#96~力の対抗組織:壊滅編~
飯吹はコンテナの上部・出入り口から見て、奥に当たる部分目がけ、上空から突撃する。
顔の横に手を掲げると、力を蓄えながら発言して手を振るう。
『真空の刃!』『キン!』
コンテナの上底を一人分くり抜くようにして、切込みが入る。
緑の木を使った擬態は『カコン、パラパラ…』と粉砕して飛び散った。
飯吹はその切込みを押し壊す様にして、『ゴンッ!』っと体当たりを食らわせる。
『ギシィ…』とコンテナの上底に穴をあけ、中に侵入する。
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時は少し戻る。コンテナ内部。
コンテナは薄暗いが男連中が総勢、16人、簡素なソファーに座っていた。
二十代後半の女性・国近麻美が一人、コンテナ出入り口近くに立っている。
『この手』の正装はマスク・帽子・サングラス・コートと逆に目立つ様な姿をしているが、今は全員私服である。
皆思い思いの恰好だ。上下ジャージが多い。
コンテナは”過激集団のアジト”と言うよりは、”チンピラの溜まり場”と言った様相である。
コンテナ奥には鉄筋の棚があり、このコンテナ本来の用途・駐車場のコーンや、薄っぺらい、綿も潰れた防寒着が無造作に積まれている。
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そこに、突然の変化、『この手』のメンバーの頭上から『キン!』と金属音が鳴り響く。
物が乱雑に置かれた箇所の天井が突然『ゴンッ!』と割れ、天井が『ギィィ…』と下にめくれだす。
そこから全身を覆うプロテクター、細身のフェイスシールドを彷彿とさせる仮面で、腕に赤いバンドを通した者が姿を現した。
胸には黄色い旭日章、いや、警察章、もっと簡単に言えば、桜の代紋が光っている。
警察の旭日章は『朝日の清らかな光』を表しているが、『この手』のメンバーは、”突然アジト兼住処へ、屋根を壊されながら現れる”事をされたのでは、たまった物ではないだろう。
男達は咄嗟に身構え、臨戦態勢を取った。
本来はまず、外から呼びかけ等がされるべきである。
コンテナ内で”その来訪”を待っていた一人を除いて。
国近は手をズボンのポケットに入れた。
飯吹は個人情報保護マスクの口許に内臓された、ボイスチェンジャーを通し、驚き浮足立った男達へ第一声を放つ。
声を変えていても、声に感情は乗っている。
『法力警察です!このコンテナは申請が抹消されています。警告します!速やかに手を上に挙げ、降伏意思を示しなさい!抵抗の意思を見せれば、怪我をする恐れがあります。』
飯吹はゴム弾のピストルを構え、その場の全員に視線を這わせる。
コンテナ内は17:1の割合で、正気の沙汰では無い行動を思わせる。
『か、覚悟しろやぁ!死にてぇのか!!』『き、切り刻んでやる!!』『く、くそがっ!』『け、警察は呼んでねぇぞ!!!』『こ……来いやぁ、一人で何が出来る!?』
男達は手に手にナイフや、スタンガン、打撲用のロッド、果ては拳銃を構えて睨み付け始める。
一触即発の事態を思わせる。
飯吹こと01が『武器を下ろしなさい!』と言った所、国近は一歩前に出て言った。
「待ちな!……お前の足元に散乱してる、ガラクタの中に、ガソリンの入った金属缶と簡単な発火装置が紛れている。これがその点火スイッチだ…」
国近がズボンのポケットから手を出すと、黒く光沢のある筒状の物が握られている。
飯吹はマスク越しに『なっ!』と叫ぶ。
その声を合図に、筒の先端に親指を置いた国近は、手に力を込めると
『プチっ!』と何かが押された音がした。
飯吹は『まっ、待て!』と驚き焦る。
しかし、変化は訪れない。国近は尚も口を動かす。
「これはスイッチを離した瞬間に点火するタイプの物だ…言っておくが、爆発すれば私たちが死ぬだけじゃ済まねぇぞ?試した事はねぇが…隣の敷地や、廃棄施設、駐車場なんかも火の海だ。そこそこ近くに学校やマンションがあるから、さぞかし地獄絵図になるだろうよ……」
国近の声は空恐ろしい程冷徹で、飯吹は『そんな事!』と思う…が、無視できない性質を孕んでいる。
国近は言葉を続ける。
「そこで交渉しねぇか?私もこんな所で死にたくねぇ……このスイッチはしっかりとした手順でバラせば点火しねぇ様に出来ている。こいつらを逃がせ。」
国近はそこに居合わせている男16人を逃げさせる算段の様だ。
それ以上言葉は続けられず、沈黙がその場を満たす。
飯吹は言葉を返し始める。
『それが言葉通りだとは到底思えない、忠告しておくが君たちは逃げられない。…例えここから逃げたとしても、捕まるのは時間の問題だ。今投降すれば、執行猶予が付くかもしれない。そんな危ない事を言うのは止めて…』『なら、これは何だと思う?そんなブラフを私が常に持っていると?アンタはいきなり来ただろう?いいから!”逃がす”か”地獄を味わう”か?はっきりしろ!……私は最後までここに残ってやるよ。さぁ!どうすんだ?”生きる”か”死ぬ”か?簡単な質問だろう?おら!私はこんな所でまだ、死にたくは無ぇんだよ!!』
