#464~これからの力~
#463~力のこれから~のBパート的お話しです。
時間は違う頃だと思います。
『ヒュゥゥ―――』
「あれ?それは……、あぁ?ないよ……、あ?……、あっ?!持って来てないよ!っていうかそもそも……、あれっ?おかしいな……」
風が吹き抜ける清虹市、中でも北に位置する土旗地域の各所で子供達のざわめきが聞こえてきていた。
「……いやぁぁああ!?、……いちいちうっせぇ!!、……いいから”こっちに”、……いやいやいやそれは”こっちの”だから……、……いつものこと?」
だが、その子供達は街中で見かける様なありふれた子供達ではなく、いつもとはまた少しだけ様相が違う。
「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ん……、うわっ、うっ、……う?、うん?ちょっと!?ちょっとちょっと!!ねぇどうしたの?……」
小学校低学年であろう少年が1人泣きだして、その子の周りにいる彼よりも高学年だろう男子達が顔を背けるが、一人の高学年らしい女子児童が人目も憚らずに大泣きしている少年に駆け寄っていく。
「……え゛ぐ、え゛ぐ……「……コイツラに、何かされた?」
泣いていた少年はひとしきり泣いたあと、駆けよって来た女子児童に頭を撫でられたのが功を奏したのか、多少落ち着いてきていた。
……ごれ゛ぇ゛……「”これ”って?……」
少年は両手で目元を隠していたが、彼の片手は透明なビニール袋を握りしめている。いや袋はその場にいる児童全員が持っていて、何かの紙や新聞紙、空き缶、草木等々、児童によって入れる物を変えたビニール袋をそれぞれが一つだけ持っている。
……な゛に゛ぃ゛も゛ぉ゛ぉ゛、はい゛っ゛てぇ゛、な゛い゛の゛ぉ゛!」「……何も入ってないの?」
しかし、泣いている少年の持つビニール袋だけは何も入っておらず、綺麗な透明のビニール袋は彼だけだ。
「おかしいね?……これってどういう事なの?……”あんた達のは”いくつかあるみたいだけど?」
少年の目線に合わせる様にして屈んでいた少女は、その少年・引いては現時点で彼女の周りにただ突っ立っている少年達へ怒りの成分がにじみ出いてる声と視線を向ける。
「はぁ?!俺達は悪くねぇよ!」「はぁ……」「始めた時にちゃんと説明したし、途中で確認もしたんだけど……」「はいはい、俺らが悪うござんした、っと」「は!?……(ホストとホストに貢ぐ女ってこういうヤツ?なんだろうな)……」
しかし、威嚇する様にして睨む少女の周りにいる少年達はどこか困惑or呆れの混じった態度と返事をしていた。特に最後に声を返した少年は少女には聞こえない程度の小声でブツブツと何かをつぶやいている。
……ちなみにだが、大泣きしている少年はあどけないながらもどこか陰のある少年で、ガッ!とくるお姉さんもいるだろう容姿だ。
「ちょっ!?……っ……三年生と四年生を見習いなさいよ!アンタ達が勝手に”校外清掃”にして『”校外”が良い。低学年の面倒も見る!校外が俺たちを待っている』とかって言ったんでしょ?低学年の子達の面倒を見る気が無いんなら”学校で草むしり”してた方がずっと楽で、早く終わるハズだったんだからね!?」
高学年男子達から散々な陰口と邪推をされていた女子児童は、”土旗商店街の近く”と言う校外であるにも関わらずに怒鳴り声を上げて高学年の少年達を非難している。
どうやら彼等彼女等は『学校敷地内の草むしり』か『郊外の清掃活動』のどちらかを主軸に選択して今日は活動しているらしい。また、口ぶりから察するに拾い集めた”ごみ”か”雑草”か、そのどちらかを一定数集めればその分早く帰宅出来る制度な様だ。
これは勿論の事だが、児童達が自主的に行っている地域活動等ではなく、学校が課した学校周辺地域の清掃活動である。
