#359~力の船に乗る!2日目、後編~
……ガヤガヤ……
『では、春香お嬢様に誕生日プレゼントをお渡しになる時間を終了させて頂きます。……春香お嬢様のお言葉を繰り返しますが、ココに集まってくださった皆さま、大変ありがとうございました。』
……ガヤガヤ……
寿老人ホールに集まった者の一通りがプレゼントを渡し、もう春香にプレゼントを渡す者が現れないのを見た水上がマイクにそんな言葉を吹きかける。
「「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」」
客席と対面するステージの端に用意された椅子に腰かける金山家の面子は、静かに客席を睥睨していた。
「むぅ……”今回は”何もナシか……誰が手を回しているのやら……」
空席のない客席には、白いお髭をわさわささせる和服姿の妖精さんがステージ上で椅子に座る彼等彼女等に視線を向けながら一人口ごもる。
「……それとも……運命を覆すのは”やはり”お前さんかのぅ…………勇者よ…………」
白いお髭をわしゃわしゃすると、ステージから顔を逸らして左後ろに顔を向け、ソコにいる男性をひと目見て、言の葉を向ける。
『それでは皆様に、春香お嬢様の誕生日ケーキとして、イチゴタルトケーキをこの寿老人ホールの出口でお配り致します。このケーキは”この場以外での船内で食べて頂く、お持ち帰り用”としていますので、”布袋損ベッドルーム”か、”恵比寿レストラン”等でお召し上がりください。また、春香お嬢様の誕生日を祝って頂いたお礼として、金貨100枚の引換券がケーキの箱に封入されております。そして……』
……ぅぅん?……
どうやら春香の誕生日ケーキとして配られるデザートはココで食べられない様だ。
まぁ、絶品な夕食を食べたばかりだし、それ自体は良いが……水上の言葉は続いている。
『……大黒ルーム(仮)ですが、先程の船内放送で申し上げた通りに、只今から名前を”大黒カジノ”と改め、サービスを解禁致します。『……おぉ!……』ココでは名前の通りですが、金貨を賭けて、ルーレットや21(トゥエンティ―ワン)等のトランプゲームで金貨を増やして頂きます。この区画では入場する場合に金貨を払って頂く必要はありませんが、入場制限として、金貨100枚以上をお持ちになっている方のみとしております。ですので、ただカジノを見学をしたい方もこの寿老人ホールでお渡ししますケーキの箱に封入されている金貨で、誰でも入場が出来る様になっております。また、この寿老人ホールは皆様が退出したあと、様々な映画を上映する映画館へと改装致します。映画館に入場する度に金貨を一人一枚払って頂きますが、映画は様々なモノを順次上映する予定です。上映する映画はこの寿老人ホールを出た所に掲示しております。そして、これより”セブンスハッピーとレジャーシップ”は明後日の夕方頃に水藻港へ戻るまで、休まずサービスの提供を予定しております。……ですので、どうぞ皆さま、残りの航海を存分にお楽しみくださいませ。では、皆様のご多幸を願っております。』
どうやら”大黒ルーム(仮)”は”カジノ施設”だったらしい。
それを聞いた客席にいる者達は口々にざわついている。
……カジノか……どうする?、カジノがあるんなら……いやもうこんだけ差があるんなら行くしかない!……、いや、まてよ……多分この金貨だが、、もしかしたら……、でも……カジノって俺行った事ないんだが……
客席では動揺する者が口々に周りの者を牽制していた。
また、今勝也達が訪れている寿老人ホールだが、客席にいる者が全員出払った後、映画をステージの奥・スクリーンに映写しはじめるそうだ。
水上の言葉によると、これからこの船は不夜城の如く、休みなしでサービス提供が行われるらしい。
「良しっ!カジノ!?行くっきゃないっしょ!」「えっ?えぇ……でっ、でも……夕お義姉さん?金貨1000枚も貰ったのなら……下手な事はしない方が……多分……今一番金貨を持ってると思いますよ?……」
「えっ!夕ちゃんカジノ行くのっ!?厘も行くー!」「……」
「えっ?でもこういうのは楽しまなきゃダメでしょー「ぃっ、いえ、でもっ……ぁ、まぁ、夕お義姉さんがそうおっしゃるなら……」んっ?!……ん……まぁ、ひとまず行くだけ行ってみよう?」
雨田姓の者達だが、これから解禁されるこの船の一番先頭にある区画・”大黒カジノ”に向かうらしい……
……ザワザワ……」
こうして、寿老人ホールにいる者達は大半がそのまま”大黒カジノ”に移動するのだった。
