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邂逅 後編

前回からかなり時間が空いてしまいましたが続きです。

頭の中のストックを引っ張り出すのに時間がかかるので、次がいつになるかは未定ですが最後まで完走したいと思います。

勇志が依莉歌の傷口に軟膏を塗り込み瞬く間に血は収まった。


身体の痺れはほのかに発光した栄養ドリンクをぐびりと一口で飲み、多少自由が効くまでになっていた。


その間も淳が依莉歌に対し、そうやってすぐ身体を張って私たちを守ろうとするから怪我をするんだ、と説教を垂れていた。


依莉歌は怒られていることよりも、淳に心配して貰えることが嬉しく微笑みながらごめんなさいと嬉しそうに謝っていた。


「しかしこいつら二人とも強化型の異能なのか?異常に力が強かった気がする」


二人をロープで縛りあげた勇志が腕に受けた負荷を思い出し二人に言葉を投げかける。


「私も振りほどこうとしても全く振りほどけませんでした、恐らく異能者だと思うのですが…」


「取りあえず起きる気配も無いし、今回もこのまま警察に突きだしちゃう?それとも起きるのを待って情報を聞き出す?」


淳がそう言いながらスタンガンで気絶させたほうのフルフェイスの男を小突く、すると男は小さい呻き声をあげ目を覚ました。


「お、タフだなーこいつ」


少し驚いた様子で半歩飛び退いた淳が、威嚇するようにスタンガンをバチバチと鳴らす。


すっと遮るようにして制止した勇志がフルフェイスを脱がして質問をする。


「お前たちに聞きたいことが…ん?」


勇志がフルフェイスを脱がした男と視線を合わそうとすると、男は視点が定まらずどこかぼーっとした様子だった。


そう思ったのもつかの間、口の端から泡を吹きながら猛烈に暴れ出し、自分の腕の皮膚がロープによって擦れてはがれるのも構わず振り解こうとし出した。


「きゃっ!ちょっと、落ち着いてください!このままじゃ貴方の腕が!」


依莉歌が男を制止しようとしたが男は更に力を込めていき、次の瞬間ボキッという嫌な音が聞こえた。


男は自らの力で自らの骨を折ってしまったのだ。


「うえっ、マジかよこいつ…こんなの正気じゃないよ」


空いた手で口元を押さえた淳が奇怪な物を見る目で男を見降ろした。


そして今まで獣のように暴れ狂っていた男は急にピタリと止まり、今度は情けない呻き声を上げ始めた。


「腕が痛いよぉぉぉ、なんだよこれ訳分かんないよぉぉぉ…」


男は泣きながら腕の痛みを訴え、地面をのた打ち回っている。


三人は男の豹変した姿に動揺を隠せず、互いに顔を見合わせあった。


「あーあぁ、正気に戻っちまいやがったか、何処の誰だか知らねぇがてめぇらが邪魔してくれやがったのか?あぁん?」


三人が一斉に階段の方に振り向く。


するとそこには僅かな月明かりに反射した、背中まで届く無造作に伸ばされた銀髪の男が、指の至る所にシルバーのリングを付けた手で髪を掻き上げていた。


「今日の収穫を回収しに来たらこの様だ。てめぇら異能者だな?」


銀髪の男は眇めるような目つきで三人を眺め歩み寄ってくる。その視線は獲物を品定めする獣のような眼光を放っていた。


「お前が強盗の首謀者か?」


勇志が木刀を中段に構え、牽制するような姿勢を取る。


先ほどのやり取りからこちらが異能者である可能性があるにも関わらず、余裕を見せていることから恐らく相手も異能者。


勇志は全神経を相手に向けていた。


「…だったら何だってんだよ」


挑発するような口調で口元を釣り上げ、余裕の笑みを浮かべる銀髪の男。


