#434~力の国の当たり前~
「これが”輪の国”のお金、輪だ。」
男性は十個の筒を並べて雷銅に紹介している。
「これが……お金?……」
しかしそれは、雷銅の思っていた硬貨や紙幣等ではなく、見た限りでは背の低い筒である。
一万円を出して十個出してきたのだから、一つが千円……ではなく、千輪と言う事なのだろう。
見た感じでは直径5㎝の円で高さが4㎝程の筒である。透明な白色で表面は凸凹している。
「……」
いや、よく見ればそれはバネの様に螺旋を巻いていて、材質的としては鉄などではなくガラスの様な薄透明の白い細い棒がとぐろを巻く様にして積み重なっている。
質感も見た限りではガラスの様に、柔らかそうでいてまた硬質性がある様にも見えるモノだ。
「うん……まぁ……当たり前だが、偽物はすぐに解る様に出来ているし、間違っても複製は出来ないから、滅多な事はしないそのつもりで。勿論偽造したら罰せられるし、これもあんまり弄らない様に。……で、どうせだから、”ここで”注文していって貰える?」
男性はB6サイズの端末を取り出して雷銅に渡しつつ、注文を催促した。
「……そういえばここは、食堂でしたね……」
そう、この店は”ヘトウ第十八食堂”である。ここは紛れもなく食堂だ。
この国のお金の両替で満足しそうになったが、それも食事の支払いをする為の両替だった。
この島には早朝にフェリーで着いて、その時間だったのもあってそのままこの店に訪れている。
何日か泊まれる様に着替えや洗面道具等のかさ張るモノを今もバッグに入れて持ち歩いている程で、本来は宿やホテル等を確保してからでも良かったのだが、ひとまずは朝食と情報収集を優先していたのだ。
「……っ?」
彼女は受け取った端末を触り、ソコに表示されているモノを見るのだが……
「へぇ?メニューが端末……っ!?これはどれぐらいの大きさなんですか?一人前がこの値段?と言うのは……」「ん?……」
メニューやお品書きを紙で用意するより、電子端末でそれらを表示する方が資源の節約にはなるだろう。そこら辺は資源が少ないのだろうこの輪の国では当たり前の事なのかも知れない。
雷銅は端末に表示されているメニュー、つまりは料理、、いや、そこに添えて描かれている値段を見て疑問を抱いていた。
「……あぁ、まぁ……大体のモノは一人前だよ。ここらの他の店でもほとんどが同じ値段だ。」「……なっ!?」
男性は一瞬何を言われているのか分からなかった様子だが、すぐに雷銅の疑問に当たりを付けて言葉を返している。
それを聞いた雷銅は今度こそ驚いて二の句を告げないでいた。
「日替わり定食が200輪?で、魚定食が100輪って……」
彼女はその安さに驚いている。その料理の原材料の値段と言われてもおかしくない値段だ。
人件費や店建物の光熱費・その他維持費で赤字である。
「ん?……日替わりと魚?……まぁ、良いけど、定食を二つ頼むのかい?ココだけの話し、あんまり料理を残して欲しくはないが……アンタならまぁ「ぁ、いえ、日替わり定食を1つ、お願いします」なら、画面に表示されているボタンを押してくれ。」
男性は雷銅の驚きを躱し、この店のシステムとしてなのか、端末で注文を確定させる様に指示している。
「……はい。」「なら、これを先にお預かりして……あぁ、『コッ』これを持って好きな所にお掛けになってお待ちください。あとは全部こっちでやっておきますんで。」
雷銅は端末を操作し、男性は雷銅が両替したお金・”輪”を一つ取って、代わりに水を一杯出して雷銅を好きなテーブルに座る様に案内をしていた。
「これは貰っておいて良いんですよね?」
また、雷銅は他の九つの輪・白い筒を持って行くべく、その一つに手を付けようとしている。
「っ……」
だが、雷銅は片手に水の入ったコップを持ち、反対の手ひとつで九つの筒・9000輪を持って行かなければならない事に少しだけ動きを止めていた。
肩に掛けているバッグにそれらを仕舞えば良いが、思った以上にここ・輪の国のお金はかさ張るのだ。
「いえ、料理を一緒に持って行きますんで。3000輪を三つにしておきましょうか?……まぁ、貴女程の人なら”自分で出来る”んでしょうけど……」
「……?解りました。それでお願いします。」
男性は九つの千輪を三千輪の筒三つに出来る様な事を言うのだが……それを提案するも、どうやらそれは雷銅自身でも出来る事らしい。
雷銅はこの”輪の国”に初めて訪れたと言っているのだが、どうやら目の前の男性はあまり彼女の立場で考えて説明してくれない様子だ。
ともかく早く食事をしたいのと、男性が食事を用意するのに人手が足りない事を考えて説明は後回しにする様子である。
「はぁ……」
雷銅はため息を一つ吐くと、近くの四人テーブルにコップのみを持って移動する。
どうやら輪の国はかなり癖のある通貨とシステムらしい……
『ガゴッ、、ガッガッ、、』
「……」
雷銅は四人テーブルの椅子に腰かけて日替わり定食を待つ。
今日の”日替わり定食”の内容は『白米と味噌汁、鶏肉に生野菜漬物」と言うモノだった。
端末に表示されていた写真を見た所、普通の一人前で200円である。いや、一応はこの国の通貨で200輪だ。
「……」『ブボッ……「……んっ?」……ゴッ!ガラガラ……ガッ……』「っ!?」
そして、雷銅が渡されたコップの水を飲もうとした所でまたもドコか遠くで音が鳴る。
しかも今回はこの建物の上から何かがぶつかった音がなり、続けて天井から何かが剥がれるのか、又は転がるのか分からないが、振動する様な音が響く。仕舞には上からではなく、男性が消えた方から何かの音が小さく鳴った。
明日は小袋怪獣の(ry




