#395~力は間に合わせる~
「はっはー、鏡ー「わぁい!」ほぅら!「飯吹さん?確か……”飯吹さんの方で”お友達を5人誘われたんですよね?それとも何かありましたか?」……ぅ?……」
飯吹は先に自分の所まで走って来た茶色いつなぎを着る少女を抱き上げていると、喜乃は飯吹からメールで知らされていた”誘った者達”を飯吹が引き連れておらず、なぜ一人でここまでやって来たのかと聞いている。
『……あぁ、うん、実は誘った人って水藻に行く途中に住んでる人だからさ、ココから車で行くんなら、プールに行く途中で拾った方が良いと思ったんだよね「えっと……つまり、”清虹”に住んでる方なんですか?」うん……でも、、、車で拾うのがもし”アレ”だったら……プールに直接来てもらっても良いかなーなんて思ったんだけど……もしかして、駄目だった?」
飯吹は喜乃が確認してきた事をすぐに理解して”何故一人でスタフラ風台店まで来たのか”、その理由を説明している。
”その理由”とは、清虹市の中心・今彼女等がいる風台地域の東にある”清虹”地域に住む者を誘っているとして
集合場所のココ、スタフラ風台店は、その者達からしてみればこれから向かう市内の東端・水藻地域にあるプールへ行くのに遠ざかってしまう事を告げる。
”市の中心地・清虹地域に住む者”は”風台に居を構える者”からしてみると、その多くはある程度の事がグレードが高かったりしてあまり縁がない者達だ。
「勿論それでもかまいませんけど……」
”あまり縁がない”とは言うのも、『市内でも有数な住宅地』と『ある程度栄えている街』ぐらいには関わり合いが疎遠と言う意味合いだ。
別に喜乃は『清虹地域に住む者を誘うなんて!?』と飯吹に憤慨している訳ではない。
「……でっ、ではっ、、、」「んっ?」
しかし喜乃は、何か言いたい事を痞えさせている風にして愛想笑いを浮かべている。飯吹はそんな喜乃を見ても特に何か問題があるのか聞けずにいた。
「じゃーカナちゃん!すぐにプールに行けるんだよね?!」「うんうん」
スタフラ風台店の中でもサングラスをかけている飯吹の顔には、彼女が両脇を対面で抱き上げている茶色いツナギ姿な少女の元気な声が吹きかけられる。
飯吹はサングラス越しにだが、目を合わせて同意の頷きを返している。
「でも……今、クレーンゲームを良い感じにしてたからさ、プールは”それを”取ってからでも良い?」「あっ……」「うん?あっ、良いよ良いよ、別にプールはそこまで急いでないからね!」
そんな茶色いツナギ少女と同じ様な声が飯吹の横から挙げられる。
「……」
しかしそれは、飯吹が今も抱きかかえている茶色いツナギ姿の少女からではない。
それは今飯吹が抱きかかえている少女の双子の妹、青色ツナギ少女な朝子からだ。
彼女は飯吹の横に近寄ってきていて、彼女等の母親である喜乃の態度を逸らす様にして合いの手を入れている。
飯吹としては元より”そこまで”プールを求めている訳ではないので、二つ返事でツナギーズ(青色担当)のクレーンゲームに了解の言葉を贈っていた。
「じゃ、じゃあ……飯吹さん、申し訳ないけど、チョットの間だけ、この子達を任せても良い?私は”ほんのちょっと用事”があって……」
「うん?あぁ、はいはい。勿論良いけど……あの……私の水着ってどんな感じ?……良ければちょっとだけでも良いから見せて貰いたいんだけど……今良いかな?」
朝子のクレーンゲームで時間が掛かるならばと、喜乃は”その間にでも”と少しだけココを離れるような事を言うが、ならばと飯吹は自身が着る事になる、喜乃の用意している”ハズの”水着を所望していた。
そう、飯吹は今日これからプールへ行く事になってはいるが、彼女は今着れる水着を持っていない。
それを喜乃が用意してくれると言う事で今日はプールに行く事にしているのだ。
「……っ、、、みっ、水着を、、いっ、今ですか?」
飯吹としてはプールに行く今日の当日まで、”着る水着”が分からず、善意で用意してくれるとは言え、多少はヤキモキしている。
多分だが、そこまで奇抜な水着を用意される事はないだろうが……
「あれ?……まさか……」
しかし、着る”モノ”が着る”モノ”だ。サイズが合わなければ公衆の面前で水着がどこかへ行ってしまうかもしれないし、飯吹が今日誘った”友達”もその場には来る事になっている。
それに喜乃の態度は終始不自然だ。逆に彼女の方で何か問題が発生しているのだろうか?
