#440~力の国での異動~
おくれました……
「……」
雷銅は”第六警備隊隊長”の思惑や、勧誘の言葉を聞いてもすぐに返事はしない。
「ふむ……こんな事を”こんなタイミング”で言ってしまいましたが……本音を言えば、もう少し信用を得てから”先の言葉”を言おうと思っていました。もう一度言っておきますが……こちらとしては貴女方の信用を得たいと考えています。『将来的には輪の国に来ませんか?』と言う言葉ですから、”今回は”観光をお楽しみください。」
”第六警備隊隊長”は暗に『いますぐ返事をしなくても良いよ』と言う事を伝えたいらしい。
「……」
だが、雷銅はやはり返事をしなかった。
「ふむ……ではひとまず”イ島”に向かいます。”海上通路”を渡るので、窮屈な思いをするかもしれませんが、ただの通路なので、ご安心ください。我々”第六警備隊”全員が貴方達の見える位置で前を歩きます。」
”第六警備隊隊長”はそう言うと、”へ島”の街並みを寸断する様に出来ていた通路の終点、人の背よりは高い建物へ向かう。
「……」『『『……ガタッガタッ……』』』
すると、先ほどまでは雷銅達の後ろを歩いていた”第六警備隊”の面々が歩き出す。
どうやら”第六警備隊隊長”の言葉通り、彼等”第六警備隊”が全員で先導する様にして”海上通路”を渡るらしい。
確かに、先ほどまでの様に”第六警備隊隊長”と”第六警備隊”の面々に前後を挟まれる様にして限定空間を移動するのは避けた方が良いとは思っていたが、彼等の方から”その心配は無用”だと言わんばかりに行動されてしまっている。
『ガ―――ゴロゴローーーーー』
”輪の国”にある”へ島”内の北西、彼等彼女等が向かった所には掘っ立て小屋……と言うよりはプレハブ小屋の様な建物で、粗末な建物だ。
しかし、その建物の正面には自動ドアが置かれていて、左右に原始的な音を立てながら開いていく。
「「「「「「……」」」」」」
その扉を躊躇なく歩いて行くのは”第六警備隊”の面々だ。彼等は雷銅達に視線を送ったあと、特に無駄口を叩くことなく歩いて行く。
「……ひとまずはそのまま付いていきます。ただし、警戒は続ける様に。」
雷銅はそれまで閉じていた口を開いて注意を促しながらも”第六警備隊”の面々に置いて行かれない様な距離と速度で着いて行くらしい。
「「「了解」」」「「うす」」
法力警察の面々はそんな雷銅の判断に否を示さずに歩き出す。
『ゴロゴローーーガ―――ーガゴッ!』
その後、法力警察官達が建物の中に足を踏み入れてから少しして岩石の様な材質の自動扉は重厚な音を立てて閉まる。
それは、入った者を簡単には逃さないような音だ。
「「「「「「……」」」」」」『……ガッガッガッガッ……』
”第六警備隊”の面々は一言も言葉を交わさずに雷銅達の前を歩いて行く。
見れば建物のある程度すぐそこには仕切りが置かれていて、入り口からは建物の奥が見えない様になっていた。
「……」「うん?」「これ「「「……」」」」『……ガタッガタッガタッガタッ……』
雷銅は終始無言だが、法力警察官達は左右にある壁や前にある”しきり”の材質等を見て歩いている。
この建物の大きさは奥行き等が見えない為に不明だが、建物全部で言えば、二十畳ぐらいの大きさなのだろう。
地域にもよるが、一般的な小中学校の教室が四十畳程度とすると、その教室の半分程度の広さがある建物だ。
「「「「「「……」」」」」」『……ガタッガッ、ガッガッ……』
雷銅達は特に言葉を交わす事無く、人知れずに口と足音を忍ばせて”第六警備隊”について行く。
「……ょう、お疲れ様です……」
「うむ……当初の予定とは違うが……事前に予定していた計画を前倒しにする。宿は”ロ島”で対応する。ひいては……」
建物に入って前方にある仕切りを、左に、もっと左に……と移動して、雷銅達の前を歩いていた”第六警備隊”を見ると、そこには駅などにある改札の様な縦長な台が二つ、平行する様にして鎮座していた。
また、そこにはバトルスーツにヘルメット、マントを着用した男が”改札の様な台”の前後に一人ずつ、合わせて二人が立っている。
改札の様な台のこちら側に立つ男が”第六警備隊隊長”に向けて右手を左胸に付ける様にして頭を下げていた。
