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力の使い方  作者: やす
三年の夏
384/474

#383~降りた後の力~

#374~力の船を降りた後~のBパート的お話しと言うよりも、

前回の#382~終了?解せん?力~の続きです。


「……では、、コレで契約は全て終了です。今から1時間以内には通話やインターネット通信が出来る様になりますので、3時間以上携帯電話が使えない場合は今日中に再度コチラにお越しください。何か質問などありますか?」

男性店員はこれまで対応をしていた客に、契約書などを纏めて入れた手提げ袋を渡して最後の確認を行っている。


「……」「ぁ、はいはい大丈夫です。」

「はい。では、後日また何かありましたら……”コチラ”の方に 電話か”ドコデモ”ホームページで来店予約を行ってからいらしてください。……”秘書さん”もこの度はありがとうごいました。」

男性店員は契約をした女性客の言葉を聞くと、今度は胸元から名刺を取り出し、それに書かれている番号やアドレスを指しながらその女性客に名刺を渡す。

最後は頭を深く下げ、女性客とその連れらしい”ココ清虹市の市長秘書”に後頭部を向けていた。


「……っ、じゃ、じゃあコレで……」「……」

清虹市ではテレビにも顔を出している金山市長の秘書……と思われている男性・平岩は”もう市長秘書じゃないんです。”とも言おうと思うが、いずれは周知されるだろう事として、特に訂正を入れなかった。

女性客・飯吹はそんな事は分かるはずもなく平岩に続いてその場を立ち去る。




「……ちょっと、、何か問題でもあったの?「ぃ、ぃやぁ、なんでも……ありません……」本当に?「……ぇ、ええ……」まぁ何もないのなら良いけど……」

その後、客が来ないだろう一瞬の隙を突いて”ドコデモカウンター”に詰める女性店員が、ソファーの横にあるテーブルで先ほどまで飯吹の携帯電話の新規契約を担当していた男性店員に詰め寄って言葉をぶつけるのだが、男性店員は歯切れ悪く”嘘を”言う。

女性店員は男性店員を信用してないらしいのだが……ひとまずは問題を見つけられないとして、そのまま何事もなく業務を続けるのだった。



平岩が飯吹に譲った携帯電話・”ダンベルフォン”は発売されてからまだそこまで経ってはいないが、既に絶版となっていて、今から”ダンベルフォン”を手に入れようとしても、なかなか手に入れられる代物ではないのだ。

なのでたとえ中古でも、新品価格の数倍なプレミア価格が付けられている。

実はこの男性店員は”ダンベルフォン”の価値をよく分かっていないだろう飯吹からそれを秘密裏に安く買い叩こうとしていたのだ。

あと一歩の所で”ダンベルフォン”の価値が分かり、男性店員のしようとしていた事を看破した平岩を呼ばれて彼は焦っていたのである。


まぁ、彼の言っていた”提案”はソコまで口から出まかせを言った訳でもなく、”ダンベルフォン”より”ナップォン”の方が飯吹に合っているのは紛れもない事実ではあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―


『ガァー……』

「……」「……あの……私が譲った物は全部持って来てますか?一応……使い方とか、設定もあるので……」

家電量販店を出て来た所で平岩は隣にいる女性に声をかける。

「……はいはい。持って来てますよー……えっと『ガチャ』この二つですよね?」

ソコで飯吹はズボンのポケットから、画面の付いている部品とそれよりも小さい部品の二つを取り出す。

どちらも平岩が飯吹へ箱に入れられた状態で譲った物だ。


「……じゃあ……そこの木陰のベンチで設定とかをすませましょう。……もう携帯電話も使える様になってるハズですから。」

「え?もう使える様になってるんですか?」

飯吹は”ダンベルフォン”のオプション品・モジュールを”裸で”取り出している。

勿論”裸”なのは”ダンベルフォン”のオプション品・追加モジュールの方だ。

飯吹は少しサイズが小さいながらも身体のラインが出てしまっているTシャツに、ジーパンのズボン姿である。



歩道の横にある小さな木からは『ミーンミーンミーン……』と朝から虫が鳴いていた。


清虹市は夏の晴れた日の午前中で、小一時間もお日様の照らされる場所にいれば、汗が吹き出るほどの時季なのである。


…………

……


「……コレで一通りの設定は終わりました。あとは実際にちょっとでも遠くの電話に通話をしてみて、問題が無ければ動作確認は全て終わりです。」

平岩は飯吹が持つ液晶画面を横から覗き見て、最終チェック項目を言う。

まぁ、端末に関しては平岩の物なので、不良等は無いが、携帯電話を契約する事で”ドコデモ”から貰ったSIMカードの動作確認と、飯吹への使い方のレクチャーを兼ねている作業だ。


