは、金に困ったけえこの仕事することにしたんじゃ」

 と言ってはばからないほど、気さくな男。

 が、しかし……、

 「とりあえず君達三人を第一小隊として扱うことにし、」

 (小隊って、軍隊かここは?)

 「この私、上官史シャン・グヮンシー警視官の元で働いてもらうことにする」

”メンバーズ”を率いる彼の方は、マンと対照的に冷たい印象を与える男であった。彼の部下となった三人は一晩時間をおいた後、翌日から任務に着くことになったのである。


 2


 「Bー33ブロックで事件発生、至急現場に向かい速やかに事態を収拾せよ」

 出勤と同時に告げられたのはシャン警視官の事務的な言葉だった。挨拶どころか説明もない。

 「具体的に何が起こったんです?」

 フェンが問うても、シャンは、

 「現地に到着してから説明する。君たちは早くマンと合流したまえ」

 とだけ告げ、端末に目的地までのルートを送信してきたのだった。


 ”メンバー”たちは、自家用車の使用を許可されている。また、制服の着用も免除されている為、ブリフォとフェンは、いつものスポーツカーで出動した。遅れてやってきたマンは、これまた私用の単車にまたがり、その後ろにつく。

 「ねえ、マン。警視官って、いつもこんな感じなの?」

 無線で問い掛けたフェンに、彼は答えた。

 「ほうよ。あん人は、余計なことは言わんけぇ」

 「無愛想な人なのね・・・・・・」


 ”現場”は、都市近郊の発電所だった。安全性よりも、燃料の運搬費用及び、使用地への電送費用の経費節減を優先した結果の、この在地。だが、そのおかげで、今、”メンバーズ”の素早い到着を得られてもいるのだった。

 マイカーから降り立った三人に、警視官からの連絡が入る。

 「到着したな。では、状況と指示を伝える」

 彼の簡潔な説明に、部下たちは黙って耳を傾けた。

 (今回の相手は、”能力者”のテロリストたち、ね)

 ブリフォは、その拳を握り直したのだった。


 発電所に侵入したテロリスト集団は、保安員たちをその”能力”で無力化すると、システムルームを占拠していた。

 「おい、入り口のカメラが映っていないぞ」

 最初に異変に気づいたのは、金髪を逆立てた男だった。モニター前の椅子に座り、ガムを噛んでいる。

 「故障か、壊されたか。後者なら、恐らくは”メンバー”だな」

 応答したのは、金髪男の後ろに立っている皮ジャン姿の黒人テロリスト。眼鏡越しに手に持った端末を眺めている。

 「銃火器無でここを占拠したことはサツにも伝わっているはず。だとしたら、送り込んでくるのは”能力者”である、”メンバー”だろう」

 「その判断が正しい」

 肯定したのは、通信機からの音声だった。

 「気を付けてかかれ、二人とも。恐らく、すぐにそちらにやってくる」

 別室からの指示に、彼らは緊張し、発電所内の地図を思い浮かべたのだった。


 三人は、先頭にマン、その後方左右にフェンとブリフォという位置取りで通路を進んでいた。

 「来たか」

 通路の先の広けた場所から、靴音が聞えてきていた。それも、複数。

 マンが手の平を振る。それを合図に残りの二人が互いの距離を広げた。フェンの周囲に火の玉が、ブリフォには電光がパチパチと音を立てながら出現した。

 間合いを詰めるべく進んでいく。しかし、何故か、通路を出るまで攻撃は無かった。


 「やっぱり、”メンバー”かよ」

 「お、おねーちゃんもいるじゃねえか」

 待ち構えていたのは、二人のテロリストだった。豪胆にも、素顔をさらしている。

 (ということは、俺たちを生かして帰すつもりはない、ということだな)

 ブリフォは、冷静に二人を観察している。一人は、彼の前に立ちガムを噛んでいる金髪男。もう一人は、フェンの前に立ち端末を触っている眼鏡に皮ジャン姿の黒人男。敵二人の射程が特定できていない為、マンは両者を繋ぐ中心点にいる。

