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力の使い方  作者: やす
三年の夏
460/474

#459~力の国では差がつく~

遅れてしまいました……


「……」

”第六警備隊隊長”が前に突き出している手、その手は素肌を晒すモノではなく、ただの布ではないだろう手袋に覆われている。

「がぅがぅ!」

その手に向かって、二頭いる四足歩行の獣の内の一頭が口を開けて迫っていた。


「っ!」「しゃっ!」「ふぉらぁ!」

そんな獣の牙と”第六警備隊隊長”の手が重なり合う瞬間、動き出すのは雷銅の横や右斜め後ろにいた男達、法力警察官達である。

彼等は突如走り出して獣を押さえつけようと動き出していた。

「……」

だが、雷銅はただ見つめるだけで足を動かそうともしていない……


「あぁ?!……”待て”と言っている!」『ブホォォッ!』

「なっ!?」「はぁっ?!」「まっ、っ!?」

動き出した男は小松、橋元、塩谷の三人だ。

彼等は”第六警備隊隊長”の苛立ち交じりな叫びと怒声、そして突然吹いた強風の煽りを食らい、身体が硬直してしまう。

奇しくも彼等は皆、30歳を超えている男達だ、

「……やっ!?……あれ…………」「雷銅さん!?あれ……」「……分っています」

鎌谷、坂巻、雷銅の30手前、二十代の者達はそのまま動かずに成り行きを見守っている。



『ブォォォ……「貴方がたは”自分”の忠告を聞いていなかったのですか?!」

「かっ!?ぅぅ……」「更にっ?!ぅぅ……」「たっ、助けようと、っ!?ぅぅ……」

そして、”第六警備隊隊長”から『……ォォォォ……』と言う高音な音が聞こえてくると、次の瞬間に”第六警備隊隊長”はふわりと空中に浮いて天井を手で押しながら張り付いて、近くまで来ていた小松、橋元、塩屋の三人にその頭の上から声をかけていた。

小松たちは一瞬驚いた表情を浮かべるが、即座に噛みしめる様な呻き声を漏らしながらその場にうずくまってしまう。


……ォォォ……「……雷銅さん!”アレ”は何がどうなって?……」……ォォォ……「……ヤバそうですね……」……ォォォ……「”アレは”恐らく、強風が上から下に向けて送り込まれて、あの人達が動けなくなっているのだと思います」……ォォォ……「この音が風の発生源でしょう……ただ、その風は彼女が法力を発現させた様には見えません。どういう理屈で風が発生しているのか……」

”第六警備隊隊長”や小松達の方からは、相変わらずにもずっと高音の音が連続して鳴る様にして音が聞こえてきていた。

鎌谷が雷銅にどういう事が起こっているのか聞くも、その答えは坂巻から予想として答えている。だが雷銅はその予想に頷きつつも原理などが分かっていない……

”第六警備隊隊長”は法力の技を発言しておらず、やった事としては”ただ手を伸ばして肘を曲げた”ぐらいだ。しかし、見た限りで言えば肘を曲げた瞬間に風が吹いているので、その動作が”合図”となっているのはまだわかるが……

……ォォォ……

どうやって考えてみても”第六警備隊隊長”の仕業なのは解るが、それがどういうカラクリか、又はどういう理屈でそんな風に男三人が動けない様な強風が起きて、それを近くにいる雷銅達が風を肌で感じる事が出来ないのか、全く予想も出来ていない。

……ォォォ……「……っ……」

雷銅は人知れずに恐怖して、咄嗟の指示が出来ずにいた。

「雷銅さん……」……ォォォ……

雷銅の背後にいる坂巻は、いつもとは違い いつまでも指示を出さない雷銅へ行動を促す様にして囁きかける。


「……っ、申し訳ないっ!彼等はどうやら気が動転して、その……犬?を押さえつけようと動いてしまったらしい。決してその”動物?”に暴力を振ろうとした訳ではないっ!」……ォォォ……

そして遂に雷銅は、小松・橋元・塩谷を行動を弁護するようにして言葉を向ける。


……ォォォ……「っ、、、分りました……」……ォォ……

”第六警備隊隊長”は息を詰めてから了解の返事を雷銅に向けて返す。

……ォ……ォオオン』『ガタッ、』

高音な音が徐々に小さくなると、最後は野太い音に変わり、その次の瞬間には”第六警備隊隊長”は地面に降り立っていた。

「……くっ」「……っ!」「……はぁ」

そんな”第六警備隊隊長”の周りにいる小松・橋元・塩谷の三人は床にへばりつけられていたが、”第六警備隊隊長”が空中から降り立った事でその戒めも解かれたらしく、立ち上がりつつある。


「ほら……見なさい。『がぅがぅ』”この者達”は別に『ベチャベチャ……』我々への害意等を持っている訳ではありません」

そして”第六警備隊隊長”は白い四足の獣に手を向けて言って聞かせる様にして彼らへ説明をしていた。

『……ベチャベチャ……』『……ベチャベチャ……』「っ……」「はぁ?……」「……」

白い四足の獣二頭は”第六警備隊隊長”の見た感じは硬質なモノで覆う手をそれぞれベロベロと舐めしだいている。

「……」

白い毛並みの犬らしい四足歩行動物に、両手をベロベロと舐められている”第六警備隊隊長”は特にこれ以上説明する必要は無いとでも言う様にしてそれぞれに顔を向けるだけだ。

