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力の使い方  作者: やす
三年の夏
390/474

#389~力は3人~



『プォ!』

「……」

(スター)(フラワー)風台店の一角では、そこに集まった者達が天を見上げている。


『……ジョロジョロ……ジョボジョボ……ジョロジョロ……

天井に取り付けられているスピーカーから幾分か小さ目な音がなると、天井裏あたり・天井から伸びるレーンの奥から見える照明が(またた)いて、レーンが震えてそこに流れる水流が一瞬だけ増える様にして白い塊が流れ始める。

その透明なプラスチック製のレーンは”とぐろ”を巻く様にして円を描きながら床にまで伸びているのだが、そのレーンの周りには人が四方八方に立つようにして群がっている。


……ジョロジョロ……

「ほっ!」『チャポ』

そんなレーンはその空間に7つ置かれていて、それら全てのレーンには人が8人満杯状態で待ち構えていた。

『ポチャン』

『ジュルジュルジュルジュル!』「……っ、うむうむうむ…………っ、うん、旨いっ!」

飯吹は器用な箸(さばき)を駆使して流れてきた”そうめん”を掴み、左手にあるカップ・麺つゆに落とすと、それらを躊躇うことなく(すす)って胃に落とし込む。

もう何度繰り返したか分からない風景だ。


「……っぷ……」「あっ、はいはいっ!次は”朝子が”食べますっ!」

そんな声を出すのは飯吹の二つ左隣に立つ”青色つなぎ”を着る少女である。彼女は箸を持つ左手をあげてレーンの周りに立つ者達に宣言していた。

本来は飯吹と この青色つなぎっ娘の間に立つ”茶色つなぎ”を着る少女の鏡が次に流れてくる”そうめん”を食べる番なのだが……彼女は既に胃がギブアップ寸前だ。


『プォ!』……ジョボジョボ……ジョロジョロ……

程なくしてからまた天井より”音”が流れてくると、天井裏で照明が光るのを透明なレーン越しに確認出来たのちに”そうめん”が流れてくる。

ざっと先程の飯吹が食べたそうめんが流れて来たタイミングから30秒もないくらいだ。

……ジョロジョロ……

レーンは半時計回りに円を描く様に・とぐろを巻く様して置かれている。

そうめんを食べる者からすると、その者の『左から右に水が流れて』いて、

時間にして約25秒間隔で”そうめん”が機械的に・自動的にレーンに流れてきていた。

対してレーンを囲う者達は『時計回り』の順番で”そうめん”を食べている様子だ。

……ジョロジョロ、ジョボボ、ジョボボ、……

もう何度流れてきたのかも分からない”そうめん”は今回もゆったり目な速度で青色つなぎっ娘の所までやってきている。


「ほっ!『スカッ』あっ!、次っ!『スカッ』ああっ!、、、今度こそっ!『スカッ』ゃああっ!ヤバッ!……『スカッ』ぎゃああっ!まずぅぃ!…………『スカッ』あ゛っ゛………………」

