#62~力のお言葉~
勝也達三年一組『自然公園の季節を見る(春)』の準備は着々と進んでいる。
各班は模造紙一枚に収集した情報や、絵・写真・説明等を張り付け、それをペンなどで書き込み、遠くからでも目立つ様にしている。
来週の『総合』の時間には自分達のクラスメイト全員に向け、模造紙を黒板に張り、教室で発表する。
その翌週の全校集会で、それぞれのクラス担任教師が、体育館のステージにあがり、模造紙を元に全校生徒に向け、簡単に披露するのだ。
その後、三年生の共用廊下に模造紙が張り出される。
全学年の児童が三年生の共用廊下に訪れ、投票する段取りである。
投票は廊下に設置される箱に氏名を書いて投函するのだ。
今日の『総合』の時間も、三年生全児童が教室で班メンバーで机を合わせながら作業をしている。
三年生全クラスは黙々と進めていて、何処にも私語は見られない。
皆が静かに作業する中、七川は作業の手を遅め、勝也達壱班の全員に向かって話し出す。
「てか…他の班では『自然公園の季節を見る(春)』の発表ってどんな感じなんだろ?……俺たち壱班のヤツで他の班に勝てると思う?てか、神田先生の言う、何か良い事ってなんだろ?”給食を優先しておかわりできる”とか、してくれんのかな?」
七川の疑問に前半部分は共感する勝也達は応え、純一は手元の写真を見ながら喋る。
「まぁ…皆同じ様な物なんじゃない?前の学校でも…僕達はまだしてない内に転校してきたけど、近くの公園に行ってそこで過ごした事を元に何かしてたからねー……良い事は解んないけどー…ここの学校じゃ、そこまでのご褒美は無いと思うよー?」
『うん…まぁ…』と、七川は答えは期待していない様に応えるが、返し際に『ん?』と一つだけ気にして、純一にそのまま話しかける。
「そういや、純一たちは何処から来たんだっけ?前の学校はどんな感じだった?」
そんな事を聞く七川の手はお留守になり、話に没頭している…勝也は『そろそろ声を挟もうか…』と思うが、純一の妹である朱音が、それにいち早く応える。
「ここから遠いから、知らない所だろうけど…隣町の『厚平小学校』から来たんだよ。こっちの人にはなじみは無いかもね。清虹に住んでれば行く必要はほとんどない所だから、私立なんだけど、そんな良い所じゃなかったよ。ピリピリして楽しい事はそんなに無かったから…ただ、『私立』なだけあって、お金がかかる事でもある程度は何でもし放題だったかな……それこそ、ご褒美に『給食一品をオーダー出来る』とか…」
『ふーん…いろんな学校があるんだな……』と言う七川の声である。
ついにしびれを切らして割り込む声が一つ。
「もう!しっかり手を動かしてよ!七川、全然作業が進んで無いじゃん!ほら、川の写真を早く出して!純一…君!」
『あぁ、ごめんごめん、春の川ねー勝也の写真ー』と純一は手を動かしている。言われた七川は手を動かしながら、最後に一言、言葉を添える
「いや、でも、やるからにはご褒美がなんであっても『勝ち』を狙うけどさ、実際、どうしたら勝てるか考えなきゃ駄目だよ…皆は何か良い案ない?このまま写真を張って、『清虹公園はこんな春でしたー!』ってやっても……もし俺が選ぶ側なら、俺は壱班は選ばないかなぁ……誰か良い企画はない?」
『なっ…』とマナーは声を荒立てる。
「皆でやってる事に『俺は選ばない』は無いんじゃない!?もっと『気を使った事』言いなさいよ!」
『むっ…う、うん…悪い…』と鼻白む七川は声を抑えるが、納得は言っていない様子。
勝也は見かねて声を挟む。目的は七川とマナーの間を取り持つ為だが、春香は『余計な事を…』と言う顔である。
「いや、でも確かに、写真を模造紙に張るだけじゃ…皆の関心を引く様な物ではないかな…何かの物を中心に撮ってあるのはまだ良いとして、川とか、景色の写真に限っては…心に残る物は無いし…本当に『勝ち』を狙いに行くんなら、何か手を打たないと…絵とか、春の花とかの、実物を集めてない分、『手を抜いてる』と思われやすいからね……何か…うーん……まずは、模造紙の空白を全部を埋めて、『これ以上は書く所が無い』ってして、完成させてから何か考えよう。良いよな?春香?」
勝也は黙って聞いていた春香に突然話を振る。
急に話を振られた春香は『え?何?』と言いたげだ…春香に話を振った勝也は淡々と事実を述べる。
「いや……壱班の班長は春香だろ…?」『あっ…』
…春香自身忘れていた事だが、
班長然とした斉木茉奈、カメラを用意・写真を印刷した雨田勝也は班としては平班員なのである。
特にそこまでの働きをまだ見せていない金山春香が班長の任を帯びている。
春香は自分の役職を忘れていた事を隠し、務めて明るく言う。
「わ、私に任せなさい!!策は考えてあるの!!!ひとまずは勝也の言う様に、模造紙を全部埋めましょう。わ、私の秘策を使えば、皆から票をもぎ取る事なんて簡単なんだから!!」
なんでも”そつ”なくこなす、清虹市では有名な、”完璧超人”春香の声に『まぁ、春香お嬢様がそう言うなら…』と従順に従う七川達だ。
春香は額に汗を浮かべながら指示を出していく……
そんな春香を見ながら勝也達は順調に模造紙の空白を埋めていくのであった。
不(ry