「っ……その犬?……は、ココで飼っている動物なんですか?」

雷銅はたまらずに声をあげる。


炭鉱などではカナリアを鉱山の最深部で飼い、そのカナリアが死ねば、無味無臭の有毒ガスがどこからか発生していると判断する。

カナリア等の小さい動物だと有毒ガスの致死量が人間よりも少なく、人間よりも早くに亡くなってしまうからだ。

またカナリアは『ぴよぴよ』といつも鳴くので、『鳴き声が聞こえなくなる→死んでいる→毒ガスが発生している』と、誰もが簡単に気付ける。


そう言う事ならば、人間よりも低い位置で呼吸して活発に動く犬ならば、”そういった理由”で面倒を見るのはおかしくない……


「まぁ……そうですね……この子達は”開発拠点”で飼っているホウロウ・”チーズン”と、ホウロウ・”レーズン”です。」

「ホウロウ?……もしかして、狼の一種?なんですか?」

”第六警備隊隊長”は白い二頭の犬?……いや、狼らしい二頭の名前を教えてくれた。

雷銅は幾分か柔らかくなりつつある”第六警備隊隊長”の返答の声を聞いて少しばかり気持ちを明るくして応えている。


「”ちーずん”?に、”れーずん”?って……」

また、先ほどまで身動きが出来ていなかった男の1人、橋元は狼?らしい者の名前を聞いて『……安易な!』と言う声音でぼそっと皮肉げに愚痴る。

「ふんっ!……間違えない様に!『ホウロウ・チーズン』と『ホウロウ・レーズン』です!」

だが、”第六警備隊隊長”はそんな橋元へ怒る様にして訂正を入れていた。多分だが、突然動き出して暴力を振ろうとした彼等を目の敵にしているのかもしれない声音である……

「……あっ!、あっ、あぁ……」

橋元は『名犬じゃねぇんだから……』と言う考えが頭をよぎるが、”第六警備隊隊長”は今もなお小松・橋元・塩谷に対して怒っているらしく、七色に光るバイザーを向けていた。

「……すまん、てっきり噛まれて流血なんてしたらと思ったらな……」

橋元としては、まだ三十を迎えてないぐらいの、自分よりも年下であろうと思っている”第六警備隊隊長”に怒りの目を向けられても焦る事は無いが、彼女に対してあまりにも敵意を向けられれば、彼女よりも怖い”隊長”がらどんな罰があるのかと考えを巡らせて下手にでて言葉を返している。

「まぁ……良いでしょう……確かに、『彼等が徘徊している』と言わなかったコチラにも落ち度がありますので。……ですが、何度でも言いますが、ここ”開発拠点”内での他生物への暴力は一切禁止です。」


「……」

ここでの雷銅は橋元の態度とこれまでの付き合いから彼の考えや”思い込み”を静かに理解しているらしい。

”第六警備隊隊長”の方が年上で、橋元よりも戦闘能力がある。橋本に事実を教えやっても良いのだが、”第六警備隊隊長”が許してくれているのならわざわざ教えるまでもないだろう。

と言うより、現状で”第六警備隊隊長”の目をかいくぐって橋元に”第六警備隊隊長”の年齢を教える機会がない。

先程のトイレがある”休憩スペース”で”第六警備隊隊長”から年齢を聞いたのは彼等男達がトイレに行っている間の話しである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―



『位置について、よぉい『パァン!』』

清瀬小学校の校庭では四年生を受け持つ先生が空へスターターを発砲している。

『……あぁー!!、わぁーー、いっけぇー、ラッキー!、勝ってくれー、やっれぇー!、……』

対して勝也達がいる校庭と校舎の間にある学生待機場所からは三々五々の声援が校庭に向けて送られていた。

「っ……」

勝也はそんな風に前方から色々な心が込められている声援を聞きながら校庭へ静かに視線を向けている状態である。

「いやぁー、だから、悪かったって……」

そんな勝也の隣では同じクラスの女子、先ほどペアを組んで競技に参加していた女児・山郷朱音が勝也に向けて謝罪の言葉を重ねていた。

「……いやっ、別に良いけど……」

そう、そんな風に朱音に言葉を返すのは勝也である。いや、正しくは”少々の砂が所々に付着している勝也”である。

説明するまでも無いが、勝也は朱音のスタート時の大声とそれからの独断気味な足さばきに足を取られ、転倒してしまっていた。

今は特に何の面白みのない清瀬小指定のジャージ服を着ている勝也だが、少し前までは茶色い砂模様がその服全体に施されていたのだ。

「……まぁ、お陰であの時は一位になれたしね……」

「……でしょー?そう思うんだったら喜びなよー」

また、勝也が怒れない原因として、勝也が無様に顔から転び、そのあと手とか肘で地面を進んでゴールしたところ、見事にそのレースでは一位になれていた。

周りの走者からは、憐憫の目や『そこまでして勝ちたいのか?』と言う感情の目で見られた気もするが、朱音の作戦は悪い意味でだが成功し、見事に勝利をもぎ取っていたのだ。


「ふっ!簡単なレースだったね、それは砂漠でオアシスを求めて歩く者の気持ちだよ。「そ、その心は?」どちらも『あぁラクダ……』さっ」

「……」

また、勝也達と少し離れた席では純一と春香が他のクラスメイト達に話題の中心として目を向けられていた。

これは勝也の予想だが、純一は意外にも陰で努力をするタイプらしい。

春香もそんな純一の隣で静かにしている。

「……」

多分春香と純一は陰で努力をしていたに違いない。そんなバックボーンが無ければ、同じく一位に輝いた自分達にも祝いの声や労いの声がクラスメイト達から届くハズなのだ……

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