「……私の水着……用意できてなかったりする?」「っ!?、、いぃっ、いやっ!あのっ……」
飯吹が恐る恐るする質問に、喜乃は『しまった!?』と言いたげな表情を一瞬だけ浮かべている。
「……ごっごめんなさい!!”私の”水着でもと思ったんだけど「えっ?”私の水着”って?」あっ、いえいえっ!ちゃんと”上の”水着は”貴女の”サイズのモノを頼んだから、”サイズの”心配はいらないんだけど……ちょっと”配送ミス”があってね「いやっ?勿論ぜんぜん構わないって言うか、その」あっ、でも、今取ってきて貰ってるから、すぐ来るハズなんだけど……」
「んっ?”取ってきて貰ってる”?……」
喜乃は観念した様にして頭を下げて弁解の言葉を重ねている。
所々飯吹としては聞き捨てならないモノがあるが、気に病むようにして若干早口の喜乃を含め、彼女等は互いに恐縮するようにしている。
どうやら彼女の口ぶりを察するに、飯吹の水着が今”ココには”無いらしい。
まぁ、タダで水着を用意して貰うのもなんなので、飯吹としては着れる水着を持っていない事だし、なんならそのまま用意して貰った水着を買い取ろうと思ってはいるが……どうせ買うなら色やサイズなどを自分で直接選べないのが不安に感じてさえいる。
『ガバッ、』「いらっしゃいませぇーっ!」「あっ!?」
「「「ん?」」」
そこで、ゲームセンター横の従業員入り口から現れる店員さんがいた。
喜乃がいち早くにその現れた”店員さん”に顔を向け、それに釣られる様にして飯吹もその”従業員出入り口”に顔を向ける。”ツナギーズ”もそちらに目を向けるが、ツナギ姿の二人は彼女等の母親と同じタイミングで顔を動かしている。しかし驚きの声は飯吹と同じタイミングだ。
「あっ、飯吹さんっ!……丁度良かったっ……”こちら”は今持ってきました水着ですっ。」
「おっおおおぉ!」
その”店員”とは男性従業員である。彼は一つの”水着を”ハンガーに取り付けられた状態で持っていた。
「どんな水着かと思ったけど、、めちゃくちゃ良いです!」「っ、良かったですっ。急いだ甲斐がありましたっ。、、ふぅ。」
その男性従業員とは勿論このスタフラ風台店の店長、立花飛鳥である。
彼は女性物の水着を、多少息を弾ませながら恥ずかしげもなく持っている。
……いやまぁ、彼は紛れもない店員なのだからそんなにおかしくはないのだが……
「妻の水着と同じタイプのモノですが……飯吹さんの”サイズを”用意するのに少しだけ手間取りました。っ、私としても、間違いなくおススメの一着ですっ。」
「ぅ、ぅん……っ……ありがとう……折角だから……買わさせてもらうね?……いっ、いくらですか?」
少しだけ、……ほんの少しだけ鼻息が荒くも妻と”同じ水着”を勧める立花店長は少しだけ変態っぽかった。
しかし飯吹としてはその水着が気に入った様子だ。
彼女は財布をドコからともなく取り出してその口を開けている。
「んっ?喜乃……と言うよりも、娘達が世話になっているので私が代金を払ってプレゼントするつもりでしたが「いやいや、必要なモノだし、私が払うよ。」では、税込みで三千円です。会計はそちらのレジでお願いします。」
立花店長は水着ハンガーに取り付けられている水着を臆面もなく翻して隣の売り場のレジに誘導を始める。
「ふっふ……”平岩さん”にも喜んで貰えると思いますよ。」
「うん……」
水着は黒のビキニタイプのモノだ。
飯吹は本心でその水着を気に入っている様子でその水着を買うらしい。
「……」
しかし立花店長から言われた何気ない一言を聞くと、水を打つようにして表情を消している。