だがすぐに興味を無くしたのか、張りつめた視線を交わす勇志とは対照的に、舐めるような目つきで淳と依莉歌を交互に見る。


「片方はちんちくりんだが…もう一人はかなりいけてんじゃねぇか。よぉ黒髪のねーちゃん、お前俺の物になれよ」


銀髪の男はいやらしく舌舐めずりをし、スカートから覗かせるふくらはぎから、服の下から主張する胸へ、最後に視線を交わす。


「申し訳ありませんが、貴方のような男性はお断りしますわ」


依莉歌はやんわりとした口調ながらきっぱりと断り、獣化の疲れとスタンガンのダメージが残る身体を奮い立たせ、ゆったりとした構えを取る。


依莉歌に馴れ馴れしくし、自分の事をちんちくりんと呼ばれた淳は心底激怒し、異能を発動して姿を消し去った。


相手の死角に回り込んで全力のスタンガンを喰らわせてやるつもりだ。


「ん?あのちんちくりんは姿を消せんのか…厄介だな。だが甘ぇなぁー甘々なんだよなぁー」


男はその銀髪をなびかせ、全身から銀色の体毛が溢れだし、甲高い遠吠えで空気を震わせた。


その姿は狼を連想させるものだった。


獣化した銀髪の男はくんくんと鼻をひくつかせ、何かを探るような気配を取る。


するとゆっくりと斜め後ろに振り返り、何も無い空間に向って急速に駆けだす、そして拳を振り上げコンクリートの床を穿つ。


その衝撃は凄まじく、床のタイルを捲り上げ辺りに撒き散らした。


「きゃぁ!」


その衝撃と捲り上がるタイルに巻き込まれた淳は、壁に強かに身体を打ち付けた。


そして姿を現した淳はぐったりと横たわり、スタンガンを力無く落とした。


「甘ぇんだよなぁー、てめぇからおこちゃまみてぇなクリームの甘ったるい臭いがプンプンしやがる。姿は消せても臭いは消せねぇみてぇだなぁ」


淳の服の袖に着いたクリームの臭いから大体の位置を感じ取った銀髪の男は、力任せの暴力的な攻撃で辺りもろとも淳にダメージを与えた。


依莉歌を庇うようにして覆いかぶさった勇志が良好になった視界に捉えたのは、気絶してぐったりとした淳の頭を鷲掴みにし、こちらをニヤニヤと眺める白銀の狼だった。


「このままこいつの頭、潰してやろうかぁ?」


その様子を見た依莉歌は顔面蒼白になり、悲痛な声で「淳ちゃん!」と叫ぶ。


その声がきっかけのように全身から強い光を放った勇志が猛然と二人に向って駆け出していた。


「淳を離せぇぇぇ!」


狙いは淳を捕らえている腕に定め、上段から研ぎ澄まされた斬撃を繰り出す。


それを見て余裕の顔をした銀髪の男が「ほらよ」と言いながら淳を手放し腕をひっこめる。


斬撃は空を切り地面を切り裂き下の階が見えるほどの威力でコンクリートを根こそぎ切り払った。


つい今しがた余裕の表情を浮かべていた銀髪の男は、目の前で起きた出来事を頭で整理出来ず、ただ本能に従うままに大きなバックステップで距離を取った。


もしあの時ほんの気まぐれで斬撃を受けていたら。


銀髪の男は脳裏によぎったそんなビジョンを打ち消すように頭を振った。


「認めねぇ、俺はこんな奴に負けたなんざ思っちゃいねぇ」


自分に言い聞かせるように小声でそう呟いた銀髪の男は声を張り上げて勇志に向って叫んだ。


「てめぇ、その木刀に何仕込んでやがんのか!」


勇志は気絶した淳を片腕に抱き、光り輝く木刀を目の前に構えたまま何も答えようとしない。


そんな勇志の様子を余裕の表情を取ってると感じた銀髪の男は、犬歯を剥き出しにし忌々しげに勇志を睨みつける。


そして四足の構えを取り足に力を注ぎこんだ。


すると緩やかな風が辺りに吹き、突然二人の丁度中間辺りで大きな爆発が起きた。


