#369~力の船に乗る!3日目、奏でる編~
……ジャンジャン、ジャンジャーン……』
『ガタッ、ギィ……』
春香は最後に緩やかなメロディを奏でると椅子を後ろにさげて立ち上がる。
「「「「「「「「「…………
”寿老人ホール”に集まっている者達は春香の演奏に引き込まれ、時には暗く時には明るくまたある時はソワソワする様な気持ちにされていた。
ココに集まった者達は春香のピアノ演奏が終わってしまった事を惜しみ、それを認めたくない様にして誰も何もしようとはしない。
「……」
勝也は1人、周りの雰囲気を否が応にも感じ取って、物音を立てないようにしてステージに目を向けるだけだった。
……………………
………………
…………
……
『パチパチパチ……』「最後は子守歌!!春香お姉さま、分かってるぅぅう!ありがとう!!!」
そんな静寂を打ち破る様にして、手を盛大に叩きながら立ち上がって春香へラブコールを送る者が……
「あっ!馬鹿、厘なにやっ」『『『『『『『ガッ!』』』』』』』『『『『『『『グッ』』』』』』』おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!『『『『『『『『『『パチパチパチパチ!「……っ?!」パチパチパチ……
……厘が盛大に拍手を始めると、今この場に集まっている者達が一斉に立ち上がって拍手と歓声を上げ始める。
”寿老人ホール”に詰めている者の大多数のスタンディングオベーションが始まった。
……パチパチパチパチ……
『……パチパチ……』『パチパチ……』「ふんっ」『パチパチ……』
だが、この客席にいる者達でも変わらずに座っている者達が少なからずいる。
……パチパチパチパチ……
勝也の知る限りでは、客席の前方に座っている者達数名が座っていて、近くで言えば澄玲に勝也自身、他は……
「パチパチ……」
勝也の左隣り……の金山市長は立ちあがるだけでなく、”泣いている”様にして目元を拭いているが、その左隣に座る男性は勝也と同様に拍手しているだけだった。
『パチパチ……』「むぅん……おかしいのぅ……てっきり”ココで””始まる”かと思ったが……」
そして客席後方の、一番高い位置の端に座る妖精さんが座って手を叩いているが……勝也は彼を見つけてはいない。
……パチパチパチパチ……
「んっ……」『……パチパチ……』
勝也はいつまで経っても拍手が終わらない事に、若干の面倒くささを覚え始めているが、なかなかその熱気は収まらなかった。
確かに春香のピアノ演奏は抑揚が効いているだけでなく、曲調によって、この場にいる者の感情をコントロールしてさえいたと思うが……
……パチパチパチ……
『ガッ……』『……』
ソコで遂に、客席の興奮を冷まそうとする者が現れる。
『……皆さま、春香お嬢様の演奏をご清聴して頂き、ありがとうございます。』
……パチパチ……
『ん゛っ゛……』
それはステージの奥から現れた水上だ。
彼女は特に客席の興奮に水を差さないが、それが覚めるのを待つ様にしてソコに立っている。
……パチ……
『……』
……
『……春香お嬢様、この度は素敵な演奏をありがとうございました。春香お嬢様の演奏が終わってしまうのは名残惜しいですが……最後は限無会長から”お知らせ”があります。』
水上は拍手が終わるのを待ってから、この場を進行させる。
……ここでも限無会長がトリを務めるそうだ。
まぁ、この航海も終わりが迫っている。今回の誕生日会の総括や、”今後について”の所信表明でもするのかもしれない。
『ガッ……』
水上の紹介から一拍を置いて、ステージの奥から現れる者が……
『……ダンッ』
……それは勿論だが、金山家の当主にして金山家の企業グループ会長を務める金山限無だ。
彼はその鋭い眼光で客席を見抜くと、言葉を発し始める。
「今回の誕生日会は私としても大事なモノだった。発表から間もない連休に誕生日会を開催する事になったが、良い航海をしたと私は思っている。さて、先程水上からレクリエーションの賞品の発表がされたが……それに関わる話しを私からもしよう。」
「……?」
限無会長はマイクも無しにその喉から発せられる言葉をココにいる勝也達に届けている。
そう、最後の一文は、間違いなく”勝也達の方に”向けられていた。
「知っている者もココにはいるだろうが、あえて私から発表をさせてもらう。」
「……っ?」
「先日我が金山家の投資ファンドが出資する、清虹市にある水系法力研究所で”水系法力の血液操作により、人の記憶を消去する実証実験とその有用性”が日の目を見たが、その基本概要と手法を提唱する、そこにいる雨田澄玲氏にも協力を頼み、我々は病院を清虹市の土旗地域に設立しようと考えている。「「「「えっ「!」?」」」」だが、まだこれは構想段階で、これから病院を作るのに動くと思うが……その病院の運営もゴルドラファミリーに大部分を委託するつもりだ。」
なんと、限無会長は清虹市の土旗地域に金山家ゆかりの病院を建造するつもりの様で、その大部分を勝也の母親、雨田澄玲に任せようとしているらしい……
また、今この船に乗る者が行っているゲームの”宝探し”で、宝の金貨を一番多く集めた者は、”金山家が造る建物で、ゴルドラファミリーが運営する施設の人事任命権の一部が与えられる”と言う条件にこの病院は当てはまるのだろう事が伺える。
もしかしたら、そういう所も計算づくでこのクルーズが行われているのかもしれない。
まぁ、澄玲はそれほど金貨を集めていないのだが……
「……病院って言ってもねぇ……」
いや、そもそも澄玲は、その病院にそれほど関心を寄せていなかった。
「「……」」
代わりに限無会長の言葉を聞いて息を飲む者が二人、一人はその雨田澄玲の息子である勝也で、もう一人はこの場で一番ステージから離れた所にいる妖精さんだ。




