#85~力の帰還~
秋穂が剣道場から外に出ると、日はまだ西の空に浮かび、白い雲が青い空に浮かんでいる。
風は微風で肌をくすぐる、春うららかな午後の空気だった。
秋穂が剣道場の入り口前・職員用の駐車場・『亀様の庭』横で少し待っていると、剣道場から目的の二人が現れる。
「おお、金山君!外で待っておったのか?どうしたかね?」
「ああ、用事とは何ですか?それを言わずに出て行ってしまったので、慌てて出て来ましたよ」
秋穂の高校時代最後の剣道部・一年間だけ顧問を務めた土場教諭と清田校長だ。秋穂は応える。
「すみません、後輩の皆にああ言ってしまった以上、あの場に長居出来なくて…」
気恥ずかしさに頬を染めながら言い訳する秋穂である。
「ふむ、『剣の技』を伝承するのに、教えた者が教わった者に負けて、最後に苦言の発破をかける…と言うのもな…初代と二代目はそれを素でやったのだから大した者達だった…」
過去を振り返り、懐かしむ清田校長である。
秋穂は手に下げた竹刀ケースから、五分の四程だけ焼け残る木刀を、前に出して言う。
「この木刀は三年前の三年生修学旅行中に剣道部で出回っていた物ですが…強度が不自然に強いので不思議に思いまして…前にココで起こった不審者騒ぎの最中、こ…の?…っ通り…燃やされてしまったんです。黒ジャージに土色の仮面を付けた男達が熱心にこれを見てて…私と同じ清敬大学に通っている吉川君から聞く分には…『土場先生が誰かに言われて持って来た』らしいですが…この木刀について教えて貰えませんか?」
秋穂はセリフの途中で吉川の電話番号の件を思い出し、意味不明な言葉と共に木刀を土場教諭に渡す。
土場教諭は木刀を受け取り、色々見分した後、秋穂にそれを返し、考えてから言う。
「いや……ん~確かに私がここに務め始めた時に、修学旅行に行く剣道部へ木刀を渡したけど、清敬大学の剣道部から頼まれたんだ。でも…もう少し小さい物だった様な…」
土場教諭の言葉に、秋穂は『そうですか…』と落胆の息を潜める。
『次は大学の剣道部に行くか?』と考える秋穂は、またも忘れていた吉川の電話番号を風間に尋ねる事を覚えた。今度は忘れない。
まだ風間が聞いていなければ『自分から聞きに行こう。』と決心する。
さすがに今日の所は帰ろう。と決めた秋穂は土場教諭達に別れの挨拶を…と、そこに声が割り込んだ。
「ええ…と…これは儂の、いや、私の法力で生み出した、木の剣ではないか?ううーん…なんの因果か、儂、私の前に戻って来るとはな…」
「なっ!?この木刀は清田校長先生の作品ですか!しかも…木の剣って…」
驚きの声を上げる秋穂は嫌な空気を機敏に感じ取って狼狽える。黒土仮面が木刀を呼んでいた言葉は、そのまま木刀の名前だったのだ。
清田校長の話では、この木刀・木の剣は今も生きている木で、水を適度に吸わせるとより大きく、堅くなって行くらしい。
空気中の水分を常時取り込んでいる為、水を与えなくても徐々に大きく・固くなって行くそうだ。
そう言われてみれば、確かに焼けた当初は半分程だったのが、今では少しばかり伸びている気がする…
続けて清田校長は言う。
「それに、黒ジャージに土色仮面と聞くと…思い起こすのはあれ…っ、……この近くにある、大学の土系統法学研究所の職員が、フィールドワーク時に使うユニフォームじゃな。いや、連想するだけで、何も彼らがそうだとは言わんが…」
秋穂は、一気に老け込んだ調子の言葉を使う清田校長に、若干の不自然さを覚える。
が、問題は内容だ。もしかしたらもう一度土系統法学研究所に行かなければならないかも知れない…
ひとまず、今日の所は家に帰る秋穂は、ここらで大人しくするべきだった…
のかも知れない…
不(ry