 (ようするに、サイコロの五の目の敵味方配置ってわけだな)

 俯瞰での光景を思い浮かべ、ブリフォは戦いに備えていた。

 「誰が、おねーちゃん、よ。あなた、黒焦げになりたいの?」

 フェンが、金髪男を睨みつける。その視線を風のように受け流して、男は構えた。

 「”黒焦げ”ねえ? できるつもりかい、おねーちゃん。この、”水使い”に対して?」

 言うなり、足元から噴水のように水流が噴き出し、金髪男の全身をまるで大蛇が締め付けるときのように駆け巡った。

 「気が早い、じっくり楽しむとしよう」

 黒人男の背中には、凍てつく氷でできた羽根が浮かび上がった。互いの戦闘準備は、ただ思うことだけで完成する、それが、”能力者”たちの闘いだった。


 水 氷

  鋼

 炎 雷


 互いの配置は、簡単に表すと、上記のようになっている。

 そうして、マンの声を合図に、彼らは一斉に動き始めた。

 「ブリフォ、フェン、目の前の相手に集中せい。まだ、他にもおるようじゃ!」

 雷を、炎をまとった二人の肉体がテロリストに向かって走って行く。互いの力がぶつかり相殺の火花が飛び散った。

 (他にも、だって?)

 ブリフォの頭をマンの言葉が霞めたが、目の前の男から気を抜けるはずもない。端末を眺めながら、黒人男はその羽根から氷の弾丸を発射してきたのだから。

 「ちいっ」

 氷柱つららのように尖端の尖った弾丸は、ブリフォの四肢を狙って放たれていた。抵抗しなければ、すだれのようになった身体で発電所の床をのた打ち回ることになるだろう。

 だが、”能力者”はお互い様。ブリフォは、その手に持った電光弾を、放り投げる。

 宙を飛ぶ雷は、電磁バリアと化して、氷の刃を弾き飛ばした。

 バジッ、と”能力”同士がぶつかり合う衝撃音が広間に響き渡った。


 「こちらも始めるかね」

 金髪男が水の蛇の背に乗ったまま、左手を突きだす。と、その手の平から激流が噴き出し、フェンへとなだれかかった。

 「その程度!」

 フェンの纏う炎が視線に導かれるように怒涛に向かって飛ぶ。コンロに水滴を落したときに鳴る音を数千個も集めたような相殺音が湧きだし、広間は水蒸気で霧がかかったように視界が悪化する。

 「さっさと、灰になりなさい!」

 フェンの怒号と共に、左右の手から次々と火の玉が投げ放たれ、金髪男はそれを相殺していく。やがて、水蒸気は、互いの姿がまったく視認できないほどに満ちていた。

 (ブリフォにぶつけてしまう危険があるわね。マンは・・・・・・、まあ、あの体なら耐えられそうか)

 フェンは火球をでたらめに投げるわけにもいかず、じっと気配を探った。

 「!」

 突然、霧の中から噴出した水流を、慌てて転がって躱す。相殺する余裕が無いほどのタイミングだった。

 (あっ、ぶな! でも、今の攻撃、私の位置を分かっていた?)

 頭にすぐ血が上る性格の彼女だが、熱さだけで操れるほど、炎の技は浅くない。

 (あの水使い、何らかの手段を用いているのね)

 対するこちらは、皆目見当がつかない状況である。事態を好転させる方法は三つ。一、敵味方構わず炎をまき散らす、二、相手の居場所を見つけだす、三、相手の索敵手段を封じる。

 この内、一は論外。ブリフォを傷つけてしまうことになる。二については、考慮の余地がある。三については、まずその手段を特定する必要があった。

 (相手の能力は、”水”。それで、一体、どうやって、こちらの位置を特定している?)