そう、彼等彼女等は皆、学年は違えど一組・三組・五組の奇数組の者で、先の清瀬小学校で行われた運動会の白組になっていた者達だ。彼等は二組・四組・六組の偶数組からなる紅組に負けた事で彼等だけで清掃活動をする事になっている。
一応の形としては『紅組の者達は清掃活動をしなくとも良い』としていて、白組の面々だけが清掃活動を課されている。
今日は運動会の予備日として清瀬小学校はお休みだ。
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『ギィィ…………ガタン!』
清虹市にある住宅街の端、北に位置する土旗地域の最北端にある邸宅の門が開けられて、すぐに閉められる。
『……ッ、ッ、ザッ、ザッ、ッ、ッ、……』
その邸宅に一人の女性が丁度今帰ってきていた。
『ガァッ』「……」
「……お帰りなさい」
門から建物の玄関にその帰ってきた者が歩いている所で、玄関の扉が中から開けられて家人が出迎えている。
「……ただいま帰りました。秋穂お嬢様は今「ああ、説明はいりませんよ」はい。夕方頃に」
帰ってきた者は風間凪乃、金山家に仕える風間家の1人娘である。
彼女は清虹市にいる金山家の長女である金山秋穂が今いる場所を説明しようとしたところ、出迎えた女性・凪乃の母親である千恵に遮られてしまっていた。
だが、それでも迎えに行く時間だけでも伝えていた様だ。母娘の会話にしては少々固いが、言葉を省略していたりと幾分か気安い会話になっている。
少し前までの金山邸でのやり取りから見ると、少々おざなりな会話である。
「所で凪乃?ちょっと話があるから身支度を終えたら居間に来なさい」
千恵はそのまま凪乃をすんなりと家に入れず、玄関の外で話しを続ける様にして指示を出していた。
「……?、はい」
凪乃は千恵の指示に軽く疑問を覚え、ほんの少しだけ間をあけるも、きちんと返事をしてから動き出す。何となく……いや、凪乃はこれまで独りでこの家の雑事等を切り盛りしていた身なのだが、現在は彼女の両親・景と千恵がココに戻ってきている為に張り合いがない……訳ではなく、その代わりにこの家の姉妹・金山秋穂と金山春香の補佐・或いは世話にその身を費やしていた。……具体的に言えば、夕飯の用意を景に取り上げられたり、姉妹の補佐を千恵に手伝って貰ったりしてタイムスケジュールに余裕ができ、若干の戸惑いや不安があるのだろう。
むしろこれまではこの家の女主人・四期奥様の補佐や手伝いが疎かになっていて、学生もしていた凪乃はオーバーワーク状態だったのだ。
……凪乃は家政婦・執事・学生/未成年と、職業だけを見ても三足の草鞋で、形だけでも切り盛り出来ていたのはひとえに彼女が優秀だったからだ。
清虹市にある金山邸の様な大きな家は部屋数が多く、ホールや庭がある豪邸は、数人の家人で回していても何ら不思議ではない。
『ガチャ』
「っ……、お待たせしました」
凪乃はココ最近にまた着だしたワンピースにエプロンを合わせた衣服、実用的なメイド服に着替えて金山邸の居間に参上する。
「ええ、そこに座って頂戴」「はい」
彼女が居間に入って不自然にならない程度にだが一瞬戸惑ったのは、居間で待ち構えていた人間が思ってもいない人物だったからだ。
「貴女の”これから”について、少し相談があります」「……」
いや、”思ってもいない”とは言っても別に不自然な事ではない。この金山邸の主人、金山四期奥様である。
「……失礼します『『カチャ』』……」
四期奥様の両脇には景に千恵と、凪乃の両親まで揃っているのでソコまで言う程ではない。プチ面談である。
だが、凪乃が居間のテーブルにある椅子に座ると景がお茶を出す歓待ぶりにはさすがの彼女でも何かを言いたげだ。勿論取り乱したりする程ではないが……
「飲んで頂戴?このお茶は”風間さん”がお土産に持って来てくれたモノで、凄く美味しい紅茶だから」「はい。頂きます」
”風間”凪乃は四期奥様が言った”風間さん”とは誰か、聞く事はない。
四期奥様が言う”風間さん”とは”風間景”の事である。