”第六警備隊隊長”はそんな”改札の様な台”の前にいるバトルスーツ男に向けて何かを言い、これからの予定等を話している様子だ。
「「「「「「……」」」」」」
雷銅達は『すわ待ち伏せか?!』と”第六警備隊”に文句を言う事無く、目の前のバトルスーツ達の会話を聞いている。
「……わかりました。」
台の手前にいるバトルスーツ男は”第六警備隊隊長”に向かって頷くと、雷銅達へ顔を向けた。
「……」
また、”第六警備隊隊長”を含む”第六警備隊”の面々は、先頭にいる隊長の話が終わった事を確認すると、改札の様な台の間を通っていく。台の向こう側にいるバトルスーツ男はそんな”第六警備隊”を見るだけで特に何も言おうとはしていない。
「……俺が先に行きます。」
法力警察官である眼鏡男性の塩谷は”第六警備隊”が台の間を通っていくのを見送ると、彼らに置いて行かれない様にして足を動かした。
「この海上通路を通る場合は、まずそちらの台手前にある台座に身元確認のカードを置いてください。」
塩谷が台手前にいるバトルスーツ男の近くまで行くと、そのバトルスーツ男が大仰に台を指し示しながらそんな事をいう。
「解りました。」
塩谷は肩から下げているバックに手を入れて、”輪の国”のはじめ”へ島”の船着き場にある大きな受付で渡されたカードを取り出した。
その時も言われていた事だが、本当に”輪の国”では何をするにも身分証明カードが必要らしい。
”第六警備隊隊長”にも言われた事だが、このカードで”輪の国”にいる者を管理しているのだろう。
一応は”ヘトウ第十八食堂”での動きを見るに、お金を払う時は要求されなかったが、その前の換金では提示を要求されたし、”第六警備隊隊長”の話しでは宿をとる時も身分証明カードの提示が要求されそうな口ぶりだった。
「ここ……で良いんですよね?」「……」『カタッ』
塩谷は指し示された台の手前にある”台座”の確認をして、手前にいるバトルスーツ男は無言で頭を縦に振ると、”台座”に身分証明のカードを置いた。
『ガッ、サーー「っ「「「!」」」」ーーーータッ』
カードを台座に置くと、カードは小さな物音を立てながら、台の奥に”スライド”していく。
法力警察官達は”カード”が自立して動く様を見て驚きの声をあげていた。
タダの半透明なカードかと思っていたが……いや、台、若しくはカードを置いた台座には何か”秘密”があるのかも知れないが……
しかし、カードが金属ではないので磁石等で動くとは思えないし、風等で浮いて動く様には見えない……
正直に言えば、雷銅達は、”カード”が独りでに動いたカラクリが解らなかった。
「……」
「次の方、どうぞ」
台の手前にいるバトルスーツ男は、塩谷が台の間を通り台の向こう側でカードを回収した所で雷銅達に顔を向けて続いて通る様に口を開く。
「……次は自分が」
その後、鎌谷、橋元、小松が続き、
「「……」」
台を通っていない手前側には雷銅と坂巻の二人が残る。
「……私が行きます」
そして次は雷銅だ。坂巻は今回”輪の国”に来た法力警察官の中では一番実力が低い隊員だ。特に決めた順番ではないが、彼はいつも後方で特に後方を警戒する事が多い。
「……」『カタッ』
雷銅がカードを”台座”に置く。
これまで法力警察官の男達が何度も繰り返し行っている事たが、どういう理屈でカードが動いているか分かっていない状態だ。
雷銅も先に済ませた彼らと同じ様になると思っているが……
『カタッカタッ……』「……んっ「「?」」「「「!」」」」
しかし、雷銅の場合は少しだけ違う。
雷銅が台座に置いたカードは独りでに震え、台座とカードがぶつかる様な物音が鳴り響く。
「えっ?何が……っ「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
それは雷銅だけではなく、また法力警察官達だけでもなく、はたまた”第六警備隊”だけでもなく、台の前後に立つバトルスーツ男達も驚く様にして視線を向けていた。
「浮いて?!えっ?!いや何で??」
雷銅の置いた、黒く黄色味がかった透明な身分証明カードは浮きあがり、光を放っていた。
そういえば今日は小袋怪獣の共同体の日でしたね……




