#468~力の激動 序章~
『ガタン……』
「そこに座りな」
リビングに足を踏み入れる男2人、この部屋の主である女帝……いや女性は部屋の奥・横に置かれているソファーに座りながら、部屋の横に向けて手を振う。
「はい「……」」
部屋に訪れた男二人・沼岡と平岩は部屋の横・壁際に行くと、そこにあるソファーに……ではなく、壁際の床に二人して一糸乱れぬ同じ動きで正座して座る。
”そう”するのがココのルールなのだろう。完全に同調していた完璧な動きだ。一種の様式美に見える。
「はぁ……アンタ等ね……どうしてそう、変な所で同じ様に動くんだい?!普通に考えたら、”ソファー”に座るもんだろう!?「すみません」全く!”誰に”似たんだか……」
この部屋の主、猿野妃はため息を吐きつつそんな男2人に眦を決してみせて怒鳴っていた。
「あぁ――」
いや、そうだ、彼女が”最初に”見つけた男性も、同じ動きを最初の頃にしていた。彼女は『――多分私の育て方が悪いんだろうねぇ』と口の中だけで言う。
「……まぁ良いよ、で?樹癒とは会う約束をしていたけど、”話し”とは違うじゃないかい?私に合う時はちゃんと”約束を取れ”って言っていたんだけどね?私の記憶違いかい?」
「……」「……っ、すみません、自分が無理を言って……その、、いっ、樹癒さんの約束に一緒させて貰いました」
沼岡樹癒は隣に目を向けて、予定とは違う同行者に発言を譲ると、平岩はガチガチに緊張している様で、言葉に多少つまりながら弁解をしている。
いや、言い訳等を何もしていないので”弁解”と言うよりも”謝罪”なのだが……彼のキョドった態度が言い訳をしている様に見えた。
「ふぅん?まぁ、”それは”良いよ。私も雄二に会いたいとは思っていたからね……」
妃さんは”怒る”よりも、する事を優先してそれは”不問”としたらしい。まずは第一段階クリアだ。魔王の元に来るには少し手順が必要なのだ。
いやまぁ、ただ単に連絡を取って”会う事を許される”だけなのだが……実はコレが一番面倒な事で、細心の注意を払わなければならない。
「……で?樹癒、アンタの話しってなに?」
妃さんは平岩と話す事に飽きたのか、単刀直入にここにやって来る当初の約束をしていた者・沼岡に来訪の要件を問いただす。
「はい。それなんですが、用件は”こいつの事”なので、”雄二の話しから”聞いて貰えませんか?まさか、一度も報告に来ていないとは思ってもいませんでした」
沼岡が妃さんの視線を受けて喋り出すが、彼の要件は”平岩の事”だ。まず彼から始めなければならない。いや、これは平岩が悪いだろう。
”結婚”をするのに自分を育ててくれた”おばさん”に何の報告をせずにぐうたらしていたのだから。よりにもよって、妃さん相手に。彼女はそういう所はともかくうるさい。
「はぁ?それならそうと、まずアンタが話しを通しなさいよ?樹癒?アンタ『ガチャ』んと?って?……」
妃さんが沼岡の言葉に”アンタが”事前に言えば良いだろうに”と続けて『私に会うなら事前に用意して来るのが礼儀なのにどういう事だ?』と続ける所で丁度部屋の扉が開いた。
扉の陰からこちらに顔を覗かせる者が1人……
「あぁ、お母さん……雄二が……と樹癒?アンタも来てたの?」「「っ!?……」」
扉を開けて来たのは妃さんの娘・猿野由美だ。彼女はフリーなアナウンサーの女性で、母の部屋に現れると平岩と沼岡という珍しい組み合わせの客に驚いていた。
「……ああ、由美丁度いい所に来たね。悪いけどお茶を用意してくれないかい?」
「えぇ!?来るタイミング間違ったなぁ」
由美はこれまで・又はたまにテレビ等で出演する時とは違って、完全にOFFな姿だ。Tシャツ一枚にやわらかそうなズボン一枚を着ている。
彼女は中身もOFF時はぐうたらな様で、幼少期や成人近くまでを共に過ごした者と会うタイミングを伺っていたらしい。顔を出したタイミングを失敗した事に嘆いている。
そんな由美はいそいそと部屋の奥に行き、台所を勝手知ったる様にしてガソゴソし始める。
「まぁもう面倒くさいから、アンタ等が会う約束を守っていないのも、喋ってないのも、もうどうでも良いよ。……で、用件は?」
妃さんは娘のフリーなアナウンサーである由美の登場で毒気を抜かれたのか、それまでの眉尻を消して会話を再開させる。
ちなみに、”フリー”と言うのは二重の意味である。彼女は母親と同様に未婚だ。男の陰もない。妃さんは既の所で娘の”相手”となりうる者を目の前の男達の1人に垣間見ていた。
「……っ――」