興奮する国近の声に抑えられ、『くぅ…』と唸る飯吹。
飯吹は観念したように、ゴム弾ピストルを上に向けると小さく宣言した。
『風の声……………解った!ここに居る男達は逃がす。ただし…点火スイッチを持つ女性はここに残りなさい!もし、怪しい・不穏なマネをした場合は…即座に制圧する事を理解する様に!』
『ふん!』と唸る国近は男達へ指示を出す。
「お前達!行きな!ここで『この手で出来る事』は解散だ!渉が居ねえんじゃ、これが限界だ!元気にやれよ!幕引きと責任は年上が担うもんだ!」
男達は『姐さん!…』と何かを胸に思う。
ぐずぐずしている男達に国近は『さっさと行け!バカ野郎!』と最後に怒鳴った。
男達はコンテナから走り去る。
コンテナ前に待機していた03こと、鎌谷は『お役に立てず、申し訳ありません!……てか…自分の出番が……』と軽く呻くも、姿を隠す。
『来たな!』指示車運転席に乗る、02は、コンテナ出入り口から偽装した壁に上り、次々と駐車場に降りて来る男達を注視している。
男達は駐車場に停めている車に歩み寄ると、次々に乗車し、去って行った。
『隊長の許可が入った!03はそこから向かえ、02~08、特捜課実戦隊・前線班総員、ロールによる、各個追尾を始める。指示車ロウエストに残るのは09、以上、行動開始。』
『こちら01、了解、頼みます。02、ほどほどに要警戒。』
飯吹からの了解に、次々と支持車から飛び出していく隊員達。飯吹達の声は無線は介していない。
飯吹の発言した風の声は風に声を載せ、遠くまで音を運ぶ技だ。
飯吹は初対面・男性の声音を真似る芸当は出来ない。
指示車と飯吹の間に風の通り道を作り、指示車で声を作っていたのだ。
そのかわり、その音声には雑音が混じるのだが、風の音を受け取る者が適切に処理をすれば、かなりの雑音は除去される。
一人車に残る09は指示車の後部で隊長に送った音声・合成音声を使って遊んでいた。
『カチカチ!』『姐さん!…わりぃ、腹が痛くなっちまった!…すぐに交代を頼んます。』
『カチカチ!』『姐さん?…わ゛りい!腹が痛とーなって来ちょった!…すぐに交代を頼んむべ。』
『カチカチ!』『姐さーん!…わりぃ!腹が痛くなって来ちまった…すぐに交代を頼むわー』
『ん~…ちょっと遊び過ぎ?…ま、隊長の法力があれば、フォローしてくれるし、何より、隊長の後輩が相手だし、これで流しても大丈夫だよね?方言で音声作成しなきゃ駄目な場合もあるし…必要だよ…』
09はその名の通り、補欠要員だ。
勿論現場に同行するが、”補欠だから”と言って、ただ待機していられる程飯吹の班は生半可ではない。
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コンテナでは女性二人、国近の高校卒業以来で、懐かしい再会の場面だった。
『久しぶり、国近……マサ美?で良いんだっけ?それとも、今は麻美で良いの?』
飯吹の言葉に、国近は恥じ入る様にして、答える。
手の中の黒い筒を飯吹に”投げて”渡した。
「麻美で頼みます……はぁ、今回は何ですか?飯吹”先輩”?私は別に捕まる様な事してないし、そんな証拠もないハズですけど?」
国近は別に法力警察とはつながりなど無い、ただの腐れ縁である。高校時代からの、だ。
飯吹は一般人と喋る時同様に、マスク着用で個人情報保護状態だ。
投げられた筒・点火スイッチを見ると、それはスイッチなどでは無く、口紅だった。
口紅のキャップをポケット内で緩め、キャップを指で押す、閉めた音が『プチッ』の正体である。
つまり、”点火スイッチ”などと言うのはブラフで、女同士ならすぐさま嘘だと解るやり取りだったのだ。
飯吹は気付いていたか不明だが、国近は『話が通じた』と思っている。
『”そんな証拠も無い”ね………」
国近の言葉に、何かを感じる飯吹である。飯吹は国近に用件を述べた。
「貴方が今回身を置いていた、『この手で出来る事』リーダー宮西渉の、殺害容疑が麻美に掛けられています。事件発生時の目撃者がいないから、第一容疑者・唯一の目撃者として行方を捜していました。”麻美ちゃん”?署までご同行願えます?』
飯吹は他人行儀なのか、仲の良い相手にする態度なのか、曖昧にお願いする。
国近はかったるそうに『はぁ…』とため息をつくと、歩き出す。
法力系の過激組織『この手で出来る事』は今日、清虹市の外で壊滅した。
リーダー宮西渉が死亡した事で既に”破滅する”のは決まっていたのかもしれない…
国近が最後に逃がしたメンバーはすぐに飯吹の同僚、『法力警察特捜課、実戦隊(前線班)』に身柄を拘束される。
(ry
すみません…やんごとない事情で、少しの間、投稿をお休みするかもしれません…
途中放棄は”絶対に”ありませんが、次回は本当に未定です…
もしかしたら明日も普通に投稿するやも……未定でお願いします……




