#472~力の激動 その3~
『ブォォォン……』
清虹市の昼下がり、その地の中心には人が集まり、背の高い建物が幾つか建っている。
その一つの建物の中では……
「――なぁ?もうええやろ?俺人と会う約束してんねん。はよ行かんと”よぶんに”金がかかってまうんや!堪忍してくれや!もぅ……」
そこでは、キツイケメン改め、雷銅北賀と自称する男性が体面に座る男性警官に手を合わせている。
「いやぁーそうは言ってもねぇ?」
対して、その対面に座る男性警官は、そんな自称・”雷銅陽子巡査部長の弟”に曖昧な態度を崩さない。
「……せや!あの小林ゆうおまわりさんは?ここに着いてそうそうどっか行ってもうたけど?俺あの人に”あんさん”と同じ事最初に言ってますよ?」
自称・北賀は平身低頭で”何度か”同じ説明をしている。
しかし……
「ふぅん?じゃあもう一回聞くけど……貴方は”本当に”雷銅陽子巡査部長の弟さんなの?」
取調室に彼を押し込んだその警官は自称”北賀”に圧をかける様にして問いかけている。
「そ、う、やっ!陽子”姉ちゃん”に会いたいわーそしたら俺、無実の罪で”こんな”所に監禁されてるのを”間違ってますよ”て”あんさん”の鼻を明かせるのにぃ!!」
自称・北賀と名乗る男性は目の前の男性警官に”ある事ない事”を言い募っている。
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『ガタン』
その取調室を外 :壁ほぼ一面にあるスモークガラス から見れる隣の部屋には一人の男が入って来た所である。
「むぅ……私に見て判断しろと言われても……」
「斉木課長、”彼が”例の男性です」
彼は清虹署に設置されている特捜課の警部、斉木謄課長だ。
その部屋に元からいた小田中課長補佐が斉木を出迎える。彼は斉木を補佐する役職に就いている、斉木と同年代の男性警官だ。
「いや、小田中君……いつも言ってるけど同期なんだからさ。もうちょっと気楽にして貰えると助かるよ」
斉木課長は同期の中では一番出世している男性だ。また……
「いやいや!斉木課長は”芽衣ちゃん”を、めぇとられたお方ですからね?役職は上ですし、気楽にしていたら周りの人から怒られてしまいますよ」
小田中警部は恨みがましい目で斉木を睨みつける。言葉も『娶られたお方』ではなく『目(を離した隙に)盗られたお方』だった。
「ふむぅ……」
そう、斉木の妻である”斉木芽衣”は元婦警で、”彼等が”よく知る存在だった。
小田中と斉木は同い年だが、芽衣は5歳下で彼等を立ててくれる存在……と言うか、プチアイドル的存在なのである。
つまり、斉木の家族構成に斉木の代わりに小田中課長補佐がいたとしてもおかしくない関係だったのだ。
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その当の取調室・またその呼称:”尋問室”では事態が動き出そうとしていた。
「ふむ?……ちょっと、外しますね」「あぁはいはい便所ならはよしてやー」
『ガチャ……』
自称・北賀と相対していた男性警官は何かに気付いてそそくさとその部屋から出ていく。
自称・北賀男性はそんな警官に皮肉を言って手をヒラヒラと振っている。
『……ガチャ……ガタン』「いやー北賀さん?確認が取れました」「どうも、北賀さん、お久しぶりです」
そして、程なくして自称・北賀と相対していた男性が戻ってくる。男性を1人連れて……まさか、トイレで(以下略
「うん?」
しかし、自称・北賀はその連れて来た男性に心当たりがない様子だ。
「斉木です。以前、法力警官に”ここ”で対人格闘戦の講演を、北賀さんのお父さん、雷銅行人さんと一緒に来られたでしょう?私は貴方を覚えていたので身元の保証をさせて貰いました。もしお昼がまだなら出前でもどうですか?」
そう、斉木課長が取調室に入って来たのだ。彼は自称・北賀を自称ではなく、雷銅北賀と保証したのだ。また、彼は問題を火消しする技能も持っている。
「ぇ?ええの?!俺金持ってへんけど?」
「勿論、私の奢りですよ。話しを聞く限りではご迷惑をかけてしまった様ですから、その罪滅ぼしと思って頂ければ」
「ほぉほほぅ、斉木さん?言いましたん?貴方は男前やねぇ!」
それまであまり口を開けなかった北賀は斉木が『お昼を奢る』と言うと含み切れてない含み笑いをしたのちに斉木を褒めたたえている。
「あぁ!ですがその前に……なぜ?”お姉さん”?と言ったんですか?ちょっと”その”関係で遅くなりましてね……もしよろしければ理由をお聞きしたいのですが……」
だが、斉木はただ単にお昼を過ぎた事でお昼をごちそうする訳ではなかった。
目の前に”エサ”をぶら下げられれば人は……いや生き物は多少なりとも冷静な判断が出来なくなるのだ。
「あぁ!確かに”嘘”ですもんね。警察に嘘言うたら捕まりますよってからに。あー……実は……”陽子ちゃん”が道場継げ!継がん!で親父と喧嘩したってなぁ、それなら陽子ちゃんを姉として敬わへんといけんのですわ」
「えっ?!っと……すみませんが……どういう事なんですか?雷銅さん……あ、いえ、陽子さんが道場を継ぐんですか?だとしても、何故?姉になるのですか?」
斉木としては雷銅家のゴタゴタに首を突っ込みたくはないが、彼女の進退に関わる事となると黙ってはいられない。
せっかく隊長が挿げ替えられて編成やら実戦隊の戦力補強やらで頭を悩ませたあとなのだ。出来る事ならもう少し陽子には現場で頑張って欲しい斉木なのだが……
「いやーどうなるかは分からへんけど、陽子ちゃんはいっぺん言い出したら聞かへんので”そちらは”大丈夫やと思います。でも詳しくは陽子ちゃんから聞いてください。”この件”に関しては親父と陽子ちゃんの問題になるんで」
どうやら陽子が道場を継ぐ・継がないで揉めている。これに関しては彼女の”兄”である北賀でさえも何も言えないらしい。言葉の端々に無念さとどこか安堵する声色があった。
「解りました……実は、陽子さんは今、連休を取って貰ってまして……その話しは連休明けに聞かせて貰います。では、出前を取りましょう」
「ほんまにええんでっか?迷惑になってまへん?後で請求されても俺払えませんよ?」
「いえいえ、良いんですよ。まぁ……あまり高いモノは勘弁して欲しいですが……」
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清虹市のとある場所で
『ガラガラガラガタッ!』
「うん?……ほぅ……君は……行人君か?」
「ええ。ご無沙汰しております。清田”先生”」
清敬高校の校長室に、雷銅 陽子・北賀の父、雷銅行人が訪れていた……
2人は顔馴染みらしい。




