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力の使い方  作者: やす
三年の夏
448/474

#447~力の国が始まる~


「はぁぁぁぁぁ……」

雷銅は独り、盛大にため息を吐いていた。

場所は彼女が一時的に居を構えている”ロ島”第三コテージ(四階)の一室である。

「……っはぁぁぁ……」

雷銅がため息を吐いているその原因だが……

「ガガッ」「……10万円に……2千輪と少々……」

雷銅は財布から現金を取り出して、さらにこの国の貨幣・”輪”を机に並べている。

要は手持ちのお金を数えているのだ。


彼女等は休日兼出張として”輪の国”に訪れているが、実はこれには別段期限を設けられている訳ではない。

帰りも船だが、聞くところによると定期便なら無料で乗せてくれるらしく、特に清虹市へ帰る場合は乗船中の食事を我慢すればお金がかかる事もない。

港に近い所ならば名実共に帰りの費用を心配する事なく帰る事が出来る。

そして”輪の国”・ロ島で生活すると、宿泊費と食費で一日を合計2千円程度で過ごす事が出来る。いや、輪の国基準で言えば2千輪で過ごす事が出来る。

他の法力警察官達は多少手持ちにバラツキがあるが、大体は皆同じぐらいのお金を持っている。


「……こっちも、、」『ゴロッ、ゴロッ』

また、彼女達はこの島々で使われていたり発掘される鉱石、”感強石”と”感風石”の原石を手に入れる事に成功している。

しかし、一番の目玉である”感応石”は、一度法力警察官仲間である塩谷が店で見かけただけで、その後は話しにも上がってきていない。

これで塩谷が一度でも”感応石”と出会っていなければ、そろそろ清虹市に帰還する事も視野に入れて動くのだが、一度出会ってしまったが為に往生際悪く探し求め続けている。

そのお陰か雷銅達は今現在、”ロ島”にある道や店をおぼろげならも把握しつつあった。

曰く『”ロ島”の東に向かうのなら一度、北の上階に向けて歩き、その後は下りながら東に向かえば”ロ島”の東側に行ける』等と言う塩梅だ。

”ロ島”の北の方は上方に通路が多く、南側に行くほど地下に通路が多い傾向がある。……まぁ全部が全部そんな訳ではないので所々を臨機応変に歩かなければならないのだが……


「ゴンゴン……」「っ!……」

そこで、第三コテージ(四階)の出入り口がノックされる。

当たり前な事だが、雷銅が今いる宿泊空間は鍵付きで、その鍵が付いているドアの玄関ドアがノックされている様だ。

「……はいっ!今開けます!」

雷銅は慣れた様子で玄関ドアに向かって歩き出す。



『ガチャ!』『ガァァ……』

雷銅が玄関ドアの鍵を回して開ける。続けてすぐにドアを押し開けた。


「う゛ん゛……おはようございます。雷銅様、今日の予定をお聞かせください。」

雷銅に咳払いをしてからそんな声をかけるのはバトルスーツにヘルメット、マントを付けた者……実は女性である”第六警備隊隊長”だ。

”彼女”は素顔と体形を隠して”輪の国”で生活しているらしく、流石に同僚である”第六警備隊”には女である事は知られている様だが、他の者には女である事を隠している節がある。


「はぁ、、、おはようございます。予定……予定ね……」

雷銅としては彼女の事を慮る必要は無いし、いざと言う時は敵対行動も辞さないつもりだが……今現在としては良くて中立、現実的には対応を決めかねていて消極的にどっち付かずな対応をしている。つまりは”良くも悪くもなし”と言う所だろう。

『相手が友好的なら、それを利用するだけ利用してやろう、でも気は許さないよ?』と言う感じだ。

……まぁ、当初は敵対関係だった事を考えれば、日和った様にも見える状況である。


「ふむ……察するに……”感応石”をお求めの様ですね……」

”第六警備隊隊長”は雷銅の生活の場”ロ島”第三コテージ(四階)のリビングにあるテーブルに”広げられているモノ”を見てから雷銅の考えを予想した様だ。

「まぁ、、、当たらずとも遠からず、、、ですが、、、」

雷銅はテーブルに広げていた物を見られ、”ズバリ言い当てられた”のだが、最後の抵抗として”否定も肯定もしない”返答をしている。


「ふむ……では、提案ですが…………ご自分達で”感応石”を採掘されてみますか?」

”第六警備隊隊長”は少しだけ勿体ぶる様なニュアンスで雷銅を誘っている。

「発掘?……ですが?」

雷銅としては考えてもいなかった事だ。二つ返事をするハズもない。

「ええ……ここ”ロ島”の店で売られている鉱石は全て”二島”で発掘された物です。それは、”自然と発見された物”か、”採掘者が売りに出した物”となります。」

「”自然と発見”か、”売りに出した”……ん?」

雷銅は”第六警備隊隊長”の言葉にいまいち理解が出来ていない。

彼女はよく分からない反応を示す。


「はい……”感応石”を持っていれば、それだけで輪の国では”飲食店”を始められますし、自分でも食事を作れる様にもなれるので、大概の”輪の国”の者は売らずに自分で使おうとします。本人が使えずとも直接”使える者”に売るか、飲食店の従業員として人を雇えば間接的に使えます、基本は法力を発現出来る者が”感応石”を採掘するのでそもそも売りに出される事がほとんどありません。」