急激な熱量が二人を襲い、お互い咄嗟に身を翻した。


銀髪の男はチッと舌打ちをし、怒号を上げる。


「梨乃ぉ!人の喧嘩を邪魔してんじゃねぇぞぉ!」


その場にいた全員が一斉に階段の方に向けると、本を片手に持った腰まで伸びた艶のある黒髪の女が立っていた。


その姿は可憐とも病弱とも取れる、酷く儚げな美しさがあった。


その後ろには隠れるようにしてやや赤茶けたショートボブの女と、眼鏡を掛けた三つ編みの女が銀髪の男を睨んでいる。


「ちょっと祥一郎、馴れ馴れしく梨乃様のお名前を呼ぶんじゃないわよ!」


「黙れ紗枝、てめぇになんざ話しかけてねぇんだよ!」


「あんたこそ犬みたいにキャンキャン喚いて煩いったらありゃしないわ!」


「んだと紗代、犯すぞ!」


いきなり目の前で口論が始まり唖然とする勇志と依莉歌。


そして腕の中で気絶していた淳が身体を捩り身を起こす。


「あれ、私あの銀髪に吹っ飛ばされて…って何この状況」


「大丈夫か淳?正直この状態は俺にも分からないが、あの銀髪の仲間みたいだ、油断するな」


そうして淳を抱える腕に力を入れた勇志、そこで初めて自分が勇志に抱きかかえられてると分かった淳が暴れ出す。


「っちょ、勇志のエッチ!なにどさくさに紛れて人の事抱きしめてんのよ!」


腕の中の淳が急に暴れ出し、勇志から離れようとする。


勇志からしてみればそれどころではないのだが、暴れる淳に四苦八苦しているうちに身体の輝きが薄れていった。


それに気付いた祥一郎と呼ばれた銀髪の男は、やる気の無い溜息を盛大に吐き獣化を解いていく。


「やめだ、やめ。こんな空気じゃ喧嘩をする気も起きねぇ。さっさと帰ろうぜ梨乃」


大げさな身振りで全員の注目を集めた祥一郎は、唐突に戦闘の中断すると言ってきた。


梨乃と呼ばれた長髪で黒髪の女は顎でくいっと縛りあげられたフルフェイスの二人組を指す。


「あんなん使い捨てだ、別に連れて帰る必要もねぇだろうが」


すると梨乃は面倒くさそうに溜息を吐き、か細い声で祥一郎に苦言を呈する。


「そうじゃない、今回の稼ぎ、持って帰らないと凪になんて説明するの」


祥一郎は本日二何度目の盛大な溜息を吐きながら踵を返し、潰れたフルフェイスをかぶった男の懐から無造作に現金を取り出す。


それを近くで見ていた依莉歌が瞬時に祥一郎の手を取り捻り上げる。


だが次の瞬間またも緩やかな風が起こり、フルフェイスの二人組が爆発した。


唐突の出来ごとに依莉歌は手の力を緩めてしまい、その隙に祥一郎は素早く手を振りほどき距離を離す。


「おっと、こいつは俺らの稼ぎなんでな、そう簡単に渡してやれねぇな。それにしてもお前見た目も良けりゃ腕もいいな、マジで俺の女になれよ」


「申し訳ありませんが私、貴方のような殿方は好みじゃありませんので」


先ほどよりも強い口調でぴしゃりと言い放ち、再び戦闘態勢を取る。しかし祥一郎はもう戦う素振りを見せず依莉歌に歩み寄る。


「釣れないねぇ、なら名前くらい聞かせてくれよ」


またも断ろうとしたその矢先。


「依莉歌から離れろこの変態やろー!」


淳が立ち上がり祥一郎に向って叫ぶ。それを聞いた依莉歌は困った顔をし、祥一郎は満足そうな笑みを浮かべる。


「じゃあな依莉歌、次会う時を楽しみにしてるぜぇ」


そういって梨乃達のいる方向へ歩き出す。


途中で立ち止まり勇志の方を振り向き、親指で喉元を掻き切る仕草をし、吐き捨てるように言葉をぶつけてくる。


「勇志とかいったか、てめぇとの決着はまた今度までお預けだ。近々ここらは俺らのシマになる、次に会ったら俺様が直々に嬲り殺してやるぜぇ」