 (分かるぜぇ、お嬢ちゃん、びくびくしながら位置を変えているな)

 金髪男、”水使い”は、フェンの動きを察知していた。

 ある種の昆虫が、触角に付いた水滴の動きで周囲の気配を察するように、彼は解き放った霧の一粒一粒の動きから、敵の動きを把握できるのだった。

 (さて、止めを刺すとするか)

 激流をフェンに気づかれないよう、静かに昂ぶらせていく。

 充分に破壊エネルギーを貯め込んだところで、霧の中からフェンに向かい、叩きつける!

 「なに?!」

 フェンが、怒涛が届くその”前に”大きく横に飛んで、それを躱した。この動きは、予測していなければできないものだ。

 「そこぉ!」

 能力を解き放った金髪男に、紅蓮の炎が襲い掛かったのである。


 「・・・・・・ふう」

 肩で息を吐くフェン。まだ、闘いが終ったわけではないが、とりあえず、一人のテロリストを倒したのである。

 彼女が選んだのは、二、相手の居場所を見つけ出す、という方法であった。

 水により動きを察知できるならば、炎でも可能と考えた彼女。しかし、方法は異なっていた。霧の中に極小規模な炎を放ったフェン。その炎の動きを動揺に察知することはできない。そこで、動きではなく、相手の攻撃によって炎が消えたそのことによって射線を見切り、その発射地点に向けて炎弾を放ったのだった。この方法は、先に相手に攻撃を許すため、リスクを伴う。だが、彼女は、その賭けに勝ったのだった。


 一方、ブリフォは、黒人男の氷柱攻撃を相殺していた。霧が晴れて行くに連れ、相手の照準も正確さを増していっていた。

 「この端末、防水加工しておいて良かったよ」

 宙を舞いながら、そんな余裕の態度を見せる男に、ブリフォは笑ってみせた。

 「残念、防電加工しておくべきだったな!」

 瞬間、彼の電磁波が端末を襲った。しかし、

 「純水の障壁を、電流が破れるものかね!」

 その攻撃は、床から立ち上がった氷柱によって阻まれる。さきほどから、この攻防が続いていた。

 「同じ手は通じない・・・・・・、なんてことは、知っている!」

 だが、今度の攻撃は異なっていた、弾かれた電撃は、氷柱を”回り込んで”黒人男の元へ向かったのである。

 「な、何だとー?!」

 高電圧を喰らい吹き飛び、地に落ちる男。その姿に、ブリフォは笑いかけていた。

 「表面だけでも溶かせられれば、その上を”滑らせて”電撃を送ることはできるのさ。アイススケート、知ってるよな?」

 だが、気絶した男からの返事は無かった。


 (もう一人、おる)

 マンの能力に感知系の手段は無い。しかし、刑事としての勘は、誰よりも冴えていた。その勘が、この広間にあるであろう、存在について、警告をしているのだった。

 炎と水が、雷と氷が左右で激突し、火花を散らせていた間も、彼はまだ見ぬテロリストに対して、警戒を怠ってはいなかった。

 「良く、気づいたな」

 「?!」

 突如、耳元に届いた”声”に、マンは飛び退った。

 ”能力”を発揮し、全身を鋼と化す。

 「生半可な攻撃は通さないようだな。さすが、”メンバー”だけのことはある」

 だが、声は彼の傍から離れない。姿は見えないのに、すぐ耳元でささやかれているような不快感。

 (声だけを届けているじゃと?)