妃さんの恫喝とも取られない剣幕に、だがそれにも負けない鋼の精神でソファーから立上がって、また床に正座して頭を下げ、DOGEZAを行う者がいる。
「――っ…………お願いします。お金を貸して下さい」「……なっ!はぁ?!」
一緒にソファーに座っていた1人、そこに取り残された沼岡は驚き呻く、
「あん?」
また、妃さんも思ってもいなかった行動と言葉に、昔の様にして額に皺を刻み、顔を上げた平岩にガンをつけていた。
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清虹市内某所
『ヒュー、ヒュー、ヒュー―』
『ガッ、ガッ、ガッ、ガッ――』
口笛を吹いてゆっくり歩く男がいる。
「お゛ら゛ぁ゛!てめぇ何ガン飛ばしてくれてんだ?おめー舐めてっと泣かすぞ?ごるぁ!」「っ!何も――」「おぃおぃ!おめぇから突っかかって来たんだろぉ?」「――だから」
「ちょぉ!見ろよコイツ、足ブルブル震えてんじゃん!こいつション便漏らすんじゃね?」「っ――」「まじまじ?こいつ漏らすの?流石にそこま行くときもいんですけど」「――っ」
主要道路から離れ、一人の 少年より年上頃・辛うじて少年の男を、ガラの悪そうな悪ガキに毛が生えた様な少年少女ちょい過ぎ位な8人集団が取り囲んでいる。
『ー―ヒュー、フゥン?』
『――ガッ、ガッ、ガツン』「んっ?――」
そこに丁度一人の男が訪れていた。歳は30歳頃でキツイ顔立ちのイケメン、キツイケメンという感じな男だ。
「っ!?あの!!ぅ……」
あわや、少年少女の数に物を言わせた集団の餌食になろうとしていた辛うじて少年は丁度訪れた者が男だった事もあり、人を呼ぶとか通報してもらうとかの助けを頼もうと声を上げる。
「――ちょぉお!、マジかいな?今時こんなことあるんか?いやマジ?!”ここは”おもろいなぁ!」
男は人の悪そうな笑みを浮かべ、ニタニタ笑いながら独り言をつぶやき、その悪ガキに毛が生えた少年少女達へ向けて歩き出す。
「あぁ?なんだよ?てめぇ!”こいつ”の仲間か?」「あぁ?」「やだぁーこわーい!」「ちょっとイイじゃん?」「「……」」「「……」」
毛生え少年少女はあとから現れたキツイケメンアラサー男にがんをつけて歓迎している。
「いやぁ、清虹って、”こういう”のがあるやん?俺”こういう”のめっちゃ好きやねん!俺が見とくから、お前ら勝手にしぃや」
「……ぇ!」「は「「ぁ「?」」」」「「ち「っ「!」」」」
キツイケメンはしかし、毛生え少年少女を止めたり通報しようとはせず、むしろ煽っている様にして手の甲を振ってみせる。
これには辛うじて少年が驚いているが、毛生え少年少女は煽られてはいるが、自分たちのやってる事の不味さを知っている為に続けようとはしない。
まぁ不気味なニタニタ男が後ろにいれば気が散るのもあるだろう。
「なぁ?本当に見てるだけなのかよ?」
そして遂に、毛生え少年の1人がキツイケメン男に声をかける。どうやら闖入者に背中を向けて事に及ぶまではしないらしい。
「ん?なんや?もうしまいかいな?つまらんのぅ」
キツイケメンは続きが始まらない事に業を煮やして落胆する声を出す。
「なぁ?こいつもやっちゃって良いんじゃね?」「いやぁ流石に声かけてくるだけあって強そうじゃん?」「あたしはちょっとイイかも?」
「いや、止めといた方が」「ふーん?」「ニタニタっ、してるしっ、キモォっい!」「あれ方言?」「はぁ?数で押し切れば余裕っしょ?」
毛生え少年少女は若さが有り余っていて狂暴な所がある。キツイケメンを前に内緒話しになってない内緒話しをしている。
「うん?お前らの喧嘩はじゃんけんで言うたら相手がチョキだしてるのにお前らがグーでボコボコ無駄にタコ殴りにして悦に浸ってるだけや。全然美しくない「「な「「「「っ「「!」」」」」」」」せやけど俺のグーは相手をスパっと殴るだけやから……「「っ「!」」」美しいぃんや」
『ドサッ』『ドサッ』『ドサッ』
「「な「「「っ!」」」」」
キツイケメンは毛生え少年の中でも彼を貶したり倒せると息巻いている者達だけを早業で殴っていた。殴られた少年達は一発KOされている。
他の毛生え少年少女達はキツイケメンの動き、速さ、言っている事のヤバさに気付いて驚きすくみ上がってしまう。
この話しはフィクションであり、登場するアラサーのニタニタ男がワルガキを殴っていたとしてもフィクションです。
暴力は止めましょう。
やられたとしてもやり返すのは犯罪になる可能性があります。