待て、と喉元まで出掛かった勇志だったが、怪我をしている淳と消耗している依莉歌を守りながら四人も相手に出来ないと判断し、苦渋の決断で四人を見送るしかなかった。


辺りは静寂に包まれ、誰もが次に紡ぐ言葉に詰まっていた。


そんな空気を破ってくれたのは淳の威勢のよさだった。


「ちくしょー!あんな奴うちの子があればぎったんぎったんにしてやったのに!」


淳が地団太を踏みながらやり場の無い怒りをそこかしこに発散させる。


「でもあの人達、力を全部を見せてないけど本当に手強いと思います」


依莉歌が頬に手を当て小首を傾げた仕草で二人の元に歩み寄ってきた。


普段と変わらない顔や仕草からは分からないが、勇志と淳は顔を見合わせる。


依莉歌の戦闘能力は獣化時は勿論、単純に合気道の腕前自体が二人の力よりも高いレベルにあった。


その依莉歌が手強いと言うからには相当の物なのだろう。


「そういえばあいつ等、俺らのシマになるとか言ってたけど最近勢力を伸ばしてるのってあいつ等の事なのかな」


淳が思いついたように質問を投げかける。


その言葉は群雲防衛軍として街を守ると決めている以上、祥一郎という男の言っていた「次に会ったら」というのは避けられないという事になる。


「これは作戦会議を立てるしかないな。そのためにもそこにいる二人を今すぐ治療してやらないと…上手く力を使えるといいんだけど」


謎の爆発に巻き込まれそこかしこに火傷を負っているフルフェイスの二人組に、弱々しく光を放つ軟膏を使い治療していく勇志。


骨の折れた部分には同じく光を放つ湿布を貼り付け包帯で固定する。後は二人が目を覚ますのを待つだけだった。



家々の明かりも消え、街灯だけが細々と道を照らす時間帯。


先ほどの四人組が、正確には一人の男だけが騒々しく話している。


「梨乃よぉ、あいつ等すげぇ美味そうだったと思わねぇかぁ?」


紗枝と紗代の無言の睨みつけを無視して、祥一郎は梨乃に嬉々として話しかける。


しかし一方の梨乃は大して興味も無さそうに返事を返す。


「貴方の趣味にとやかく口を出す気は無い。でも女児や男に手を出すのは」


言葉の途中で「ちげぇよ!」と声を荒げる祥一郎。


「そもそもそれならてめぇらの趣味だって人様に言えたもんじゃねぇだろうがよぉ」


紗枝と紗代は顔を真っ赤にしているが、暗闇の中では窺い知ることは出来ない。


恐らくは祥一郎に指摘された事に、はらわたが煮えくりかえっているのだろう。


祥一郎は後ろ歩きで大仰に手を広げながら梨乃の前を塞ぐようにし、にやけながら梨乃に問いかける。


「お前らの臭いも感じてたんだぜぇ、一部始終見てたんだろぉ?ちんちくりんの消える異能に依莉歌のセンス。それと…」


にやけた顔から一瞬真顔になる。


そしてすぐさま元の軽薄そうな顔に戻り一方的な会話を続ける。


「あの勇志って奴、あいつはよく分からねぇが危険だぜぇ」


梨乃の後ろで紗枝と紗代が自分達の体臭を気にして鼻を鳴らしている中、相変わらず表情一つぴくりとも変えずに梨乃は淡々と答える。


「危険なら摘み取るだけ。そして凪に報告をする」


淡々と事務的に、必要な言葉だけを紡ぐ梨乃に辟易し、言葉を投げかけるのを止めた祥一郎。


誰に言うでもなく一人呟く。


「もうちょっと可愛げがあったら、俺様が相手してやんのによぉ」


「「誰があんたなんか!」」


紗枝と紗代の棘のあるハーモニーに祥一郎はケタケタと愉快そうに笑い、そのまま四人は闇夜に消えていった。

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