 その時、一陣の風が吹いた。辺りを覆っていた霧が晴れていく。ブリフォ、フェン。そして、地に落ちた二人のテロリストの姿が露わになる。そして、彼らは一様に風上を、すなわち天井を見上げた。 

 そこに、一人の男が浮かんでいた。


 身長はそれほど高くないが、こちらが見上げている位置関係と、姿勢が良い為に、実際より大きく見える。その男は、部下たちの敗北にも心揺らさず、粛々とこの場を見下ろしていた。

 「こんなが、テロの首謀者けぇ?」

 マンが問い掛けると、男は、静かに高度を下げ始めた。

 「その通りだよ、マン巡査」

 のっぺりと起伏の無い顔は、こちらに心を見せない。だが、逆にこちらの情報は掴んでいるようだった。

 「新たなメンバー二人が加わり、”メンバー”の戦力も向上したようだね、おめでとう」

 「何もかも知っている、という顔だな」

 「さっぱりしていて、記憶に残りにくい顔よね」

 拍手までしたテロリストのリーダーに、やってきたブリフォ、フェンも対峙する。

 1対3の構図になった。


        ボス(風)

        マン(鋼)

 ブリフォ(雷)     フェン(炎)


 つまり、こういう配置である。

 圧倒的な戦力差に見えるが、ボスは毛ほども動揺する様子は見せていなかった。

 「余裕の態度ね。それとも、戦わずに降伏するつもりなの?」

 フェンが、挑発するが、それにも爽やかな笑みで応える。

 「まさか、だよ、フェン君。私には、あきらめる理由が無いからね」

 見れば、その手は身体の前で組まれ、構える様子すら未だなかった。

 「じゃったら、覚悟してもらおうかのう」

 マンが構える。見る間に、その身体が鋼の堅さを備えていく。

 同時に、ブリフォとフェンもその手に”雷”と”炎”を構えた。

 見る間に高まっていく緊張感。

 けれど、やはり、ボスは飄然とした姿のままだった。

 「来たまえ」


 最初に仕掛けていったのは、フェンだった。

 手にした火球を投げてぶつける・・・・・・、と見せかけて、一旦、手の平から落し、それをまるでサッカーボールのように足で蹴り飛ばしたのだった。

 火球は、弧を描き手投げするよりも早い速度でボスに襲い掛かる。

 だが、

 「ふむ、これは知っている」

 彼が左手を埃を払うように振ると、火球はぶつかる数メートル程手前で進路を変えてしまった。

 驚愕するフェンの前をマンが走って行く。宙にあろうとも、彼の跳躍力ならば、捕らえきれない高さではない。

 「ワシの肉体を、受け切れるか!」

 鋼の弾丸と化したマンの体当たりを、しかし、ボスは左手のひらを上に向けて捻る動きで捌く。その手から噴き出した風がマンの両脚を掬ったのだ。

 「野球のボールに投手がかけたのと逆の回転を加えるようなものでね。こうすると、この高さまでは届くまい」

 そして、落ちてくるマンの身体の陰に隠れながら放たれたブリフォの電撃は、

 「それも、もう見ている」

 右手を払うようにすると、狙いを逸らされ、床へと散って行ったのである。


 (受け止めずに、流しているから、無駄にエネルギーを消費しないわけか)

 ブリフォは、ボスの戦闘能力を冷静に分析していた。

 ”能力”は、使い手の意思で操られるもの。すなわち、使い手の体力気力が尽きれば、その”能力”も同様にその勢力を失うものである。いかに強力な人間であろうとも、男女三人分のエネルギーを真っ向から受け止めていれば、その心身は疲労し、今のように宙に浮き続けていることなどできないだろう。だから、そこには理由があるはずだった。

 「”風”、か。面白い”能力”だな、テロリスト」

 見上げながら、ブリフォは言う。

 「お褒めにあずかり、うれしいよ、ブリフォ君。さて、もう少し相手していたいところだが、私も忙しくてね」

 言いながら、その身体が浮上していく。

 「待ちなさいよ!」

 フェンが激高するが、追撃を行ってもまた受け流されることは分かっている。唇を噛み締めて睨みつけるだけだ。

 マンも、床に落ちた衝撃には耐えたものの、同じ愚を繰り返すことはせず、飛び立つことはなかった。そして、ブリフォ。

 「名前を、聞いておこうか」

 彼は、既に次のことを考えていた。

 「私の名は・・・・・・」

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