#89~力は抜けない姿~
言葉回しのちょっとした改稿を入れました。申し訳ありません。
話に変化は一切無いです。
中性的な顔をした、男子大学生は秋穂の様子を伺っている。
「あのー…?何かありまし、た?……あぁ、すみません、不審者で、邪魔ですよね?暗い所でこんな格好してちゃ…研究所の貸し出し作業着がこんな色のジャージしかなくって…」
今の自分の姿を傍から見て、人を不安にさせる格好をしている事に気付き、秋穂の近く街灯の照す範囲に寄って道を譲る。
街灯の光の下では黒っぽい服と言うよりも、暗い青のジャージ姿だった。
所々に砂が付着し、全体的に砂っぽい、黒く見えたのは夕日の所為で、土まみれ男子大学生だった。
今はすでに日が落ち、主な光源は外灯だけである。
秋穂は自分の過剰な言葉にバツが悪く、『いえ、どうも…』と空気を誤魔化して空けられた道を通る…
そこに『ジャァーー!』と、勢いの強さをチェーンの音で示しながら、勢いよく走って来る影が一つ。
サイクリングロードは自転車レーンと歩行者レーンで分かれ、歩行者レーンは狭く、微妙に肩を横にしなければ人二人がすれ違えられない。
人が横に1.5人分と言った所で、そのすぐ横に自転車レーンがある。
突然現れた自転車は猛スピードで走り、自転車レーンぎりぎりで走り抜けていく。
つまり、
『うわっ!アブね!』『ちょっ!』『っ!』自転車は土まみれ大学生の背中をこする様に走りぬける。
土まみれ男子大学生は引き締まってさほど無い腹の方へ逃げる様に飛びのいた。
そこには道を譲った女性が丁度いる…
サイクリングロードの歩行者レーンでは、盛大な音を響かせ、先程まで動いていた人が横たわる。
立っていた男女の肉と肉は激しくぶつかり、見る者を興奮させる倒れ方だった。
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時同じくして所変わり、ある病院である。
澄玲は自分の本来居るべき職場に訪れている。
市内の大きい病院で、総合病院・清虹病院だ。
ベッド数は400床をくだらない。
国内で見れば、かなりの規模を誇る病院である。
澄玲の籍を置く職場だ。
最近訪れていた、水系統法学研究所は客分研究員の扱いだった。
澄玲は白衣を翻すと、病院に訪れた理由・難しい患者の様子を診るため、一般人立ち入り禁止の区画に訪れる。
「脳圧は…低いわね…イソソルビドは止めた?脳血流は?…うーん……」
特別病棟付きの看護師に指示を飛ばす澄玲。
声をかけられた看護師は資料を渡す。
脳の血流は脳の活動個所・活動程度を見る時に、よく目安として挙げられる。
澄玲はその値を見てから、さらに困った顔を覗かせる。
「特に…異常無し。か………まさか私がこの人を見るなんてね………あっ!勿論……請け持ったからには手は抜かないわ。久しぶりな病院の仕事だしね…」
澄玲が同室に居る看護師に取り繕う様に言った。
特別病棟のベッドには肌が割れた跡が残る、若い男で、かつて、清虹公園で騒動を起こした”元魔人”である。
所持品等の発見が遅れ、身元を調べる術が無く、捜査を強硬に進めた警察は”歯”から身元を探った。
原因不明で目の覚まさない人間に行うには、かなりグレーな部類に入る捜査だが…
調べによると、川中亮22歳、清敬大学を中退し、行方知らずの青年だ。
但し、他の調べでは、過激派集団『この手で出来る事』に所属する、火系が得意な人物である…両親は他界し、祖父母は所在を掴めていない、天涯孤独な身の上だ。
このような、被害者家族の医師が加害者を診る事は基本的に避けられるが、患者の状態が難しいので誰も手に負えず。
勝也達は”被害者”と言えるほどの怪我をしていないと言う事で白羽の矢がたった。
また、澄玲が診る事になった”決め手”は澄玲が引き受けたからに他ならない。
自分の息子とその周りの友達を危険な目に合わせた相手を診るのは、一種狂気の片鱗を感じるかも知れない言動だ。
だが、澄玲はその気持ちよりも”人を助ける事”に重きを置いている。
または、”自分の自慢の息子はやられない!”と言う、盲目的な自信の表れなのだが……それはまた別の話。
『うーん……じゃ…ちょっとだけ…』と自分に断りを入れ、澄玲は眉間に力を入れる。
『水観察』と口を僅かに動かして言うと、澄玲の目は淡い、青色の光を一瞬光らせて言う。
「あれ?側頭葉に血流?んー?……あっ!前頭葉に……ん?コレは…」『あの…雨田先生?どうしました?』
患者・川中の頭部に視点を釘づけていた澄玲は看護師の声で視点を外すと、指示を出す。
「頭部MRの次に出来る空きは?……すぐ出来ないなら…私が手術します。出来たら前立ちの先生を一人お願いしたいので、今から一時間は手すきの先生を教えて貰える?勿論、外科のね。」
『え?で、でも…』と一瞬動きを止める看護師。
しかし、急な事を言い出した医師・雨田澄玲を見て、声質を変えて了承の返事をする。
「はい、山根先生が午後は回診です。”奇っ粋先生”で有名な雨田先生からの指名なら、二つ返事で立ってくれるはずです。」
看護師の声に、若干の困り顔を覗かせては『お願いします。』と手術室に向かう澄玲である。
澄玲は天才脳外科医師として医学界・特に脳神経分野で右に出る者はいない。それに、水系が得意な法力医師である
澄玲が病院に居て、困る事は高校時代のあだ名・”列水の奇女”からもじったあだ名・”奇っ粋先生”で呼ばれる事に多少の”気恥ずかしさ”を覚える事だった。
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秋穂は思わず、にじり寄って来る大学生の顔面を殴り、一発KOの状態で『あ…ご、ごめんなさい…つ、つい…』と固まっている。
見事な右フックを土まみれの男子大学生にくらわせ、見る者を『すげー姉ちゃん!』と魅了している。見る者は停まった自転車を跨ぐ、どこかの悪ガキだ。
不(ry




