#463~力のこれから~
遅くなりました……
『ガチャガチャ……』『ガッ……』『カチャン』『ガッガッ……』「「「「「「……」」」」」」」
多少は広さがある とある部屋で、黙々とご飯等を食べる集団がいる。
「……なぁ?!ご飯のおかわりって「ありません」……なっ!?」
「……にゃ?!このシチューにゃら「いいけど、持ち帰り用の容器は自分の所から持ってきてもらえる?」……にゃっ!?」
「……ぬぅっ?!まてっ!?シチューがまだあんならっ!「シチューのおかわりも、もうほとんどありません。おかわりは一人一回までで」……ぬぅっ!?」
「……俺はもう良いが……雄二「っ?!」あとで話しがある。「……」そう睨むな。”これからの話”だ。……午前中には話を終わらせておきたいから、そのつもりでいてくれ」
「……のぉぉぉぉぉ!!?「「「!?」」」「何かあったんですか?」だってそれってよぉ?!今後この”朝飯”がいつかはこうやって食えなくなるって話だろっ?!のぉぉぉ!!」
「っ、それば……」
そこにいる男達は口々に今食べている朝食がもう食べれなくなるだろう”今後”を嘆いている。
「……ふふん!」
その食事を作った当の女性は男達の視線を受けて不敵な笑みを浮かべるが、決してその口からは”今後も作ってあげるよ?”等と言う言葉が出てくる様子は見られない。
「……」
彼女は明日から等と言うすぐでなくとも、そう遠くない未来にはこの食事をこの部屋の主である平岩雄二の為に作る事になる予定なのだ。
「片づけてくる」
「今日の昼と夜ごはんは……えっ!?……もしかして……無い……んですか?はぁ……」
「食い気の方が大事にゃ!はにゃより団子にゃ!」
「賢人さん……そういえば今どうしてるんだろ?」「「「……」」」
「これから何を楽しみに生きていけば良いんだっ?……」
という言葉を残して平岩以外の男達は食事に使っていた食器類をそのまま持って自分の部屋に引き上げていく。
彼等は”ドライ”、、ではなく……”しみったらしい”……と言うよりも、目に浮かべた涙を流さない様に足早に部屋から立ち去ってしまう。
「あの……樹癒さんの言っていた”話し”の前に、自分からも大事な”お話し”をしたいです。これから時間を取ってもらえますか?」
そして、平岩と飯吹の二人だけが部屋に残った所で彼はおもむろに口を開く。
「……はい」
飯吹はこれまで、面と向かっての話し合いが恥ずかしかったのか彼には茶化した返事と態度をしていた。
だが……彼女はここで彼のその顔を見て、しっかりと真面目な顔で返事をする。
彼女も何かを察して真面目な雰囲気を作り出していた。
「えっと……」
そういえば彼女は”ちゃんと”プロポーズされていない。
もしかしたらそんな類の”お話し”なのだろうか?……いや、きっとそうに違いない。
なぜなら彼女はこれまで愛情表現を積極的にしてきたが、”彼の方からは”その愛情を向けられた記憶がない。
”やる事はやっている”ので嫌われている訳ではないハズなのだが……
「悪いとは思いましたが、貴女の症状の『妊娠しづらい』と言うのをコチラの方で調べさせてもらいました」
「……ぁ、はい!、、、大事な事ですもんね。雄二さんが調べて嫌な訳ないですし、私もそんな話しは聞いた事なかったので実感もなかったんですけど……今になってちゃんと考えてみたら…………そういう噂とかも聞いた事ないし……事が事なんでちゃんと私も知ってなきゃ駄目ですよね」
平岩がしておきたい”お話し”とはどうやら飯吹の”症状”やら”状態”の話の様だ。だが、彼女は彼女で自分の事なのにどこか他人事である。
「そうですね……貴女が”ちゃんと知っておかないと”駄目なお話しです……」
また、平岩は飯吹の言葉を聞いて、『”私も”知ってなきゃ駄目な』と言う部分を強調して彼女の言葉を否定しない。