厘:402枚(ケーキ・+100枚)
澄玲:123枚(ケーキ・+100枚)
夕;1142枚(偉業・+1000枚)(ケーキ・+100枚)
勝也:114枚(ケーキ・+100枚)
『ガグッ……』
『♪……「ぁ、音楽……」
寿老人ホールの客席後方でイチゴタルトケーキの入れられている箱をエプロンドレス女性から受け取った夕お姉さんは、廊下の右側、船の先頭側から軽快なリズムの音楽が流れている事に気付く。
本物のカジノ等で流れていそうなジャズ調の音楽だ。
……♪……
それを聞く人々の気分を軽快にさせて、お金やコインを多く出させる効果があるんだとかないんだとか……
まぁ、気分を逸らせる効果があるのは事実だろう。それでいて、じっくり聞かせる訳ではない小さな音量だ。
『バフゥ!』
「では、次のお客さまー、コチラにどうぞー」
「っ……」
夕お姉さんは寿老人ホールの出入り口前で並ぶ人々を順番に奥の大扉に誘うエプロンドレス女性を見つける。
『……ガグッ……』
「あっ勝也、あれ……」「ぁ、はい?」
夕お姉さんの次に”寿老人ホール”の扉から現れたのは勝也だ。
夕お姉さんは勝也に”大黒カジノ”の出入り口の扉前で勝也達客に対応している茶色いエプロンドレスを着る女性を顔で示す。
「あっ、寿老人ホールから今出て来たかたー詰まっちゃうので、”こちら”か”奥に”移動をお願いしまーす。……って、勝也君達?」
そう、その”大黒カジノ”の扉前で人に対応をしている女性は勝也達の顔馴染みだった。
「……あっ、ごめんなさーい、移動しまーす。」
夕お姉さんはその”茶色い”エプロンドレスを着る女性・風間千恵に声を返す。
”大黒カジノ”・”寿老人ホール”・”恵比寿レストラン”は1つの廊下で繋がっていて、船の進行方向の前にある順で置かれている。
ちなみに”寿老人ホール”の横に”毘沙門ジム”が置かれているが、こちらは恵比寿レストランの反対側から行く造りになっている。
「はいはい、ココは”大黒カジノ”ですよ。「ぁ、あの、金貨100枚」あぁ、でもまぁ、”寿老人ホール”から出て来た人は金貨の確認をしないで通しても良いから今は良いよ。「ぁー、いえいえ……」ぁ、良いよ良いよ、勝也君達は見れば解るし、今私はレストランから人が来たら、その人の持ってる金貨の枚数を確認してるだけだからさ。」
澄玲と厘が続いて”寿老人ホール”から合流した勝也達一行が”大黒カジノ”の扉前まで来た所、千恵さんはこれまで勝也達の前にいた者達と同様に決まった言葉を出すのだが、”勝也達は特別”と言わんばかりに言葉遣いも砕けたモノに変える。
「ふぅ、千恵お母さんもあんまり滅多なことをしないでください。」「「……」「「ぁ……」」」
少しだけ普段通りな雰囲気を醸し出していた廊下だが、そこで勝也達の後ろから女性の声が差し込まれる。
物音を一切立てずに背後から忍び寄るのは……
「「……凪乃ちゃん」」「……ナギノン!」「凪乃お姉さん」
そう、凪乃だ。彼女は”緑色を”基調としたエプロンドレスを身に纏っている。
ここに風間凪乃と風間千恵、緑色と茶色で色が違うも造りが同じエプロンドレスを着る母と娘が揃っていた。
「ぁ、あのぅ……凪乃お姉さんは何で緑色の服を着てるんですか?他の人は茶色なのに……」
そこでついに勝也は凪乃の服・緑色のエプロンドレスについて疑問を言葉に出す。
「ぁ、いっ……いえっ、そのっ……」「ふふん!これはね、凪乃が”風間家の人間”って認められた証なんだよ。」
「……ぇ「「?「!」」」」
凪乃が衣装について言葉を探していると、千恵が自分の事の様にして自慢げに答える。
そう、”風間”千恵は語る。
「うん。、”茶色の服”はね『金山家に接しても良い者が着る服』で、”緑色の服”は『金山家の者と密接に接して守る者が着る服』ってワケ。つまり、凪乃はゴルドラファミリーですごーくっ、出世したの!」
「ぇ「?」「出世「?!」」」
幼い見た目の千恵だが、その時は我が子の頑張りが認められた事を喜ぶ、母親の顔を浮かべていた。
「うん。まぁ、茶色の服でもゴルドラファミリーの中では最高位の証だけど……緑色と赤色、青色の服は別次元で上に立つ人の証でね。これでもしかしたらもしかすると……凪乃もゴルドラファミリーの社長になれちゃうんだ!「しゃ、社長に?」私はこれが嬉しくて嬉しくてね「……」誰かに言いたくって言いたくって……」「……もっ、もうやめてください……」
千恵は勝也の疑問を聞き、水を得た魚の様にして説明を始める。凪乃はまんざらでもなさそうにしつつ、母親の言葉を止めさせようとしていた。