とぐろを巻くレーンは徐々に大きくなる円を形作っており、レーンの上の方で”そうめん”が取れなくてもさらに一周してきた所を掬える様に出来ている。

しかし左利きな”青色つなぎっ娘”の朝子は(ことごと)く流れてきたそうめんを掬えず、場所的に最後に掬える場所でも箸の間を”そうめん”が流れていってしまった。


……ジョボボ、ジョボボ……

「……くぅ……」

朝子は無念にもレーンに流れる水の中を”転がるそうめん”に視線を向けるだけだ。


「ほっ!『チャポッ!』「……あっ!」ドゥスル?タベル?イラナイ?」

そんな流れていくそうめんを掬う者がっ!……いややっぱりそれは飯吹なのだが……

……彼女は何故かカタコトな日本語で自身の箸で掴んだ”そうめん”をどうするか”青色つなぎっ娘”に聞いている。

この場でのルールとして、水が流れるレーンの終端・”金網ざる”にまで流れついてしまった”そうめん”は”衛生面”を考慮して廃棄する事になっているのだ。

彼女はそんな”そうめん”を想って”つい自身の箸で”掬ってしまったらしい。


「んっ……タベマス……」

青色つなぎっ娘は顔を赤らめつつ、右手に持つカップを飯吹に差し出す。何故か彼女もカタコトな日本語を返していた。


『ポチャ』

「あむ、あむ……っ……っ、……うん。オイシイ。」

「「「「――――っ、、、」」」」

彼女等の立つレーンには他に四人いて、男性だったり男子だったりと、ここには男が多い様だ。

だが彼等が彼女等に向ける目の色だったり近さから見るに、”たまたま一緒のレーンでそうめんを食べるだけの間柄”らしい。

つまりは”知らない人”と言う間柄だが、彼らは”良いモノを見た”と同じ様な感想を持っている様だ。



『プォ!』……ジョボジョボ……ジョロジョロ……

「、、、良しっ、、」

程なくしてまた再度、音と光が(またた)いてそうめんを流し始める。

レーンに次のそうめんが流れ始めたのを確認した朝子の左にいる男性は箸を構えていた。


……ジョロジョロ……

彼等彼女等がいる流しそうめんが流れるレーンは大きく”囲い”で仕切られていて、人の出入りが制限されている。

ならば七つのレーンに最大で八人……総勢56人でそうめんを食べようとしているのかと言うと、そう言う訳ではない。

このスペースの奥・本来は販売員の休憩スペースを今は”待機所”として用意されているのだ。

そこにはトイレやソファ、テレビ等が置かれている。


……ジョロジョロ、ジョボジョボ、ジョボボジョボボ……

このイベントに参加していて、『もうそうめんを食べられない!』と思った者はこの”待合所”で一時的に胃を休めるか、フードコート側の出入り口で参加費を払って帰る事が出来る様になっている。


「うぅ……案外キツイな……鏡も朝子も……もう無理だろぅ……ぅぷ……」

既にもうおやつを食べる頃合いだ。

昼頃に始まったこのイベントで開始からずっと食べ続けている者は片手で数えられるほどしかいない……

立花飛鳥店長も、このイベントの企画者にして従業員なのだが……彼も娘達と一緒にこのイベントに参加していた。

彼は『想像以上にキツイ企画を始めてしまった……』と後悔している……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―


「……」「……」

とある空間では、”二人の男”が膝を付け合せる様にして、テーブル挟んで向かい合って座っている。


「……」「……っ……」

その男二人だが……一人は眼鏡を光らせる様にしてやや俯き、もう一人はそんな眼鏡男性に視線を向けて息を飲んでいた。

どちらも何も言わず、ただ緊張が走る空間を作り出している。


「……いや、良いですよ。別に……ただ”それは”雄二だと思ってましたけど……何故俺に任せるんですか?理由を教えてください。」

「……いやっ……まぁ、法律もこういうのの”トラブル関係”に強いだろ?ただそれだけだよ。」

その男性二人……沼岡樹癒と金山賢人は互いに駆け引きをする様にして言葉を向け合っていた。


「いえっ、……まぁ……確かにそういう部分もあるのは分かりますが……確か、”フロアマスター”をすると、”管理費”が手間賃と相殺されるんですよね?なら……”三矢”にでも任せれば良いんじゃないですか?勿論俺も”貴方と”同じ様に、聞かれれば法律を交えて助言します。」

樹癒は賢人を”責める”とまでは言わないまでも、”何故?”と言う感じに反論している。


「いやっ、、待て待て……樹癒、”弁護士を辞めさせる”俺が言うのもなんだが……ハッキリ言って、本来市長は秘書を何人も雇える程給料を貰える訳じゃない……だから俺は”お前”と”雄二”……あと、他に1人、この三人に任せようと思っている……」『ピリリリッ、』「あっ……」

賢人が重い口を開いていると、そこで携帯電話が鳴り出した。


鳴っている携帯電話は樹癒の方らしく、彼は特に躊躇う事なく上着のポケットから携帯電話を取り出してその画面を見つめる。

「……賢人さん、申し訳ないんですが……”向こう”に呼ばれたんで……ちょっと……」「あぁ、じゃあまた今度頼む。」

樹癒はメールかメッセージかは分からないが、”仕事場”に呼ばれたとして腰をあげていた。

賢人はそんな樹癒を特に引き留めるでもなくして、再度時間を作る様に頼むだけだ。



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