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力の使い方  作者: やす
三年の夏
433/474

#432~力の国で会う一人目~

遅れました……


……ガヤガヤ……『……、……、……、……』……ガヤ……


雷銅は飲食店が数店並ぶ中でも一番奥にある建物を目指して歩いている。


……ガャ…………


その辺りは縦に長い四角い建物が並んでいるが、彼女の目指す建物はこの島の端にある建物だからか一段と低く、他の建物とは裏腹に一階しかない平屋の建物のようだった。

その建物は材質が一見しても分からない茶色の壁で、窓等もいくつかあるが、窓の高さが結構ある為に建物の中を外から見る事は難しい。


「……」


その建物の扉は鉄製の扉で、見た限りは質素な趣がある。

扉は特に装飾されていなければ扉の表面に文字や看板がある訳でもなく、取っ手は向かって右側に縦三か所から支える様にして長い円柱が置かれていた。

その建物はどんな建物なのかを示す様にして、一軒家の表札の様に扉近くの壁にシンプルな白いプレートが付けられている。


「……ヘトウ第十八食堂……ん?じゅうはち?……そんなに?」

プレートにはかすれ文字調なフォントで十八番目を意味する食堂な事を示している。

雷銅は周りの建物を見る様にして周りの建物に視線を向けるのだが……


「……」『ギギギィ……』

彼女は周りに視線を向けるだけ向けてから、その扉に近づき、金属が擦り合わされる音・金属擦過音を立てるのも構わずにその扉の取っ手に手をかけて引っ張り開けた。

扉は見た目よりも分厚く重厚だった。


扉を開けたり閉めたりする際に金属擦過音がするのは蝶番(ちょうつがい)等の油やオイルが無くなっていて蝶番にダメージを与えている可能性がある。

音が鳴る様になってもスグに壊れる事はないのかもしれないが、扉を開け閉めする際に『ギーギー』と音が鳴る場合はある程度は速やかに何か処置をした方が良い。

渇きにくいグリスやミシンオイルを蝶番に吹き掛けるだけで音が収まる事が多い。


「……」

雷銅はそんな扉に視線を向けながら扉をくぐって建物の中に足を踏み入れる。


『ギギギィ、ガタン!』

扉は鉄製の分厚い一枚板の様な物で、雷銅が手を離すと途端に閉まる。

どうやらドア扉の内側、てっぺん辺りにある四角い物体と扉天井を繋ぐ機構・ドアクローザーが無い為にドア扉が勢いよく閉まってしまったらしい。

ドアクローザーはドア扉から手を離して閉まる際にその閉まる勢いを減らす機能がある。

それが付いてないのでドアの蝶番等が酷使されているのかもしれない。

この国、ひいてはこの島にある建物等の人工物はまだ出来て数か月しか経っていないハズだ。

だがその新しさから見ると建造された物の端々は結構なくたびれ具合の様子である。


「……っ……」

雷銅がそんな事に思考を巡らせるのには訳がある。

「……ふむ……」

この店・”ヘトウ第十八食堂”は一度に四人が使えるテーブルが見た限りでは6個ある中規模な店だが、その場には男性が一人居るだけで他には人がいなかった。

その男性は前掛けを付けていて、この食堂の従業員なのだろうが愛想は良くなく、テーブルの一つを占領する様にして出入り口に近いテーブルの椅子に座り、新聞の様な紙から視線を雷銅に向けるだけで『いらっしゃい』等と言う声も掛けていない。


「……あぁー、……ここは飲み物を”水”だけしか出してない食堂なんだが……」


その男性・歳は40ぐらいの中年男性は雷銅に”悪気がない様な態度”で口を開く。

「……っ?!もしかして……”ここは”この島の人専用?の食堂だったりするんですか?」

雷銅は一つの考察を閃いて言葉を探すその中年男性に疑問をぶつける。


「……別にそういう訳じゃないが……もしかしてこの島に今日初めて観光に来た人?「っ……」いやっ、まぁそうだろうな……まさか、この店を最初に選ぶとはなぁ……」

男性は雷銅の疑問を否定すると、続けて初対面な彼女がこの島に来たばかりな事を断定して何か考える様な素振りを見せている。


「……”水だけ”?……とは?」

雷銅は男性の言葉で、”どちらかと言うと”歓迎されていない事を察知するのだが、イマイチ要領を得ていない。


「まぁ……日本語が出来るんなら別に良い。『ガサッ』ぅ゛ん゛ん゛っ、゛ようこそ”輪の国”へ。ここは”へ島”、輪の国に訪れる人を最初に歓迎する島だ。」

男性は手にある新聞らしき紙を畳み、雷銅が日本人である事を確認するような事を言ってから咳払いして歓迎の言葉を贈る。

雷銅は疑問の言葉を無視された訳だが特に何も言わずに男性の声に耳を傾けている。


「”輪の国”は”輪の国”のお金……つまり、独自の通貨で すべての買い物をしてもらう様にしている。」

「……」

雷銅は男性の突然な説明に言葉を挟まずに説明に耳をすませている。

彼女としても聞きたい事で、もし”この説明”が無ければ、まず間違いなく雷銅から尋ねていた事柄だ。


「”輪の国”のお金は、その名も”()”、、だ。「……わ?、、ですか?」そうだ。輪は日本円と同じで100円は100()となる。別に1円からでも1輪に両替出来るが、その両替も全てこの”へ島”でやってもらう事になっている。他の国のお金もその時の日本円の相場と同じ相場で両替するが……支払いは円で構わないんだろう?」

「えっ、ええ。……日本円でお願いします。」

雷銅は男性の確認に一瞬だけ遅れて言葉を返し、財布を取り出そうと持っているバッグから財布を取り出していた。


「あぁ、あと……船を降りた時に渡されたカードも出して貰える?必要だから」「はい……」

雷銅は長財布からお札を取り出そうとしていたが、椅子から立ち上がった男性は店の奥に向かう前に、先ほど船着き場で受付の女性から渡された”カード”の提示を雷銅に求め始める。

雷銅は自分の財布をバッグから取り出しつつ、男性の後を追って男性の様子や表情等に注意を向けていた。

両替をするにも身分証を提示しなければいけないらしい。

もしかしたら日本を含めた外貨の動きや、輪の国のお金・()の動きなどをキッチリ管理しているのかもしれない。



個々人が買いたいモノを自由に買ったりする自由経済の対義語である統制経済をしている可能性もある。

統制経済とは国が経済を強制的に管理する経済体形だ。

戦時中に資金を集めたり、物資の流通を制限して経済的に何か問題が起きた時に行われる経済体形だが……

”輪の国”は新しく出来たばかりだし、日本を含めた海外からの資金の流入を防ぐ為には必要な状態なのだろう。

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