「……自分もあまり女性とはそんな話をする性分ではありませんが……そんな話を聞いた事ありませんでしたし、インターネットで調べてみても、『普通の”不妊”』についての事しか見つけられませんでした」
「ふぅん?もしかして……『妊娠しづらい』って言うのもよく分かってない事で、そんな診断がされた全員が”妊娠しづらい”って言う事でもなかったり?とか?”絶対妊娠しない”って訳じゃないそうですけど」
平岩がインターネットで調べてみても、特に新情報を発見出来た訳ではないらしい。
少人数でも彼女と同じ診断がされれば、その者達が調べるか、その”症状について”情報を発信するハズだ。
そんな話がカケラも”ない”のは飯吹の言う様に何かの間違いや、誰かが流した根も葉もない話の可能性があるのかもしれない。
「いえ、清虹病院の産婦人科でされた診断ですし、その『妊娠しづらい』と言うのも自分が調べ出した”資料”の事なら間違いなく『妊娠しづらい』事です」
「……そう……ですか……」
だが、平岩は”飯吹の状態”について何らかの情報、ひいては”資料”を探し出しているそうだ。
「インターネットだけじゃなく、色々な伝手を頼って広く調べてみても全く見つかりませんでした。……多分ですが”市が意図的に隠している話”なので普通に調べるだけでは見つからないんだと思います。っ……」
「……”市が隠している”?……それってどういう?……」
彼は殊更に声を小さくして言葉を続ける。
「……まず、確認させてください。……貴女が最後に病気で病院を受診したのはいつですか?」
「……えっと?……病気で病院に?……ふむぅ……」
だが、彼の言葉は説明ではなく確認だ。
もしかしたらこの話し会いでも、彼女の状態を確認する一環なのかもしれない口ぶりだ。
「……いやぁ……ん~、擦り傷とか打撲とか……健康診断で病院に行ったり、”同僚”や”家の人”の付き添いで病院に行った事はありますけど……私が病気で病院に行った事は”一度”もないです。……覚えている限りでは」
飯吹は健康体だそうで今年で33歳になった女性だが、病院に行かなければならない程の病気を患った事もなく、怪我を診て貰う為でしか病院を受診した事しかないそうだ。
「では、質問を変えます。……貴女は風邪をひいた事がありますか?「?」……つまり、、特に理由もなく、原因も分からない咳が続いた事は?「??」もしくは周りの人は特に”暑い”と言ってないのに、貴女だけが”暑い”と思った事はありませんか?「???」えっと……ともかく、具合が悪くてご飯を食べられなかった事はありませんか?」
平岩は飯吹の態度を見ながら探る様にして疑問を重ねている。
飯吹は『貴方は何を言っているんだ?』と言いたそうな顔を向けるだけで平岩に問われるがままだ。
「……うーん……ん?!あぁ、そう聞かれたなら答えられます。私は具合が悪くてご飯を食べられなかった事はありません。実を言うと……”具合が悪くなる”って言うのがよく分からないんです。『すっごい疲れて眠くてご飯が食べられない』って訳じゃないんですよね?」
「……、……」
飯吹の言葉を聞いて今度は平岩が押し黙りつつも頭を上下に動かしている……
『”具合が悪くなる”って言うのがよく分からない』、これはどうやら彼が聞きたかった事らしく、この言葉を聞けた事で彼の顔は疑問や疑念の色が多少解消されたらしい。
「解りました。貴方の症状ですが、特に名前は付けられてないんですよ。「????」先ほども言った様に、”市が意図的に隠している話”なので、原因を特定されない為に。「?????」もし仮に貴女の状態に名前を付けるとしたら……『法力アレルギー』とかですかね?「??????私、アレルギーなんですか?」あ、いえっ、”アレルギー”と言ってしまうと他のアレルギーの人とは大分症状が違うので駄目ですね……すみません、貴女は別に”アレルギー”という訳ではありません……」
平岩は失敗したと言う感じで動き、部屋の隅にある大きな液晶画面の電子端末を取り出す。