”第六警備隊隊長”は言う様に”ロ島”にはいくつか食事を提供する店や、自分で料理している店がある。

”ロ島”は自由に店がある様で、”ロ島”にある店を把握している者もいないような印象が見て取れる。

つまりは”ロ島”で提供される食事は衛生状態等が気になるし、店の税収等の所が気になるが……

そういう所も含めて”ロ島”は”輪の国”のアングラ的な部分が集約されている。


「……」『……』

不思議と”ロ島”では道行く人が粗暴だったり、店の従業員が横柄だったりもしていない。

もしかしなくとも雷銅としては”へ島”の方が治安が悪いと感じている程だ。

「……」

時たまバトルスーツにマントを羽織る”第二警備隊”を見るが、その者達も特に周りを伺ったり、店や人を監視している様には見えない。

「……」

まぁ、雷銅達は目の前に立つ”第六警備隊隊長”・若しくは”第六警備隊”の者をもれなく同伴しているので彼等彼女等が周りの者達に恐れられて治安が良い様に見えている可能性も否定できないが……

『……』

そう考えるにしても街が静かである。”へ島”は結構にぎやかだったので猶更だ。

”輪の国”は島も個別で”入島制限”があるので治安はある程度の保証がされているのかもしれない……


雷銅達は”第六警備隊”の面々に同伴されている為、本来は何度も”輪の国”に訪れる事で徐々に”へ島”から行動可能な範囲を広げなければならない制約が免除されている。

ある意味では”輪の国”に来た瞬間から法力警察官達は厚遇されているのかもしれない……


「……良いでしょう。そろそろ日本に帰るつもりでしたから、出来れば”感応石”を手に入れたいです。それが出来るのなら発掘でもなんでも構いません。」

「はい……では、さっそくこれから”二島”に向かいましょう。本来”二島”は何度も”輪の国”に来ている”信用出来る方”しか入れませんが、自分達が案内する分にはそれも問題ありません。今日は我々が案内しますので皆さんと合流してから向かいます。」

”第六警備隊隊長”は雷銅が許可を出すと、途端に今後の予定を含めて雷銅達を”案内”しようとし始める。

これまでは雷銅の行きたい場所や欲しい物を受け身で案内していたが、その切り替えは早かった。


「えっ、ええ……」

雷銅は良く考えずに許可を出してしまったと内心と表情で物語る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―


『カラン!』『カラッ』

「じゃあ、再会を祝して、かんぱーい!」

『カチンッ!』

間接照明で薄暗い空間の中、テーブルには色とりどりな料理とカラフルな液体が注がれているコップが置かれている。

そのテーブルには二人が席に着いて手元にあるコップをぶつけて音を鳴らしていた。


『コロッ!』「んっんっんっ……ぷはぁ!」

その二人とは男女なのだが、乾杯の音頭を取ったのは男性だ。彼は手元のコップに注がれている黄金色な液体を口に流し込み、赤ら顔に綺麗な白い歯のきらめきを添えている。

『コロッ……』「……」

対して女性はすわった目でコップを覗き込みながら舐める程度にコップの中の液体を飲むだけで口をコップから離して中の液体を眺める動作に戻してしまう。


「あれぇ?飯吹さん、もしかして、お酒、あんまり飲まない口?……あーだったらごめんねぇ、結構ココは良い酒が飲める店でさっ……」

飯吹の目の前で飯吹を見た男性・山河は飯吹のテンションがあまり高くない事を察してしょっぱなからバーに誘った事を謝っていた。

「……んぁ、いやいや、お酒飲めない訳じゃないんですけど……その……最近飲んでなくって……その……」

飯吹は山河の態度を見て取り、”そうではない”事を説明しようと言葉を探している。


「……いやぁーいやぁー!、貴女が酔っぱらっちゃってもお家までちゃんと送るし、”ココも”何も心配しないで良いよ!俺は”アイツ”と違ってちゃんと誠実に人と付き合う人間だからさ!」

山河は”アイツ”とは違うと言う。

「”アイツ”って……その、平岩さん?の事ですよね?そのぅ……実は私、それが信じられなくて……」

そう、”アイツ”とは平岩の事だ。

飯吹の目の前にいる男性は大学時代、彼に裏切られて『女性と大学の成績を奪われた』と言っている。


「あぁーそういえばそんな話しでしたねぇ…………えぇ、勿論そこはちゃんと説明します。」

男性は、一瞬だけいやらしい笑みを浮かべてから話し出す……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―


『ガチャ』『モアッ』『ガゴッガゴッ……』「……」

とある一軒家、そこにある台所では、炊飯器の蓋を開けてお米をしゃもじで割いたり掻き混ぜている者がいる。真顔だが自分の意思を明確に持った者特有の目力がその視線に宿っている。


『ッ……』

「あっ、厘ちゃん……おはようございます。」「ぅん……ぉはょぅ……」

その台所に現れるのは小さな幼女こと、雨田厘だ。

彼女は青いパジャマ姿で今日の朝もやってきてくれている女性に挨拶もどきの言語と、寝ぼけ眼を返していた。


「今日の朝ごはんは納豆ごはん、味噌汁、白魚です。デザートにフルーツよーぐ「んっ!?」んっ?!何かありましたか?」

朝早くに雨田家に訪れている女性・風間凪乃は今日の朝ごはんの献立を喋る途中、実は雨田家で一番早くに目覚める厘から割かし大きな声で遮られてしまう。

厘は元気ハツラツ少女だが、家族や血の影響からか、朝はそこまで騒がしくなく、早朝頃は静かな良い子なのだが……


「ナギノン……の頭の”白い”のってナニ?」「えっ?!」

凪乃は厘から何か言われるのだが……彼女は咄嗟の為か理解が及んでおらず、厘の言う事をイマイチ理解出来ていない……

それは、凪乃にとって、簡単に無視できる事柄ではないのだが……

久しぶりの小学生回ですね。

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