この場にいるもう一人の”風間さん”・風間千恵の事ではない。
いや、彼女も景と同じ場所に居たので、この場合に限って言えば千恵の事も内包している”風間さん”と言える。
凪乃はついこの間までは”風間さん”呼ばわりされていたが、景が家にいる時に四期奥様が言う”風間さん”は景の事になる。
つまり、凪乃は清虹市の金山邸で四期奥様の補佐をする”風間さん”から外れた事を意味していた。
「……ありがとうございます。とても美味しいと思います」『カチャ』
四期奥様の”風間さん”から外れた事に関して、凪乃はソコまで言うほどショックを受けてはいない。どちらかと言うと”これまで”が特別だったのだ。
彼女はカップを皿に戻して四期奥様の方に視線を向ける。
「それで……相談なんだけど……」
四期奥様は凪乃が多少緊張している事に目を瞑りながら本題を凪乃に言い渡そうとしている。
凪乃は多少身構えているが、なんて事はない。
清敬大学を卒業した後の進路……と言うか、”ゴルドラファミリー”の業務等々の確認だろう。
……実を言うと、これまで何度か言われている事だ。曰く『”ゴルドラファミリー”だけじゃなく、やりたい事を見つけなさい』や、『何か趣味を持ちなさい』等々……
「はい」
しかし、凪乃は金山家に仕える者としてはあるまじき事に、四期奥様の言葉を聞き流している。
実は”これ”を言われ始めたのは五年前ぐらいからだ。より強く言われる様になったのは凪乃の高校卒業前に『大学に行く・いやいや高校卒業したらゴルドラファミリーに専念する』と言う話し合い頃からである。
「……凪乃さんは彼氏とか作らないの?」「ん゛っ!?……いえ……」
そうだった。”これ”も最近言われている事だ。凪乃は少しだけ戸惑う様子を見せてから口を閉ざす。
「なら、仲の良い男友達とかは?……多分そういう人もいないのよね?と言うより、作る気がないのよね?」「……その…………秋穂お嬢様や春香お嬢様に”そういう”方が出来てからに……」
四期奥様の言葉は的を射ている。凪乃は冷や汗を拭う様にしてこめかみを指で抑え、四期奥様と目線を逸らす様にして言葉を返す。
「ちゃんと目を見て話しなさい。「……はぃ……」で、どうするの?」
四期奥様は凪乃の態度を諫め、”今後”どうするかを問いただしていた。
「……」
いや、凪乃も四期奥様の心配を理解はしている。
凪乃は”風間家”唯一の子供である。凪乃が結婚しなければ特別養子縁組の養子が貰えないし、風間家を繋ぐには凪乃が行動を起こさなければ風間家はおしまいだ。
彼女は風間家の直系である景の実子ではなく、血を繋げるには景が子供を為さなかった時点で断絶しているのだが……
彼女を弁護するならば、金山家に仕える家付きの血はそこまで重要視されていない。ただし、血は繋がっておらずとも風間家の役割は受け継がれるので少なくとも凪乃が風間家を繋げなければならないのだ。
その為に凪乃は結婚する事が最低条件とも言える。
まぁ、一応は凪乃が結婚せずとも風間家を繋ぐ事は出来るが、”凪乃”と言う虹の子が風間家を継ぐ事になった時点で他の”家付き”の者から不満が出ている現状だ。
「……その……一つ、考えがありまして……」
「……」
しかし、凪乃は金山家の当主、金山限無会長の『構わん』と言う軽い投げやりな一言で一応はお済付きだ。その分他の”家付き”からは厳しい目が向けられているのだが……
兎も角、四期奥様はそんな微妙な立場な凪乃の”考え”を無言で促す。
「……そ、そのっ……秋穂お嬢様の旦那様に”お情け”を頂いて、私が私生児を「黙りなさい!」っ……はぃ……」「「はぁ」」
なんと、凪乃はあろうことか、まだそんな噂もない秋穂が結婚する男性に”手”を付けさせて、風間家存続の問題を解決しようとしていたのだ!
まさかの言葉に四期奥様は怒声を響かせる。景と千恵は声を揃えてため息を人知れず吐いていた。




