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力の使い方  作者: やす
三年の夏
425/474

#424~力が動き出す~


『……』

「「「「「……」」」」」

透明なガラスだけで空間が隔たれている自動扉の前に、まだ日も出ていない未明ごろ、数人の男女が訪れる。


『……ガッ、ガ――――』

その自動扉は人が訪れた事で一瞬だけ遅れて開き始めた。

「「「「「……」」」」」『『『『『ガッガッガッ……』』』』』

その扉が開くのを黙って見ていた”数人の男女”全員が言葉を交わす事なく静かに歩き始める。


『………………』

「………………」

その自動扉の中、つまりは建物の中は、あまり人気(ひとけ)もなく、閑散としていた。


『……グッ…………』

「……げほっげほっ、…………、」

いや、決して無人と言う訳ではない。時間的に”客”は少ないが、”利用者”が何人かいる様だ。

「……ん゛っ、ん゛っ゛」

そして、その”建物”の大きさの割には狭い空間なのだが、その空間の奥にある受付には背広を着ている女性がいて、今入って来た男女に咳払いをしつつも視線を向けている。

受付に立つ”女性”は機先を制する様にして訪れた男女に向けて口を開ける。

「ようこそおいでくださいました。”水藻港”の営業受付は今現在時間外として対応しておりませんが、その時間外に出航する船の乗船受付は承っております。その場合は”フェリーチケット”か身元の証明が出来る書類のご提示をまず最初にお願い致します。」

「……はい。乗船手続きです。」

そんな水藻港の受付に詰める女性職員の声に対応するのも、訪れた”数人の男女”の中でも唯一の女性である。


「”予約”はインターネットでしたので、、、チケットが手元にありません。なので清虹カードでの身元確認をお願いします。」

「はい。お預かり致します……えー……あっ、雷銅様ですね。次に出航する船の乗船予約を確認致しました。」


そう、まだ日も出ていない未明ごろに、清虹市の東端にある水藻港には法力警察実戦隊の隊長である雷銅陽子ほか数名の男達が訪れていた。

水藻港の職員である女性は雷銅から”清虹カード”を受け取り、カード読み取り機にそれを置いて横にあるモニターに視線を向けながら小さな声で対応している。

「えー……コチラのチケットは複数人でのご利用が出来るモノですので、お連れの方の確認は今の所特に必要ありません。ですが、乗船の際は”予約したお客様”と一緒に乗り込んで頂き、その際は全員の身元確認を致しますのでご了承を願い致します。何か他に確認しておく事等はございますか?」

「いえ、大丈夫です。」「「「「……」」」」

「では、もう間もなく船に乗り込める時間なので、それまではお近くのソファ等でお寛ぎしてお待ちください。」


この日、彼女達法力警察実戦隊の精鋭達は清虹市の東にある六ツ子島、改め”輪の国”に向かうフェリーに乗り込むのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―


『ピンポーン!』

「ん?」

とある空間にはリクライニングチェアがあり、その椅子に座っていた者が呼び出し音を聞いて顔をあげる。


『ガチャガチャ、ガチャン!』

「え?!……」

その空間には男が独りでいるのだが、その男性からほんの少し離れた所から、恐らくだが外から鍵が開錠される音を聞きつけて驚きの声を漏らしていた。

『ガァーーー……』「……いっ、いやっ、ちょっ……」

そして、すぐに扉は外から開かれる。

その空間に独りでいる男性、平岩雄二は”一体何をしているんだ!”と言う様な険のある声を出して、その空間・自宅の部屋から玄関扉に顔と身体を向ける。


平岩の家・清虹市の中心地近くにある高層マンション・”7カラ11カイ”の402号室は勿論の事だがプライベート空間なので、本来は家主の許可を得ずに部屋に入る事は駄目な事だ。

ただし、マンションの宿命として、マンションオーナーだったりこのフロアの管理人にはマスターキー等の部屋の鍵が彼の管理していない所に存在する。

滅多な事でその鍵は使われないし、彼の知る所では今現在の様に人の借りている部屋の玄関扉を開ける事などこれまで一度もなかった。


『……ガタンッ!』「……えっ?だ「おはよーございますっ!!平岩さんっ!」なっ?!いっいっいっいっ飯吹さんっ!?ななっ、なんで?」

平岩が居間のパソコン台の前に置かれているリクライニングチェアから見て隣の空間にある台所・風呂やトイレの間にある玄関扉を勢いよく開けた人物を見て戸惑いの声をあげていた。

これがもしも、玄関扉を開けたのがこの階に住んでいる沼岡樹癒や三夜五郎、はたまたこの前ここを出た金山賢人ならばそこまでは驚かなかった。

だが、あろうことか、最近ちょくちょく訪れている胸に大きな希望を二つぶら下げている飯吹金子その人だった。


「平岩さんっ!朝ごはんですよっ!」「っ!?「にゃにゃ、昨日の晩御飯の食器を取りに来たにゃ」あっ、みゃごろ……えっ?……あっ、あぁ、、食器は……」

そして、飯吹の目の前にはお盆があり、よく見て観れば彼女は”白いご飯・味噌汁・芋の煮つけ・鮭の塩焼き”が載せているお盆を両手で持っている。

また、飯吹の横……と言うか後ろと言うか、玄関扉を押さえているのは三夜だ。彼は飯吹のお供と言うか、お手伝いの様にして部屋に訪れた……と言うか、玄関の鍵を開けてまでして突撃してきた理由……らしい事を述べている。


「にゃにゃ!……流石は雄二だにゃー、ちゃんと洗ってるにゃ!」

「えっ?あぁ、それ「でしょー?普通は食器ぐらい洗って返してくれるって!」「にゃむにゃむにゃむ……」えっ?」

どうやら昨日の晩御飯は三夜が気をきかせて平岩に用意してあげていたらしい。

このマンションは入居条件等があるが、普通の賃貸住宅である。特に食事や洗濯などを決められている訳ではないし、それぞれが自由にしている領分だが、彼らは仲が良く、時たまに食事の用意をしてあげたり、したり、強要されたり、要望されたり……と、融通し合っている。

中でもみゃごろは飲食店のバイト等をしていた関係で、事食事に関してはかなり得意な方なのだ。

まぁ、平岩達は食材を買わされて用意したり、労働を押し付けられたりしているので気安い関係と言えるだろう。


遅れました……

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