『ポワンッ』「どうぞ、これに貴方の症状が纏められています」
平岩は”パイナップル”社製の電子端末・ナップルパッドの画面を点灯させて飯吹に手渡した。
「おおっ!デカい……どれどれ……」
彼女は液晶付きの端末としては嫌に大きすぎる画面に目を向ける。
「……ふむ、『高レベル法術士が起こす無意識な事象改変とその問題」……ん?なんですか?これ?」
飯吹は画面に表示された文字を口に出して平岩に視線を向けた。
「それは清敬大学 医学部 法術医療科で提出された電子レポートです。「電子レポートって?」論文ですね。清敬大学の医学部は清虹病院と提携して医学生の実地研修を病院の医師に監修してもらったり、病院に研究室を設置して医療現場で研究をさせています。なので清敬大学の校舎ではその分そういった治療以外の研究や思考実験なんかが多いんです」
「ふぅん……論文ねぇ……あ、はい」
だがしかし、飯吹は端末に表示された電子レポートの二項目、三項目……と指を這わせて動かすが、すぐに戻して表紙に当たる部分・一項目に戻して平岩に顔を向ける。
「ええっと……では……自分が簡単に説明しますが……法力・法術ともに、どれか一系統でも優れている一部の人は水系法力を無意識に発現させて身体の中にある雑菌や悪性腫瘍等を攻撃する様になるそうです。自分に害あるモノを無意識に排除している訳です」
「え?水系法力ですか?でも……」
「はい。水系法力を発現出来ない人であっても、体内に限っては発現出来るらしく、かなり強力な殺菌効果があるらしいです。その為に風邪や病気にかからず絵に描いたような健康体だとその論文に書かれています」
「殺菌?」
「それも、臓器や善玉菌等の身体に必要な細菌には回復効果があるらしく、免疫的には細菌の情報も取得しているので免疫予防についても問題ないと……」
「……」
「……つまり、貴女の状態を分かりやすく言えば、必要な遺伝子・つまり相性の良い人との子供は簡単に妊娠しますが、必要ではない遺伝子・つまり合わなかった人との子供は妊娠出来ません……なんでも受精したとしても免疫が攻撃して着床が出来ずに妊娠には至らないそうで……」
「……え?……」
飯吹は平岩の言葉を聞き、信じられない事を聞いた様にして口を半開きにして固まってしまう。
「……”妊娠しづらい”って話しじゃ……」
そう、平岩の話す内容では、『自分とでは妊娠出来ない』と言うものだった。
「いえっ……その……”妊娠しづらい”とは言っても、その女性に限ってだけ言えば、相手を変えれば妊娠出来るので……つまり、飯吹さんの話であれば、自分ではない他の男性とであれば、妊娠して出産できる可能性があります。勿論その選んだ男性の遺伝子が攻撃されてしまう遺伝子だった場合はまた他の男性を選ばなければなりませんが……」
「……」
飯吹は平岩の言葉を聞き、彼の話を理解出来ただろうが特に言葉を返さずに押し黙ってしまう。
「……あ、あの……まだ自分とは籍もいれてませんし、結婚式の準備も何もしていません……今はまだどんな選択をしても問題ない訳です」
「……ぁ……」
平岩の取り繕った様な言葉に彼女は何かを悟った様だ。
「……まずはこの論文に書かれている事が貴女の状態の事なのか調べる必要はありますが……多分、風邪をひいた事もないなら論文に書かれている事で間違いないハズです」
「……」
平岩は取ってつけた様にして自分の調べた事を調べる様に言うが、多分間違ってはいないのだろうと飯吹に向けて最後の言葉を続ける。
「どうしますか?……私と結婚して、他の男性の子供を妊娠して出産しますか?それとも、私と結婚するのを取り止めますか?…………貴女がどんな選択をしても、私は貴女の望み通りにします」
「……今日は帰ります」
飯吹は平岩へ、今後どうするかを特に言わずに帰り支度を始めてしまう……
彼女は目の前のモノに注意を払っていない様にして、心ここにあらずな足取りで帰路につくのだった。