「ぁ……はいはい。ありがとうございます……」

飯吹は平岩の”終わりです”と言う言葉を聞いて、何か思う所があるらしい表情を浮かべる。

「……」

平岩の想像としては、『じゃあ平岩さんに電話をかけますね!』等と言い、平岩の携帯電話番号等を聞かれるのだろうと思っている……

いやいや、ここまで来たら逆に番号を聞かないのも、それはそれで不自然になるのかもしれない……

「……なら「あのっ!……」はい?」

一瞬の沈黙のあと、観念して平岩が自分の携帯電話に電話をかける様に言おうとするのだが……ソコで飯吹は前のめりになって平岩の言葉を止めた。顔が近い……

「……平岩さんは”今後”どうするか考えてますか?」「こ、”今後”?と言うと?……」

平岩は飯吹の言葉が分からず、どの意味での”今後”がわからない。


はたしてそれは、『今日の”今後”』なのか、それとも、『長い人生での”今後”』なのか……

前者なら特に予定は決めていないが、家かドコかで昼食を取り、後者ならドコかに就職するため、就職活動を今日からにでも始めなけらばならない……


「例えばなんですけど……虹の子を預かって面倒を見たり、”誰か”と結婚して、こう……”自分の子供”を作ったりして家庭を持ったり出来るじゃないですか。そういう”今後”です。」

「んん?にっ、虹の家ですか……まぁ……っ、、、それも選択肢の一つではありますが……あまり、、そういう事は考えてないですけど……」

平岩は飯吹が提示した”今後”について、当たり障りのない言葉を返している。


平岩も幼少期は”虹の家”で育った身の上だ。境遇が似ている、謂わば”後輩”の面倒を見る人生もやぶさかではないと考えてはいる……


「っ!つまりっ!、、、、平岩さんは”虹の子を預かる気はない。”って事ですか?!」「えっ?!えぇ……私みたいな人では……自分の身で精一杯なので……恐らくは出来ません……現実的に……貯金などの纏まったお金もそんなに無いですし……」


平岩個人としては思う所はあるが……”虹の家”経営は一種の慈善事業だ。

”スキル”や”お金”を理由にして、目を瞑って避けようとしている。

実際問題として、初期費用と拘束時間の割には対して稼げない。

そしてそれは大多数の者が持つ考えだろう。

そういう”慈善事業”は例えば”金山家”の様なお金がある家に任せていれば良いのだ。

まぁ、その金山家は、その”慈善事業”で”より多くの金儲け”が出来てしまえる財力と頭脳がある。

そんな”金山家”に婿入りした”金山”賢人市長の筆頭秘書だった平岩でも、ソコまでの給与は貰えてなかったし、何よりその賢人市長は平岩達秘書に給料を出していた為、彼個人の資産は皆無なのである。


「そうですか……ちなみに将来的に子供は何人欲しかったりします?」「なっ?……」

そんな平岩が一瞬のうちに考えがよぎる頃、飯吹は真剣な表情で平岩に疑問を重ねる。


平岩としては彼女の下心が透けて見えてしまう言葉に詰まるのだが……

「……そ、そうですね……”私は”子供は一人か二人ぐらいで良いと思っています。……それに、子供も結婚も、もう”しない”のも”アリ”だと思っています。なので飯吹さんも他の男性に気持ちを向けてください。」

だが平岩は、飯吹の考えが読めず、投げやりに、半分だけ嘘の言葉を返した。


彼はちゃんと覚えている。

飯吹は”多くて五人ぐらいの子供が欲しい”と、前に言っていた、

そんな相手に『子供は1人か、2人ぐらいで……場合によっては……もう諦めている。』と断言する事で彼女の方から平岩と結婚する事を諦める様にしているのだ。


「そうですか……なら……」

飯吹は平岩の言葉を聞いて、気持ちを休める様にして言葉を紡ぐ。

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